幕開き/事変り
全話編集中なので、途中辻褄が合わなくなるところが出てきています。すいません…!
編集済み
私はシルヴィア・アンドリア・エリオット。
私のお父様は公爵エリオットでございます。お母様とお父様は王族の方とも交流がございまして、私は第一王子であるアルヴィン・ニコラス・ヘンダーソン様との婚約者候補として名前が上がっております。
忌々しい。
…ええ、ええ、私はアルヴィン様に対して不満を持っているわけではございませんわ。
周りのご令嬢方のように彼を忌み嫌ってはおりませんし、今の今まで婚約者が居ないことも彼に関しては仕方の無いことだと認識しております。
ですが、彼を憐れみはしても、私は婚約者になんてなるつもりは一切ございませんわ。
何故なら、私は……………悪役令嬢なのですから。
前世の記憶を思い出したのは7歳の頃。私は今、11歳のため4年前でございます。朧げな記憶を手繰り寄せて、ようやく今全ての記憶が戻ったのではないでしょうか。
忘れもしないあの4年前のこと。癇癪を起こしたため、お父様に自室で頭を冷やすようにと言いつけられたあの日。
2階にあった自室のバルコニーから、庭園をぼんやりと見ていた時。飛んできた鷹に驚き慌てて動くと、雨が降ったあとだったのかずるっと滑り、そのまま頭を強打しました。
真っ赤な血を見て、唐突に前世の記憶がフラッシュバック…そう、血に驚いて気絶しかけた瞬間の走馬灯の中に、前世の記憶がありましたわ。
頭の切り傷は深くなく、一生の傷跡にはならなかったのが幸いでした。そして、頭の傷跡が消えると同時に、芋づる式に前世を思い出し始めたのです。
今から話すのは、4年前の話。
ーーー
ようやく、思い出しましたわ。今まで、そう、喉に小魚の骨が刺さったかのようなモヤモヤが、常に私には付き纏っていましたの。
私の前世は、海聖美衣という名前で、15歳、受験真っ只中の中学生でした。つまり、ハッキリ言いますと私は15歳でご臨終です。
最期の記憶は、親友の水紀と一緒に買い物に行った時に惹かれて購入した乙女ゲームがとても面白く、ついつい寝る間も惜しんでゲームしてしまったこと。
寝不足でフラフラの状態で自転車に乗り中学へと向かい、そのあと記憶はプツリと消えているので…おそらく、何らかの理由でその時死んだのでしょう。
受験生なのにゲームで徹夜、フラフラ状態で自転車に乗っている…という時点で誠に危ない話ですわ。
死因は、モヤがかかって思い出せませんが思い出す必要はないと考えましたわ。…死んだ瞬間の考えや痛みなんて、思い出さないがマシでしょう?
前世の記憶を断片的に思い出した私は、自分の姿を見て再び気絶しましたわ。
私は、あの寝る間も惜しんだ乙女ゲームに登場する悪役令嬢だったのですわ!この気絶した時から、何故か乙女ゲームに関する記憶だけは全て戻ったのは怪我の功名と言えるのでしょうかね…?
徹夜でゲームをしていたからこそ乙女ゲームの世界であると気づけたのは不幸中の幸いでしょうか…いえ、そもそも徹夜さえしなければおそらく死ななかったことを考えると、幸いでも何でもありませんわね。
キツい印象を与える紫色のツリ目。ツリ目でも素敵な方は素敵に見えるのに、この姿にあると悪役らしくなるという印象しか持てませんわ。まだ7歳なのに…。
青色の髪は腰あたりまであります。ツヤツヤで一切のアホ毛が無いのは喜ばしいことではありますが、やはり悪役らしさが溢れんばかりでして…
黒色のドレスが似合い、可愛い系の色はとことん似合わず、キツい印象の美人といったところですね。
“シルヴィア公爵令嬢”というキャラのデザインは悪役令嬢そのものと言っていいでしょう。…少しぐらい可愛げだって混ぜてくれてもいいじゃない?7歳よ?
思い出した記憶によると、“シルヴィア公爵令嬢”は王子の婚約者になり、魔法学校に入学しますの。その後、王子と親密な関係となったヒロインに嫉妬し、犯罪まがいなことを何度も何度も行います。
もちろん乙女ゲームですので、シルヴィア公爵令嬢には断罪が待っていました。
例えば「アルヴィン王子ルート」では、
true endでは王子との婚約破棄、身分剥奪、国外追放されたため自殺。
happy endでは婚約破棄、身分剥奪され、お父様に病死に見せかけて暗殺。
normal endでは婚約破棄されず、犯罪行為は完全に隠蔽。そのため、ヒロインは攻略対象と結ばれませんが、私はお母様に射殺。
bad endでは王子により殺され、そのまま王子は行方不明。
その他の攻略対象のルートでは“シルヴィア公爵令嬢”が死なないのもありますが、ほとんど破滅に終わっていますわ。
それは、たとえ婚約者に手を出されてなくても平民を毛嫌いした“シルヴィア公爵令嬢”がヒロインをいじめたからですの。
…攻略対象が多数いるのに対して、悪役令嬢一人って比率がおかしくないかしら?
そして、悪役令嬢が全面的に邪魔してくるアルヴィン王子ルートが一番攻略しやすいのは何故なのでしょうね…二人の前に立ちはだかる障壁によってさらに恋は加速するということかしら?
悪役令嬢だと分かり、何故私が、こんなことに、と頭を抱えましたわ。前世の行いは確かに悪く…けれど、あれは、終わったつもりでいたのに。
それはさておき、不可解なのはnormal endですわ。犯罪行為は全て隠蔽されたにもかかわらず、“シルヴィア公爵令嬢”はお母様に射殺───何故でしょうか?
身分剥奪が無いにも関わらず殺される。ゲームを楽しんでいた時は気づきませんでしたが…よく考えてみればこのゲームはおかしなことが多いのです。
そのおかしさは現実にも及び───このゲームに対して、なんの情報もインターネット上から見つけられませんでした。
誰か一人ぐらいは攻略サイトでも作っているか、もしくは実況とか、そうでなくてもツニッターで呟いているとか…それが一切なかったのです。
つまり、私としては…このような状況になったのは、あのゲームが特殊だったからではないのかと思っております。
例えば、あのゲームが特異点のような存在で、ゲームを手にしたのは実は私のみだった。そして、ゲームの内容はある一種の未来予知のようなもので、この世界を反映していた───とか。
…こういったことを考えるのは苦手ですわ…頭がパンクしそう。7歳の体で、記憶を思い出してすぐだからっていうのもあるかしら。
とりあえず、話を戻しましょう。何故、“シルヴィア公爵令嬢”は自身の起こした嫉妬による犯罪行為の隠蔽に成功し、ある意味完全犯罪となったというのに、お母様に射殺されたのか?
お母様が殺人を楽しむ殺人鬼だという可能性もあるけれど、それは一旦考えないことにします。そんなの、回避しようがないですからね。
“シルヴィア公爵令嬢”殺害は射殺によるものだったわ。ですが、この世界は銃を量産できる時代にはまだ追いついてはいません。ダンジョン産がほとんどで、公爵という身分であれど相当なお金が必要ですわ。
しかも、撃った時の振動が大きく、命中率が低いのですから…激情に駆られて、その場の怒りに任せてで銃を選ぶことは無さそうではありませんこと?使いやすくて、殺しやすい剣を使うのではないでしょうか。いや、そんな事すら考えられないほど怒りが溜まっていたとかが有り得るかしら…
ダンジョン産のものは、ほとんどが美しい装飾に包まれております。したがって、使用目的で銃を購入する人は少ないのではありませんか?いや、美しいからこそそれを使って殺すことに価値を見出すかも…
…だ、ダメだわ。
やっぱり、中学生で社会に出ていない私の脳では深く考えることが出来ません。どうして射殺されたのか、銃を使ったのか、さっぱり分かりませんもの…
銃のことなんて、そもそも私は全然分かっておりません。今言ったことも、曖昧な私の知識によるもの…これではダメですわ。
計画的な殺人か、それとも激情によるものか…私の頭では決めつけるには足りなさすぎます。
今の私では解決にたどり着きません。時間を捧げても結果は同じ…まずは、犯行動機として思いつくのを出していきましょう。その他は、もっと知識を手に入れてからの方がいいわ。
…報復、怨恨、利欲目的、アルコールによる酩酊、口封じ、とかが犯行動機になりやすいかしら?
報復や怨恨、は“シルヴィア公爵令嬢”は全方位から持たれていたもの。お母様から恨まれていても、おかしくはないですわ。
利欲目的はありませんわね。私の遺産なんて、お母様に比べればちっぽけなものですし、そもそも私にお金を渡したくないのなら止める権限を持っておりますもの。
アルコールによる酩酊、はよく分かりませんわ。浴びるほど飲むお方では無かったはずですけど、夜は私は寝るお時間ですから。
口封じ…は、私の犯行は完全に隠蔽されたのですから、その必要は無いはずですわ。でも、何かお母様にとって不都合なことでも知ってしまったとしたら、有り得なくは無い話かしら?
今解決できるのは、お母様との関係の改善だけでしょうか。
お母様から私に対しての恨みつらみ…なんということでしょう。思い当たることが多すぎますの。
そして私、なんと、私親孝行した記憶がございませんの!
…ふふ、ふふふ……そう、例えばお母様の誕生日。祝ったことなどありませんわ。誕生日に花瓶の水をドレスにかけたことはありましたわね。お母様の大好きなショートケーキを窓から落としたこともありますわ。
お父様の誕生日。去年は大喧嘩よ。癇癪を起こしてその場にあるお高い壷を叩き割り、お母様からお父様へのプレゼントを奪い、さらには大事な国家機密レベルの書類を暖炉に放り投げましたわ。
7歳の子供とはいえ、これはあんまりよ…。
この状態を、改善?…どうやって?まさしく最悪まで落ちきっていますわ。
今から謝るのが最善とは分かっていますが、謝罪ごときでこれまでのことが許されるはずがないですわ。
土下座して誠にすみませんでしたと謝ったとしても、例えお母様とお父様が許してくれたとしても、日本での記憶が戻った私には“シルヴィア公爵令嬢”が許せませんわ…。
前世の私にとって、家族ほど大切なものはなかったというのに…どうして、本当にどうして、こんな、“シルヴィア公爵令嬢”にならなくてはならないの…
…うじうじ悩んでいたって、何も解決しませんわ。時間を無駄にするのはダメ。王子に会うまで、時間が無いのだから、せめて身内に殺される心配を消さないと。
───まず謝らなくては。
私の心が“シルヴィア公爵令嬢”を許さなかったとしても、私は両親に許されなければならない。許されるということが生き残る上では絶対条件になっているわ。
死んでしまえば、謝罪も償いも何もかものチャンスが消えてしまうのだから…だから、許されなければ。どんな手を使っても。
…まるで、私は悪女ね。自分が自分で嫌になるわ。
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