ナップサック
忘れ物をしたから
学校から走った
往復で
四キロくらいの距離
30分もあれば
行って帰れるだろう
許可を貰って
学校から走った
誰も歩いていない道
通り過ぎる車も
少なくなって
仕事用の車が
走り始めている
結局
何を忘れたんだっけ
忘れそうになったから
少し歩いて思い出した
なかなか無いから
運転席から見られていた
もしくは
その記憶があるのかもしれない
時間がズレただけで
事情があるように見られるのは
学生の特権かもしれない
それまでの道筋が
ちゃんとしていればの話だが
家に辿り着いたら
母親の顔
「忘れ物をした」の声を
笑った後に
「馬鹿じゃないの」の声を
付け足した
忘れ物を
簡単なナップサックに入れて
片手に背負うと
「飲んで行きなさい」と
林檎ジュースのコップ
飲み干して
「行ってきます」
受け取って
「行ってらっしゃい」
小さな色に
守られているから
明日のことなんか考えず
机に向かえるのだろう
行って戻る制服は
大人に
守られなくちゃいけない証だ