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二重らせんをこえて  作者: 七瀬童
2/6

第1話「始点」

「運命の赤い糸」


宗教、血族、身分など様々な理由から結婚が許されない


そんなしきたりや法律がある国もある中で


ここ日本では比較的自由に、結婚相手もしくは交際相手を選ぶことができる


しかし、そんな自由が実は何者かに仕組まれたものだったとしたら?


そんなものは小説やおとぎ話の中だけの話と思っていた。


とある“遺伝子”について知るまでは―――





「今年はやっぱり夏美ちゃんだよなー」


隣の花田勇気は酎ハイのグラスをあおりながら僕に同意を求めた。

すでに酎ハイ・ビール含めグラスを4つ空にしている花田はほろよいとは呼べない様子であった。


「ぼくは、ミスコンとか興味ないから・・・」


酔った花田をいなしながらスマホで「東都大学ミスコン投票サイト」を見る。

投票画面上部には現在1位の愛宕夏美の写真が、華々しい金色の縁で彩られて掲載されている。サイト全体の雰囲気は無機質なものだが、それが返ってミスコン出場者を引き立て、純粋無垢なイメージすら付与している。

その美貌は間違いなく万人に通じるものでありながら、その黒髪により近寄りがたい雰囲気を醸し出す。花田曰く、そのコントラストが突き刺さるらしいが、瞬はそこに「作られた違和感」を感じていた。


「付き合い悪いぜ、瞬。お勉強ばっかりじゃこの世は生きていけねえぞ?」


先ほど頼んだばかりのグラスを飲み干したことで、さらに深い酩酊状態に入った花田は瞬の肩に手をかけた。


「そういわれても、本当に興味がわかないんだから仕方ないじゃないか」


花田はいつも酔うと過度なスキンシップをしてくる。いつも通りの花田になぜか腹がたち、肩にかかった手を払い、強く言ってしまった。


「お、おい瞬、どうしたんだよむきになって」


心外な顔をしているがどれもこれもお前が悪いのだ、花田勇気。

今ので多少は酔いが冷めたのか、お互いにしばらく無言で酒をちびちびと嗜んでいた。


「くっだらな」


その様子に耐え切れなかったのか、向かいの席に座っていた森綾香が飽きれたように声を発した。3人で飲み来たというのに、先ほどまでずっとスマホを触っていた人に言われたくないものだ。


「付き合う前の中学生かよ」


「う、うるせえ!てめえこそずっと黙ってたくせによく言うぜ」


よく言ってくれた花田。

岡崎瞬、花田勇気、森綾香の3人は高校からの同級生で、同じ東都大学で勉学に励む学友である。学部が違うことやサークル、友人関係のせいで大学に入ってからまともに話したことはほとんどなかったのだが、花田が声をかけることで3人で飲みに来ることができた。

この集まりの功労者とも呼べる花田からしてみれば、何も話さずスマホをつついている森はとんでもなくつまらなく見えただろう。


「無理やり誘われたようなものじゃない」


「まんざらでもない様子だったじゃねーか!実は恋しかったんじゃねえか?」


瞬とのやりとりで生じた重い空気を打ち破る手段を見つけた花田はここぞとばかりに明るく笑った。


「は、はぁ?!そんなわけないでしょ!ていうか、なんでいまさら呼び掛けて飲み会なんて開いたのよ!」


それについては瞬も疑問であった。瞬たちは2回生、入学してから1年以上たっていた。腐れ縁とはよくいうものの、わざわざ呼び掛けたよいうことは何かしら話さなければならないことがあるのだろう、と瞬は推測していたのだ。

しかし、花田は酒を飲みくだらない話ばかりだったので、それが先ほどのやりとりのきっかけにもつながったのだろう。


「う。確かにそうだな、そろそろ話すべきだな。いや、なんだ、その辺の連中とは話しにくいと思っとったもんでさ」


「そんなに重い話題なの?」


森はけげんな顔で手にしていたスマホをスリープモードにして机に置いた。

内緒話をするように花田が姿勢を低くしたため、二人もつられて同じような姿勢をとった。


「さっき言ってた愛宕夏美いるだろ?同じ学部の仲いいやつらがさ、愛宕夏美と”ヤって”んだよ」

「えっ」

「は?」


えっ、と発したのは瞬だった。その真意は単純に驚きによるものだった。

対しては?と空気が抜けるような声を出したのは森だった。数秒の沈黙を破ったのは、


「くっっっ、だらな!!!!!!」


意図したものか、その発言は先ほど別の沈黙を破ったものと同じものだった。

「ばかじゃないの!次にそんなこと言ったら、私が許さないから!!!」

低い姿勢から急に立ち上がったせいか椅子が傾く。

森の怒りも無理もないのだ。というのも愛宕夏美はここにいる怒れる女子大生、森綾香の大も大、極大親友ともいえるほどの仲だからだ。


「座れって森!!これには深い理由があるんだって!!」


「女の子のことを侮辱するのに理由もクソもないわよ!!!」


椅子は傾いた、しかし倒れなかった。瞬は違和感を感じた。


「森も、思い当たる節があったり?」


3度目の沈黙だった。


つい思ったことを口にしてしまうのが、瞬の悪い癖だったが、どうやら森の怒りは幾分かましになったようだった。


「そうなのか?」


「・・・まあね。最近、ちょっと。それよりも、花田。理由を説明して。どうしてそんなことのために集めたのか」


冷静になった森は改めて花田の不可解さに触れた。


「ああ、そうだな。なにも愛宕夏美をけなしてるとかそういうんじゃないんだ―――」


花田はしっかりとした口調で説明を話した。

3人とも真剣だった。




「―――ってなわけだ」


花田の話をようやくするとこういうことだ。

花田の友人の1人が二人きりの時に相談してきたという。

SNSで俺の"行為中"の動画が回っているようだ、と。花田は今回の飲み会の呼びかけのように、面倒見がよく、頼られるタイプで、かつくだらない話もできるということで、相談役に白羽の矢が立ったのだろう。

花田は時系列を整理し、どうやら愛宕と"行為"を行った後だと確信した。しかし、当の動画も確認するにも本人はそういうものが出回っているという話を聞いただけだという。証拠がなかったのだ。

相談され1週間ほど経ち、"全く同じ内容の相談"が花田のもとに3件も舞い込んだ。相談を持ち掛けた友人の中には動画を確認し、すでに愛宕夏美とのものであると確信しているやつもいたという。

4人に共通すること、つまり愛宕夏美と性的な関係に至ったその後に動画の件があった。


「なるほどね」


森は先ほどと一転暗い目をして机の上のグラスを見つめた。


「リベンジポルノ、だっけ」


瞬は脳内で知識の確認をしたつもりだったが、再び口に出してしまった。


「いや、そんな"優しい"ものじゃねえと俺は踏んでる」


「どうして?」


森が素早く顔を上げ

意外な反応だったのか、花田はおどろおどろしく言う。


「いや、男の方には愛宕夏美をリベンジポルノに至らせるような理由がねえんだよ」


「それって愛宕さんの一方的なうっぷん晴らしじゃないか」


瞬も同じ男として声を上げた。


「花田の友達が隠してるとか、そういうのじゃなくて?」


また不思議な感じだった。瞬の目には森がまるで答え合わせをするように花田から話を聞きだしているように見えたからだ。


「ああ、それはないと思うぜ。俺自身、あいつらが嘘ついてるとは思えねえんだ」


「それに、もし花田の友達に否があるとしたら、花田に相談する義理がないよ」


わざわざ友人に自身の恥ずかしい話までする必要はなく、心のうちに秘めておくか警察なり学生相談室なりに言えばよいのだ。


「それな。さらによ、あいつら全員―――」

「おしまい」


森が手を打ち遮るように言った。


「今日はおしまい。花田もありがと」

「お、おい森、まだ話は終わってねえよ!」

「私も夏美に確認したいことがあるから」


立ち上がり伝票に手を出す森の手を花田が素早くつかんだ。

お互いとっさの行動だったのか、手を引っ込めた。


瞬からすれば"くっだらな"いのはこの二人だった。




結局今週の日曜日の夜に再び集まることになった。

瞬はよりデリケートな話へ発展すると思い、公の場所は控えるべきだと提案した。なぜかそれが、ぼくの部屋でいかがですか?と言っているように2人には聞こえたらしく、続きは瞬のマンションで行われることになった。

瞬は3人と別れたあと、帰りに大学構内を通りながら今夜の話を整理する。

昼間のにぎやかさから一変、明かりとなる電灯も少なく人の気配がなかった。


「愛宕夏美の動機はなんだ?花田の友人に否がないとすればリベンジポルノなんてする理由がない。単純に遊びたかったから?いやそれこそリベンジポルノなんていらないじゃないか。そもそも動画を撮っているってことは最初からリベンジポルノ目的だったってことか?でも愛宕夏美はそんな幼稚な―――」



「こんばんは」



ヒヤリとしたものが脊髄を駆けた。冷気のような物理的な感覚ではなく、精神に直接訴えかけてくるようなモノ。これが虫唾か、と瞬は慄いた。

声の主を確認するため顔を上げた。

2件目の飲み屋へ寄らず解散になったためまだ10時過ぎだったが、夜だったので相手の姿が闇に塗られていた。


「ぶつぶついってたけど、大丈夫?飲み会のあとかな?気分、悪い?」


目が慣れてきた。


「東都大の子だよね?肩、かそっか」


相手が数歩近づいてきたこともあってか誰かを判別することができた。

声の主は―――



「あ、わたし、東都大2回生の愛宕!愛宕夏美っていいます」



愛宕夏美だった。



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