第9話 いえろーもんきゃー
その日、マークはいつものごとく、基地の哨戒任務に就いていた。哨戒とか言っても、別に戦地のど真ん中でもあるまいし、実質はただの巡回であった。
巡回は2人一組という決まりがあったので、相棒がいた。その日の相棒はキース、悪いヤツではなかったが、とにかく白人大好き至上主義で、話をしていると、今時白装束集団かよ、と思いたくなるときもあった。
滑走路の巡回をしていたときであった。上長が、アジア人っぽい男と女を連れて輸送機に向かって歩いていた。
「あれ誰だ?」
キースが怪訝そうな顔で聞いた。マークは、食堂でラボの連中が話していた内容を思い出した。
「そういや、不死身のゾンビが来てるらしいぜ。あれがそうかもな」
「へぇ、ゾンビなのか」
「ラボの連中が言ってたけどな、本当かねぇ。あいつら頭おかしいからな」
そこまで話したマークは、キースの顔が邪に歪むのを感じた。何か嫌な予感がしたマークは、キースに聞いた。
「お、おい、どうしたんだよ」
「いや、何でもねえよ。ただ」
キースは、持っていたアサルトライフルを構え、安全装置を外した。
「本当に不死身の猿なら、撃っても死なねえよな」
キースは、引き金を引いた。直後、少し離れて歩いていた男が倒れた。
「おお、この距離で2発命中ったぁ、なかなかのモンじゃね?」
「キース!何考えてるんだお前!」
マークは怒鳴った。キースは日頃から、炭だ猿だと有色人種を見下していたが、まさかこんな馬鹿なことをしでかすヤツだとは、マークは思ってもいなかった。
しかし、キースは涼しげな顔で答えた。
「いやいや、銃が暴発したかな?軍事基地では良くある事故だろう?」
「おい……」
「たまたま女連れの猿ゾンビに当たっちまったか?ははっ」
イカれている、とマークは震えた。上長の怒鳴り声と、女の金切り声が、夕日に照らされた滑走路に響いた。
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
「ご主人様!ご主人様ぁ!!」
帰りの輸送機に乗るために、滑走路を歩いていたら、いきなり胸と右足に激痛が走った。あまりの痛みに立っていられずに、その場に倒れ込んだ。何だろう、心筋梗塞ってこんな感じ?
「大丈夫ですか!?ご主人様ぁあぁ」
倒れ込んだ際に、頭を強打したのか、意識も一瞬飛んだ。何だか弥生さんが大きな声を出しながら走ってくる。おお、すげえ揺れてる、揺れてる。おじさん痛みも忘れそう。
そして俺は、弥生さんの胸に抱かれて、薄れゆく意識の中、穏やかに死を悟った。
……なんてオチになるわけもなく。だってもう死んでるし。
「弥生さんや、そんなに慌てんでも」
「ああ良かった!ご主人様、いきなり倒れたから、死んだかと思いましたよ~」
だから、もう死んでるし。あと、こんな時でもご主人様は確定なのね。
弥生さんの後ろから、案内してくれていた外人さんも走ってきた。何やら怒鳴っているが、何を言っているのかさっぱり分からん。
「で、どうしたんですか……、あー!」
大丈夫そうだと見るや、弥生さんは俺を引っ張り起こして、異変が無いか確認していたようだが、突然大声を出した。
「なになに、どうしたの?」
「服とズボンに穴があいてますよ~!」
服とズボンに穴?こけた時にでもあいたのかな?
「このままじゃ帰れないじゃないですかー。どうするんですか~、オシャレな店なんか近くに無いですよ~」
え?そっちの心配?
キースさん、良く分かりませんが、狙撃の腕は良いようです(笑)
ちなみに、けーけーけーな人かも知れません(ぉぃ)