第5話 いつかはUSA
「分かりましたよ~、ご主人様~」
2度目のモニターケツアタックの次の日、朝から弥生さんはハイテンションだった。
しかし、誰がご主人様だ、誰が。恥ずかしいからご主人様はやめろ。
「えー、僕の主人ですから、ご主人様で良いじゃないですか~」
この子本当に医学部出の才女なのか?と疑いたくなるんだが、もうそれを言い出すとこのラボの研究者達全員が怪しくなってくるので止めておこうか。
「あー、じゃあもうご主人様で良いから。で、何が分かったの?」
「ご主人様の正体です~」
ほう、正体とな。55歳のしがない恐妻いや元へ、愛妻家サラリーマン以外の正体があるのなら聞いてみたいものだが。
「そ・れ・は、リビドーヴァンパイア、です~」
何それ。
リビドーヴァンパイアとは。
そもそも数の少ないヴァンパイアの中でも、希少な存在である。対象に自らの精を授けることで眷族と化すことが出来るらしいこと以外は、謎に包まれている。
「これって、どこ情報?」
「独語版ウィキ〇ディアですよ~」
マジですかウィキさん、しかも何故に独語。しかし、これでは何も分からないに等しいような気がするんだけど。
「し・か・も、同族の有力情報も発見ですよ~」
おう、それは凄いんじゃないのか。
「アメリカの、ロッキー山脈の奥地に隠れ住んでいるそうですよ~」
「……あ、そう。ちなみに、その『隠れ住んでる』ヴァンパイアさんの情報はどこから?」
「4ちゃん〇るのアンデッド板の特定班情報ですから、確度は高いですよ~」
おい待てコラ。
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
3日後、俺は弥生さんの手配した在日米軍の輸送機に乗って、彼女と一緒に太平洋を横断していた。
正確に言うと、弥生さんに頼まれたラボの所長が米軍の同種の研究所に俺をレンタルする形で渡米を実現させたらしい。俺は実験動物か何かか。
「帰国後の報告、期待してるよー」
基地で送り出す所長の嬉しそうな顔ったら、もうエロジジイとか変質者とかいうレベルを超えて、清々しさすら感じるものであった。
到着後、ボディチェックという名目で速攻米軍の研究所に連れて行かれた俺は、若干貞操の危機を感じる勢いで迫ってくる金髪碧眼のムキムキ研究者達に、文字通り『もみくちゃ』にされた。こちらの研究所では、さすがは軍と言うべきか、相当荒っぽいこともされた。傷がすぐに治ると分かれば、どこまで治るか色々とメスで切られてみたり、組織片も結構大きめに取られて煮たり焼いたり溶かしたり。呼吸の必要が無いとなれば、水や油に沈められたり、バイタルチェックだと言って-30度近い冷凍室に閉じこめられたり、高圧電流に当てられてみたりと、完全に人体実験であった。
ちなみに弥生さんは同じアンデッド枠にも関わらず来賓待遇で、検査もそこそこに上質なおもてなしを受けていたらしい。何この差。さすがはレディーファーストの国って訳ですか?
まあ、火を付けられなくて良かったけどね。ふー、まったく、死ぬかと思ったわ。
一方で、日本では分からなかった収穫もあった。例えば、さっきも言ったが、傷がすぐに治るのだ。研究所ではメスで結構深く切っても、驚くほど早く治っているのを見て『グレイト!』とか言ってたが、だからってエグるんじゃないよ。麻酔は効かないみたいで、感覚が鈍いとはいえ割と痛いんだから。
検査で得られたデータは、基本的には日本のラボと共有するらしい。所長宛に送っておくから、と最後に言われた、弥生さんが。俺?俺はモルモット枠だから、あんまり説明は無かったよ、まあ良いんだけどな。
検査後に、首筋に若干違和感があったが『ノープロブレム』と一蹴された。まあ痛いとかは無いから、日本に帰っても続いていたら見て貰おうかなぁ。
ともあれ、米軍研究所での検査協力を終えた俺たちは、また米軍基地経由でロッキー山脈の奥地へと飛んだ。
ロッキー山脈の奥地とは言っても、相当に広いこんな場所から、どうやって隠れ住んでる人を探すのか、途方に暮れそうなんだが。まあ、行ってみるしかないか。
突っ走るよー!