第3話 僕って何?
三上 弥生、26歳独身。某旧帝大医学部を次席で卒業し、研究所着任早々に研究主任になっているという、才気溢れる女医さんである。ちなみにその年の首席は、インターンが嫌で医者にはならなかったらしい。まあ、彼女も勤務医が嫌だから研究所に来たらしいが。医学部と言っても色々だなぁ、まあ、才能の欠片もない俺には縁のない話ではあるが。
「私~、実はアンデッドに興味がありまして~」
個人で対面早々、とんでもないことを若干間延びした話し方で言い出した彼女であったが、目は本気と書いてマジと読む、であった。少しヤバい人のような気もせんではない。
「そ、そうですか」
「そうですか、なんて畏まらないでくださいよ~、私より年上なんですから~」
「え、ええ」
エヘヘ、と言い出しそうな、緩い笑顔を見せながら、彼女は俺に近づいてきた。ちょ、この子大胆だな。
「み、三上さんは、どうしてアンデッドに興味があるのかな?」
弥生でいいですよ~、と言って、彼女は笑った。
「え~、なんか、好きなんですよ~、アンデッドとか、ヴァンパイアとか~」
「ホラー好きとか?」
「いや、グロいのとかはちょっと無理です~。綺麗なアンデッドが良いですね~」
綺麗なアンデッドというのが何なのかは、この際置いておこうか。
「で、その、何で君は俺とエッチがしたいわけ?」
「え~?そんなの当たり前じゃないですか~」
彼女は、俺の胸に手を置くと、とろけるような声で言った。
「綺麗なアンデッドさんだ・か・ら、ですよ~」
いや、だからその綺麗なアンデッドって何だよ、やっぱり気になるわ。
どうやら、俺が研究所に来る前から、彼女は俺に興味津々だったらしく、某医大の教授から、上司の課長宛に連絡が入ったときは、胸がときめいたそうだ。曰く、
『うちとこは生きてるのが専門だから、死んでるのは分からんなー』
『おたくの何とか言う、あの死体好きの可愛い女の子いただろ、あの子に任せてみたら。わしが直接話するわ、ちょっと出してみー』
『なにー!所長と食事に行ってるだと!くっそー、上手いことやっとるなー』
とかいう会話があったそうな。
彼女が課長情報を自分で再現している会話の通り、弥生さんはとても可愛い、そして普段は大きめの白衣を着ているから分かりにくいが、意外にグラマラスである。今風に言うと、ロリ巨乳、とでも言うのかね。まあ、言うほどに幼くはないが。しかし、死体好きって、違うだろそれ。
何はともあれ、結局男女の仲になってしまったわけだが。彼女はあくまでもアンデッドと寝ることに興奮していたのであって、俺という人格はどっちでも良い感じであったのが悲しいところではあった。まあ、これはもう俺としては役得だと思うくらいしかないな。
ちなみにラブホテルなど行けるわけもなく、場所は研究所内のモニターカメラ付の部屋であった。安全上譲れないと研究者達が譲らなかったのだ。
絶 対 嘘 だ ろ。
彼女が全然構ってなかったので、渋々従ったが、いざ彼女が部屋で服を脱ぎ始めると、俺の強化された聴覚は別室からの雄叫びを捉えた。やっぱりあいつら実況中継してやがるな、ということで、その後モニターには俺のケツばかり見せてやった。一発目の雄叫びとは違った、絶望の叫びが聞こえたのは気味が良かったわ。
そして、舞台はクライマックスへ、そこで事件は起きた。
「し、僕になります~。なりますから~、なりますから~」
そう言って、彼女は果てた。賢者になった俺は考えた。
僕って、何?
どこまで突っ走れるか、そこが重要だ(えー