第2話 ラボはバカばかり
連続投稿ですよー。
突然だが、俺は国立の疾病なんとかセンターとかいう研究所にいる。ラボですよ、ラボ。
何故かって?そりゃ病気?だからですよ。
棺桶から復活した俺は、救世主のように崇められることなど当然あるわけもなく、どっきり扱いされそうになっていた。
至って善良な小市民であった俺が、何でそんな金と手間をかけてどっきりを家族や親しい友人だけ相手に仕掛けなければならないのか、さっぱり理解できなかったが、俺の扱いなどそんなものであった。
高校以来の悪友などは、
「心肺停止から随分経つのに蘇生するなんて、非常識極まりないな」
などと笑いまくっていた。
そう、普通に?蘇生したならば、葬式代が無駄になったねどうするの?くらいで済んだのだ。いや、充分痛いけどね。俺の荷物がすっきりして良かったね?で、葬式でもリハーサルやったのか?で、笑い話で済んでいたのだ。
が、そうは問屋が卸さなかった。
その後の医師の検診で、問題が起きた。なんと、脈が無いらしい。やれやれ年取ると医者も調子が悪くなるねぇ、とか言いつつ、看護師さんも交えて聴診器や血圧計で何度も確認したが、やはり無いらしい。
脈どころか、体温も低く、気温に近い数字であったりもした。自発的に息をしていないことにも、自分で気付いた。そして始まった、想像を超えたたらい回しなのであった。
いやー、凄かった。まずは町医者の診療所、何故か市の保健所、市内の総合病院、地方大学の大学病院、旧帝大の大学病院、防衛医科大にも行ったな。たった半月ほどで、多分10以上の医療機関の、30人以上の医者が俺の体を調べた。皆、初めは転院元の医者を馬鹿にしていたが、実物を目の当たりにして衝撃を受けていた。そんなことあるわけ、あったんですよ奥さん。
そして、最終的に未知の病原菌扱いされて、今のラボに至るわけである。
ラボでも、俺は一通り検査を受けた。その後、経過観察という名の監房生活が始まった。それまでの病院との違いは、病院は俺を一応患者扱いしていたが、ラボは俺を明らかに実験動物扱いしているところだった。毎日何か注射を打ったり投薬したり、そしてその結果を記録、検証する。まさに観察実験である。
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ラボに来て半月、俺の体には変化が生じていた。別にどこかが腐敗するわけでなく、角も生えてはいない。単純に、外見上若返ったのだ。多分だが、見た目年齢は20歳くらいになっていた。研究者達は盛り上がっていたが、俺は、連日の日課となっている、同じことばかり質問するヒアリングに対し嫌気がさしていた。
「何か心情の変化とかありますか?」
それまでなら、適当にあしらっていた俺であったが、その日は趣向を変えてみた。
「若返ったせいか、最近性欲が強くなりまして。風俗行ってきたらダメですかね?」
ちょっと無茶振りしてみた。しかし、研究者達の反応はなかなかに良かった。彼らは円陣を組むとひそひそと話し始めた。
「風俗か、どうしますか?」
「そうですねぇ、実験ということで私も行ってみたいですね、経費で」
「マジですか教授、経費でそんなん出来るんですか」
「デリヘルでも呼びますか?」
「行為による違いもモニタリングしたいですな」
いや、聴覚は強化されているのか、丸聞こえだったりするわけだが。
でまあ、散々盛り上がったものの、やっぱり無理だな、ということで、ひとりが俺のところにやってきた。
「すみませんが、風俗は無理ですね。エロ本とかなら何とか」
「いや、流石にエロ本はいいです。私は普通にヤりたいんですが」
もうすぐ年金生活者って歳だからね、エロ本じゃ流石に満足できそうにないですハイ。
研究者達がどうしようか、と考えはじめたところに、爆弾が投げ込まれた。
「わ、私エッチしてもいいです!」
「はあ??」
声の方を、俺も含めてその場の全員が向いた。そこには、先程の円陣にも加わらず、何故か俺の方を熱い目線でずっと見ていた紅一点が居た。
「というか、したいです!」
「え?」
研究者達は、彼女を置いて、また円陣を組んだ。
「や、弥生さんがあんなこと言い出すなんて」
「なんという、うらやまけしからん」
「どうせなら俺がしたい」
「睡眠導入剤でも飲ませてやりますか?」
いや、それ犯罪だから。
「感染症のリスクもあるし、彼女にそんなことは任せられん、ここは俺が」
なんか変なのも出てきたので、俺も円陣に加わった。
「と言いますか、普通に止めれば良いのでは?」
「何言ってるんだお前」
常識的意見を述べたはずの俺を、研究者達が一斉に責めるような目で見てきた。
「そんなことしたら、面白くないだろう」
ダメだわ、お前ら。