第19話 色気ママは厳しい(色んな意味で)
五月ママはヤバかった、色気が半端無い。
本人にその気は一切無いとは思うのだが、煽られている気しかしない。そして、五月さんの視線が痛い。自分の親に色目使われるとか、気持ち悪い以外の何物でもないよな。でも、どうしても目が行くんだよ。悲しいかな、普通の男なんてそんなもんよ。お願いそんな膝丈タイトスカートでローテーブルなのに目の前で足組み替えるとか止めて欲しいんだが。
娘である五月さんの年齢からして、歳はそんなに若くはないはずなんだが、年齢不詳だ。20代ってのは世辞が過ぎそうだが、30代と言われたら普通に信じてしまいそうだ。母と言うよりは、姉、と言われた方がしっくり来る。
改めて五月ママを前にして、俺は自己紹介とかで何を言ったら良いのか困っていた。
だって、俺は少なくとも生物学的にはもう死んでるわけで、法的にも死んでいると考えた方が良いだろう。仕事は在職したまま、退職の手続きとかせずに入院したので、もしまだ生きてる扱いなら、きっとそろそろ復職なんかの話があるはずなのだ。その連絡等が一切無いということは、そういうことなのだろう。そんな俺は立場的に結婚できる訳じゃないので、『娘さんをください』というのはおかしい。かと言って、もう関係持っちゃったから、『娘さんをいただきました』というのはもっとおかしい。『お友達なんです』って小学生じゃあるまいし。『ご主人様です』っていうのは頭湧いてると思われそうだな。
…っていうか、俺ってもしかしなくても、人間として相当クズなことしてるよな。大事な娘さんに手を出した挙げ句、人間ですら無くした上に、責任も取れない状態。あ、でも俺人間じゃないのか。でも俺にも良心ってものが一応はありましてね。
などと若干現実逃避していると、五月ママが切り込んできた。
「しかし、五月にこんな素敵な彼氏が出来たなんて、良かったわねぇ」
「か、彼氏…」
五月さんや、そこで固まってないで。
「彼氏さん、なのよねぇ?」
「ええ、そ、そうですね?」
「ふふっ、ほら、あなたがはっきり言わないと、彼氏さんが困ってるわよ、五月」
俺が曖昧な返事をしたので、五月ママが五月さんに促すが、相変わらず固まっている。ああ、仕方ないな。
「ええっと、実は出会ってまだ日が浅くてですね」
「まあ、日が浅いのに来てくださったの?」
出会ってそんなに経ってないから、嘘ではない。
「そ、そうですね、出来れば末永くお付き合いを、と思っております」
まあ、実際は末永くどころの騒ぎではないのだが。
「まあ、まあ、まあ!」
俺の言葉を聞いて、目をキラキラさせながら、五月さんと俺を交互に見る五月ママ。あ、そういう表情すると、更に若くなった気がするな、この人。
「いいじゃないの、良かったわねぇ、五月」
「う、うん」
ハートフルなやり取りをする母娘を横に、俺は罪悪感を感じずにはいられなかった。