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う゛ぁんぱいあ55  作者: 中澤 悟司
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第17話 大神さんなわけですね

うはー、時間が経ちすぎました。

 五月さんのイメージ通り、デカい日本家屋風の実家は、前庭まであって、生前?アパート暮らしだった俺にはまるで別世界だった。そう言えば弥生さんのマンションも高そうだったが、借りてるわけじゃなくて持ち部屋だった。貰ったとか言ってたから、きっと親がとっても金持ちだったのだろう。『パパ』に買って貰った、とか言われたら失神しそうだから詳しくは聞いていない。

 話を戻そう。元から開いていた門をくぐり、金がかかってそうな綺麗な前庭を抜け、玄関に辿り着くと、年配の女性が出迎えてくれた。


「おかえりなさい、五月さん」


 お母さん、にしては歳食ってるし、第一あんまり似てない。祖母なのかな?と一瞬思ったが、五月さんの返した挨拶は、親族に対するものではなかった。


「ただいま、野中さん。お父さんはいるかな?」

「旦那様でしたら、奥でお待ちですよ」


 こ、これはドラマでしか見たことない、家政婦というヤツか!あれか、家政婦は見た!とか言うやつか?めっちゃセレブじゃないか、五月さん。

 野中さんは、俺を一瞥したが、表情を変えることもなく五月さんを先導して奥へ進み始めた。

え、俺はどうすれば良いわけ?これ五月さんや、普通に靴脱いで奥に行かれても困るんだが。


 玄関で突っ立っている俺に気が付いたのか、五月さんは振り返ると、付いてくるように告げた。何というか、実は何回も会ってはいないのだが、なんだか様子が違うな、五月さん。自分の親と会うのに緊張してるんだろうか。

 で、五月さんと俺は、五月さんのお父さんが居るという部屋の前まで来た。案内が終わると、野中さんは何も言わずに去っていった。そして、五月さんが、こちらを見た。大丈夫だよ、という意味を込めて笑顔を返したが、彼女は視線を戻さなかった。


 …え、もしかして、俺が開けるの?え、ホントに?俺は確認の意味で、人差し指で自分の顔を指した。五月さんが頷く。その哀願するような視線に、俺の心の危険アラートが鳴り響いていた。しかし、涙目になっている五月さんを見てしまうと、なんか違う気はするが、まあいいか、と思い、俺は意を決してドアをノックした。


「失礼します」


 そう告げてドアを開けた俺は、思わずドアを閉じそうになり、慌てた五月さんに止められていた。


 そこには、正座した武人がいた。今から戦場に行くの?と言わんばかりの出立だ。緊張した空気が痛い。しかし、それ以上に凄かったのは、壁一面に貼られた写真だった。


『これ、大好きってレベルじゃないよなぁ』


 某アニメのコスプレした五月さん、そんなコスプレどこで売ってるの?と聞きたくなるようなマイナーキャラまで揃ってる。某テーマパークへ行った時のものであろう額縁入りのデカい写真、猫バスに乗り満面の笑みを浮かべる五月さんの隣のおっさん。突っ込みどころが多過ぎて、一度思考を整理させて欲しかったのだが、やけくそ気味な五月さんに後ろから押され、俺は挨拶もそこそこに部屋に入ってしまった。

 仕切り直して挨拶を仕掛けた俺を手で制すると、武人、五月パパは自分の前に座るように促した。

なんか作法でもあるのだろうか、と思いつつ俺と五月さんが座った。


 開口一番、五月パパは言い放った。


「お前に五月を救えるか!?」


 は?え、何?救うって何から?五月パパはそう言ったきり、次の言葉を繋ごうとしない。困った俺は、隣の五月さんの方を見たが、両手で顔を覆って震えていた。雰囲気的には、やらかしやがったこのバカ親父が、みたいな感じである。確かに、感極まるにはちょっとタイミングが早いよね。


 一周回って、ちょっと冷静になった俺は、とある結論に達した。俺は、五月パパに向き直った。


「お前に五月を救えるか!?」


 彼は、また同じ言葉を言った。いや、これノーヒントでやれって難易度高過ぎだろう。しかし、私にはその手が大好きな、歳の離れた妹や甥姪、そして息子達がいた。付き合いとはいえ、伊達にアニメを見てきたわけではない。お望みならば、やってやろうではないか。


「分からぬ。しかし、共に生きることは出来る」


 五月パパは、かっ、と目を見開いた。やはり、彼は今、オオカミさんなのである。俺は言葉を続けた。


「この子は人の子だ、人と共に生きよう」

「ならぬ、五月は我が家の子だ、他人などにやらん」


 確か、この後は『五月さん』の番だが、いやこれ無理だろう。と思っていたら、


「…去れ」


 小さく消え入るような声だったが、確かに俺の隣から聞こえた。途端、目の前のオオカミさんが、満面の笑みを浮かべた。

 刹那、永遠にも思える沈黙が場を支配したが、それを破ったのは五月さんだった。


「お前が去れ!バカ親父が!」


 どこからともなく出した竹刀で、五月さんが大上段からの面を放った。俺の僕となり飛躍的に身体能力が向上している彼女の怒りに任せた斬撃は、文字通り人間離れした速度で五月パパの額に吸い込まれていった。


「良きかな、良きかな」


 そう言いながら、彼は仰向けに倒れた。ぶ、ブレないなぁ、この人。


 俺の隣には、中腰で竹刀を青眼に構えたまま、フーッフーッと体中の毛を逆立てた猫のように怒りを露わにしたままの五月さんがいた。


 おい、ここから俺にどうしろと。

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