第11話 めくるめく同棲生活
俺は何故だか分からんが、弥生さんと一緒に住むことになったらしい。つーか、何か色々と突っ込みどころがあるな。
「えーっと、色々あるんだが、まず1点目。弥生さんは俺と一緒に住むことに『した』の?『なった』じゃなくて?」
「そうですよ~、所長にお願いしたらOKが出ました~」
……ここの所長は大丈夫なのか。
弥生さんはニコニコ笑っているが、本当に大丈夫なんだろうか。俺ならゾンビだか吸血鬼だか知らんが、得体の知れないものが世に放たれるのは嫌とかを通り越して危険な気がするが。あ、弥生さんがここに来るのか?彼女ならあり得る。
「今日から私の部屋で同棲ですよ~、ご主人様とど・う・せ・い~」
はい違いましたー。
「本当に良いのか?流石に独身の若い女性と2人で同居っていうのは、色々と問題がありそうな気がするんだが」
「それこそ今更じゃないですか~、ご主人様に隠す事なんて、何も無いですよ~」
いや、俺の方が問題有りのような気がするんだけど。それになぁ、デートで会うのと、生活を共にするのは、全く違うからな。独身貴族には絶対に分からん悲哀もあるのだと知りたまえ。
「でもそれって、夫婦の話ですよね~、私はご主人様の僕ですよ、し・も・べ」
あー、遠くから視線を感じるのは気のせいだろうか。
その後、何故か俺が思い留まるよう弥生さんを説得していたが、結局押し切られた。というか、何で俺が説得せにゃならんのだろう、と後で思った。俺にとってはこんな監獄みたいな場所から出て若くて可愛いねーちゃんと一つ屋根の下なんて、美味しくはあれど、不味いことなんて何も無いのだから。無い、はずだよね?無いと良いなぁ。
決まれば早いもので、その日のうちに俺は荷物をまとめられ、と言っても荷物も無いんだが、とにかく俺はラボを出て、弥生さんのマンションに連行された。
自分の部屋に入るなり、弥生さんは上着を脱ぎ捨てて、俺に襲いかかってきた。な、なんか怖いんだけど!
「ま、待て!落ち着け弥生さん!」
「もう待てません!」
仰向けの俺に馬乗りに跨っていた弥生さんは、神妙な顔つきになった。どうした、何が始まるんだ。
「モーテルで思ったんですよ、カメラ気にしなくて大丈夫なの、良いな~って」
あ、弥生さんも監視カメラ気になってたんだ。
「ラボだとご主人様、かなりカメラ気にしてたじゃないですか~」
まあ、確かに俺も気にはなってた。弥生さんのこともあるが、そもそも俺は男優じゃないしな。見られて興奮するとか、そんな性癖も持ち合わせてはいない、はずだ。
「モーテルのご主人様、凄かったですよ~」
うん、確かにアレはちょっとやり過ぎ感もあったね。
「私、アレがいいです!」
何故そこだけ強調する。
「ご主人様もそっちの方がいいでしょ~?」
しかも、さっきから聞いてると、単に俺がはじけられないからラボから出したみたいな言い方だな。
「その通りですよ~」
いや待て、あなたはカメラ本当に気にしてなかったの?
「監視カメラですし、まあ気にしても仕方ないかなって。盗撮とかはちょっと、と思いますけどね~」
違いが分からんが、理解するのは諦めました。男女間に限らず、違いを乗り越える最も単純で手っ取り早い、しかも最終解決手段とは。それは『違いを違いとして受け入れる』ということです。相互理解なんて甘い夢なわけですよ。
その後、時間の感覚の無い俺たちは、また翌朝まで盛り上がった。
次の日、弥生さんは普通にひとりで出勤していった。その次の日も、そのまた次の日も、彼女はひとりで出勤していった。
俺?聞きたい?
なんか、凄く飼われてるような気がするのは俺の気のせいだろうか。