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第九十三話 賢者

「みんな、聞いてくれ! この人が今日から俺たちを率いてくれるキラメイキ魔法学校番長のチューニくんだ!」

「チューニくん、まぢ神だから!」

「チューニくんなら、あーしら黒姫派のメシアになってくれるっしょ!」

「白姫派なんてぶっつぶそ、チューニくん!」


 本人の意思は尊重されず、それどころかチューニ自身も気が弱いためにあまり声を大にして徹底的な拒絶を出来ていないのもあり、デクノーボやガヴァたちに祭り上げられて、徐々に周りも呼応し始めた。

 たとえチューニの力を知らずとも、「あいつはそんなにすごいのか?」とざわつきが止まらない。


「リーダー! どどど、どうすればいいんで!? ってか、笑ってないで助けて欲しいんで! ってか、バンチョーってなに!? 不良グループの頭だったら、むしろリーダーの方が相応しいと思うんで!」


 泣きながら助けを求めるも、ジオはタバコ吸いながら手を差し出さない。

 巻き込まれてしまったチューニが、このままどうなってしまうのか? それを楽しそうに眺めていた。

 ただ、一方で別のことも気になり、今はチューニの助ける声を無視して、ジオはこの状況に戸惑っている生活改善委員会に尋ねてみた。


「あ~……ところで……俺はこの街に用があるんだ。入ってもいいか?」

「ん? いや、今はちょっと立て込んで後に……ん!? ん!? ま、まぞ……く?」

「……半魔族だ」


 終わらない騒ぎの中、ジオがコッソリと生活改善委員会に声をかけると、いきなり現れた半魔族に、流石に生活改善委員会も驚いて思わず口を開けて固まった。


「な、なんだ、あんたは……」

「通りすがりの冒険者だ」

「ぼ、冒険者? 冒険者……魔族……いや、世間でも最近認められたと聞くし、この街では別に受け入れに問題ないが……にしても、何故この街に?」

「訳あって黒姫って奴に会いに来たんだが……つか、今思ったけど、ひょっとしてこの騒動からして、その黒姫もクビになってんのか?」


 戸惑う『生活改善委員会』という男たちに尋ねるジオ。

 ひょっとして、黒姫もこの一斉追放によってこの街から追放されたのかと。

 だが、その問いに生活改善委員は苦虫を潰したような表情で……


「い、いや……黒姫は……確かに生活態度に問題はあるが、出席日数はギリギリだがクリアして……淫乱ではあるが不純異性交遊の証拠は見つけられず……成績も魔力数値及び実技、筆記試験、共に白姫と並ぶトップクラスで……学術都市より選ばれる10人の優秀なる魔導士……『十賢者』の称号を持つ一人ゆえ……退学にはできず……」


 黒姫は意外にも成績が良いこともあって、追放にはなってない。

 ならば、黒姫云々ではなく、追放されたのは追放された方に本当に問題があった。



「くははははは! なーんだ。多少問題があっても、やることちゃんとやってりゃ、クビにはなんねーんじゃねぇか。だったら、追放されたのは単純にこいつらが悪いだけじゃねえか!」


「「「「ッッッ!!??」」」」



 そう思って、ジオは思ったことをそのまま口にして笑ってしまった。

 だが、その言葉はチューニ騒動で騒がしかった黒姫派たちにも聞こえてしまい、その瞬間、追放された黒姫派の者たちは一斉に振り返ってジオを睨みつけた。


「ちょ、あんたいきなり出てきて、何を言ってんだ!」

「リーダーさん、ひでえ! あーしらとエッチい遊びしたじゃん!」

「チューニくん、リーダーさんに言ってやって!」

「そーだよ! 大体、私らは黒姫を―――」


 バカにしたように笑うジオに、チューニ親衛隊や追放された者たちは思わず食って掛かる。

 だが、ジオは溜息吐きながら振り返り……


「うるせえクズども! 授業サボんのも、遊ぶのも、ヤルのも勝手だが、やるべきことを何もやってねー奴が文句言ってんじゃねえ! つか、自分がそうなっちまった理由を他人の影響云々の所為にしてんじゃねえ! 誰がどう見ても自業自得じゃねえか!」


 自業自得だ。あまりにも当たり前なことで、逆にその言葉に対して誰も強い反論ができなかった。


「あ、あーしらは、もっと楽しい学園や都市にしたいと思って……」

「その楽しい学園と都市を目指してお前らみてーなのが大量生産されるんだったら、そんなもんただの迷惑だってんだ! そんな学校入りたくもねえし、住みたくもねえだろうが!」

「う、り、リーダーさん……」

「火傷じゃ済まねえ覚悟してないなら、火遊びばかりしてんじゃねーよ!」


 ジオは思わず感情的になって、説教じみたことを言ったと自分で思った。

 それは、かつての自分を思い出したからだと感じていた。

 自分も魔法学校時代、喧嘩もした、問題児扱いされた、時折授業をサボったこともあった。

 だが、それでも自分を認めさせるために、自分はやるべきことはやって、戦ってきたという自負はあったからだ。

 だからこそ、チューニ親衛隊と最初は一緒に行動することは考えていたのだが、こういう状況になってしまったのなら、無理に一緒に行動することをこだわることもなかった。


「はははははは、随分とハッキリと言われるが、スカッとしたよ」


 と、そんなジオの説教を、生活改善委員会たちはスッキリしたような表情で笑っていた。

 それは、魔族であるジオに対する嫌悪は特になく、むしろ歓迎するかのような態度であった。

 だが……


「黒姫に用事というのは気がかりだが……それでも、我々の言いたいことを言ってくれた男は、拍手してやりたいぐらいだ。だが、申し訳ないがこの都市に入るなら最低限の審査は受けてもらう」

「あっ? 審査?」


 街に入るには審査がある。思わぬ言葉に首を傾げるジオと、少し緊張した表情のチューニ。

 すると再び厳しい表情に戻った生活改善委員会の一人が、制服の懐から眼鏡を取り出した。


「審査は簡単な身分や経歴の確認。そして念のため都市に入る前に魔力数値の確認をすることになっている」

「……ほう……」

「まあ、私たちのような学生が本当はやるべきことではないのだが、今は色々と人手不足なので、専門の係が配属されるまでは私たちが実習や単位と引き換えにそういう仕事も今後はするようになった」


 審査と言っても特に重いものではなく、形式上のものである。

 そのため、特に犯罪者ではない自分たちが問題となることはないのだが……


「身分か……」


 ジオは思わず躊躇ってしまった。それは、特に隠しているわけではないが、仮にも帝国の元将軍という経歴だけはどうしても消えないものである。

 あまりそのことで、騒ぎにされるのも、噂になるのも望ましいものではなかった。


「では、まずは簡単な魔力数値から。この眼鏡、実は魔鏡を改造してこの都市で生み出された、『携帯用身体魔能力測定器』で、これを除いて対象者を見るだけで、その人物の魔力やレベルが…………」


 ジオが悩んでいる間に、男は話を進めてそのまま眼鏡を通してジオとチューニを見た。

 そして、一瞬で顔を青ざめて……



「ま、ままま、魔力500!?」


「「「いっ……いいいいいいいっ!!??」」」



 それは、冒険団結成当初に出たジオの数値だった。

 その数値を聞いた瞬間、白姫派も黒姫派も口を開けて驚愕の表情で固まってしまった。


「ちょ、り、リーダーさん、が、そ、そんなに……」

「つ、強いだろうなってのは昨日分かったけど……」

「なな、なんなの? ……魔力500??」

「大魔導士の才能ある、十賢者でも、600~700ぐらいなのに! 」


 一体何者だ? もはや、チューニ親衛隊ですらジオという桁違いの存在に震えてしまっていた。


「ほ~。流石はトキメイキ。やはり、『魔力だけ』なら俺より上は居るか。もっとも、俺の数値で驚いているようだったら、チューニの数値を見たら、お前ら心臓止まるぞ?」


 魔力だけでなく、パワーやスピード、潜在能力から導き出すレベル勝負ならまだしも、単純に魔力の数値だけ測るのであれば、チューニの右に出る者はいない。

 そう口に出して笑うジオに対し、まだ周囲はざわついたままだった。

 

「っ、ちょ、あ、あんた……あんた、い、一体何者……? い、いや! こ、これは故障だ! は、はははは、それはそうだ! 故障に決まっている! そうでなければ、十賢者級の魔力などありえんからな!」


 規格外の数値は、明らかに魔鏡の間違いだと引きつった笑みで笑う生活改善委員会の男たち。

 たとえ、地上世界の魔導のエリート集うこの都市の者でも、それほどまでにジオの数値は驚くべきものだったのである。


「し、しかし、こ、故障は故障として……後で改めて測定し、身分も確認させてもらうが……ど、どちらにせよ、黒姫に何の用が……?」


 一方でそれは仕事としてではなく、もはや純粋な疑問であった。

 故障とはいえ、それでも驚異の数値を出したジオは、一体黒姫に何の用があるのか? 

 それは、白姫派の者たちにとっては看過できないものであったからだ。

 だが、その問いに対して……



「黒姫~? それは勘違いです~。その御方がお会いになられるのは~、白姫様の方です~」


「「「「ッッ!!!???」」」」



 それは、実におっとりとした女の声であった。



「そちらの半魔族の御方の身分を確認する必要はありません~。その御方の身分は、この私が~……そして何よりも白姫様が全面的に保証致します~。……隣の少年は知りませんが~『ジオ殿』のお連れであるならば問題ありません~」



 その女が現れた瞬間、場がどよめきだし、そして生活改善委員会の男たちも思わず慌てて顔を赤らめた。


「……あっ……」

「ふぼっ!?」


 ジオは思わず硬直し、チューニは吹き出してしまった。


「あら~……皆さん随分とにぎやかですね~……ですが~、そちらの御方を私がお連れしてよろしいでしょうか~?」


 栗色に染まった肩まで届くふわふわの髪。柔らかくピコピコと上下している先端の尖った耳。


「あれは!?」

「あなた様は……!?」

「十賢者の一人の……」

「ぶっ!? ちょ、ちょちょ、それよりも、あの格好は!?」


 それは、女が人ではなく、エルフであることを示していた。

 そして何よりも、ただ歩くだけで激しく縦横にバインバインと揺れ動く弾力及び迫力抜群の巨……


「は~マジか……正直……どこからツッコミ入れて、どこから聞けばいいのやら……頭が痛くなってきた」


 思わず頭を抱えてジオは蹲ってしまった。


「まぁ、大変です~……ジオ殿に何かあっては~……どーしましょう……」


 おっとしりながらも、本人としては慌てているのか、ジオを心配そうにのぞき込む女。

 魔法学校の制服をきっちり着込んでいるのだが、シャツや制服のボタンがいつ飛んでしまわないか気になってしまうほど実った果実。

 その場にいた男たちが思わず顔を赤くするのは、その胸……だけではなく……



「「「「まずは、スカートはけええええええええ!!?? でも、ナイスサービス!!」」」」


「あら~、いけません~……さっきお手洗いで脱いだままでした~……」


 

 男心をくすぐるほどの色気溢れる肉体と、黄緑色のレースの下着。

 あまりのインパクトでいきなり現れたため、この時、この場に居た者たちは一瞬、ジオの魔力数値が頭から消えてしまっていた。

 そしてジオは……


「……なんで……ここに? テメエが?」


 色々と混乱した状態で、その言葉を絞り出した。

 すると、女は……


「だって私は~……姫様の~右腕ですから~」


 そう答える女に、ジオはまた頭を抱えて……


「……白姫……ハイエルフ? あいつ、肌は白いけど……でも、さっきの話だと、白姫は、純潔で、淫乱じゃなくて、頭おかしくなくて、自分勝手じゃなくて、打算もなくて、性に狂うみだらな動物のような奴じゃないって言ってた……よな? それって、あいつとは真逆で……」


 ブツブツと何かを思い出したかのように早口で呟きだすジオ。

 先ほど、男たちが口にしていた白姫という存在の人物像。

 すると、女は……



「姫様がえっちっちになるのは~、私と同じでジオ殿の前だけです~」


「ってうぉいっ!!??」


「「「「………………えっ???」」」」



 女の天然なのか、ニッコリと微笑みながら告げた言葉に、ジオは思わずツッコミ、そしてその場にいた全員が呆気に取られた。



「テメエ、そういうことをこんな大勢の前で言うんじゃねえ! つか、お前、俺がどういう状態でここに居るのか分かってんのか!? 『あの時』、『あの場』にお前ら『は』居なかったからって、俺が昔みたいにお前らと接することができると思ってんのか!?」


「はい~。分かってます~。ジオ殿のお気持ち分かります~。だって、私も姫様と一緒に、ジオ殿に初めてを召し上がって戴いた仲ですから~」


「だっ!? だ、だから……そ、そこ……そ、それを……い、言うんじゃな……いって……」


「「「「「えっ!? な、なに!? どどど、どういうこと!!??」」」」」


 

 ジオの強いツッコミにも、ほんわかとした態度で微笑みながら変な方向へと受け流すエルフの女。

 そんな女に、ジオは再び頭を抱え……


「チューニ……」

「リーダー……い、いったい、な、なにが? このおねーさん、リーダーの知り合い?」

「……ポルノヴィーチの課題は達成できなかったってことで帰ろう」

「はっ?」


 力なく、項垂れたのだった。


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