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第八十八話 大人たち

「「「将軍だーれだ!」」」


 小さな木の棒をクジにして引き合うジオ、チューニ、少女たち。

 テーブルの上には既に空いたグラスがいっぱいになっており、誰が何杯頼んで飲んだのかは、もう誰も覚えていなかった。


「はーい! あーし将軍! じゃあ、一等兵と二等兵がサクランボを口移し~」

「はいはいはーい! 僕、二等兵なんで!」

「あらら、私が一等兵だし! しゃーないか……ほら、チューニくん、おいでおいで♡」


 既に泥酔状態のチューニは床を這って進む。

 そして、這いよるチューニの顔を両手で掴んで、柔らかい唇にサクランボを加えたヤーリィがチューニの唇に軽く触れてから、サクランボをチューニの口内に押し込んでいく。


「ふふーん、いえーい!」

「甘い……甘いんで~!」


 ヤーリィが命令を達成したことで両手を突き上げて喜びの声を上げ、チューニは至福の表情でサクランボを味わっていた。


「「「将軍だーれだ!」」」

「ウチが将軍じゃん、ウケる! じゃあ、三等兵がみんなの前で名前を尻文字~!」

「……って、俺じゃねえかよコンチクショウ!」

「「「「いえーい! はいはいはい! ジオ三等兵の名前はど~書くの?」」」」

「ぐ、おらぁぁ! こ~書いて、こ~書いて、こー書くぞ!!」


 既にどれほどの時間が経っているかは分からない。

 だが、いくら飲んだところで、少女たちは酒と言いつつただの水で薄めたジュースを飲んでいるので、酔いつぶれることはない。

 ジオもまた、酒を飲み続けるのは久しぶりとはいえ、かつてはそれこそ三日三晩宴会で飲み続けた経験もあり、この程度で酔っ払うほどヤワではない。


「うは~、リーダーの尻文字いただきましたなんで! でも、次はおねーさんたちの乳文字見たいんで!」


 結局、この場で酔っ払っているのはチューニ一人なのだが、チューニは初めての酒といやらしい女たちに囲まれたことで、何かが吹っ切れたかのようにハイテンションのままであった。


「んも~、チューニくんって、マジ、エロガキじゃん!」

「エロじゃないんで! 色々と勉強したいお年頃なんで!」

「それスケベってことだし! つかさ、チューニ君、おっぱいばっかじゃん。……パンツとか興味ないん?」

「ぱぱ、おパンツさんはただの布なんで!」

「……そりゃ」

「ッッ!?」


 チューニの隣でユルイがこっそり自分のスカートを捲って、一瞬だけ下着を見せて、素早く隠す。

 その瞬間、チューニの瞳には、ユルイの紫色の下着が焼き付いた。


「はい、ここまで~。もっと、あーしのパンツ見たければ~、おねーさんを~、酔わせるしかなくね?」

「ッ! ボーイのお兄さん! このお姉さんがべろべろに酔っ払っちゃう強いお酒お願いしますなんで!」


 これ以上もっと見たければ、自分を酔わせろと言いながら、更に飲み物を注文させる。そうやって、金はどんどん膨らむわけなのだが、チューニはそのことを一切気にせず、ついにはジオの同意も求めずに勝手に注文を取り出すまでになった。


「あ~、楽しい。ねっ、リーダーさん、私も違うの飲んでいい?」

「あっ? 別にかまわねーぜ。飲め飲め」

「あ~ん、もうリーダーさんチョーやばいッ!」


 そして、ガヴァも張り合うかのようにジオに露骨にスキンシップをして甘えてねだる。

 もう、多少の肌の接触など惜しくないと思っているのか、少女たちも段々誘惑の仕方が過激になっていく。

 もはや、下着を見せるのは当たり前。軽い口づけ、座っているジオやチューニの手を自分たちの腰に回させたり、生足のふとももに手を置かせたり、逆に自分たちもジオとチューニの胸や太ももを指で弄ったり、擦ったりと、刺激を与えようとしていく。


「ねえ、リーダーさんの魔族の手ってさ~、最初はチョーおっかないと思ったけど、なんか強くてたくましーじゃん?」

「ん? おお、そうか。気味悪くねーか?」

「ぜんぜーん! てかさ、それでさ~揉まれたりしたら、女ってどうなっちゃうの? え~い、試しちゃえ試しちゃえ!」

「あっ……」


 ガヴァは自分の背中に回せていたジオの魔族の腕を掴んで、勢いに任せて自身の豊満な胸にジオの手を揉ませた。

 その瞬間、三人の中では一番大きく、柔らかさと張りのあるガヴァの乳房の感触がジオの手に生じ、ジオも思わず手を引っこ抜きそうになったが……とどまった……


「ん、あっ……チョーたくましいってやつじゃん♡」

「……あ~……まぁ、いいや……リハビリだ……リハビリ」

「リハビリ? んなことより……」

 

 恥ずかしそうに頬を紅潮させながらも、扇情的な笑みと息を漏らすガヴァ。その行為はより大胆になり、ジオを完全に堕とそうとするかのように、自身のシャツのボタンを一つずつ開けて、今度はその隙間にジオの手を滑りこませ……


「へへ、これ……リーダーさんだけっしょ。チョー内緒ね」

「お、お、おお、お……」

「あれ? あれれ? リーダーさん、あんまこーいうの慣れてない感じ~?」

「べべべ、別にそんなことねー! 天然のサクランボごとき、いくらでも触ったことも食ったことあるわ!」


 更には服の下の、乳房と下着の合間にまでジオの魔族の手を滑らせて触らせる。

 手のひらに胸だけでなく、少し硬くなった果実部分の感触まで伝わり、その久しぶりの感触にジオも少し気が揺れそうになった。

 まだ、女体に対しての性的な接触に微妙な気分になってしまうジオ。

 だが、いつまでもそのままではまずいというためのリハビリを兼ね、更にはチューニとの「ある約束」もあり、この場で女体にビビッて引き下がることはできなかったのである。

 気づけば、将軍様ゲームもいつの間にか終わって、より過剰なスキンシップ合戦が繰り広げられていた。

 そんな状況の中、


「あっ、ちょっとウチはお手洗いに……」


 ヤーリィがコッソリ立ち上がって店の奥へと行く。

 お手洗いとのことだが、そのヤーリィを追いかけるようにボーイと他の客二名も店の奥に入っていったのを、ジオはガヴァの乳房を揉みながらもちゃんと気づいていた。


『ねえ、今、いくらぐらい?』

『一応、600万だけどよ……さっき持ってた金貨、それぐらいは十分あったしよ』

『うーわ。チョーやべーじゃん! 皆で山分けしても、一人100万じゃん』

『ああ。それによ、あの余裕ぶりから、たぶん、もっと金持ってるぞ、あの魔族!』


 ガヴァとユルイが体を張ってジオとチューニの気を逸らしている間に状況確認。

 その声は、ガヴァの胸を揉みながらもちゃんと聞き耳立てていたジオには普通に聞こえていた。


『でよ、お前らさ……今日、店が終わったら、あの魔族とガキの宿に行って、一緒に寝てこいよ』

『はぁッ!?』

『あいつをよ、常連にしちまおうぜ! そのためにはここで夢中にさせとかねーとよ!』

『うげ~……でも、魔族とヤルのはな~……ウチはチョー微妙な気分だわ~……まぁ、結構顔は良い方だと思うけどさ』

『なら、いいじゃんかよ。なっ? うまくいけば、俺たち遊ぶ金どころか、金持ちになれるかもしれねーぞ? そしたらよ、もう学校なんてさっさとやめてもいいんじゃねーか?』

『は~……じゃあ、ウチらの取り分多めね』

『ぐっ、仕方ねえな……』


 店の奥でそういうやり取りをしているのを聞いて、ジオはちょっと考えてしまった。

 

(……アフターの誘いか……正直、それは微妙だな……つか、メムスとオシャマを拒否しておいて、ここで他の女とってのはな……しかし、待てよ? これを断ったら、チューニとの約束を反故にしたことになんのか? いや、今のチューニなら、もう酔ってた頃の記憶は忘れちまったりとかは……)


 これから、少女たちが自分たちに持ち掛けてくる交渉。

 それをどう対処すべきか、ジオは少し真剣に考えた。

 脳裏に浮かぶのは、自分に対して真剣に想いを抱いてくれたものの、自分の都合でその想いには応えてやれなかった、メムスとオシャマ……一瞬、フェイリヤも過った。

 だからこそ、彼女たちとそういうことをあえてしなかったのに、ここで特に好きでもなんでもない女とそういうことをするのか? それは男としてどうかという理性が働き、正直ジオは少女たちが交渉をしてきても、それは拒否するつもりでいた。

 だが、そうなった場合、チューニとの約束。「もしまた、ヘタレなところを見せたら、裸踊りする」というもの。

 これを、「ヘタレ」と捉えられてしまうのかどうか……そのラインが気になって、ジオは考えても答えが出なかった。


「ねえ、そろそろさ~、遅いけどさ~、リーダーさんとチューニ君はどこに泊まっ――――」


 そして、そろそろお開きにして、そしてこの後の話をしようと、ヤーリィが手を叩いて声を上げながら戻ってくる。

 まだ考えがまとまってないジオは、少し焦りそうになってしまった。

 だが、その時だった。



「こんばんは~」


「「「「「「ッ!!!???」」」」」」



 店の扉が乱暴に開けられ、外から大勢のガラの悪い大人たちが唐突に店内に入ってきたのだった。

 その人数は、この狭い店では収まりきらないほどで、入り口を完全に外まで埋め尽くしている。

 ボーイも何事かと慌てて出迎えに行くと……


「あっ、お客様。いらっしゃいませ。何名様――――」

「貸し切りで」

「ッ!?」

 

 次の瞬間、大人の一人が鉄の棒を振り回して、ボーイの顔面を打ち抜いた。


「「「ッ!?」」」

「ちょっ!?」

「お、い、あんたら!」

「……あ~……なんだ?」

「ひっく、うい~、おパンツずらしてもいい?」


 突如、肉が潰れて骨が砕けた音が響き、更には鮮血とボーイの歯が数本、床に飛び散った。


「う、うぎゃああああ、い、いてええ、いてえよお、う、うわあああああああ!!」


 激痛のあまりに泣き叫んでのたうち回るボーイ。

 仲間がやられたことに憤慨するグルの男たち二人も立ち上がろうとしたが、あまりにも大人数の大人たちを前に腰を抜かしてしまっている。


「ひ、い、いや、な、なんなの? な、なんで?」

「な、によ、こいつら!」


 少女たちも突然の暴力にうろたえ、子供のように怯えて後ずさりする。

 そんな若者たちの怯えた姿にニヤニヤしながら、大人たちはズカズカと店内に入り込み、一人の男がのたうち回るボーイの背中を押しつぶすように座った。



「こんばんは~、若者の諸君。僕様たちは、この街をシノギの場にさせてもらっている、ゴークドウ・ファミリー直参の『キスキ・ファミリー』です」


「「「ッッ!!??」」」


「君様たちかな? 僕様たちの庭を土足で踏み荒らしている若者たちは。ダメじゃないかな? 大人のエリアを踏んだらさ」



 明らかに堅気ではない雰囲気の男たち。強面で、ガラも悪く、武器も持参している。

 そして、『ファミリー』という名に、若者たちは全てを察して委縮してしまっている。


「若者がね、僕様たちの街で遊ぶのはいいんだよ。その分、街も潤うからね。でもね、踏み荒らすのはダメじゃないかな?」


 そう、街のアンダーグラウンドを取り仕切る、「大人」が出てきてしまったのだ。

 

(やっぱこういうのが出てくるか……にしても、ゴークドウ・ファミリー直参……直参っていうと本家直属ってことか……じゃあこいつら……)


 一方で、ジオは特に驚く様子もなく、落ち着いた様子で状況を見て、そして大人たちの口から出てきた、『ゴークドウ・ファミリー』に気を取られていた。

 チューニは状況をまるで理解できず、ソファーの上で怯えて後ずさりしている少女たちのスカートの下から見えるパンツに合掌していた。


「さて、若頭……どうしやす? ガキども……ガキかと思ったら、女は結構上玉じゃないっすか? 男はバラして、女はどっかに売り飛ばしますかい?」

「まぁ、その前に、楽しませてもらうけどな」

「うへ、うへへへへ、お、おで、一度でいいから、魔法学校の制服着た女を犯してみたかったんだ~」

「俺、あの金髪にしようかな?」

「じゃあ、俺は左ね」


 下衆な笑みを浮かべて、少女たちに卑猥な視線を送る大人たち。

 本来、彼女たちを守ってトラブルに対処するボーイの男は既に叩きのめされ、他の男二人も腰を抜かして立ち上がれないでいた。


「ひ、や、やだ……こ、ころさ、ないで」

「ご、ごめんさい、あ、あーしら……」

「そ、そうだ! お、お金! い、今までのお金は全部渡します! だ、だから……」


 彼女たち自身、こういったことをしていながら、大人が出てくることは予想していなかったのか、その恐怖にひきつった表情は子供そのものであった。

 そんな少女たちの怯えた様子に男たちは気分をそそられたのか、より邪悪な笑みを浮かべていた。

 だが、そんなとき……


「こらこら、君様たち。犯すとか、バラすとか、売るとか……子供相手に言うのは酷いじゃないか。将来有望な子たちなんだから、優しく接してあげないと」

「若頭……」


 そう告げたのは、ボーイの背中に座っている男。

 一人だけ異質の空気を発している、ナヨナヨとした優男。

 だが、態度や周りの空気、そして「若頭」という呼称。


(……こいつが、頭か……)


 ジオは男を眺めながら、その男こそがこの大人たちのリーダーのような存在なのだろうと理解した。

 すると、男は優しく微笑みながら……



「そう。たとえば、最初は僕様もお仕置きと考えていたけれど……実際にあってみると、やはりかわいいね。とってもキュートなお尻があるじゃないか。こんなお尻の持ち主を、僕様はひどいことはできないよ」



 そのとき、ジオは一瞬聞き間違いかと思った。

 男は今、「お尻」と口にしていた。

 だが……


「やはり、人は顔でも胸でもアソコでもない……お尻だよ。お尻こそが全ての真理なんだよ。だからね、ふふふ……若者のキュートなお尻を……何日でも何か月でもいくらでも時間をかけて、優しく滅茶苦茶にしてあげたい! うふ、あは、あははははははははははは!」


 優しい笑みを浮かべながら、歪んだ瞳と狂ったように笑いだす男。

 聞き間違いではなかった。

 そして、それは少女たちにとっても同じ。


「い、いや、やめて! ひどいことしないで!」

「お尻とか、嫌! いやだってば!」

「たすけて……や、や、いや……」


 必死に尻を抑えながら泣き叫ぶ少女たち。

 痛めつけるとか、ただ犯されるとか、それ以上の恐怖を男から感じたのだ。

 すると、男は……


「当たり前じゃないか。うぬぼれるな。君様たちじゃないよ。僕様の好みのお尻は……この子だよ」

「ッ!?」

「大体、僕様はお尻と言っただけで、一度も君様たちだなんて言ってないよ。本当に醜いね、君様たちは。こういう恐怖に怯えるような状況下でも、自分は可愛いだなんて思っている。なんだか、君様たちこそバラしてやりたいかな?」


 そう言って、男は自分が今座っている、傷ついたボーイの尻を触った。

 その瞬間、その場にいた全員が表情を青ざめさせた。


「男と女は体が違う。顔つきも、胸も、そしてアソコの形も。でもね、お尻は同じなんだ。そう、魔族も獣人も動物も同じなんだ。お尻は。お尻こそが神が作り与えし、全生命全性別における共通の器官。つまり、お尻を愛することこそが、その生命を愛すことにつながると、僕様は信じているんだよ」


 誰にどんな風に思われようとも一切関係ないとばかりに、己の持論と性癖のようなものを誇らしげに語る男。

 ボーイは傷の痛みなど忘れ、それ以上の恐怖で全身をカタカタと震わせている。

 そんなボーイの尻を優しくなでながら、男は告げる。


「ふふふふ、かわいいね。ねえ、君様の名前は? 僕様は、オシリスっていうんだ。キスキ家の長男にして、現在ファミリーの若頭もやっている、『オシリス・キスキ』。よろしくね。ぜひ、僕と素敵なお尻愛……お知り合いになってくれないかな?」


 それが、その男の名。大人たちを率いる、ファミリーの若頭。オシリス。

 そんなオシリスの発する悍ましい空気が、店内を埋め尽くしたのだった。


「へへへ、一番ヒデーのは若頭だぜ。おい、そこの魔族の兄ちゃんとガキ。あんたら客か?」

「運がよかったな。ここはクソぼったくりの店でな。まだ金を払ってないなら、あんたらラッキーだぜ」

「ほれ、今からここは俺らが貸切るからよ、あんたらはとっとと出ていくんだな」

「若頭の可愛がりを見たいなら、話は別だけどな」


 そのとき、この場に居たジオとチューニを、ただのカモられている客だと思った大人たちが、愉快そうに笑いながらジオたちの肩を叩き、出ていくように促す。

 すると、ジオは……

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書籍書影(漫画家:ギャルビ様) 2022年4月6日発売

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