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第八十三話 暇つぶしの対決

「お前ら、ちょっと話がある」

「「「………」」」

「今度の目的地、トキメイキモリアルには……数日後に港に着いてから、また移動でいくつかの街やら国を越えていかなくちゃならねえ。それまでの間のことだ」


 特に潜る必要がないときは、海の上をノンビリと漂うジオパーク冒険団の潜水艇。

 天気も良い空の下、甲板に座っている四人は、次の目的地到着までの間、自分たちが抱えている『ある事』について話し合っていた。


「ガイゼン……チューニ……実は、ちょっと気になったんで、マシンに協力してもらって……俺らの軍資金について計算してみた」

「「コクリ……」」


 神妙な顔をして話を切り出すジオ。

 ガイゼンとチューニも黙って話を聞いた。



「まず、ワイーロ王国で約2千万マドカを得て、その後、カイゾーの賞金である億越えの更に三倍の報酬ということでポルノヴィーチから貰って、この間、晩飯当番決定のための釣り大会を邪魔した、ウゴ何とか衆って奴らの賞金が1千万マドカ入って、戦利品として連中が持ってた珍しいマジックアイテムを数十点没収して、で、連中に襲われてた客船に乗ってた大勢の貴族たちからもお礼だということで貴金属をたくさんもらったわけだが……マシン、鑑定は終わったな?」


「自分の知識による換金の相場は数年前のものだが、それほどアイテムや貴金属の価値が上下していないのであれば……全て売れば、合計で数億はくだらない……」


「となると?」


「今、自分たちの軍資金は約10億マドカになるだろう」



 ジオが提示した、ジオパーク冒険団が抱える問題の一つ。

 それは、結成から僅かな期間、四人という少数の冒険団でありながら、金が溜まりすぎたということだった。


「じゅじゅ、じゅうおくっ!?」

「お~……億か……今の時代の金の価値は未だにあまりよく分からんが、それでも沢山だというのは分かるわい」

「そんな簡単じゃないんで、ガイゼン! 1億ですら大人が一生かかっても稼げないぐらいなのに、それが10億なんで!」

「ほ~う……オナゴのおっぱい、どれぐらい分じゃ?」

「それこそ、いっぱいおっぱいなんで!」

「……チューニも相当動揺しておるようじゃな……」


 いつの間にか溜まっていた軍資金の額に、チューニは卒倒してしまい、ガイゼンは愉快に笑った。


「まあ、金が無いという話じゃなくて、ありすぎるって話だから、別に悪いことでもねーし、金はあるに越したことねえ。一応、金の管理はマシンにやってもらうし、必要なときは各自でマシンから金を受けとって買えばいい。だがよ、あぶく銭とはいえそれなりの小金持ちになったわけだし、軍資金とは別に、何かちょっと贅沢なことに使ってもいいんじゃねえかって思ってよ」


 そう、今日この場でジオが持ち掛けた議題は「金が無いからどうしよう」という問題ではなく、「金を何かに使わないか?」というものであった。


「あまり、生活水準を変えるような贅沢をしすぎると身を亡ぼすが……こういった機会で何かというのであれば、いいかもしれないな」

「おお、いい提案じゃな! あまり金に興味はないが、そういう企画は楽しそうじゃ」

「お、お、お金を使って贅沢とか……び、貧乏だった僕には考えられなかったことなんで」


 ジオの提案には三人も納得したように頷いて、身を乗り出した。

 ジオは、かつて将軍としてそれなりの資産はあったが、戦争が忙しくて使う暇も無かった。

 マシンは、勇者のパーティーということもあり、あまり金をばら撒くような品のない旅はしなかった。

 ガイゼンは、冒険、戦争、ケンカ、女、酒。それがかつての日常であり、金云々をあまり考えたことがなかった。

 チューニは貧乏。

 つまり、有り余るほど金があり、それを自由に使って贅沢するなど、四人ともあまり経験が無かったのである。


「よ~し、じゃあいつものようにやりたいことを順次挙げて、それを紙に書いていくことにするぜ」


 そう言って、ジオは紙と筆を取り出してそれを床に置き、意見を求めていく。



「ちなみに俺は……そうだな……超レアなマジックアイテムでも買って、それでまた遊ぶのはどうだ?」

「「「この間の、何とか衆から貰ったアイテムも既にいっぱいあるが……」」」


「自分は……土地でも買って数年寝かせるのはどうだろうかと思う。より多くの儲けに……」

「「「増やしてどうする?」」」


「か~、これだから、若造はつまらん! 男なら、歓楽街で店を貸切って、たくさんのオナゴを呼んで三日三晩不眠不休の乱痴気パーティーでもするのはどうじゃ?」

「「「ヨシワルラを出てまだそれほど経ってないのにか?」」」


「そのお金で、物価の安い国に行って、ノンビリ隠居――」

「「「却下」」」


「じゃ~、デッケー船でも買い替えるか?」

「「「海の中に潜れるこの潜水艇の方が便利」」」


「船を買うのではなく、改造するのはどうだろうか? 魔大砲を装着させたり、兵器を充実させるのは?」

「「大砲買うより、チューニに魔法覚えさせた方が強力だろ?」」

「えっ、そこだけ僕なの?」


「そういえば、ワシは金を使っての賭け事をあまりしたことがない。ポルノヴィーチに聞いたが、ラストベガスというところでギャンブルが盛んだそうじゃ。そこで遊ぶのはどうじゃ?」

「「「だから、金はあるって……」」」


「旅の癒しで……何か小動物のペットを飼うとかは?」

「動物ねぇ……この間、竜娘に散々ジャレつかれたしな」

「そういう意味では、自分は小さな狐に……」

「ワシはヤマタノラミアに……」



 意見は出る。だが、一人意見を挙げれば、それに対する三人からの呟きが入り、あまり「これだ」という意見は出ず、紙には案だけが埋め尽くされていた。


「う~む……金って持ってても意外とあんまりやりてーことが思い浮かばねえもんだな」

「船を飛行タイプに改造……いや、自分の技術とチューニの魔力があればいかようにでもできるか……」

「ぬわははは、男を堕落させるのは、酒、金、女、じゃが、ウヌらはそういう欲があまりないようじゃな」

「だから、物価の安い所に行って隠居しようよ~」


 アイディアの書かれた紙も気付けば何枚も重なるも、議論の出口が見えず、ジオもメモをする手が疲れてきたため、筆を放り投げて甲板に寝そべった。


「やっぱり、こうやって海の上で想像しろってのもな……実際、街で買い物したりとかそういうことしてねーと、いいのは思い浮かばねーな」


 元々それほど物欲の薄い四人。

 こうして四方を何もない海に囲まれた場所で意見を出せと言われても、元々の性格もバラバラな四人では、四人が納得するような意見が出るわけでもない。

 頭を悩ませて四人が唸り始めたそのとき、


「ふむ……実際に街などで……か……おお、そうじゃ!」


 ガイゼンが何かを思い浮かんだのか、顔を上げた。

 

「のう、マシンよ。その目的地のトキメイキモリアルという都市には、陸に着いてからどれぐらいじゃ?」

「距離か……いくつかの都市や国を経由して、常人なら一週間程度。自分たちの足ならば三日も掛からないだろう」

「ふむふむ。いくつかの街……それは、それなりにデカいか?」

「ん? まあ、色々とルートがあるが、どれもそれなりにデカい。トキメイキ自体も学術都市として世界各国からの人が集う故、かなりの大都市だ」

「ほ~う」


 マシンの話を聞き、どこかニヤニヤと笑い出したガイゼン。

 どうやら、何か妙案を思いついた様子で、三人はソレを察してガイゼンの言葉を待つ。


「なら、こういう勝負はどうじゃ?」


 すると、ガイゼンは……



「10億の内、旅の軍資金として2億取って置き、残る8億を一人2億ずつ山分けする。アイテムや貴金属もそのように分配じゃ。それを持って、陸に着いた瞬間、用意スタートで開始じゃ」


「「「…………?」」」


「ワシらの足で三日。途中で買い物などの道草を考えて……では、一週間後にトキメイキで待ち合わせじゃ! それでタイムアップじゃ」


「「「ッ!?」」」


「一週間でその2億を自由に使い、各々それを集合時に何に使ったか発表。それをどっかの酒場か何かで行い、そこに居る者たちに誰が一番スゲー使い方をしたかと投票してもらい、一番票をもらった奴が優勝。負けた三人は、何でも一つだけ優勝者の言うことを聞く。これでどうじゃ?」



 ガイゼンの提案。それは、誰が一番すごい金の使い方をしたのか勝負し、それを第三者に投票してもらって優勝者を決めようというものであった。


「ほ、ほ~う……そりゃまた贅沢な……だが……なるほどな」

「一週間か……ふむ……自分は金を自由に使っていいと言われたのは初めてだから、少し戸惑うが……ふむ……」

「ひいいい、一週間で2億とか絶対に無理なんで! っていうか、バラバラスタートで一週間後に集合とか無理なんで! しかも罰ゲームなんて!?」


 大胆なガイゼンの案に対して、ジオもマシンも呆れる一方で、少しだけ面白そうだとも感じていた。

 一方で、「各自現地集合」という言葉にチューニだけは涙ながら「嫌だ」と、ガイゼンに縋りついた。


「無理なんで! 途中でモンスターに出くわしたらどうするんで! 盗賊とか賞金首とか~!?」

「な~に、ウヌなら大丈夫じゃ。そもそも、ウヌも当初は一人旅であったろう?」

「それで恐怖を知ったからこそ、一人は恐いっていう話なんで! お願いだから、一人は勘弁なんでええええ!」


 一人にしないでくれと必死に抵抗するチューニ。

 チューニの魔法であれば、正直何も問題はないのであるが、ここまで情けなく懇願されたことで、ガイゼンも呆れて妥協することにした。


「分かった分かった。それなら、二対二のペアで行動及び対決ということでどうじゃ? くじ引きでペアを決める」

「ほっ……それなら……」


 一人では嫌だというチューニの願いを聞き、ペア対決を提案。

 それならばと、チューニも少し落ち着いて安堵の溜息を洩らした。


「くはははは、なるほどね。まっ、ただ雑談しながら目的地にダラダラ行くよりは面白そうだな」

「贅沢なゲームではあるが、互いのアイディアを駆使した、案外奥が深いものかもしれないな……罰ゲームを設けることで、ゲームを真剣に挑ませる……か」

「さ~って、どこの酒とオナゴにいくか……」

「っていうか、ペアなら二人で4億……それって、使い切れるの?」


 これで四人が納得し、「何に金を使ったかペア対決」を行うことで決定した。

 負けたら罰ゲームということもあるので、それなりに全員真剣にゲームに挑むことになる。

 そして、同時にようやく陸も見え始めた。


「よしっ、それじゃあ……」

「承知した」

「ぬわはははは、楽しみじゃな」

「……何に使おう……」


 数日の間だけ、ジオパーク冒険団は二手に分かれる。

 四人は互いに頷き合い、そして……



「一週間後に!! トキメイキモリアルで!!」


 

 旅の暇つぶしのための勝負を開始することにした。



 そして、くじ引きの結果……



 ジオ・チューニ組


 マシン・ガイゼン組



 という、ペアになった。


別に2年後じゃないですよ? シャボンなんとかじゃないですよ? 一週間後なんで、数話で再会します。ただの遊びの一つです。

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