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第八十話 シリーズ

 宴会も終えて、広場にも灰が残っているだけ。

 村人達も今日は疲れて寝ているのか、民家の殆どに明かりは灯されておらず、村も静まり返っていた。

 そんな中、とある民家の扉の前で、寄りかかるように地面に座りながらウトウトしている女を見かけた。

 その女は、近づいたジオの気配に気づいたのか、ハッとしたように顔を上げ、ジオの顔を見た瞬間、ジト目をして睨んだ。


「……ふん」

「よう。妹と仲良く寝てなくていいのか?」

「……別に……」


 そう言って、拗ねたようにソッポ向くメムス。

 どうやら、だいぶ怒っている様子だった。


「俺を待ってたのか?」

「誰が待つか! ただ、ちょっと寝れなくてな……ロウリはオシャマと仲良くおねむなんだが……我はな……」

「そうか……」


 今日色々あって疲れているはずが、色々ありすぎたからこそ眠れない。メムスはそういう様子のようだ。

 その気持ちは分からなくもないと頷きながら、ジオはメムスの隣に座った。


「メムス……悪――」

「悪かったな、ジオ」

「……へっ?」


 先ほどのことを謝ろうとしたジオ。だが、その前にメムスの方からジオに謝った。


「よくよく考えれば……好きでもない女に接吻されたら、いい気分ではあるまい。我もあれから少し考えて、……恋は知らぬが、それでもいきなりどうでもいい男に接吻されたらと想像したら……おぞましくなった」


 殊勝な顔して頭を下げるメムス。その姿を見せられてジオの胸は締め付けられた。

 

「そ、そんなんじゃねーよ! お前は何も悪くねーっ!」


 ジオは慌ててそう声を荒げていた。


「で、でも……」

「違う。俺はそれで逃げたんじゃねぇ。ただ、俺がヘタレだったから……」

「違う。我の所為だ。我がよほどお前にとっては醜女で……」

「いやいや、上玉の部類だろうが。つか、安心しろ……男ってのは、たとえ恋しなくても、相手が美人なら女を抱けるもんだからよ」

「……えっ、……ええ?」


 慌てて勘違いを正そうとするジオの発言だが、流石にメムスも驚いたように目を丸くする。


「だが……お前も無防備で純粋過ぎんのも、危ないんだぜ? 俺がたまたまヘタレて逃げ出したが……そうじゃなければ……」


 そうじゃなければ、取り返しのつかないことになっていた。

 普通にメムスを押し倒して抱いて、キズモノにしていただろうなと思いながら、ジオは苦笑した。

 だが、その言葉はメムスには聞き捨てならず……


「えっ……そうじゃなければ……どうなっちゃってたんだ?」

「……へっ?」


 頬を赤らめながら、メムスはジッとジオの顔を覗きこみながら、そう尋ねた。


「あっ、いや、えっと、つまりだ。ほら、俺は別にこの村に住むわけじゃなくて、またフラフラとどこかへ行くわけでだ……何かあっても責任取れねーからよ……」

「せ、責任って……何のだ?」

「だ、だから、たとえば……あ~、お前の知りたがっていた、んほぉなことをして、一線越えて、それでもし何かあったら……」

「えっ? ん、ン法をすることで何かあるとしたら……」

「いや、ほら、で、デキちまったりとか……ほら、そういうの困るだろ?」


 勢いに任せて失言してしまったと慌てるジオはそこから何とか話を回避しようとするも……


「えっと、困るというか我も家族が増えるのはむしろ望むところなのだが……ましてや、それがお前との間にできたのなら……」

「だから、俺はそうなっても責任取れねーし! だから、んほぉを求められても困るんだよ!」


 責任取れないから、一線越えない。しかし、今のメムスにはそのことは頭に入らず、むしろジオは別にン法をしないのは、自分のことを嫌いだからというわけではなく、むしろしがらみさえなければできるという雰囲気であることを気づいた。

 

「じゃ、じゃあ、た、たとえ、ば、や、やり方を教えるのも……」

「だ、だから、やり方を教えた時点でアウトなんだよ!」


 メムスは急に身を乗り出して、目をキラキラと輝かせながら、グイグイとジオにがっつき始めた。

 ジオは、当初はしんみりとした話をしながら、メムスを諭そうと思っていたのに、事態が予想外なことになってしまい、戸惑った。

 すると、その時だった。


――模擬戦であれば問題ないのだ


 二人の脳裏に「誰か」の声が響いた。



――我は乙女の味方・ラブマスターなのだ


「誰だ?」

「も、模擬戦?」



 やけに聞き覚えのあるというか、とてもいやらしい女の声。

 だが、焦っているジオも、がっついているメムスにもその声が「誰なのか」というよりも、むしろ「模擬戦」という言葉に反応してしまった。


――へたれの男と真実を探求せし乙女よ……模擬戦をせよ。本身の剣を使わずとも、模擬戦をする剣士と同じように……さすれば、問題ないのだ。


 真剣勝負ではなく、模擬をしろ。謎の声が響き、そしてそんな二人の前に何かが天から舞い降りた。


「どういうことだ? つか、これ……? ッ、こ、これは!?」


 それは、小さく四角形のギザギザの切れ目が入った袋。

 何か分からず、とりあえずそのギザギザにしたがって袋を破り、中から何かが出てきた。


「み、見たことない……柔らかい……ジオ、これをどうすればいいんだ?」


 それは、ふにゃふにゃで、半透明で、小さなサイズの何か。

 弾力もあり、引っ張れば伸びる。

 メムスが不思議そうに手で弄るソレを見て、ジオはハッとした。


――それは、わらわがかつて親友のセクハ……コホン、神より授かりし……『明るいふぁみりーぷらん』というものじゃ


 ジオは似た様なものは見たことがあった。

 ただ、ジオが知っているのは動物の皮や腸で作られたものだったが、コレは明らかに違う材質で作られている。



――恋する乙女、メムスよ。それを口に咥えるのだ。


「へっ? こ、これをか?」


――うむ、輪の部分の一部を咥えながら、『えむじ開脚体育座り』をするのだ。パンツを見せるように……


「えむじ開脚! そ、それは先ほど、ぶいじ開脚と一緒に教わったものだ! それならば、我も知っている!」


――さすれば、ヘタレもんほぉを教えるはずなのだ


「そ、それは、本当か!? ラブマスター!?」



 突如二人の脳裏に語りかけた、謎のラブマスターという天の声。

 その正体は今の二人には分からなかったが、メムスはその言葉を信じ、ジオの目の前で実行に移した。


「ん……ひお……」

「……ッ!?」


 やはり、少し恥ずかしいのか、ぎこちなく震えながらも、下着をジオに見せるように座りながら、口に咥えているものを揺らしてジオを伺うメムス。


「い、いや……ま、まて……」


 正直、ジオはもうメムスの裸を昼間の森での戦いで見ている。ましてや、女性経験の多いジオにとって、今更、下着の一つや二つを見せられたぐらいで揺らぐほど……


「ひお~……」


 純白の白い下着は、左右を紐で結ばれている三角形。

 しかし、今更その程度のことで揺れるジオではない。


「ば、バカ言うな……」

「?」

「か、仮に、それを装着してもだな……じゅ、純潔を奪うことには代わりねえ! キズモノになる! それに、ゼッテーできないってわけでもねーだろ?」


 ソレをつけているからノーカウントということにはならない。それに、絶対に回避というわけでもない。

 

「それに、多分、模擬戦でも、……俺も色々と……トラウマが……」


 そして、仮にそういうことになったとしても、先ほどのように昔のトラウマを思い出して、吐き気と共に心が蝕まれてしまい、結局今の自分には出来ないだろう。

 そう告げて回避しようとするジオだが……



――ならば、『絶対にデキない』模擬戦をすればいいのだ


「な、なに?」


――恋する乙女よ、パンツを半脱ぎにし、尻を向けて四つん這いになるのだ!


「ッ!?」


――そうなのだ。四つん這いになり、お尻をフリフリ振りながら、甘えたように振り返るのだ。全ては、んほぉの片鱗を知るためなのだ!


「……コクッ!」



 もう、今のメムスは言われるがままであった。

 どういうわけか、唐突に天より響いたラブマスターの声を「信頼できる」と思ったようで、メムスは意を決したように態勢を変え、四つん這いになり、下着を少しだけ下にずらして、柔らかそうでプリンとした美しく卵のように白い尻をジオに見せ付け、それを左右に振った。



「ま、魔王の娘が……つか、ラブマスターのやつ、い、いきなり、コッチからとか……じゅ、順序が……」


――人とは違う生き方をしてきた貴様達……ならば、人と変わった順序で進めるのも、また一興。それもまた、人生なのだ。


「人生……か……」


――それに、貴様は何かのトラウマで思うようにできないかもしれないが……そういうときは、時間をかけてゆっくりと治すよりは、いきなりドぎつい、まにあっくなことをして治す……ショック療法がいいのだ



 何か一つでも違えば、魔界の姫になっていたはずのメムスが見せる、必死の振る舞い。

 半脱ぎの下着もあと僅か下にズラせば、もっと凄いのも見えてしまう。

 ソレを知った瞬間、ジオもこみ上げそうになった吐き気を「ゴクリ」と飲み込んでいた。


「……えい」

「ひゃん!」


 気づけば、ジオも手を伸ばして、……撫でていた。

 その瞬間、メムスはびっくりして体を震わせ、口に咥えていたものも落としてしまった。


「あっ、わ、悪い、つ、つい……」

「い、いいや、いいんだ。お、お前はオシャマのすら鷲摑みにするぐらい、ソコが好きなのだろう?」

「いや、そ、そういうわけでは……」

「怒ってない。ちょっと驚いただけで……でも、すごい。なんだか、熱くなってきた……我はどうなっちゃうのだ?」


 僅かに触れられただけで、メムスの全身が火照り始め、目がトロンと潤みだした。

 完全に雌の表情をして、それがジオも余計に後ずさりさせそうになった。

 だが、流石にここまでのことをされて、逃亡するのは……


「ッ、はあ、はあ……」

「ジオ? どうした? 顔が青いぞ?」

「……いや……」


 本当だったら、時間をかけてゆっくり治すものだが、確かにこれはこれでショック療法というのもあながち悪くないのかもしれないと、ジオは思いはじめた。

 先ほどから脳裏に過ぎる女達の顔を、頭を振って追い払い、ジオは……



「ふわ~あ……ムコの匂い……ん?」


「「あ……」」



 そのとき、家の戸がガラッと開き、中から眠そうな目を擦りながらオシャマが出てきた。

 オシャマと目が合い、固まるジオとメムス。

 そして、オシャマは二人の姿を見て、覚醒した。


「あーーーーっ!!!! ふがーーっ! オシャマもするーっ!」


 自分だけのけ者にされたと、牙をむき出しにして吠えるオシャマ。

 寝巻きを捲り上げ、竜の雄々しい尻尾を生やした小ぶりの尻を出して、ジオにヒップアタック。


「ふがっ!?」

「ふふん」


 顔面にヒップアタックを受けて、そのまま地面に押し倒されるジオ。

 息もできずにもがき苦しむジオの顔に乗っかったオシャマが、誇らしげにしている。


「な、んな! オシャマ! 貴様なんという、じ、ジオは今、わ、我の尻の方が! そ、そこをどけ!」


 邪魔をされ、出遅れたメムスが慌ててオシャマをどかして自分もと「オシャマが座っている所」に自分も座ろうとする。

 後頭部を強打したのか、ジオはすぐに起き上がれない。

 そんな一同に、天の声は…… 


――やれやれなのだ……まあいいのだ。人を食わば尻二つ! 二つの尻……尻ーズを前に、トラウマを克服してみるのだ、暴威よ!


 そんな声が響くも……


「…………ガクッ……」


 ショック療法も、ショックがでかすぎれば、それはただの悪化にしかならない。

 ジオはトラウマを加速させて、意識が飛びかけるも、そのことに気づかない二人はしばらくジオの上で攻防を繰り広げていた。

 そして、ジオの意識が完全に断たれる寸前、ジオが抱いた想いは……


(やっぱり……さっさと……次の旅に……)


 そして、なんやかんやで、夜が明けた。


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