表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/145

第六十話 決戦という名の出会い

「朱色の竜……見たことねえ……いや、なんなんだあいつは!?」


 地上にも魔界にも竜は生息する。

 人の手の及ばぬ山奥や地の底に生息する竜も居れば、人の手によって飼われているものもあれば、軍事用に利用されているものも居る。

 だからこそ、竜そのものは決して珍しい存在ではなく、ジオも何度も見てきた。戦ったこともあった。それこそ帝国の王族は地上世界における上位種の竜を使役していた。

 だが、そんなジオも、現れた上空の竜に目を奪われた。


「魔界で最も好戦的な竜……『闘争竜』……だゾウ」


 カイゾーは歯軋りしながら上空を見上げる。そして、その存在に気づいた瞬間、メムスや村人たちも腰を抜かしてただ言葉を失っていた。


「奴はオシャマ……それに、コンたちも居るゾウ! 奴らめ……一体、何を……?」


 カイゾーが呟いたその言葉に、ジオも竜の背に乗っているコンの存在に気づいた。

 雰囲気から、物見遊山という感じはしない。

 すると、竜の背に乗っていたコンが立ち上がり、ニッコリと微笑みながら地上を見下ろし……


「ふふふ……カイゾー……かなりの痛手を負っている様子。これならば……これならば、プロフェッサーに……ポルノヴィーチ様を悦ばすことができます!」


 コンはカイゾーしか目には入っていない。周りに居るジオや村人たちが視界に入っていない。

 ただただ、その微笑みが黒い狂喜を感じさせ、そのどす黒い瘴気が村全体を包む。

 そして……


「カイゾー……そして、メムス……頂戴します! ……弾けて、爆ぜる……泡魔法と爆発魔法の融合……ビット・バブルボム!」


 紐アーマーというあまりにも露出した煽情的過ぎる恰好のコンが、体全体をくねらせた瞬間、コンの両手から泡が発生する。その泡がシャボン玉となって地上に雨のように降り注ぐ。

 その瞬間、ジオたちは降り注ぐ泡の一つ一つに魔力が込められているのを察知し、咄嗟に迎撃しようと身構えると、血相を変えたカイゾーが真っ先に飛び出した。


「うおおおおおおお! メガ・フォレストッ!!」


 メムスの家の庭から、一本の木が激しくうねるように空に向かって伸び、降り注ぐシャボンの泡を遮ろうとする。

 そして、シャボン玉がカイゾーの発動させた木に触れた瞬間、シャボン玉が激しい爆音を響かせながら破裂し、木の盾を一瞬で砕いた。

 しかし、攻撃を防がれたというのに、コンは涼しい顔をして余裕の様子。


「ふふふ、メガ級の魔法……それもかなり幹が弱い……やはり、相当弱っているようですね、カイゾー。……コンコン」

「ぬぬっ!?」

「あの冒険者たちはやはり、相当な実力者。あなたをここまで消耗させるとは。今のあなたならば、確実に……お持ち帰りできます、コンコン♪」


 砕かれた木が地上に落下。同時に、コンは更なるシャボン玉の雨を降らして、カイゾー目掛けて放つ。


「ッ、メムス様!? 小生から離れるゾウ!」

「カイゾーッ!」

「って、お、おい、俺もか!?」


 既に、ガイゼンとの戦いで力を使い果たしてダメージも大きいカイゾーは、もはやこれ以上防ぎきれないと判断し、隣に居たメムスと、「ついで」にジオをまとめてその場から放り投げた。

 正直、ジオはこのままでは自分も巻き込まれると思って、自分がシャボン玉を迎撃しようとしていただけに、カイゾーの不意の行動に反応できずにメムスと一緒に乱暴に放り出された。

 そして、その直後に、無数のシャボン玉がカイゾーの体に触れて、次々と爆発していく。



「うぐ、ぐ、ぐぬうおおおおおおおおおおおお!?」


「カイゾーーーーーッ!!!???」


「「「「ゾーーーーーさんっ!!!???」」」」」



 爆炎に包まれて、カイゾーが苦痛の声を上げる。


「や、やめろ! カイゾーに何をするんだ! やめろ、やめてくれーー!」


 カイゾーに投げ飛ばされたメムスがすぐに起き上がって、目の前の光景に悲鳴を上げるが、コンの攻撃は止まらない。

 シャボン玉の爆発一つ一つは、掌サイズで弾ける程度のものだが、それが連鎖反応して生み出す爆発は一瞬でカイゾーの全身を包み込んだ。


「ふふふふ、ビット級の魔法も、こうして使い方次第ではメガ級やギガ級を上回る脅威となります。ビット級だからこそ、魔力の消費も少なく大量の連射が可能、……まさに……男女の営みで……男性が早くても、数で勝負するのと同じ理屈です、コンコン♪」


 この爆発が続けば、カイゾーは間違いなく倒れる。だが、コンの目的はカイゾーを倒すことではなく、生け捕りにすること。

 頃合を見て、コンはシャボン玉を止め、次の瞬間二人の女が竜の背から飛び降りた。


「ふははははは、七天カイゾー、その体……うおおおおおおおお、顔が男性の股のアレの形してるとか、貴様は欲求不満なウチになんという!」

「うっ、ぐっ……が……」

「許せん、成敗してくれる! ちなみに、ウチは独身で毎月の給料は300万マドカで貯金もあるから、主夫になりたい奴も募集中だ!」


 やかましく笑ったり、なぜかいきなり不機嫌に怒ったりと騒がしくしながら、一人の魔族がカイゾーにそのまま襲い掛かる。

 その姿を、カイゾーという異形の姿をした魔族をも受け入れた村人たちも、思わず「バケモノ」と悲鳴を上げてしまうもの。

 上半身は人間の女の姿でありながら、その下半身は大蛇の胴体。

 それは、ラミア。

 そして、その動きもまさに蛇のごとく、ダメージでフラフラになったカイゾーの全身に絡み付いて、その太く長い体で締め付けていく。


「アナコンダツイストッ!! うおおおおお、男の肌アアア、筋肉ううううう、温もりイイイイイ」

「ぐっ、か、関節わ、ざ、ぐ、うぬごおおおおぅ!?」

「……おい、貴様……ウチと結婚する気あるか?」

「……ぐぬ、は、は? な……い……ゾウ」

「……誰が年増独身で体の長い女は嫌だ、コンチクショーーーーーー!」

「い、言ってな、ふごおおおおおっ!!??」


 巨体と怪力を誇るカイゾーに、全身を締め付ける関節技を繰り出す、ラミア。

 そして、どういうわけか、カイゾーの肌に触れて顔を紅潮させてウットリし、かと思えばカイゾーの耳元で何かを呟いた瞬間に、涙を流してカイゾーをより締め付けた。

 更に……


「ひいいいい、イキウォークレイ様……こわいよ~……っ、そ、それに、やっぱり私なんかじゃ七天カイゾーとなんて戦えないよ~……」


 ラミアに締め付けられて身動き取れないカイゾー。

 その目の前には、カイゾーの膝ぐらいの高さしかないほど小柄な少女が着地した。

 一見すると、ただの小さな少女。だが、その少女が穿いている短いヒラヒラのスカートから伸びる、ふさふさの獣の尾。それは、間違いなく少女が人外の証。

 そして、少女は半泣きで怯えながら……


「こ、恐いから……眠っててくださ~い!」


 突如、少女は両拳を上げ、徒手空拳で戦うものらしい自然な構えを見せ、そして地面に腰を落としてそこから一気に拳を天まで突き上げる。

 洗練された動きと、小柄な少女とは思えないダイナミックな動き。


「あっぱーくらっしゅう!」


 それは、狙い済ましたかのようにカイゾーの股間に向けて全力で突き上げられたアッパー。

 その瞬間、その光景を見ていた男たちは股間を抑えて、自分がくらったわけでもないのに顔を青ざめさせた。

 当然、それを受けた張本人は……


「ンゾオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!??」


 正に、悶絶して撃沈した。


「「「「いてええええええ!? ゾーさんの股のゾーさんがああああああ!!??」」」」


 正に、流れるような襲撃であった。

 ただでさえ、大怪我をしていたカイゾーに奇襲で爆撃し、肉体を締め付けて身動きを封じ、そして急所に強烈な一撃を叩き込む。

 もはや、カイゾーの意識も薄れ掛けている。

 そこに……


「とどめ……年増、どけ」

「誰が年増だー! っていうか、殺すなよな!?」


 空からドラゴンが急降下し、その巨大な爪を振りかぶって、カイゾー目掛けて……


「や……やめろーーーーーーっ!!」


 このままでは、カイゾーがやられてしまう。メムスが決死の覚悟でそこに飛び込もうとした。

 しかし、



「闇と雷の融合……黒い雷……ギガ・ジオスパークッッッ!!!!」


―――――ッッ!!??


 

 その時、上空より降り注いだ暗黒の雷がドラゴンの全身を包み込んだ。



「ガグギャアアアアアアア!!??」


「ったく……『ただの村娘』がドラゴンに立ち向かうなんて勇気を見せるんじゃねーよ……まっ、嫌いじゃねーけどな」



 正に不意打ちの予想もしていなかった攻撃を受けたドラゴンは、激しく叫んで身を捩らせる。

 だが、寸前のところで攻撃を察知したと思われるコンだけはドラゴンの背から飛び降りて、同時に今の魔法を放ったと思われる人物を見て、ニコニコした笑みを止めて睨みつけた。

 それは……


「ったく……人が雑用を終えて、ようやくまったりできると思った瞬間に……邪魔してんじゃねえよ、アニマルビッチども」

「……あなたは……生きていらしたのですね……」

「ああ。お前らの詐欺のおかげで、色々とメンドーな事情に頭を悩ませてな」


 カイゾーに放り投げられたジオ。その姿を見て、コンは目を大きく見開いた。


「おい、コン。この男は何者だ? 今の魔法は? ……それに、この男の年齢は? 独身か? っていうか、半魔族か? 職業は? 恋人は居るのか!?」

「こ、こわい、目がこわいよ~……ぶるぶる、だ、誰ですか、この人……うえーーーん、あっちいってくださいいい!」


 突如、横槍を入れて現れたジオに対して独特の警戒心を剥き出しにするイキウォークレイ。

 そして、小柄な少女は……


「つぶれちゃえぇえぇ!」

「おっ!?」

「まっ、まってください、タマモちゃん!!」


 タマモ。そう叫ばれた少女は、鋭いステップでジオの真下に一瞬で踏み込んでいた。

 そして、カイゾーにやったときと同じように、ジオの股間目掛けて拳を……


「流石に、リーダーもそれは受けたらまずいだろう。自分は問題ないが……」

「おおっ!?」

「ろーぶろーっ、っ!??」


 タマモが繰り出した捻りも加えたパンチ。だが、それはジオに届くことなく、光速の動きで割って入ってジオを庇ったマシンが代わりに股間に受けた。


「おい、マシンッ!?」

「「「「マシンさんッ!!!???」」」」


 助けて入ったはいいが、マシンが代わりに股間を強打してしまった。男たちが再び顔を青ざめさせてマシンの名を呼ぶが、当のマシンは……


「問題ない」

「「「「「ッッッ!!!???」」」」」


 股間を強打しながらも、顔色一つ変えずにその場で直立不動であった。

 そして、マシンの股間を殴ったタマモは逆に……


「い、いた、いたっ、か、固い……あ、アソコが凄い固いです!?」


 打ち込んだ拳を赤く腫らして涙を浮かべるタマモ。

 攻撃したはずのタマモが逆にダメージを受けていた。

 その事実に、タマモだけでなく男たちも驚いた顔を浮かべると、マシンは淡々とした表情で……


「確かに大した打撃だが、自分にはその程度の衝撃では影響を受けない。自分のソコは超絶合金ファールカップを装着している」

「ちょ、超絶豪キン……でしゅか!?」

「そうだ。超絶合金だ」


 正直、その場に居た誰もがマシンの説明の意味が分からなかった。

 だが、ジオたちだけは「まあ、マシンだからなんか理由があるんだろ」で納得した。

 一方で、タマモは……


「じゅるり……ちょ、ちょうぜつ、ご、ごう、キンの……あ、アレでしゅか? タマ的な……」

「ん?」


 なぜか、急に顔を赤らめさせてモジモジとしだすタマモ。照れながら、マシンの股間をチラチラと見て、ごにょごにょと呟いている。


「わ、わたし、こ、これまで、お、おとこのひとのアレをぶん殴って、そしたらみんな、弱虫な私の前で倒れる情けない人しかいなかったのに……こんなに逞しい人……初めてでしゅ……」

「……?」

「ちょーぜつごうキン……きゃっ! だ、だめだめです、はずかしいでしゅう……でも、でも~!」


 そのとき、どうして「そういう状況」になっているのかは誰にも分からなかったが、照れながらマシンにうっとりとするタマモの姿に、その場に居た者たちは、何だかややこしい事態になったのではないかと感じていた。

 

「えええい、何をやってる、タマモッ! 甘酸っぱいなこの野郎、羨ましいぞコンチクショー! どいてろ! ウチがそいつらをヤル! ウチの前でイチャコラ許さんッ!」


 そんな状況に憤怒したラミアのイキウォークレイがすかさずマシンとジオを強襲しようとする。

 だが、


「ふごっ!?」

「まあまあ、少し落ち着いたほうがよいぞ? 甘くて酸っぱい果実は、まずは見て愛でねばのう」

「だ、誰だ!? う、ウチに触れる者は!?」

「それにしても……あの竜……見たことない種じゃが……何だか、懐かしい感じがするのう」


 カイゾーの拘束を解いて、地面を張って前進しようとしたイキウォークレイが突如引っ張られて動きを止められた。

 イキウォークレイが怒って振り返ると、そこには自分の尾を片手で掴んで引っ張る巨大魔族……ガイゼンが立っていた。


「貴様~~~! ウチの体に触れるとは良い度胸だ! 責任とってウチと結婚しなければ全身の骨を粉々に砕いて喰ってやるッ!」

「ん? 結婚か? 別にえーぞ?」

「おお、そうか! 誰が全長長い女はお呼びではな……い……へっ? ……えっ?」


 そのとき、イキウォークレイだけでなく、全員が「えっ?」となった。


「あ、でもワシ、他の女も抱くぞ? とりあえず、嫁は百人ぐらい作ろうと思ってるから、それでもよいか?」

「……………………あの……長い女でもいいか? い、いや……あの、よ、よろしいのでしょうか?」

「なんじゃあ、長いのを気にしておるのか? 乙女じゃの~」

「び、美少女乙女!? う、ウチが!?」


 今度は、イキウォークレイが顔を真っ赤にさせ、照れて蛇の体をクネクネと激しくくねらせた。

 その光景に、誰もが呆然とするしかなかった。


「な、なぜ、こんな……何が起こって……こんこん?」


 意気揚々と乗り込んできたはずのコンが、僅かな時間でこの状況に動揺してしまった。

 だが、何が起こっているか分からずとも、彼女のやることは変わらない。


「と、とにかく、カイゾーだけでも先に連れて行きます! 私だけでも、こんこん!」


 状況は明らかに予想外。しかし、今は弱っているカイゾーを攫うことが出来る千載一遇のチャンスと、コンは吠える。

 そして、自身の胸と股間を覆っている紐に手を当てて……


「今こそ、この紐アーマーの封印を解きます!」


 ただでさえ、ほとんど裸同然の姿のコン。少しでも紐をずらすだけで大事な箇所が見えてしまうというものを、むしろ自らその結び目に手を当てて解いていく。


「ちょ、おいおい、お前、何を!?」


 まさか、ここで全裸になる気か? そう思って男たちが驚きながらも微かに期待していると、コンは口元に笑みを浮かべて……


「ふふふふ、この紐アーマーは、私の全身から溢れる魔力をセーブさせる役割があるのです。膨大で制御しきれずに日常生活でも垂れ流してしまっていた魔力を抑えるためのもの……ゆえに、それを解いた時、私は真の力を使えるのです!」


 上と下。二本の紐を解いた瞬間、コンの豊満で扇情的な肉体が全て解放されるかと思った瞬間、コンの全身が眩く光り出して、皆の目が眩む。

 そして、その光が収まった瞬間、コンの体が泡で衣服のように覆われてしまい、たわわで弾力もありそうな胸や尻や大事な箇所が全て隠れてしまった。


「これが、私のバトルモード、泡姫です!」

 

 泡姫。そう告げるコンから発せられる空気は確かに先ほどよりも強く鋭いものであった。

 ジオも少し真剣な顔で身構えた。

 男たちはガッカリした。

 だが……


「ぬわはははは」


 そのとき、ガイゼンが笑った。

 そして、ジオとマシンは気づいた。

 ガイゼンは今、イキウォークレイの尾を片手で掴んでいる。

 そして、もう片方の手には……


「出番じゃ、チューニ! 男たちの希望に応えてこい!」

「ええええええっ!? あ、あの、あの、戦いは三人だけで」

「ほれ、チューニ大砲じゃ!」

「ぎゃあああああああ!」


 ガイゼンのもう片方の手には、チューニが掴まれており、ガイゼンはそのままチューニをコン目掛けて投げたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

書籍書影(漫画家:ギャルビ様) 2022年4月6日発売

i265639
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ