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第五十一話 巨大

 ヨシワルラの街を越えた深い山の中。先頭を行くガイゼンは笑みを浮かべるのみで特に何かを話すわけではなく、ただ迷うことなく山道を進んでいた。


「あのジジイ、勝手に行きやがって……そもそも、本当にあのカイゾーがこの山の中に居んのか?」

「確かに……大物賞金首がいつまでも同じ場所に留まっているとは思えないが……」

「ぜえ、ぜえ、あの、ちょっと、きゅ、休憩欲しいんで……疲れたぁ……」


 山道は遮る木々が多く、道も歩くのが困難なほど険しかった。

 泥濘、巨大な樹木、溝、行く手を阻むものが多く、チューニからは弱々しい声が漏れてしまった。

 

「だらしねーな。農業やりてーなんて言ってた割には体力ねーな」

「運動不足の様だな。いかに魔力が膨大とはいえ、多少は体力を身につけなければ何事も身が持たない」

「そんなの、り、リーダーたちと比べないで欲しいんで……はあ、はあ……水ぅ……んごきゅ、ごきゅ」


 四人の中で最も運動能力の低いチューニには山道を歩くことは非常に体力を消耗し、山に入ってそれほど時間も経っていないものの、ついにバテて木に寄りかかって腰を下ろし、携帯していた水筒の水をがぶ飲みした。


「ったく、お前は山の中とかで遊んだことねーのか? 体力なんて、遊んでりゃ自然と身に付くもんだがな」

「ぼ、ぼく、ずっと家の中で本ばっかり読んでたんで……」

「あ~あ、才能はピカ一のくせにもったいねぇ……」

「ねえ、リーダー……魔力で肉体強化とかってどうやるのか教えて欲しいんで……それができたら……」

「やめとけやめとけ。あんなの、貧弱すぎる体で使ったら、筋肉痛になって動けなくなるだけだからよ。結局、素の力を地道に鍛えるしかねーんだよ」

「そ、んなぁ……僕、努力とかじゃなくて、こ~、覚醒して突如力に目覚める的なのが望みなんで……」

「おい、それだけ覚醒してるくせに、まだ望むか?」


 もう、歩くことが出来ないと、幼い子供のように駄々をこねて蹲るチューニ。

 ジオはそんなチューニに情けないと呆れて苦笑した。


「リーダーは……そういう覚醒的なの無かったの?」

「ん? どーだろうな。俺も勝ってばかりじゃなくて、カイゾーとの一戦みたいに負けまくった頃だってあったしな……だから、それなりに鍛えたりしたさ」

「うわぁ……努力する不良とかほんと冷めるんで」

「うるせえ、放置して行っちまうぞ?」

「あんまりなんで! リーダーちょーかっこいいんで! だから、せめて……おんぶでも……」

「……このガキ……天才のくせに……」

「だってぇ、山登り初心者にこの山、いきなりはキツイんで!」


 ジオは仕方なくチューニを担いで動こうかと考えた。

 だが、そのとき、ふと森を見渡しながら、マシンが不意に呟いた。


「だが……確かに、少し森が入り組みすぎているような気がするな……」

「ん?」

「普通、こういった山の麓に街などがある以上……この山との共存は不可欠なはず。その割には、随分と森が入り組みすぎて不便だ」

 

 そう言われて、ジオも「そういえば」と少し冷静になって辺りを見渡した。

 特に道などが舗装されているわけでもなく、巨大な樹木が斜めになって道を遮ったり、唐突に巨大な岩が阻んだり、急な斜面などが足元に現れたり、不自然なほど行く手を阻んでいる。

 まるで、侵入者を妨げているかのように……


「確かに、街の獣人どもならまだしも、何も知らない人間が一度迷い込めば二度と出られねえぐらいの樹海かもしれねぇな……」

「賞金首が身を隠すなら確かに良いのかもしれないが……」

「確かに……ありのままの自然と言うには……少し不自然かもな。ちょっと目を離せばすぐに逸れたりしそうだし……」


 僅かな違和感。一度感じると、ジオもこの森に感じる不自然さが気になり始めた。


「って、迷ったり逸れたりは勘弁なんで、お願いだからリーダー置いてかないでぇ!!」


 と、ジオの不吉な予感にチューニは慌ててジオの足にしがみ付いた。


「こんな山中で迷子なんて嫌だし、それどころか七天が居るかもしれない場所で逸れるとか絶対に嫌なんで!」

「わーってるって。確かに、お前の魔法がどれだけヤバくても、今のお前じゃカイゾーと戦うのは……ん?」

「リーダー?」


 そのとき、ジオはあることを思い出したかのように、慌てて辺りを見渡した。


「そうだ……ここには……カイゾーが居るかもしれねーんだ……」

「はっ? リーダー? 今さら何を……」


 そう、この山の中にはカイゾーが居るかもしれないのである。しかし、そもそもそれが目的だというのに、今さらなんだとチューニが首を傾げるが、ジオは神妙な顔をして呟く……


「そうか……ひょっとしたら、この不自然なほど入り組んでる山中は……カイゾーのテリトリーなのかもしれねーな……」

「はぁ? リーダー……どういうことなんで?」

「何か……心当たりが?」


 かつて、この中で唯一過去にカイゾーと戦ったことのあるジオ。だからこそ知っている。

 今、この山の中で何が起こっているのかということを。

 すると、先頭を行くガイゼンが、振り返らずに前を向きながら……


「ぬわはははは、バリケードじゃな」

「「「ッ!?」」」


 確信しているかのように、そう口にした。


「戦ではたまにこういうのがあったわい。天然の森や山を魔法の力で改造し、敵の攻撃や侵入を防ぐための障害とする……」

「……ガイゼン、気付いてたのか?」

「まぁ、パッと見でのう」


 と、そこでようやくガイゼンも足を止めて辺りを見渡しながら興味深そうに笑みを浮かべた。


「リーダー……どういうことだ? 森や山を……?」

「カイゾーは、『そういう魔法』を使えるってことだ。こういった、山や森での戦闘ではもってこいの魔法でな。奴の率いる軍はこういった場所での戦いは恐ろしいほどに強かった」

「……イマイチよく分からないが……森や山などの自然物を操るといえば……木や大地などの魔法か……?」

「ああ、しかもとびきりのな。そして、奴の恐ろしいところは、『そんな魔法』使わなくても普通にツエーってことだ」


 過去にカイゾーと戦い、そして苦い思い出のあるジオだからこそ分かること。

 マシンの問いにそう答えるジオの話を聞いたチューニは、ポカンと口を開けて固まってしまった。


「しかし、やりおるわい。そういった森や山の改造は手間がかかるうえに、複数の魔導師で時間をかけてやるもの。しかし、これをカイゾーとやらが一人でやったというのならば、それだけで器が知れるわい」


 だが、ガイゼンだけは嬉しそうにより笑みを浮かべた。

 

「まっ、しかしいつまでも邪魔くさいものに阻まれてはたまらんから……いっそのこと、辺り一面でもぶっ飛ばしてみるかの?」


 もはやすぐにでも戦いたいという衝動を我慢できなくなってきたガイゼンがついにそう口にした。

 ジオたちもハッとし「本当にやるかもしれない」と、思わず身構えた。

 すると……



―――小生の首はやらぬゾウ。すぐに、立ち去るゾウ!


「「「「ッッッ!!!???」」」」



 どこからともなく、武骨で威厳溢れる声が山中に響いた。


「……この声は!?」

「……居るのか? 近くに?」

「ひいいいいいいっ!? し、しし、ひょ、ひょっとしてこの声!?」

「ぬわはははははは、よーやくお出ましか」


 全神経をむき出しにして辺りを見渡すジオたち。

 誰かが居る気配はない。しかし、自分たちの存在は気付かれて、そして見られていることだけは感じ取ることが出来た。



「ぬわはははは、ウヌが七天大魔将軍のカイゾーか! ウヌと勝負に来た! ワシも強さにはかなりの自信があるぞい! 度胸があるのなら、ワシの前に現れよ! さもなくな、ウヌを見つけるまで癇癪起こして暴れるぞい!!」



 ようやく存在を感じることが出来た敵の存在。ガイゼンが嬉々として再び挑戦を宣言する。

 その挑戦に対してカイゾーはムキになるわけではなく……


――貴様か……先ほどやかましく街で騒いでいた、ガイゼンなどという大層な名前の者は……魔族だったとは驚きだゾウ。しかし、小生はそんな童のような喧嘩に付き合う気はないゾウ。


 クールにカイゾーは返した。

 だが……



――大方、これまで来た冒険者たちと同じように、小生の首や金欲しさに来たと思うが……小生に関わるな。帰って、『あの女』にそう伝えるゾウ


「ふん、つれないことを言うではないか。どのみち、賞金首である以上は、自由に選択できると思うでない。それに、ワシがやりたいのは喧嘩ではない。血肉沸き立つ死闘じゃぁ!!」


――……くだらぬゾウ……戦闘狂か……



 カイゾーがどれだけ冷静に受け流そうと、ガイゼンには関係ない。

 もう、ガイゼンの中では戦いは決定事項なのである。

 ガイゼンは、あたりの匂いを嗅ぎ、神経を研ぎ澄まし、相手の位置を掴もうとしている。

 すると……


「くはははははは、相変わらず生真面目なヤローだぜ……なぁ? カイゾー」


 ジオもまた、久しぶりに聞いた声に嬉しくなったのか、気付いたら自分も話しかけていた。



――……貴様は……


「ジオ・シモンだよ。ひょっとして、あんたも俺のことは忘れちまってたか?」


――っ!? 暴威の……?


「おっ! 嬉しいねえ、伝説の武人に覚えていて貰えているだなんてな」



 ジオの声と名を聞いて、初めてカイゾーに驚きの反応が声となって感じ取れた。

 そのことがまた嬉しくて、ジオも笑った。



――パスカルを倒した人類の英雄……そうか……監獄に幽閉されていたはずだが……大魔王様の魔法が解けて……


「まぁ、いーじゃねえかよ、もうそんなのどうでもよ。とりあえず、過去はどうあれこうして会えたんだからよ、せっかくだから出て来てくれてもいいんじゃねーのか? あんたに会いたがってる、大先輩も居ることだしよ」



 昔を懐かしむように、ジオもカイゾーにまずは姿を現せと告げる。だが、カイゾーはその言葉を聞いて少し間をおいて……



――……暴威……貴様……なぜ、あの女の依頼を受けたゾウ?


「あ? あの女? プロフェッサーPって奴のことか?」


――奴は魔界どころか地上をもカオスにしようとする災厄……それとも、帝国に恨みを持ち、地上を滅ぼすのが貴様の目的か?


「はっ? 何を言ってんだ? 俺は別にフクシューなんてもんに興味はねえ。それどころか、プロフェッサーPのことも良く知らねえ」


――ふっ、どうだか……だが……どちらにせよ、貴様が居る以上……これまでの半端な冒険者たちと違い、危険だゾウ……ならば……



 と、その時だった。


――メガフォレスト!!


 突如、ジオたちの周辺に異変が起こった。

 森や山が激しく音を立て、足元も大きく揺れる。


「ッ!?」

「何か来る!?」

「ぎゃああ、神様闘神様ガイゼン様ぁぁ!?」

「さてさて、どうする? どう来る! 来てみるがよい!」


 何かが来る。四人がいつでも動けるように身構えた、次の瞬間―――


「ッ、リーダー!?」

「うおっ?!」


 突如、山中の樹木の枝や蔦が意志を持ったかのように伸び、しなり、ジオたちに向かって襲いかかってきた。


「ぎゃああ、な、なに?! なんなんで!?」

「ほうほう、そう来たか!」


 四方八方から無数の太い枝が槍のように鋭く鋭利になってジオたちを突き刺そうと伸び、その動きを拘束しようと蔦が一斉に絡みつこうとしてくる。

 だが……


「ちっ、うざってえ! ジオ・リジェクト!」

「音波振動波ッ!」

「は、母なる大自然のマナ集いし双肩より……って、詠唱してる暇ないんで! スペシャルスペシャルスペシャルーーーッ!!」


 斥力、音波振動、魔力砲。各々の力をもってすれば、自然の猛威など、ジオたちに届くことは無かった。


「ぬわはははは、つか、チューニなら別に立ってるだけで大丈夫だと思うがな。どーせこれ、魔法じゃし」


 ガイゼンもまた、自身に襲いかかってきた木々などは一瞬で粉砕して両腕を組んで余裕の様子。

 だが……


――ギガフォレスト!


「「「「ッ!!??」」」


 次の瞬間、更なる猛威がより強大となってジオたちになります。襲いかかった。


「う、うおっ!?」

「木が……」

「で、でっかくなった!? それに、再生した!?」


 周りの木々が突如として一斉に太さも高さも何倍にもなってデカくなり、完全に日の光を覆い隠してジオたちを見下ろし、そして再び一斉に襲いかかってくる。

 更に、吹き飛ばしたはずの木々は再び大地に根を生やし、破損した枝などもより巨大となって元に戻り、全身をしならせてジオたちを薙ぎ払おうと暴れ回った。


「ちっ、めんどくせえ! チューニ、お前がぶつかれ! そしたらたぶん魔法が解除される!」

「ちょ、冗談じゃないんで! たぶんって、じゃあもし違ったらどうするんで!? こんなぶっとい木にぶっとばされたり、ぶっ刺されたりしたら、間違いなく死んじゃうんで!?」


 どれだけ吹き飛ばしても、どれだけ破壊しても、際限なく修復して何度でも襲いかかってくる森の猛威に、ジオはチューニに提案するも、万が一ダメだった場合と、チューニ自身の恐怖によって却下された。


「だが、このままでは森に押しつぶされる……」

「ちっ、うざって―――――」


 さてどうするかと、ジオとマシンが互いに背を預けあって森の攻撃を対処していたその時……


「あっ……」

「ッ!?」


 巨大な樹木が全身を鞭のようにしならせて、ジオたちに襲いかかろうとしたとき、その樹木の幹の上に……



「ふきとぶゾウ。地の果てまで」


「か、カイ―—————ッ!!??」



 そこには、巨大な樹木に紛れて、巨体のガイゼンよりも二回り以上の巨大な怪物。

 巨大な樹木の幹ほどもある巨大な足、巨大な腕、そして岩のように大きな図体と、そして……


「……ゾウ……?」


 腰を抜かしていたチューニが、その怪物の顔を見てそう呟いた。

 二足歩行で巨大な真っ赤な鎧に身を包んだ、ゾウの怪物が……


「ぶぐっほっぐっああああ!!!???」


 その力強いショルダーチャージで、ジオを森の木々をいくつも貫通するほど激しくふっとばした。


「り、リーダーッ!?」

「貴様もだゾウ」

「ッ!?」

象鼻鞭ぞうびべん!!」


 そして、突然の怪物の出現と、ジオが吹き飛ばされたことに一瞬気を取られたマシンに対して、その怪物は、その巨体に搭載された長く太い鼻を鞭のように繰り出して、マシンの胴体に強烈な一撃を叩きこんだ。


「ッッッッ!!!???」


 ジオとは反対の方向に、しかし同じようにいくつもの木々を突き破って森の奥へとふっとばされるマシン。

 

「あ……あっ……」


 それは、一瞬の出来事であった。

 一瞬で、ジオとマシンの二人を彼方へとふっとばした怪物。

 その巨大な存在にチューニは腰を抜かし、そしてその存在が何者なのかがようやく分かった。


「貴様も、ふきとぶゾウ!」

「ひいっ!?」


 殺される。チューニは全身を震わせてそう確信した。

 だが……


「ふんぬりゃあああああああああっ!!」

「ぬぬぬっ!?」


 チューニを吹き飛ばそうとした怪物の振り払おうとした腕を、割って入ったガイゼンが受け止めた。

 その瞬間、二人の衝突したパワーが大地に亀裂を走らせ、両者の足元を大きく円状に陥没させた。



「……なに? 小生の力を……正面から受け止めた?」


「ぬわは……はっ……骨の髄まで痺れたわい……本物じゃぁ!!」



 そして、ついに怪物同士が出会い……


「ガイゼーーーン!!!!」


 危機一髪だったチューニの泣き叫ぶ声が森に響いた。


というわけで、カイゾーの由来……デカいゾウ→カイゾーということでした。楽勝でしたね? まぁ、二足歩行の獣人ですので、実際の象よりは大きくないのかもしれませんが……。マシンの関連の機械系で「改造」と深読みされた方、申し訳ありませんでした。

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