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第四十九話 裏の真実

 煽情的な笑みを浮かべるコンの後に続いて風呂屋の中に入ったジオたちが案内されたのは、少し大きめの広間のような空間。

 特に椅子やテーブルがあるわけでもなく、壁に絵や壺などが置かれているだけの簡素な空間だった。


「これは、古代から伝わる『畳部屋』という文化でして、風呂上がりの宴会をご所望の方々に使って戴いたり、私たちがおもてなしさせて戴きます。その床に敷いてある『座布団』というものに直接座って頂くのがマナーです、こんこん♪」


 胡坐をかいて床に座るコン。マナーと言っておきながら、自分が一番品の無い格好をしており、大胆に動いたり足を動かしたりすると、擦れる紐がズレてチューニは気が気じゃなくなってしまう。

 とはいえ、ジオも少し気になりはしたものの、狼狽えるのも相手に弱みを見せるみたいで気が引けて、まったく気にしていない態度を前面に押し出して、言われるままにジオもコンの対面に座った。


「そうかい。まっ、オベンキョーになったよ」

「……畳か……良く再現されている……」

「ぬわははははは、おもてなしに興味が沸くのう」

「あわ、み、みえない、みえない、チラッと見えるものは何も見えない」


 ジオに続いてマシンもガイゼンもチューニも座る。

 マシンだけはやけに『畳』に興味津々のようで、触れて感触を確かめたりしている。


「ふふふ、坊や。チラッとじゃなくて、ジッと見てもいいのですよ? そちらのお爺さんのように」

「うむ。絶景じゃぞ」

「ふひいいいっ!? あ、あう、ひ、紐が……み、みえそ、ハミ出……う、うわあああん」


 ガイゼンはコンに対してジッと肌を嘗め回すように見ては、チューニは逆に目をぎゅっと閉じたまま顔を背けていた。


「ふふふ、それにしても面白い組み合わせですね。魔族に人間だなんて……」

「文句あんのか?」

「いいえ。あなたたちがプロフェッサーPの依頼を完遂してくださるのであれば、細かいことは問いません」


 そんなジオたちの反応にクスクスとコンは笑っていた。


「へェ、随分と心が広いじゃねぇか。それもプロフェッサーとやらの指導の賜物か?」

「もちろんです。プロフェッサーPは、私たちのボスでもあり、恩師でもあり、救世主であり、そして憧れでもあるのですから」

「……ほぉ」

「プロフェッサーPは、この街に住む……いえ、この国で働く全ての女たちの象徴です。私たちを救い、仕事を与え、住む場所を与え、そして平穏を与えてくれた御方です。ゴークドウファミリーとの友好もプロフェッサーPの功績です。それにより、女たちはより豊かになりました」


 そう言って、コンは落ち着いた口調でゆっくりと語り始めた。



「あなた方も、この街に最初にいらしたときは驚いたでしょうけど、去年まではもはや滅ぶしかないと思われるほど衰退した国だったんですよ? それが、この国にプロフェッサーPが現れて、僅かな期間で発達することが出来ました」


「自然と共存する国の割には、女を使って歓楽街にして外から金を呼び込むとか、随分と短絡的なことをしたもんだな。他国の介入を拒んで、戦争にも参加しなかったんだろ?」


「なんとでも仰ってください。それでも、やはりプロフェッサーPが居なければ私たちは自然と共に滅ぶしかなかったのですから」



 その言葉は、心の底からの尊敬に溢れていた。

 目を輝かせ、憧れも混じっていた。

 だが……


「だからこそ、プロフェッサーPの依頼は叶えたいのです。戦争で離ればなれになってしまった、想い人の男。どうか、プロフェッサーPに……たとえ、力ずくでも」


 依頼の話になった瞬間、コンの瞳が鋭くなり、僅かな殺気が部屋を一瞬駆け抜けた。

 その殺気に思わずチューニも背筋を伸ばし、驚いたように何度もまばたきする。

 すると、ジオは……


「お前もそれなりの手練れ……っていうか、この街の女たちは大半がそうだ。そんな手練れが何人居ても、その賞金首とかいう男一人をどうにかできないものなのか?」

「おや?」


 その一言に、コンは不敵にほほ笑んだ


「……気付いてらしたのですね……」

「けっ、俺らをなんだと思ってんだ。金で肥えてエロで目が曇った豚たちは騙せるかもしれねーけどな」

「ふふふ、なるほど。一応は合格ですね」

「あ?」

「それすらも見抜けないようでしたら……私たちより弱い人たちであれば……いくら若頭の紹介といえど、任務達成は不可能とお帰りいただくところでした」


 ジオたちをまるで試すように……いや、実際に試していたのだ。


「くははは、なんだ、そういうことか……生意気にも試していたと?」


 この場は、依頼を受ける冒険者たちを歓迎し、依頼内容を説明する場というだけではない。同時に面接をする場であることにジオは気づいた。


「えっ? リーダー? えっ? どういう……」

「そーいうことだ」

「チューニももう少し観察眼を養うことだ」

「ぬわははは、こればかりは場数を踏まんとな」


 そして、チューニだけは何も気づいていなかったのか、ジオの言葉に首を傾げているが、マシンとガイゼンは気付いていた。

 そして二人は更に……


「しかし、これで合格ということは……この者たちの『種族』については、聞くべきことではなかったのか?」

「ッ!?」

「ぬわはははは……なんじゃぁ、『化けてる』ことは、内緒か?」

「……なっ……」


 その言葉にコンの顔色が急に変わり、硬く冷たい目になった。


「えっ? ほ、ほんとうに? マシン? ガイゼン?」


 先ほどと同じで、チューニだけはまるで理解できずに何が何だか分からないと混乱し、すると手っ取り早く済ませようとガイゼンがチューニの襟首をつかんで、そのままコンに向かって放り投げた。


「ほりゃあ! チューニ種明かしじゃ!」

「ほぎゃあああ! お、おねえさんに、お、おっぱい!?」

「ッ!?」


 突然チューニを投げられて、それを咄嗟に腕で叩き落とすコン。

 背中を畳に打ち付けて、チューニが思わず苦悶の顔を浮かべるが、チューニに素手で触れたコンは突如煙に包まれて……


「なっ!? こ、これは……」

「えっ!? え、えええ!?」


 そして、煙が晴れた瞬間、チューニは驚愕した。


「なっあああ!? に、人間じゃ……な、ないっ!? でも、おっぱい本物!??」

「わ、私の変身がッ!!?? な、なんで……」


 コンの頭にフサフサの獣の耳。ふさふさの獣の尾が出現したのである。


「魔族の獣人種……狐人族か」

「……人と魔と獣が入り交じった種か……」

「ワシらを誤魔化せると思ったか? チューニに触れれば魔法は解ける。残念じゃったな」


 チューニも、そしてコンも互いに驚いて震えるも、ジオ、マシン、そしてガイゼンは全てを見抜いていた。


「い、……一体いつからお気づきに?」

「ああ? 最初からだよそんなもん」

「ッ!?」


 試す立場に居ながら、最初から全てを見透かされていたことに、コンは戦慄したように震えた。



「さっき、ザッと見渡した限り……この街に居た女たちは皆、何かしらの種族だった。全員、人間に魔法で化けてやがった」


「誘われていた男たちも皆、興奮気味ではあるが、目が正常でなかった。香水に交じって、幻覚作用のある媚薬でも使っていたのだろう」


「ワシの鼻はウヌらを人間ではないと嗅ぎ取るだけではない。何人か未通女も混じっておったのもワシは分かったぞ? ウヌら……娼婦のフリして、実は人間の無能な富裕層を化かして金を巻き上げる、詐欺集団とでも言うべきか?」



 三人の言葉にもはや完全に言葉を失ったチューニ。

 一方で、全てを見透かされていたことに驚いたコンは、口元を震わせるも、嬉しそうに笑った。

 

「素晴らしい……そこまで私たちを見抜いた冒険者は、あなたたちが初めてです、コンコンコン♪」


 そう言って、コンは胡坐から突如姿勢を変えて正座をし、そして背筋を伸ばしながらゆっくりと頭を下げて土下座した。


「お見事です。そう、私たちは……元々、この地上で生まれ、この地域に住み、そして人間たちに住処を追われた野良の獣人……そして、プロフェッサーPに拾われ、結集し、団結し……そして、私たちの世界を作りました」


 そう告げるコンの言葉から、ジオたちは何となくだが事情は察した。

 つまり……


「つまり、このハーメル王国は……実は元々地上の魔族で構成されていた国だと?」

「まぁ、そう思っていただければ嬉しいですね。たとえ私たちが何者であり、この地上世界が誰のものであり、魔界の魔王軍がどうであろうと、戦争の結果がなんであろうと、この地は私たちのものです」

「なるほどね。そりゃ、魔王軍と人類の戦争に参戦しねーわけか……他国と国家間では干渉せず、無能な人間の豚たちから金を巻き上げるか……」

「はい。そんなところです」


 ハーメル王国とは異形の血を引く獣人たちの国。

 状況にまるでついていけないチューニだけは目を丸くするも、ジオたちはどこか納得……


「ふーん……嘘だな」

「ッ!? ……えっ?」

「まだ、お前ら嘘を付いているな?」

「……な、なにを……」

「こんな不自然すぎる国が、これまでずっと存在してたなんてことがあるはずがねえ」

「ッ!!??」

「男を客以外に見なかったし……街中に子供も居ないみたいだし……女の獣人だけの国? そんなバカな」


 納得しなかった。ジオたちは、コンの言葉の裏、そしてこのハーメル王国自体にはまだ隠されたことがあることを見抜いていた。


「お前ら、ほんとは何者だ?」

「……ッ……」


 すると、明らかにコンは狼狽し、頬に汗をかいていた。

 それは、ジオの指摘が図星であることを表していた。

 だが……



「まっ、俺たちは国がどうとか、種族がどうとか、もはやそういうのを穿り出す気もねーし、そんな立場でもねえ。どうでもいいことだ。別に俺らは、何か間違ってることを正そうとする正義の集団でもねーしな」


「……えっ?」


「それに、仮に今この場で言葉だけ聞いてもその全てが本当か嘘かまでは分からねーし、仮にお前をブチのめして力ずくで吐かせるってのも……これだけセクシーな姿晒してくれてる女相手にやるのも気が引けるしな」



 そこで、ジオも張っていた気をほぐして力を抜いて笑った。

 何かの裏があるのは分かったが、そこに大した興味を持っていないことを告げた。



「……よいのですか?」


「ああ。とりあえず、俺が今の時点で一番気になってたのは、そんなお前らがややこしい依頼をしてまでどうにかしたいっていう賞金首の方だ。手練れの獣人たちが居ながら手に負えず、フィクサや冒険者に依頼してまでどうにかしようっていうのは……一体、どんな賞金首かってことだな」



 今は、国や種族のややこしい事情よりは、とりあえず当初の目的の賞金首退治と生け捕りの方。

 ややこしくとも、そっちの方がよっぽどシンプルで分かりやすいと、ジオはそちらに話を移し、待ってましたとばかりにガイゼンも嬉しそうに頷いた。


「で? そんなにツエーのか? その賞金首……お前らの大好きなプロフェッサーPとやらの恋人らしいが」


 そんなジオたちの態度に、コンもどこか戸惑った様子を見せるも、観念したのか溜息吐きながら……


「ふぅ…………恐ろしく強いです。ですが、私たちの特殊な事情ゆえ、本来は大国の軍事力を持って討伐するほどの相手でも、あまり世間に知られたくないため、秘密裏に決着をつけたく……」


 そう、ハッキリと頷いた。

 


「力ずくでも構わないです。……生け捕りにして欲しい賞金首は……『カイゾー』という名の男です」


「「「ッッッ!!!???」」」


「……?」



 そして、ようやく明かされた賞金首の名。

 コンの口から出た『カイゾー』という名前。

 ガイゼンだけは「?」を浮かべて首を傾げるが、ジオたち三人は目を大きく見開いていた。


「か、カイゾーって……あの……か、『怪獣武人カイゾー』……じゃねーよな……まさかな?」

「いえ、そのカイゾーで間違いないです」


 ジオが口元を引きつらせながらコンに確認し、それをコンは頷いた。


「マジか……」

「なんとも……」

「ほげえええええ、そ、それに関しては、ぼぼぼぼぼ、僕でも知ってる名前なんでっ!!??」


 次の瞬間、ジオは頭を抱え、マシンは真顔で難しい顔をし、そしてチューニは……


「なな、なんで?! なんで、冒険始まった直後で、ドラゴン出てきたり、勇者出てきたり、そしてそんな超大物が出て来るんで!?」


 畳の上にひっくり返って、チューニは泣き叫んだ。


「ほほう。チューニはともかく、リーダーとマシンのその反応……只者ではないようじゃな」

「ああ……すっげーな」

「自分も知っている。まさか、ここでその名を聞くとは思わなかった」


 三人のそのただならぬ様子に、ガイゼンも興味深そうに笑みを浮かべた。

 するとジオは憂鬱そうに自分の腹を抑えだした。


「正直、奴が賞金首になってるとは俺も知らなかった。俺のいない三年の間に何があったかは知らねーが……奴の強さだけは知っている」

「ほう」

「俺がまだ駆け出しの一歩兵だった頃、かつての戦争で手柄欲しさに奴に立ち向かって……一撃で内臓をぶっ壊されて一か月まともにメシを食えなかった……正直、生き延びれたのは奇跡だった」

「ほほう! ひよっこ時代とはいえ、リーダーがか!」


 それは、ジオにとっても苦い黒歴史であった。当時味わった苦渋や痛みを思い出したかのように苦虫を潰したような表情で語り始める。

 そして、ガイゼンはジオの言葉の中であることに引っかかった。


「ん? ……戦争じゃと? その賞金首は……元軍人か?」


 その問いに、ジオは苦笑しながら頷いた。


「そうだ。そして……魔族であり……魔王軍……そして……」

「魔王軍ッ!?」


 そして、ジオは語る。

 カイゾーという名前が何故それほどまでに驚くほど有名な名なのかを。



「カイゾーは……七天大魔将軍の一人だ」


「ッッ!!??」


 

 そして、その肩書を聞いた瞬間、ガイゼンが武者震いする武士のような表情で笑みを浮かべた。


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