第四十三話 どうでもいい
とりあえず、既にボロボロで目を背けたくなるような顔になってしまったオーライの身柄は捕らえ、身動き取れないように磔にさせられた。
メルフェンについては国家を混乱させた張本人として、念のため拘束だけはされているが、オーライほどではない。
オーライに関しては邪魔な鎧等は剥ぎ取られ、真っ裸にさせられ、その体には『自作自演のクソ勇者』、『スケベ勇者』、『ゲスエロチン○ス』、と体中に書かれていた。
「なんともま~……いっそのこと、ぶっ殺してやった方がマシだったかもしれねーな」
民たちは石を投げたり、勇者の体を踏みつけたり殴ったりなどの制裁はしなかった。
フェイリヤのパンツで微妙な空気になってしまい、とりあえずはということで、この場ではそういった恥辱を与える行為以上のことはしなかった。
とはいえ、それでも世界を救った勇者に対してはあまりにも屈辱的なことには変わりなかった。
「ううっ、ぐす、オジオさん……ワタクシ、ワタクシ……穢れてしまいましたわ」
「あ~、はいはい。つか、今更パンツ見られたぐらいで信念変えんなよな」
「ううううっ! オジオさんは、ワタクシがオジオさん以外の方に見られても平気だと言うんですの!?」
「はいはい。つか、その発言はサラリと微妙な感じだからやめとけ。色々と勘違いされるから」
下着は後ろからならマントで隠せるが、正面からは隠せない。しかし、こうしてジオに正面から抱きついて密着すれば誰にも見られない。それゆえ、フェイリヤは腕を緩めずに、泣きながらジオにしがみ付いていた。
「ひはははは、いや~、フェイリヤちゃんも普段は幸運なくせに不運だったね~」
と、そのとき、この状況に呆れた様子のフィクサが、そう言ってジオたちの前に現れた。
「ひっぐ、お、お兄様」
「まあまあ、泣くな妹よ。ジオくん以外にもパンツを見られたのなら、ジオ君にはもっとスゴイの見せればいいじゃん!」
「……ふぇ? た、たとえば?」
冗談交じりでフェイリヤに告げるフィクサ。
それが何なのか純粋にフェイリヤが尋ねると……
「上の下着とか~……おっぱいボロンとかさ~」
「ひえっ!?」
「つか、むしろパンツの下の……オマ―――」
次の瞬間、フィクサがすべてを言い終わる前にジオの拳骨がフィクサに振り下ろされた。
「脳天カチ割るぞこらっ!」
「ふごおおっ?! ちょ、なん、で、殴っちゃうの!?」
「つか、ただでさえ残念な頭の妹に何を耳打ちしてんだコラッ!」
「そんな~、ジオ君は我が妹の黄金痴態を見たくはないのかい!?」
ジオの拳骨を受けて蹲るフィクサ。フェイリヤは頭に湯気が上ってしまった。
「ひはははは、とはいえ、我が妹をこんなに辱めるんだから、さ~すがは、腐っても勇者だよね~」
「ど、どういうことですの? お兄様……」
「神に愛された天運の持ち主でもあるフェイリヤちゃん相手に、最後の力を振り絞ってラッキースケベを慣行するんだからね~」
「なななな、なにがらっきーすけべですの!? そ、そんなの、そんな運があってたまるものですか!」
「いやいや、そんなことないよ~、勇者にラッキースケベは必須スキル。それで女の子と仲良くなるという運命じゃん? ジオ君と先に出会ってなければ、フェイリヤちゃんは勇者に手篭めにされてたね」
「そ、そそ、そんなことあってたまるものですかー! ワタクシ、そんなもので手篭めにされるほど『安っぽいバカ女』ではありませんわ!」
腹を抱えて笑うフィクサの言葉に、フェイリヤが顔を真っ赤にしてムキになる。
「「「うぐっ…………」」」
その際、僅かにナジミたちの肩が揺れたような気がしたが、ジオは無視して代わりにフェイリヤを宥める。
「まっ、お嬢様の言うとおりかもしれねーな」
「オジオさん?」
「男が女とスケベな展開に持ち込むのにスキルや運に頼ってどうする? 男は自力で女とそういうシチュエーションに持ち込むからこそ、燃えるんだろうが」
ドヤ顔で語るジオの理論。だが、ジオ自身は自分で言いながら微妙な気分になっていた。
(……まぁ、俺の場合は…………強制的に逆に襲われた記憶しかねーが……)
そうやってソッポ向くジオではあったが、その言葉を受けてフェイリヤは……
「あわ……あわわわわ……あう……♡」
目が完全にハートマークになってしまったのだった。
それどころか、フェイリヤの人生で未だかつてないほど、心臓が高鳴っているのをフェイリヤ自身自覚していた。
「ひゃうっ!」
「ん?」
そのとき、フェイリヤは頭がパニックになり、とにかくよりジオを感じたいと思って更に力を込めてジオに抱きついて体を擦り付けた。
すると、フェイリヤは妙な感覚に襲われて、思わず声を漏らしてしまった。
(わ、ワタクシ、な、なにをやって……ででで、でも、お、オジオさんの顔をまともに見れな……ど、ドキドキが収まりませんわ!? しし、しかも、今、わ、ワタクシ、し、下着姿で……んっ……こんな恥ずかしい格好なのに……どうして? か、体が熱いですわ……お、オジオさんの太ももに擦り付けているワタクシの下着……どうして? お、お股が……い、いけないですわ……もっと……擦りたくなってしまいましたわ!?)
フェイリヤは自身が感じた妙な快感に襲われ、体中が熱く滾り、鏡を見なくても分かるほど真っ赤になっているであろう自分の顔をジオの胸板に埋めた。
(はうっ、お、オジオさんの匂いが……クンクンクンクン……な、なんて男らしい匂いですの! 嗚呼、これまで手にしたどの香水よりも素敵な香りですわ! こんなの嗅いだら、また……で、でも、これ以上、ワタクシが動いてしまうと、お、オジオさんに感づかれて……でも、でもぉぉぉぉぉ)
マントとジオの体に覆われて、他の者たちからは何をしているかは分からない……なんてことは決してなかった。
「お、おお、お、お嬢様……」
「ま、まさか……」
「お嬢様の体温が急激に上昇……」
「ぬわはははは、女の顔をしておるわい」
「えっ!? え、えええ!? あ、あのお嬢様何をしてるんで!?」
「ふむふむ、おお~、未だにキスで子供が出来ると思ってる我が妹が……ヨヨヨヨ。これは『ポルノヴィーチちゃん』に教えてあげないとじゃん」
ニコホ、ナデホ、マシン、ガイゼン、チューニ、そしてフィクサはフェイリヤが「なに」をしているのかは大体想像が付いていた。
それは当然、されているジオも同じ。
「お、おい、このお嬢様、まさか……」
「…………ん……くんかくんか……スリスリ……さすりさすり……あん……」
「お、俺はどうすれば……? お、おい、フィクサ!」
どうすればいい? そんな顔で助けを求めるジオに向かって、フィクサは親指を突き立ててニッと笑った。
「ジオ君、チューくらいしてやれい!」
「その親指へし折るぞこの野郎ッ!!」
誰もがフェイリヤが何をしているのかは分かりきっていたが、それでもフェイリヤの気持ちを察して、誰も何も言わずに気づいていないフリをしたのだった。
「ひはははは、まぁ、オんナニなった悦びを知った妹は祝福するとして……」
「おい、発音がワザとらしいぞ……」
「まあまあ、それより、問題はこっちでしょ?」
「なに?」
「やっぱ、勇者に対してショボイ制裁と思わない? フェイリヤちゃんのパンツは別にしても……」
と、そのとき、フィクサが笑いながらも、少しマジメなトーンでジオに尋ねた。
「まぁ、ジオ君はそれでいいのかもしれないけど……マシン君はどう思う?」
突如、邪悪な笑みを浮かべたフィクサがマシンに体を向けた。
「クソ勇者オーライは正真正銘の悪党じゃん? ズルくて、セコくて、ウソつきで、それでいて女好き。……ん? あれ? それって俺と同じ? ひははははははは! いや~、違うか。俺はどんなことでも、自分は悪いことしていると自分の悪意を自覚してやるけど、こいつは違う。自分がしていることを正当化してるわけでしょ? だからこそ、俺とは別の意味でもタチが悪い」
マシンは不愉快そうな顔でフィクサを睨みつけるが、フィクサは気にせず続ける。
「俺なら晒し者にして、もがき苦しませてズタズタにして生き地獄を合わせてから、一族郎党含めて全員皆殺し。そして、そんなバカな男に騙されて、今になって神妙な顔をして自分が騙されてたなんて被害者面しているクソ女どもも、壊れるまで犯しまくって後悔させるね。君は、そういうことしないのかい?」
「お前には関係のないことだ」
「んん~? それとも、やっぱりかつての仲間には情けを掛けたりしちゃうのかい? だってさ~、『もう興味がない』で済ませられるほど、君個人がされたことも、許されることじゃないんじゃない?」
フィクサは口調こそは軽いものの、それを聞いていたジオも少し気になったことをマシンに尋ねた。
本当にそれだけで済ませていいのかと。
「それにさー、勇者のしたことはなに? 自作自演で他国の生産にダメージを与えて自分たちの商品を売りつけて……百歩譲ってその罪は大魔王討伐で特赦にしたとしても……今回の罪はどうなっちゃう? 笑い話で済まないよ? ワイーロ王国の経済的なダメージは計り知れないんだからさ」
かつてのオーライの犯した罪。それは、大魔王を倒して世界の戦争を終わらせたという功績であれば、十分に帳消しになってもいいのかもしれない。
だが、今回のことは話が別だとフィクサは指摘する。
本当にこんなもので制裁を済ませていいのかと。
だが、マシンは真っすぐな目で……
「これから遊びに行くので、自分は余計な重荷を背負いたくはない。邪魔だからな」
「ッ!?」
「リーダーも、チューニも……過去と決別して身綺麗にしてこれから遊ぼうとしている。なら、自分もそうしたい。それが、チームの掲げるモットーというものなのだろう」
「……ほ~う」
「自分はもう、勇者の元パーティーではなく、ジオパーク冒険団なのだから……。だから、オーライの罪はしかるべき場で裁かれればいいのではないのだろうか?」
その理由をフィクサは納得いかないのか、微妙な顔をした。
だが、ジオには理解できてしまい、思わず笑ってしまった。
「そうだな。あいつに直接関わりのあったお前がそれでいいなら、俺も言うことはねーよ。ガイゼンも、チューニもどうだ?」
「ぬわははは。ワシももう、勇者には何の興味もないわい」
「僕はむしろ、勇者いい気味と思えればそれで良かったんで、難しいことは……」
今回のオーライの自作自演の行為で、ジオたちは手を煩わせはしたが、この国の住人ではないジオたちが失ったものは何もない。
である以上、過去の因縁があったマシンがこれ以上のことに関わる気が無いのなら、ジオたちも関わるつもりもなかった。
「ひはははははは、クールだねぇ。ますます君たちと仲良くなりたくなってきたじゃん」
これ以上は何を言っても仕方ないだろうと、フィクサはお手上げのポーズを見せた。
「まっ、いいさ。これから死に損ないの親父やら、今回の責任問題やらで、勇者にはすべてを明らかにするまでは生きててもらわんとだしね。さ~て……ハウレイムは今回の賠償金をいくらぐらい払ってくれるかな~? 俺は商談では断固として金をまけないからねぇ。搾り取るだけ搾り取るじゃん」
そう言って、フィクサももうオーライへの制裁云々については興味をなくしたのか、それ以上を言うことは無かった。
「おっと、そういえばそこのチョロいアバズレのクソ女共はどうしちゃおうかな~?」
思い出したかのように、辛辣な言葉を浴びせながらフィクサが向くのは、オーライの仲間であり、妻でもある、ナジミ、アネーラ、そしてシス。
オーライに欺かれていたとはいえ、誰よりもオーライの傍にいたはずの彼女たちが何も見抜けていなかった。
マシンの問題をマシン自身がもう掘り返さないとはいえ、それでもこれまでのオーライの所業を見抜けずにオーライを持ち上げるようにしていた彼女たちに何も責任がないとは当然言えない。
「勿論……責任は取るわ……オーライのしたことは全てハウレイム本国に伝え……私たち自身もオーライ同様に……」
幼い頃からずっと傍に居て、そして身も心も愛し合って誰よりも信頼した男の裏の顔を見せられたショックは未だに大きく、ナジミたちもまだ落ち着きを取り戻せていないが、それでも自分たちのしてしまったことの重大さは理解しており、まだ具体的に何をすればいいかは分からずとも、責任と断罪の覚悟はしていた。
「でも……その前に……御願い。許してもらえないのは分かってるけど……マシンに謝らせて……」
そんな状況の中、何をやればいいのかもまだ分からぬ状況でも、それでもナジミたちが真っ先にしなければならないと思っていたのは、それはかつての仲間であるマシンへの謝罪。
ナジミのその悲痛な願いと共に、アネーラとシスも再び涙を流した。
「うん……マシンくん……謝っても許されることじゃない。殺されたって文句が言えない……そこの彼の言うとおり、私たちは弟君の言葉だけを鵜呑みにして……あなたのことを何も……分かっていなかった」
「マシンさん……私たちは……ひっぐ……あなたに……とんでもないことを……謝らせてください……」
その涙と共に溢れる言葉は、懺悔は、心の底からの贖罪。
そんな彼女たちの姿は、ジオは数日前のティアナたちの姿と重なった。
そして、ジオは許せなかった。
なら、マシンは?
「特に必要としていない」
「「「ッ!!??」」」
謝罪そのものを必要としていない。
必要がないというのは、許す許さない以前に、関心がないのである。
すなわち、無関心。
もはや、マシンにとっては、オーライも女たちもどうでもいいことなのである。
「ひははははははは、いや~、ある意味で一番エグイね~、マシンくん。謝罪したがりの奴らからすれば、それが一番堪えるじゃん? いいねいいね~。女ってば都合が悪くなるとすぐ泣くから、そんなお涙頂戴で分かり合ってハッピーエンドなんてクソなことにならなくて、おにーさん嬉しいじゃん」
ナジミたちに冷たく壁を作って突き放し、謝罪すら許されない絶望にナジミたちが悲しむ中、フィクサの非情な笑いが響いた。
「というわけで、そこの中古女ちゃんたちも、勇者オーライの所業をハウレイムに伝える際には是非とも証言してもらうからねぇ? ちゃんと証言しないなら……俺の知り合いで一番のド変態顧客に裸で売り渡しちゃうよぉ?」
「っ、ひっぐ……わ、分かっているわよ……オーライの罪は……私たち皆の罪。ちゃんと……そこは事実を捻じ曲げないわ……」
「そうそう、それでいいの。あ~、良かった。勇者の女たちって色んな方面でプレミアが付きそうだけど、所詮は中古の人妻だから、それほど高い金額が付かない可能性もあったから、違う使い道があってよかったじゃん」
オーライの今後については、まずはハウレイムと話を着けてから。
マシンの拒絶に深いショックを受けているナジミたちからの言質もちゃんと取って、フィクサ自身がその交渉に出ようとしているようだ。
「よーし、それじゃあ皆の衆! とりあえず捕らえた勇者とバカ姫は牢にでも閉じ込めておきな! で、勇者は……そうだな、もうちょい恥辱を……そ・う・だ! アソコの毛でもツルツルに剃っちゃえ! ひははははははははは!」
完全に場を支配したフィクサが上機嫌に笑う。
オーライやメルフェンの肉体ではなく、心を傷つけることを愉快そうに実行しようとする。
この国の救援に来たハウレイムの兵たちは、その光景を止めることもできず、ただオーライを失望の眼差しで見ることしか出来なかった。
こうして、勇者オーライが終わり、世界に衝撃的な事実が間もなく駆け抜ける……誰もがそう思っていた。
「貴様らアアアアアアアア、何をしているでござるっっっ!!」
だが、事態はよりややこしくなる。
「ッ、こ、この声!?」
「えっ!? ちょっ、だ、誰ですの!? 人がせっかく良い気持ちになっているといいますのに!」
突如響いた謎の声。その声を聞いた瞬間、ジオの全身が震え上がった。
ついでに、ジオはフェイリヤの発言は無視した。
そして、振り返った瞬間、磔にしたオーライとメルフェンを運ぼうとしていた者たちが一斉に宙を舞った。
「この世界を、人類を、すべてを救ったオーライ殿に、貴様らは何をしているでござるっ!!!!」
その者は風のように颯爽と現れた。
薄い花びらの柄が施された羽織りを纏い、その手には『黒い木刀』。
長い黒髪を頭の後ろに一つでまとめ、可愛らしさと美しさが合わさったその顔には、左目を黒い眼帯で覆っていた。
「あいつ!?」
その、現れた女のことを、ジオはよく知っていた。
なぜここに居る? そう思って、ジオが思わず足を踏み出しそうになった瞬間、
「止まりなさい、ジオ」
「ッ!?」
頭上から聞こえた声に、ジオの全身は震え上がった。
「お、おい、なんだこのオネーちゃんは!」
「いや、それよりも……う、海を! い、いつの間に……」
「な、なんで、ふ、船が!?」
そして、同時に民たちからも声が上がる。
「ひははははは、おやおやおや。これは予想外じゃん」
フィクサですら予想外だと笑っている。
海を見ろ。そう響いた声につられて皆が海を見ると、巨大な戦艦が一隻、崩壊した港へと接近していた。
その船に掲げられたのは、ジオもよく知る国の旗。
そして頭上には……
「お、おいおい、なんか、グリフォンまで!?」
「ペガサスまで居るぞ!?」
頭上には自分たちが気づかぬうちに、船から放たれたのか、飛行可能な騎獣に跨った武装した兵たちが空を埋め尽くしていた。
「「「「に……ニアロード帝国の兵だッ!!??」」」」
そう、空を埋め尽くし、海の向こうから現れた者たちは、ジオの故郷でもある帝国の兵たち。
その誰もが、無残に磔にされているオーライの姿を見て、怒りに満ちた表情をしている。
「……オジオさん……こ、これは?」
「……ああ……メンドクセーな……」
何が起こっているのか分からずに戸惑うフェイリヤに構わず、ジオは深い溜息を吐いた。
「……ジオ……」
また、ジオを呼ぶ声が聞こえた。その声を心底うっとおしいと感じながらも、ジオは仕方なく見上げる。
するとそこには、一匹の輝く竜に跨る女が居た。
「ななな、ど、ドラゴンですわ!?」
「ほほう、……地上世界の上位種……銀竜じゃな……手なずけるとは大したもんじゃ」
「……あれは」
「ひいいい、一難去ってまた一難なんで!? 一体、なんなの!?」
「マスター、お下がりください。私が守ります」
「ひはははは、こりゃまた大物が来たね~」
誰もが自分たちの頭上に出現して影を落す銀色に輝く竜に驚いた。
だが、ジオだけは違う。
ジオは、その竜の背に乗っている、一人の女にしか目が行かなかった。
「……ジオ」
「うるせーよ。気安く人の名前を呼んでんじゃねーよ」
寂しそうにその女から漏れた名に、ジオは不快な表情を浮かべて睨みつける。
それは、これまでフェイリヤも見たことが無かった、ジオの怒りに満ちた顔。
その表情に、現れた女はたじろぎそうになるも、すぐに気を持ち直してジオを真っ直ぐ見つめる。
「おい、とりあえずお嬢様、離れてろ……」
「オジオさん……って、ダメですわ!」
「うごっ!?」
と、とりあえずいつまでも離れないフェイリヤをジオが自分から離そうとした瞬間、フェイリヤは慌ててジオにしがみ付いた。
それは……
「おい……離れろよ」
「離れろではありませんわ! ワタクシ、い、今、どういう格好かお忘れですの!?」
「……あっ……」
そう、今、フェイリヤはスカートを脱がされてパンツ丸出し状態なのである。
こうしてマントで後ろを隠して正面はジオにしがみ付いていることで隠しているが、今、ジオから離れたら、さっきより『大変なことになってる』パンツを今度は帝国兵に見られてしまうのである。
そんな恥は晒せないと、とにかくフェイリヤは必死でジオに抱きついて離れない。
「ッ、な、ちょ……っ……ジオ……だ、だれ……よ、そのおんな……」
そんなジオの傍にいるフェイリヤに、女は目を大きく見開いて唇を強く噛み締めた。




