第四十一話 言い逃れ
これは罠だと必死に叫ぶ勇者の表情は、既に颯爽と登場した時の勇者の物ではなく、完全に崩壊していた。
「ねえ……どうしてよぉ……なんで? オーライ……」
「っ、お、とうとくん……」
「にいさん……どう、して……」
変わったのは勇者だけではない。勇ましくその力を振るっていたナジミ、アネーラ、シスの三人の女たちも、変わり果てたオーライに対して絶望に染まった表情を浮かべていた。
「違う……罠だ……あんな……あいつの能力の一つなんだ! だから……あいつの策略に嵌められてはダメだ!」
それでも違うと言い続けるオーライ。周りから向けられる負の感情の視線を一心に浴びながら、何度も認めなかった。
だが……
「ざけんな、ボケがァ!」
「テメエがやったヌカしとんじゃねええかあ!」
「何が勇者だ、オイラの船返せこらあああ!」
「私たちの家を返して!」
「ファーザーに何があったんじゃいゴラァ!」
「我慢できねえ、ぶっ殺したらァ!」
潔く認めないオーライに、ついに怒りが爆発したワイーロ王国の民たちが一斉に怒号を上げる。
国を破壊され、街を破壊され、港を破壊され、家を破壊され、店を破壊され、船を破壊され……
「全部あなたが……オーライさん……それに……パパが……瀕死とはどういうことですの!?」
そして、自身の父の状況を知ってしまったフェイリヤは、これまでジオたちにも見せたことのない形相でオーライを睨んでいた。
「ッ、フェイリヤ! 違うんだ! 僕は何もしていない! そ、それに僕が天候をとか、そんなのマシンの罠だよ。天変地異を自在に起こすとか、そんなことできるはずがないだろう!」
「この期に及んで何をあなたは……」
「とにかく落ち着いてくれ。君のような美しい女性が、そんな眉間に皺を寄せるなんて……」
「ワタクシに触れることは二度と許しませんわ、こんのドサンピン!」
「ッ!?」
フェイリヤをどうにか言い包めようと、お得意のハグをしようとするオーライだったが、もはやフェイリヤは自分に触れることも許さない。
「つっ~……何故こんな……し、信じてくれ……ナジミ、アネーラ姉さん、それにシス。僕たちがこれまでどれだけ共に戦ってきたと思っているんだい? どれだけ身も心も通じ合ってきたと思っているんだい? こんな小さなアイテムから僕を偽った声が聞こえてきたというだけで、これまでの全てを否定するのかい? 何故、信じてくれないんだい? 僕たちは何度も愛し合ってきたじゃないか!」
これまで、勇者として称えられてから、天上の存在のように扱われ、崇められ、慕われていた。
それが、まさか人生でこれほどの罵倒を受けることになるとは思わなかったのか、オーライは唐突に追い詰められてしまったこの状況に震えてしまった。
「そ、そうよ、そうだよね? あのオーライが……」
「……うん……わ、罠だよね? し、信じていいんだよね? 弟君……」
「兄さんは、世界を救った英雄なんですから……ま、マシンの復讐……話の筋は通りますよね?」
すると、曲がりなりにも勇者と絆を深めた女たちは一縷の望みに託し、何とか勇者の言葉で自分を納得させようと必死な表情を浮かべる。
「そうだよ。オーライくんは、私たちを救ってくれた、世界を救った救世主! そのオーライくんを陥れようとし、私たちの目指す夢を邪魔しようとした人たちこそが世界の敵! そうなんだから!」
それは、この国の姫でもあるメルフェンも同じであった。
オーライこそが正しい。全てデタラメである。そうであってくれと願うかのように。
「そ、そうさ……メルフェン、これは全てがマシンの罠だ。マシンはこうやって僕たちを嵌めて復讐しようとしているんだ。皆さんも騙されないでください! 僕は皆さんの味方です!」
仲間たちが再び自分に偏ってくれそうな雰囲気にオーライが少しホッとしたような表情を浮かべて、もう一度民に呼び掛ける。
自分を信じてくれと。
その言葉に、先ほどまで怒号を上げていた民たちも言葉に詰まりだし、疑心暗鬼が生じ始める。
一体、何が真実なのかと。
すると……
「羨ましい限りじゃねーの」
「ッ!?」
「こんなになっても、それでも信じてもらえる奴らが居るとはな。まァ、ただのバカ女ってだけかもしれねーがな」
ジオのその一言が響き、ジオが勇者を哀れむように近づくと、不意に民たちも口を閉ざして黙ってジオの様子を見ていた。
ジオは勇者の眼前まで歩み寄り、改めて……
「俺も信じてもらいたいもんだった」
「……えっ?」
「違うんだ……信じてくれ……そう言って、信頼した仲間、敬愛した主に訴えたが……誰一人として俺のことを信じなかった……罵倒し、石を投げ、この身体をズタズタにした……」
ジオの言葉、それはかつての自分自身の想い。
かつて、帝国で大魔王の計略によって全てを失った時、今のオーライのようにジオも「信じてくれ」と訴えたが、オーライと違って誰も自分を信じてくれなかった。
「仲間に裏切られ、信じてもらえない辛さってのは……俺は誰よりも分かっている」
「……オジオ……」
切ない笑みを浮かべながらオーライに語りかけるジオの言葉に、民たちは言葉を失っていた。
この場に居る者たちのほとんどが、ジオが何者で、どんな人生を過ごしてきたのかは分からない。
だが、その言葉の端々から滲み出る悲しみは、とても重く深いものを誰もが自然と感じ取ってしまった。
「オジオさん……」
ジオの見せるその切ない感情に、思わずフェイリヤも胸が締め付けられそうになった。
だが……
「勇者の女たち」
「「「……?」」」
「マシンも同じだったんじゃねーのか?」
「「「ッッ!!??」」」
「お前ら、マシンのことは僅かも信じなかったのか? こうしてここに居るのに、マシンのことは何一つ信じねーのか?」
切ない表情を浮かべていたジオだったが、その表情は一変。
「マシンが正しかったかもしれないと……欠片も思わなかったのか?」
マシンとて、かつては仲間だったはずである。そのマシンのことは何も信じないのか?
「ふっ、まあ、手籠めにされて、結婚までして、そんな相手が実はただの自演のクソヤローだったと認めたくねえ気持ちは分からんでもねーし……今この状況で、このアイテムから聞こえてきた声だけで全部信じられるかと言われたら、それまでだがな……」
「ちょっ、あんた! な、な、なにを、言って……オーライはそんな奴じゃ……そんな……やつ……じゃ……」
そうジオに問われて、ナジミたちはハッとした表情を見せて狼狽え始める。
完全に自信を持って否定できない気持ちもあるというのは事実だからだ。
すると……
「もういい、……リーダー」
「マシン?」
「勘違いしないでもらいたい。自分は言い訳や弁明をするつもりでも、オーライを嵌めるためでも、ましてや今さらナジミたちに自分を信じて欲しいと思ってこんなことをしたわけではない」
マシンが戸惑うナジミたちに向けてそう言った。
マシンが今回のオーライとの会話を筒抜けにさせた理由。
「リーダーたちに知ってもらいたかっただけだ。それを信じる信じないは、リーダーたち次第だがな」
「ふっ……そーかい……」
マシンは、今さらナジミたちにどう思われようとどうでもいい。ジオたちにだけは知っていてもらいたい。そういう想いからであった。
「お、愚かな! オジオだったね? 君はその男に騙されているんだ! そいつは、ナグダの亡霊! 地上も魔界も征服しようとした者たちの末裔! そんな男の言葉を信じるなんて、どうかしているぞ!」
「うるせーよ、カス」
「ッ!? か、ぼ、僕が……カス……だと?」
マシンに騙されるなと、ジオに向かって怒鳴るオーライだったが、その叫びをジオは一蹴した。
「別にマシンを信じたから、俺はこいつに付いてるんじゃねえ。そもそも、俺らもつい最近に出会ったばかりの薄っぺらい間柄……こいつを信じてるとか……勇者がどうとか、そんな判断できねーし、重要なのはそこじゃねぇ」
「な、なに……?」
「重要なのは、どっちを信じるかじゃなくて、どっちの味方になるかだ」
そう、何が真実なのかが重要なのではなく、ジオが導き出したのはもっともシンプルなこと。
「俺はマシンに付く。なんか、テメエは最初からイラッとしてたんだよ」
「ば、ばかな……なんだ、その自分勝手なフザケタ考えは……」
「自分勝手? 大いに結構じゃねえか。自分勝手は要するに、誰かに諭されてるわけじゃなく、自分の意思で自分で選んで自分で考えたって証拠だろ?」
「なんだと? 屁理屈を……」
真実がどうであれ、単純に勇者が気に喰わない。それだけで、ジオはもうよかったのだ。
その、ジオの考えと言葉に、オーライは唇を噛みしめて鋭く睨みつける。
すると……
「ひははははは、も~りあがっているね~♪」
「「「「ッ!!??」」」」
「しっかしま~、勇者が思いのほかクズでウケるけど、あまりにも小物過ぎて逆にガッカリ? これじゃあ、遊ばせる気も失せてくるじゃん?」
そこには、嵐で全身をずぶ濡れにしながらも、邪悪に機嫌よく笑うフィクサが居た。
「お兄様!?」
「若ァ!?」
姿を見せていなかったフィクサがこの混乱した状況下に再び現れたことに、フェイリヤや民たちの間に一瞬不安が過る。
「だ、誰よ?」
「彼は?」
一方で、フィクサのことは知らないのか、オーライたちも突然現れたフィクサに眉を顰めると、フィクサは続ける。
「しかも、見苦しい。まさか、この期に及んでマシンくんの罠とか言って言い逃れしようとはねえ」
「あなたは……?」
「大体、これまで一体どれだけ、ハウレイムに……いや、もっと言えば、勇者オーライ……君にとって都合のいい天変地異が世界各国にあったんだい?」
「ッ!?」
「どれだけ君やハウレイムの懐が温まった?」
「だ、だから、全てデタラメだ! このアイテムから聞こえてきた音声は、す、全てが偽りだ! 僕は、勇者だぞ!?」
フィクサがオーライの神経を逆なでするように告げる。
だが、オーライは全てデタラメだと言ってムキになって反論する。
すると、フィクサは……
「ふ~ん。じゃあ、さっきまでのそのアイテムから聞こえてきた二人の会話は全部デタラメだと? 天候を自在に操ることも?」
「そ、そうだ、デタラメだ……少なくとも、僕は自作自演な行為はしてないし、女性に対して失礼なことは……魔法だって、雷や風の魔法は使えるけど、あんなさっきみたいな大嵐なんて論外だ!」
「じゃあ……親父が……『ジンギ・ゴークドウ』が瀕死だって話もデタラメなら、無事な姿を見せてくれよ」
「ッ!? あ………そ、それは……」
二人の会話の全てがデタラメならば、ゴークドウ・ファミリーのボスである、フェイリヤとフィクサの父は瀕死ではないということになる。
ならば、その無事な姿を出せと、フィクサは告げた。
「そ、それは……い、今、ファミリーのボスは……は、ハウレイムで、と、取り調べを……」
「じゃあ、取り調べでも何でもしててもいいし、釈放しろとも言わねーから、無事な姿だけ見せてくれよ。すぐに連れて来・な・さ・い」
「……ッ……」
その言葉に、オーライは言葉に詰まって顔を青ざめさせ、ナジミたちもハッとした表情を見せる。
「そ、そうよ……そうじゃない……ジンギ・ゴークドウは……」
「ナジミッ!?」
「でも、オーライ! 本当じゃない! ワイーロが混乱するかもしれないから、まだその情報は私たちだけの秘密って……」
「ぐっ……」
「ジンギ・ゴークドウは……確かに何者かに……」
そう、全てをデタラメだと言えない事実がそこにあった。
アイテムから聞こえてきたオーライの声からは、確かに「ファミリーのボスは何者かに襲われて瀕死」と告げていた。
それは、まぎれもなく真実であった。
ならば、当然他の情報も……
「ち、ちが、そ、そうか! マシン、君はなんて巧妙なんだ! 君が皆に流した音声には、一部実際の情報も交えることによって、真実味を増させようという巧妙な手口で僕を嵌めようとしていたんだな!」
「オーライ……お前はいい加減に……」
「黙れ、マシン! こうまで……こうまで汚い手を使ってでも僕を陥れたいのか!?」
オーライが再び湧きあがった周りからの疑念を必死に取り払うかのようにマシンに罪を擦り付けようとする。
だが、そのとき、フィクサは邪悪な笑みを浮かべて……
「おや~? おやおやおや~? なんで君たちしか知らない情報を、マシンくんが工作して流せるんだい?」
「……えっ?」
「マシンくんは昨日の昼からこの国に入って、宴会でず~っと俺たちと一緒に居たんだよ? しかも、その前は俺の妹のお守り。とても、そんな情報を入手する隙なんてなかったよ?」
「……そ、それは……」
「そう、その情報を知っているのは、勇者たち、そして『犯人』ぐらいだけど……」
「っ、そ、そういうことか! マシン、き、君が犯人か!? 君が昨晩、ジンギ・ゴークドウを暗殺しようとしたんだろう!? そ、そう、動機は僕たちを困らせるため! 許せない! ぼ、僕が今すぐに君を……」
「昨晩? ひははははは、だからマシンくんはずっとこの国に居たんだよ? どーやって?」
「……だ、だから、そ、それは……」
言い逃れしようとするオーライの言葉を、決して逃さずに更に追い詰めていくフィクサ。
しかし、オーライは怯えて後ずさりしながら、それでもまだ何とか逃れようと抵抗する。
だが、その様子だけで、もはや全てを語っているようにしか周りの者たちには見えなかった。
「ん~、でもデタラメってことは~、ひょっとして大魔王を君が倒したってのもデタラメ?」
「ッ、どうしてそうなるんだ! それに関しては、ウソなはずがないじゃないか!」
「でもさ~、じゃあ、どうやって倒したの?」
「どうやってって、そんなの皆で力を合わせて……」
「それで? トドメは? 誰? 君?」
「僕だ! それも嘘じゃない! 僕が、大魔王の座標に向けて、天から…………天から………」
追及をやめないフィクサに、完全に取り乱すオーライは必死になるも、そこで言葉に詰まった。
「天から、なに~? 衛星の力で? 倒したの~?」
「……あっ、い、いや……そ、ちが……」
そして、そこでフィクサは邪悪な笑みを更に鋭く口角を釣り上げる。
「あれれ~、おかしーぞー? 衛星って天候を自在に操る物なんだよね? でも、勇者のおにーさんは天候は操れないんだよね?」
「ぐっ……そ、それは……だ、だから……み、皆で力を合わせて、みんなのパワーをもらった、ぼ、僕が、巨大な光の剣で……」
まるで子供のように甘え媚びた声でワザと気持ち悪く尋ねるフィクサ。
そして、もう人々の疑念はそこで確信に変わった。
もう、間違いないのだと。
そして、そこまで来て、フィクサは両手を広げてオーバーリアクションを見せる。
「な~んてね、もうそんなの確かめようがないんだけどね。もう、どうでもいいことさ」
「……えっ?」
と、そこまで追求して起きながら、なんとフィクサは追及をやめると取れるような発言をした。
突然の言葉に思わず周りからも戸惑いの声が漏れる。
すると、フィクサは……
「どっちにしろもうオーライ君は二度と天候を操れないんだし」
「……なっ……に?」
「だって、あの衛星。もう君が二度とコントロールできないようにロックされているんだから」
「な、ば、ばかなッ!!??」
衝撃的な発言をするフィクサ。勇者が二度と衛星の力を使えないというその発言は、マシンですら思わず目を見開いた。
「そ、んな、ばかな! そんなの、いつの間に……」
思わず、オーライもマントの内から何かを取り出す。
それは、小型の端末。それをオーライは天に向かって掲げる。
すると……
「あ、お、おい、空が急に曇って……」
「バカな! 嵐が去ってあんなに晴れてたのにいきなり雨が……」
「あれ? でも……」
突然、快晴から一変して自分たちの真上に雲が密集して太陽を隠し、雨をパラパラと降らせた。
これが、天候を操るということたなのかと、その事実を目の当たりにした者たちは驚き、そして……
「なんだ、デタラメを! ちゃんと衛星は…………あっ…………」
「「「「「あっ…………」」」」」
その瞬間、オーライも民たちも気づく。
オーライが今まさに、天候を自在に操った瞬間を。
それを気付いた瞬間、オーライはフィクサにブラフで嵌められていたことにようやく気付いた。
「し、しまっ……」
「ひはーーーっはっはっはっはっはっは! ヴァーーーーッカじゃねーのぉぉお? ひははははは、サ~言い逃れしてくださいよ~、勇者さま~」
悪魔の盛大な笑いが街中に響き渡る中、最後の最後まで勇者を何とか信じようとした者たちの心もようやく折れる。
「ばか……オーライ……あんたってやつは……あんたってやつは……」
「おとーとくん…………ぜんぶ……ぜんぶ……うそ……だったの?」
「……にーさんが……あっ、う、う……うわあああああああああああああああああああああああっ!!」
「おーらいくんが……わたしたちは……ずっと……」
ナジミが涙と共に殺意の篭った表情を浮かべ、アネーラが絶望に染まって膝から崩れ落ち、シスは頭を抱えて蹲って発狂し、そしてメルフェンが呆然とした。
もはや何もかもが勇者の策略だった。
その事実が明らかになり、人々が一度静まった憎しみが心の中で再燃し始める。
そんな状況の中、フィクサはニタニタと笑いながら、オーライを信じた四人の女たちまで歩み寄り……
「ひはーーーっはっはっは! と、いうわけで~、君たちの愛した勇者はクズでしたー! ねえ、今、どんな気持ちい? ひははははは、ずーっと信じて愛して結ばれて~、処女まで捧げて~、ヤリまくってた男は実は自分たちを騙しまくってたクズ野郎だって分かって、ねえ、どんな気持ちい?」
「「「「ッッ!!??」」」」
「仲間だったマシンくんに悪評を押し付けて、本当の悪党とベタベタしてた色ボケ穴あき中古女さんたち~、残念無念~、ひーはっはっはっはっは! お姫様も~、こんなクズに言い包められてクーデターまで起こして国民の怒りまで買っちゃって、バッカじゃねーの?」
「や、めて……よ、う、あ、やめ……て……」
これでもかと己を解放して女たちに罵詈雑言を浴びせるフィクサ。
本来裁かれるべき悪党のオーライと、それを信じた四人の女たちなのだが、フィクサの笑いはまるでどっちが悪なのかを分からなくするほどの悪意を秘めていた。
「っ、そおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」
そして、ついにオーライが頭を抱えて発狂。
その勇者の叫びに誰もが視線を向け、そしてオーライは顔を上げて……
「そうだ、全て僕が仕組んだ……」
オーライ自身も開き直って、ついに自供したのだった。
「そう、全ては僕がやった。だが、それでどうしようっていうのかな? 僕は勇者であり……いずれは……そう、世界の神に―――」
「もう黙れ」
「おごっほっ!?」
だが、そこから先の言葉を続ける前に、オーライの腹部にマシンの鋼の拳が突き刺さっていた。
悶絶したように苦悶の表情を浮かべ、胃液を激しく吐き出すオーライ。
マシンの動きにまるで反応することが出来なかった。
「ば、かな……すー、スーツの上から……こ、これは……」
「確かに、特別兵士強化スーツの耐久力は強固。だが、弱点もあるということだ。知り尽くしている自分のような存在からすればな」
「……お、ぼげ、おろろ、げえ……」
「そして、終わりだ。宣言通り全てを回収する。神になりたければ、道具に頼らず身一つで成るがいい。そして二度と、ナグダの遺産と関わるな」
それは、勇者と完全に決別することを示す、マシンの宣言であった。
「それにしても……お前がここまでバカだとは思わなかった。残念だ」
そして、憐れむように見下した。
そんなマシンとオーライの姿を眺めながら、ジオもどこかガックリと項垂れる。
「……なァ、ガイゼン……」
「ん?」
少し落ち込んだ様子でジオは、これまでのことをずっと黙って静観していたガイゼンに尋ねる。
「いくらとんでもねー武器を持ってたからって……あんな奴に大魔王は敗れたって……なんか、スゲーがっかりだぜ」
かつて、自分が参戦できなかった戦争における最後の標的であった大魔王。
ジオ自身はその存在の前に立つことも出来なかったが、それでもその存在はあらゆる面で超越した存在だと思っていた。
しかし、現実では今、目の前で悶絶しているオーライに殺されたということになっている。
そのことを知り、色々とバカらしくなったと、ジオはガッカリした。
すると、ガイゼンは難しい顔をして……
「ワシはガッカリというよりは…………疑問じゃな」
「はっ?」
ガイゼンはそう、思わせぶりなことを呟いた。
しかし、そんなガイゼンの呟きをかき消すかのように、気付けば民たちからオーライを責め立てる怒りの声が再び響き渡った。




