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第三十六話 天変地異

 魂を燃やし尽くすほどの男たちの祭りも終わり、疲れきった男たちが家にも帰れずに広場の周りで転がって寝ていた。

 男たちの家族や女たちはそんな男たちにそれぞれシーツをかけて、呆れたように苦笑しながら男たちをそのままにして帰路へと着く。

 この国のクーデターやら、メルフェン、そして捕らえられている国王や大臣、併合問題やファミリーに関することもとりあえず明日にでもと、今はとにかく男たちは体を休めていた。


「この程度の運動で寝ちまうなんて、まだまだだな、この国のヤロー共は」

「ぬわははははは、まぁ、楽しそうじゃッたな」

「リーダーのことをそれなりに知ることができたイベントだった」

「~~zzz……くか~……すぴー」


 気づけば、起きているのはジオ、ガイゼン、マシンの三人だけ。

 チューニは昼間の海底探索での疲れもあり、既に眠っていた。


「マスタ~……く~……」


 チューニにしっかりと抱きつくようにセクも添い寝して心地良さそうであった。

 しかし、まだまだ疲れも飲みもそれほどではないジオとガイゼンの晩酌は続き、マシンも寝ずに付き合っていた。


「で、リーダーよ。色々と唆していたが……どうするのじゃ?」

「どうもこうもねーよ。俺は、ただ暴れたかっただけだ。相手が弱過ぎて不完全燃焼だが、それなりに満足したから、もうどうでもいい」

「ふん。素直ではないの~。まっ、好きにすればよいがの」

 

 結局、ワイーロ王国の今後についてジオはどう関わるのか? ガイゼンの問いに対して、ジオは「どうでもいい」と回答した。

 男たちを色々と唆して、本音を引き出させたりと妙なお節介をしたものの、国の行く末をどのような方向に持っていくかまで関わる気はなかった。


「まっ、あのまま、なあなあになってお嬢の家が危なくなるのだけは避けられたしの」

「別に……あのお嬢様のためにやったわけじゃ……ねーよ」

「ぬわはははは、まっ、そういうことにしておくかの」


 ジオの態度に対して、全てを見透かしているかのように笑うガイゼンに、ジオも舌打ちをする。だが、ガイゼンもジオに対してそれ以上追求することはせず、ジオがこれ以上は関わる気がないと言うのであれば、それでも別に構わないと、特に否定はしなかった。

 ただ、問題なのは……


「で、マシンはどうするんだ?」

「む?」

「テメエの因縁の相手も今回の騒動に関わってんだろ?」

「……」


 そう、勇者が関わりのある今回の騒動。その勇者はマシンにとっては因縁の相手。

 ジオ自身はこれ以上関わる気はないと言っても、マシンはどうなのか?


「オーライの示す道が、この世界にとって良い事か悪い事なのかは判断できない。オーライが……それを……女を使ったり、政略によって成そうとしているのであっても、別に構わない。しかし、それを武力によって強引に成そうというのであれば……看過はできない」


 冷静沈着なマシンが、少しだけ語尾を強めに告げた。


「オーライは本来、心の優しい男だ。だが、奴はある罪に苦しみ続けていた」

「勇者の罪……だと?」

「そうだ。奴にとっては苦しまずにはいられぬほどのこと……奴はその罪を少しでも償うために、大魔王討伐を決意したのだ」


 勇者の罪。その言葉を聞いて、ジオもガイゼンも思い出した。フィクサがマシンに「勇者の弱味でも知ったか?」と尋ねていた。

 つまり、マシンはその勇者の罪が何なのかを分かっているということであり、それがまた勇者の弱味でもある。


「自分も大魔王討伐に異論はなかったので同行した。だが、その途中で自分は奴と対立してしまった」

「どうしてだ? それは……フィクサって奴が言ってたように、お前が勇者の弱味を知っていたから……?」

「違う。オーライはどうしても償いのため、世界を平和にするために大魔王と魔王軍を倒したかった。そのために、『ある力』を使用した。それは、かつて、オーライが罪を犯したときに使った、禁忌の力だ。自分は、それの使用に反対した」


 禁忌の力。そう言われてもジオたちはあまりピンと来なかった。せいぜい、危険な魔法とかそういった類のものしか想像できなかった。

 マシンも、その詳細が何かまでは教えようとはしないが、ただ……


「オーライは自分を封印する際に、泣きながら告げた。『せめて、大魔王を倒すまでは』……と」


 大魔王を倒すまではその禁忌の力を使う。そう告げた勇者はその後どうなったのか?

 この今の世界が証明しているように、勇者は大魔王を見事に倒したのだ。


「大魔王を倒し、平和の世になった今、そこから世界をどうしていくのかはオーライやこの世界の人間たち次第だ。自分が口を出すものではない。だが……もし、オーライが……まだその力を所持していたら……」


 もし、勇者が「大魔王を倒すまで」と約束していた禁断の力を未だに使っていたら? そうしたら、勇者と再び対立するのか? 

 だが、マシンはそれ以上はまだ言わず、ただ……


「だから、様子を見たい。まだ、もう少し……」

「そうか。まっ、好きにすりゃいいさ」


 まだ、しばらく様子を見たいと、切ない表情を浮かべていた。

 

「しかし、禁忌であろうと、身につけたなら自分の力だろ? しかもそれで大魔王まで倒せるんだ。俺にとってはクソつまんねー話ではあるが、それはお前がそうまでして止めたい力だったのか?」


 マシンの要望はジオも理解した。だが興味を持ったのは、その勇者オーライが使った禁忌の力というものだ。

 禁忌と呼ぶからには、何かしらのリスクがあるのだろう。しかし、それらのリスクを自分が背負うのであれば、問題ないのではないかとジオは感じていたのだ。

 だが、マシンは首を振りながら、星空を見上げた。


「あれは……身につけてしまった力などではない。見つけてしまった力……」

「あん?」

「いつか舞い戻る『ナグダ』の者たちが、いつ戻ってもいいように残しておいた遺産。この世界の生命では決してたどり着けなかったはずの場所にあったものを……オーライは見つけてしまった」

「ナグダ……だと?」


 意外な名称が出てきた。なぜなら、その名は既に滅んだ国の名前だからだ。

 そして、今、マシンは言った。

 ナグダの者たちが、『戻ってくる』と。


「おい、急に変な話になったぞ? ナグダが一体――――」


 出てきた疑問について、ジオが尋ねた、正にその時だった。


「むむっ!?」


 突如、ほろ酔い気分だったガイゼンが真剣な顔で立ち上がった。


「うおっ!? ビックリした~……急にどーしたんだよ?」

「………」

「ガイゼン?」


 立ち上がったガイゼンは目を大きく見開き、辺りをキョロキョロ見渡す。

 指を舌で嘗めて風に当てたり、鼻で何かを嗅ぎ取っているかのように息を大きく吸い込んだりする。

 その突然のガイゼンの行動の意味が分からず、ジオとマシンが首を傾げると……


「突然……どういうわけか……空や……空気が……不自然に変わったぞい」

「はっ?」

「空の様子。雲の動き。気温。風の様子。それらが全て天候の様子を教えてくれる。ワシなんてそれで一週間後の天気だって当てられる」


 ジオには理解できない予言のようなことを当たり前の言うガイゼン。ただ、ガイゼンならば何でもありなのだろうと、ジオもそこには特に触れない。

 問題なのは、ガイゼンが顔色を変えて立ち上がり「不自然に変わった」と発言したこと。


「しかし、今、その本来の流れが急激に変わった。天は自然の流れ。その自然を捻じ曲げるかのような……腐った匂いが吹き荒れとるわい!」


 ガイゼンの言葉が抽象的過ぎてジオには何のことだか分からなかった。

 空を見上げても、特に変化は感じられない。あえて感じるとしたら……


「……少し風が強くなったか? だが、それが一体……」


 ジオがそう呟くと、マシンも急に立ち上がり、空を、そして辺りを見渡した。


「……気温が急激に変化……空気も……まさかっ!?」

「お、おいおい、お前までどうしたんだよ、マシン!」

「……来る……ッ!」


 どうやら、マシンも何かを感じたようだ。

 何が来るというのか? 

 

「おいおい……俺にも分かるように……ん?」


 その時、ジオもようやく異変に気づいた。

 穏やかだったはずの風が徐々に強くなり草木や街の屋根や看板が大きく揺れ出している。

 その風は、疲れきって寝ていたはずの男たちを起こしてしまうほどの大きさであった。


「ん~? なんだ~?」

「ふわ~あ」

「……ん!?」


 そして、起き上がる男たちの中で、ハッとしたような顔で慌てて、漁師の男たちが真っ先に海を見た。


「お、おい……こりゃぁ……」

「船長……ひょっとして……」

「ああ……吹き荒れるぞ。しかも……ちょっとやそっとのもんじゃねえ!」


 常に海に出て漁をする船乗りたちに備わる能力の一つ。

 それは、経験や勘などから、天候を読み取る力。

 その力を持った彼らは叫ぶ。


「おい! みんなを起こせ! 急いで避難させろ! こいつは……とんでもねえ、嵐が来るぞ!」


 船長の男がそう叫んだ瞬間、海の彼方を凝らしてみると、ようやくジオにもその存在を視認できた。

 あらゆるものを巻き込んで、雷鳴すらも身に纏い、目を疑うほどの広範囲に広がる巨大な渦が、勢力を増してこのワイーロに向かっている。


「デケーな……」


 ジオも、素直にそう言うしかないほどの規模。

 

「どういうことじゃ? あの嵐は……何の前触れもなく現れおった」

「あ? んなこと言ったって、実際に来てんじゃねーかよ。とりあえず、このまま突っ立ってると、俺らも危ねー」


 話している間にも嵐は更に勢力を増し、海岸に強い波が押し寄せている。

 港に並ぶ船も今にも転覆しそうなほど、揺らいでいる。

 漁師たちが慌てて街中に鐘を鳴らし、家の中で寝ていた女たちも起き出しては、水平線の向こうから迫ってくる巨大な嵐に蒼白する。


「……あの規模はこの国を覆い尽くし、甚大な被害を与える……風速80m/s……」

「マシン?」

「地下壕や建物の中に居るだけではどうにもならん。国を捨てて逃げるしかない」


 逃げるしかない。そう告げるマシンに対し、ジオは真っ直ぐ前を見る。

 逃げるだけなら、自分たち四人と親しくなったフェイリヤや数名ぐらいなら連れて逃げられるだろう。

 だが、ここに居る者たちはどうなるのか?

 そんなもの……


「徐々に波もデカくなっておるわい。こりゃ、大津波が来るぞい」


 どうなるかなど、容易に想像できるというもの。

 ならば、ジオたちの取る行動は……


「ったく……まだ酒が抜けてなくて、移動すんのがメンドクセー」

「ほう」

「とりあえず、天変地異が邪魔だから……蹴散らすか」


 ジオの取るべき行動。それは、「今から移動するのがメンドーなので、天変地異を蹴散らそう」というものであった。


「ほほう」

「……リーダー……正気か?」


 倒すのは、人でも軍でも魔族でもモンスターでもない。大自然の猛威。


「ほら、チューニ、出番だ」

「ふわ? う~、もうちょい~……」

「寝起きに悪いが、お前にも大活躍してもらう」

「ん? もうなに~? ……っと、なに? 強い風……ん? ……え?」

「仕事だ」

「ほわああああああああ、ななな、何アレ!?」


 熟睡していたチューニをたたき起こし、チューニは眠い目を何度も擦りながら、迫り来る大嵐に目を疑い、悲鳴を上げるもそのままジオに引きずられる。


「ッ、ま、ますた~? ……ジオ!? マスターをどこに?」

「よう、セク。お嬢様たちをとりあえず連れてどっか行ってろ」

「っ……これは……なぜ、嵐が……」

「とりあえず、アレは俺らでどうにかするからよ」


 一緒に目が覚めてしまったセクが起きた瞬間目にしたのは、吹き荒れる大嵐に向かって行こうとする四人の男たちの姿だった。

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