第三十四話 みんなで一つになって
「どうした? 俺を止めてみろよ」
周りを取り囲んだ騎士団たちの中でも一番の使い手であったはずのフウキを一瞬で倒してしまった。その衝撃の事態に兵たちも呆然とするしかなかった。
「ッ、みんな! 怯んじゃダメ! このまま怯えて屈して……それで戦争で散った英雄たちに顔向けできるんですか!?」
それでもこのまま負けてはならないと、ジオに対する怯えを抱いたままメルフェンが必死に叫ぶ。
「皆で一つになって協力し合えば、どんな壁だって越えられる! そんな私たちの想いで、世界も人も変えてみせようって約束したでしょ! だったら、戦わないと! この国を守らないと!」
怯えていないで戦えと騎士団に促す。だが、騎士団の者たちも曲がりなりにも戦いに生きる者たち。
それゆえに、誰もが本能的に理解しているのだ。
自分たちとジオの間にある、比べることもできないほどの圧倒的な力差を。
そんな物怖じしている兵たちに、ジオは笑みを浮かべて告げる。
「随分と夢見がちなお姫様だな。お前ら騎士団様たちはどうするんだ? お姫様の命令だろ? 捕まえなくていいのか? まっ、俺を一体なんの罪で捕らえるのかは知らねーけどな。お姫様侮辱罪か? くははははは」
自分を捕らえないのか? 捕らえてみろ。そう挑発するジオだが、騎士団たちは後ずさりするだけ。
そんな怯え腰の騎士団の姿に、ジオは溜息を吐いた。
「ふん、忠誠心や国よりも自分の体が大事か? まっ、そういう気持ちは分からなくもねぇ。あのお姫様は勇者に夢中みたいだしな。自分に目が向いてねぇ女のために戦うってのも、何だかアホらしいしな」
「な、なんてことを言うんですか! ひどい侮辱です! 騎士団の皆さんは誇りと国のために戦う人たちなんですよ!? それを……あなたは最低です!」
ジオの呆れたような言葉に憤慨するメルフェン。だが、ジオは曲げない。
「騎士だって人さ。不純な動機を持つ方がやる気を出すことだってある。『惚れた女のために戦う』。それも立派な理由さ。俺にはその気持ちがよく分かる。だからこそ、自分を見てくれねぇ女のために戦うのがアホらしいって気持ちも分かりやすくていいと思うけどな」
ジオもかつてはそうだった。『皆に自分を認めさせる』という理由から始まり、『女にモテたい』という不純な動機も抱くようになり、そして成長した頃には『ティアナのために』という気持ちも確かに抱いていた。
「それに、俺個人としてはそういう奴らは、嫌いじゃねえ」
たとえ国に仕える騎士であろうと、『惚れた女のために戦う』というのは立派な理由だと思っていた。
「んな……なななな、お、オジオさん……ほ、惚れた女のために戦うって……だ、だからあなたは?」
「ん? おい、なんだよ、お嬢様までバカにしてんのか?」
と、そのとき、胸の中に居たフェイリヤが顔を真っ赤にさせて口をパクパクさせていた。
メルフェンだけでなく、フェイリヤまでジオのバカな発言に聞いているだけで恥ずかしくなって呆れているのかもしれないと……
「い、いえ……そ、そうだったんですの? で、でもそんなサラッと……回りくどく……」
「はっ?」
「だ、だから、あ、あなたは、こうしてワタクシのために戦うと……こ、困りますわ……わ、ワタクシ、そういった経験もありませんので……もっとお互いを知ってから……もっと親しくなってからでないと……」
そのとき、ジオはピンと来た。フェイリヤが何か盛大な勘違いをしているのかもしれないと。
もし自分が恋愛経験や女との関係に乏しい鈍感な男であれば、『どうした? 顔が赤いぞ?』と聞いていたかもしれない。
だが、そうやって誤魔化すわけにもいかず……
「あっ、そういう気持ちが分かるってだけで、別に俺が今こうしてるのはあんたに惚れてるとか、そういうのまったくねーから」
「はい……ん? はっ!? えっ? えええ?」
「だから、間違っても俺に変なこと期待しないように。あんた、エラそうだけど恋愛経験皆無みたいだし、すぐ変な男にひっかかるようなチョロそうな女だから、気をつけろよ?」
「…………ふんがっあああ!」
勘違いするなと告げるジオの言葉に呆けてしまったフェイリヤだが、すぐにその言葉の意味を理解して、荒れた。
「こ、このワタクシを愚弄していますの? オジオさん! どこの、誰が一体いつ期待したと言ってますの!? 思いあがりも甚だしいですわ!」
「あっ、いや、取り返しのつかないことになる前に、事前に言っておかねーと、と思って……」
「取り返しってなんですの! まさか、この天上天下に並ぶもの無しの奇跡の才色兼備たるワタクシが、あなたのような男に間違いを抱くとでもお思いでして? 無礼千万滑稽千万ですわ! あ・な・た・が、ワタクシに惚れるというのであれば納得ですが、少なくともワタクシがあなたにそれを期待するなんてありえませんわ!」
「はいはい、分かった分かった。俺が悪かった。俺はあんたに惚れない。あんたも俺に期待しない。それでいいか?」
「ちょっ!? それはそうですけど、『俺はあんたに惚れない』なんて言い方、まるでワタクシが見下されて軽んじられているような言い方ではありませんの? ワタクシほどの良い女を前にして、そうやって軽く言われるのはムカつきますわ!」
捲くし立てるフェイリヤに段々と面倒くさくなったジオがテキトーにあしらおうとするが、その態度もまたフェイリヤには癇に障り、よりジオに食って掛かった。
「うわ、メンドクセー女だな……俺は色々とあって、今は恋愛とかそういうのはいいと思ってるだけだ。あんたが良い女だってのは、十分に分かってるさ」
「ふへっ!? ……あ、あぅ……そ、そうですの……分かっていらっしゃるのでしたら……そ、それで……」
「だから、こんなちょっと褒めただけでホの字になってんじゃねえよ! おま、本当に大丈夫か!? チョロ過ぎだろうが!」
「ほ、ホの字になんてなってませんわああああああ!」
ジオの頬をぶん殴るフェイリヤ。そんな怒りを仕方なしに受け入れてポカポカ殴られるも、あまりにも単純なフェイリヤにジオも反論し、結局口論は収まらない。
「いや、あんた、本当に気をつけろよ? 手遅れになる前に」
「手遅れとか余計なお世話ですわ!?」
この口論を見ていた者たちは、とりあえずジオが暴れる暴れないは頭から抜け、そして……
(((((もう、手遅れだろ)))))
……と、冷めた目で見ながらそう思っていたのだった。
「あ~、もう、埒が明かないから、あんた少し黙ってろ。ほれ、下がってろ」
「お待ちなさい、お話はまだ終わってませんわ!」
「はいはい、後で相手してやるから」
「なっ!? ちょ、何様ですの!? ワ・タ・ク・シ・が! あなたのお相手をして差し上げるというのが正解でしてよ!?」
「はいはい……」
とにかく、周りの反応は別として、ジオ自身もこのままでは埒が明かないと話をテキトーに切り上げてフェイリヤを後ろへとどかす。
その対応にフェイリヤは未だに怒りが収まらずに叫ぶが、とりあえずジオは無視して目の前に居る騎士団に改めて……
「まぁ、とりあえず話を戻すとだ……そういった、ホレたハレたは抜きにしても、お前らはお前らの意思でそっち側に付いたんだろ? だったら男として、筋は通すべきなんじゃねぇのか? お前らの団長様は少なくとも、俺に挑んでは来ただろうが。お前らはやらねーのか?」
「「「「「………ッ……」」」」」
「来いよ! 俺を捕まえてみろって言ってんだよ! 俺が参加できなかった戦争に参加した奴らが、この程度のことでビビッてんじゃねーよ! それとも勇者が居なけりゃ何もできねー腰抜けか!? なんのために、戦ってんだ! お前らこのままだったら、この頭がパッパラパーなお姫様に『やっぱり勇者と比べて……はん』とかって、鼻で笑われるぞ! 悔しくねーのかよ!」
理由はどうであれ、クーデターに加担して姫側に立っている以上は筋を通せ。
「それでも俺に向かってこれねーなら、さっさと泣いて叫んで『勇者様お助けください~』って言ってりゃいいんだよ! ほら、お前らの大好きな勇者様に助けを求めてみろよ! そんで、勇者がキャーキャー言われてるのを羨ましそうに眺めて、部屋の隅で自分のナニでも扱いてろ、この青瓢箪どもが!」
かかって来い。敵であるはずの騎士団に発破をかけるジオ。
すると、俯き怯えていた騎士団から……
「う……うるせーよ……」
「そうだ……なんで、通りすがりの魔族にエラそうに説教されなくちゃいけないんだ……」
「そうだそうだ……誰が……そんなことできるかよ……」
「テメエに俺たちの気持ちが分かんのかってんだ」
「大体、テメエは何をイチャイチャしてんだよ……」
本来であれば礼節等を重んじる騎士とは思えぬほど口汚い呟きが発せられた。
そしてその呟きが、やがて男たちの悲しい叫びに変わる。
「お前に分かんのかよ、コンチクショウ! あの純粋無垢だったメルフェン姫が、夜な夜な勇者の部屋に行っては喘ぎ声をあげて、それが聞こえちまった苦しみを!」
「人目も憚らずイチャイチャされてる苦しみを!」
「何がハウレイム王国だチクショウ! いつもオーライばかりモテやがって!」
「ちくしょう、何が勇者のパーティーだ! 治癒魔導師アネーラ様! 女戦士ナジミちゃん! 大魔導師シスちゃん! みーんな勇者の女じゃないか!」
「そうだそうだ、勇者のパーティーじゃなくて、勇者の女たちって最初から名乗れってんだ!」
「しかもそこにハウレイム王国の姫まで居て、いつも四人で取り合ってるかと思えば、いつの間にかメルフェン姫まで加わってるしよ!」
「な~にが、『今夜は弟君と寝るのは私です』、『あんたと寝たって全然嬉しくないんだからね』、『兄さんの見張りをするのは私の仕事です』、『今日は皆で寝ましょう!』、『私も何番目でもいいから側に』だ、クソッタレが!」
「勇者が女の股間に顔を突っ込むラッキースケベをやっても許されて、俺たちは短いスカート穿いてる女の足を見ただけで変態扱いだぞ!? クソガァ!」
「ぺっぺっぺ! この面白くねー気持ちが分かんのかよ、この野郎!」
「大体、メルフェン姫もメルフェン姫だ! 駐屯地の会議室でコッソリ勇者とヤッてんじゃねーってんだ!」
騎士ではない。男の叫び。
「「「「だ……誰が勇者に助けなんて求めるかってんだ!」」」」
怒りに任せて八つ当たりするかのような叫び。
「な、み、みんな!? な、何を言ってるの!?」
「こ、これは、一体……どういうことですの?」
その突然変貌したかのような男たちの叫びに、メルフェンもフェイリヤも呆気にとられ、街の者たちも言葉を失っていた。
「うわァ……なさけね~。でも……だったら、お前らは何で、そんなムカつく姫に付き従ってってんだ? ……って、それもどうでもいいか。姫に逆らったら無職とか、流れ的に断れなかったとか、そんなところだろうし、そんなもん俺には関係ねーことだしな。ただ……それでも、モヤモヤしているものがあるんなら……」
この男たちの悲しい叫びには、流石にジオも呆れて苦笑してしまった。
しかし、ジオはどこか気分も良かった。
「来いよ! 叫んで暴れてスッキリしちまえ! 騎士も冒険者も人間も魔族も関係ねぇ! ケンカだ! 男の本能を俺にぶちまけてきやがれ! 女がドン引きしちまうような叫びも、俺は正面からぶつかってやらァ!」
騎士ではなく男としてかかって来い。そう告げるジオに対し、ついに騎士団の男たちも爆発した。
「うるせえ! テメエだってさっきからお嬢様とイチャついてるクセによ!」
「くそが! やってやらァ! ぶっ飛ばしてやる!」
「うおおおおお、くそったれがーっ!」
男たちの本能をむき出しにして、騎士の証である剣を地面に投げ捨てて、一斉にジオに殴りかかる。
「俺らだってな、戦争じゃ体張って戦ってたんだよ! なのに、称えられるのも、救った街の女たちが惚れるのはみんな勇者! ざけんじゃねぇ!」
「何がみんなと一緒に協力してだ! 分かってんだよ、どーせ俺らは引き立て役だってことぐらいな!」
「世界全体がオーライの案に賛成したら、俺らが嫌だって言っても仕方ねーじゃねえかよ! 俺らだって仕事なんだからよ!」
叫びは各々バラバラで、しかし誰もが心に鬱憤が溜まっていた。
そう、誰もがメルフェンのクーデターに心から賛同して協力していたわけではない。
そんな想いを込めて、男たちはジオを殴った。蹴った。体当たりした。
「リーダー!? ちょ、おおおい、リーダー!?」
「お、オジオさん!? ちょ、何で避けないんですの!? 御マシンさん、御爺さんも早く助けませんと!」
ジオが男たちの怒りを受けて、それを避けようとしない。
流石にこれはまずいとフェイリヤもマシンやガイゼンに助けるように訴えるが、二人は動かなかった。
「ぬわははははは、何でじゃ? おもしろいところではないか。やり方は、ちと古臭いがの~」
「確かにな。リーダーの……器が知れる……」
ガイゼンはまるで酒の肴にするかのように。マシンはジオを観察して見極めようとしているかのように。
そして……
「ひははははは、暑苦しいねぇ……ジオ君。情に熱くて……情に脆い」
フィクサもまた、ジオの姿を笑いながら眺めていた。
「くははは、貧弱ぅ、貧弱うぅぅううう!!」
「ぐほっ!?」
「貧弱どもおおお!」
ジオも黙って攻撃を受けるだけではない。群がる男たちを頭突きや拳骨一発で沈めていく。
「くははははは、ヨエーな! 弱過ぎるぜ! それじゃあ、どこの国のお姫様もパンツすら見せてくれねーぜ!」
「ぐっ、何を言ってやがる! だいたい、強いぐらいで姫様の下着を見れる世界がどこにある!」
「あん? 俺はとある国の姫様に見せてもらったことあるぜ? こう、スカートの裾を持ち上げて……そして、やがてはその中身やブラの下まで自由に……」
「な、なにっ!? ご、ゴクリ……その辺りを詳しく……」
「くははははは、一生縁のないお前らに言っても仕方ねーだろうが!」
「ごぶへっ?!」
歩きながら、一人一人の顔を見て言葉を発しながら一撃の下に沈めていくジオ。
本来であれば、味方以外ならば一瞬でこの場に居る者たち全員を皆殺しに出来る力をジオは持っている。
「オラオラ、ムカついてんならもっと体張って来いよ! いっそのこと、俺を勇者だと思ってぶん殴ってこいやァ!」
しかしそれでも、ジオは一人一人と言葉を交わしながら殴られ、殴り返していく。
「はあ、はあ、はあ、はあ……俺は……俺は……」
「あん?」
「戦争で十回生き延びたらアネーラ様に花束贈って告白しようと思っていた……」
「……ああ……それで?」
「ぐっ、う、ううう、十回目の夜! 勇気を出して告白しに行こうと思ったら、アネーラ様は月夜の下で勇者と……『今夜は私が弟君を独り占め』……とかって、抱き合って……ちくしょう、もう世界なんてどうだっていいんだよ!」
やがて、男たちは叫ぶだけではない。涙まで滲ませ始めた。
その拳と想いをジオは思いっきり頬に受け、
「そんなクソアバズレ女に惚れたお前が悪い! んなクソ女とっとと忘れろ! 男のクセに女々しいぞゴラァ!」
「ぶげほっ!?」
男たちを殴って気合のようなものを注入していくかのように、ジオは暴れた。
「くそ……マジで何もんだ、こいつ……ツエー……めちゃくちゃツエーぞ!」
「びびんな! こんな奴に好き放題言われて悔しくねーのか!」
「そうだそうだ、取り囲め! やられるにしても、一発ぶん殴ってやろうじゃねえか!」
「おおおおっ!!」
次々と倒れていく騎士団。百人近い男たちが集っていたというのに、既に数は数十人と減っていた。
だが、どういうわけか、男たちは心を折らずにジオに立ち向かう意思を捨てていなかった。
「くくく……くはははははは!」
そんな男たちに、ジオは機嫌よく笑った。
「いいじゃねーの。一皮剥けば素敵なバカどもじゃねーかよ、お前らも。そこのお姫様みたいに皆で協力し合ってとか、誰にでも平等な世界うんたらかんたら、正義がなんたらとかってより、よっぽど真っ直ぐで小気味いいぜ」
ジオは楽しかったのだ。数日前に三年ぶりに解放されて、ガイゼンの案に乗って世界を周ることにしたが、まだ心の底からハシャぐようなことをできていなかった。
だが、今は違う。
力を出して暴れるには頼りない相手ではあるものの、それでも心を曝け出した男同士で通じ合うものがある。
腹の底から叫んで、そして何かをぶつけ合うことは、ジオにとっては懐かしく、そして気持ちのいいものであった。
「だがしかーし! どいつもこいつもぶつける力が弱過ぎる! どーなってんだ、ワイーロ王国! どいつもこいつもヨエーな! それとも、この国の男は皆、軟弱どもの掃き溜めか!?」
そんなジオの矛先は、ついに騎士団だけでなくこの国の男たちにまで向けられた。
すると、その発言までは流石に看過できなかったのか、街の男やファミリーの構成員たちもムッとした顔を浮かべる。
「お、おい、兄ちゃん。そりゃーねーだろうが」
「そ、そうだ。俺ら海の男まで貧弱った~、どういうことだ?」
「誰が腰抜けじゃ、このチンピラがァ! お嬢さんの客人つーことで見逃してたが、なんじゃその言い草ァ!」
「だいたい、テメエはお嬢さんとイチャイチャしてたのだって、俺らァ気に食わなかったんだよ!」
聞き捨てならないと男たちがゾロゾロと前へ出て、ジオに訂正させようと声を上げる。
だが、ジオは……
「けっ。金髪クルクル黒パンツのお嬢様にゴマ摺りしてヘラヘラして満足の奴らがよく言うぜ。そんなんだから、アッサリとクーデターなんかされるんだよ」
訂正するどころか、これでもかと男たちを挑発した。
「なっ、なんだとテメエ!」
「フェイリヤちゃんが金髪クルクルだァ!?」
「て、てめ、いや、待て! それよりもだ! い、今……」
「……黒……パンツ?」
そして、次の瞬間、広場に居た全員がハッとなり、フェイリヤを見る。
フェイリヤもポカンとした顔を浮かべるも、今のジオの言葉を思い返し……
「お、おおお、オジオさん……」
「ん?」
「だだだ、だ、誰が、だ、誰の何が……く、黒と?」
再び顔を真っ赤にしてカタカタと震えだすフェイリヤ。
そんなフェイリヤにジオは呆れながら……
「あんたなァ……大して長くもねえスカートで、船の上であんな劇団員みたいにクルクル動いてて、そんなのチラッと見えないわけねーだろうが」
「ひうッッ!?」
「金髪で鎧も金ぴかだけど、パンツは金じゃなくて黒なんだな~って思ってよ」
次の瞬間、フェイリヤはスカートの裾を押さえながら、ペタンとその場に腰を抜かしてしまった。
恥ずかしさと怒りで打ち震え、瞳には涙まで浮かんでいる。
そんなフェイリヤの姿を見せられて、流石にこの国の男たちは黙っていない。
「て、テメエええッ! よ、よくもフェイリヤちゃんを泣かし……しかも、パンツまで!」
「このやらああ! ケジメフィンガーじゃ! ケジメフィンガーせいゴラァ!」
「ぶち殺したらァ!」
誰もが怒りを浮かべて激しくジオを罵倒して前へ出てくる。
そんな男たちに対し、ジオは……
「馬鹿かお前ら。剣を振るうものは自分も斬られる覚悟をしなくちゃならねぇ。スカートを履く者もパンツを見られる覚悟をしなくちゃならねーって、知らねーのか?」
「「「「「ブチコロセええええええ!!!」」」」」
「くははははは、上等だ、かかって来やがれ、ワイーロ王国!」
開き直ったジオに対して、ワイーロ王国の男たちの怒りが大爆発。
一斉になってジオに殴りかかる。
「んもう、許しませんわ! ケジメフィンガーですわ! とにかくお仕置きですわ! オジオさんを皆でケチョンケチョンにしてやるのですわ!」
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」」」」」
フェイリヤも堪忍袋が切れて声をあげ、その声に男たちが応えていく。
そこに、それぞれの職業も身分も一切何も関係なかった。
「ひは、ひははははははははははははははは! あ~ウケル、なるほどね……これがジオ・シモンか。皆で協力して一つになる……。できちゃったじゃん。ひははははははは! 狙ってやってんのか、天然でやっちまったのか……興味深いじゃん。ひはははは」
ジオと国中の男たちがケンカする中で、全てを見透かしているかのように、フィクサはほくそ笑んでいた。




