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第三十二話 どうやって?

「ちょ、何をおバカなことを仰ってますの!? ファミリーを解体? 国を併合? 言っていることが意味不明すぎて、ぱっぱらぱ~ですわ!」


 面倒なことになったというのは分かったものの、突然のことすぎてジオたちもどう動くべきかをまだ判断できないでいた。

 今はただ、花柄ドレスのお姫様と、全身金ピカのお嬢様の二人の様子を見ていた。


「本当におめでたいね、あなたは。フェイリヤは何も分かっていないんだよ。この国に蔓延っていた黒い霧を……」

「黒い霧……ど、どういうことですの!?」

「歓楽街で女の子たちを使ったいやらしい店、それを使っての国の上層部たちへの接待とか……」

「そ、それは……」

「みかじめ料だって言って不当にお金を巻き上げたり、魔界の悪い組織と繋がりがあったり……それに、フェイリヤ自身だって街の人から色々と貰ってるでしょ!」


 悪いことをたくさんしている。そう言われてどこかショックを受けて言葉に詰まるフェイリヤ。

 一方で、それをヘラヘラした顔で聞いてソファーに座ったままのフィクサは、フェイリヤに助け舟を出さずに黙っている。

 すると……


「ちょっ、待ってください、姫様!」

「そうです、ファミリー解体って……そんなの……」


 街の者たちが姫に対して異議を申し立てるように声を上げた。



「私は父と母を亡くして妹と二人暮らしで……だから、そういうお店で働くしかなくて……でも、国の支援やファミリーの管理があるから、私も体を壊さずに安心して働けているんです! この仕事が無くなったら私は……」


「戦争中、あんたら騎士団たちは居なかったじゃねーかよ! その間、手薄になったこの国を魔族や賊から守ってくれたのは、自警団として戦ってくれたファミリーなんだよ!」


「俺たちはいつも美味しそうに俺らがあげたもんを食ってくれるフェイリアちゃんの笑顔が好きで、そこに何も裏なんてないんだ!」


「だいたい、今でも十分うまくいってんのに、なんで他の国に併合されなくちゃいけないんだよ!」


「そうだゴラぁ! ファーザーが魔界の組織と繋がってんのだってなぁ、奴らと友好関係を築くことでこの国には手を出さないでもらうためなんだよ! テメエらもし、あの『五大魔殺界』と呼ばれている、『禁断異端児・ジャレンゴク』や、『超淫幼狐・ポルノヴィーチ』たちが率いるチームが攻め込んだら、この国を守れんのかよ!?」



 それは、民や構成員たちも含めて訴える、ゴークドウファミリーという組織の必要性であった。

 一人、また一人と国に対して声を上げていく民たち。

 その大勢の声は、広場を取り囲む騎士たちを怯ませていく。

 だが……


「皆さん、聞いてください! 皆さんの不安は全て分かりました。でも、悪いことは悪いことなんです。そこは理解していただかないとなりません」


 何も疑うことなく、自分を信じきった表情で、女王メルフェンは皆に告げた。



「まず、女の子が『そういう仕事しかない』なんて悲しいことを言ってはだめです。女の子の体も心も全て好きな人に捧げるものなんです。その気持ちを持って頑張れば、きっともっと素敵で相応しい仕事だって見つかると思います!」


「……はっ? えっ? ええ?」


「騎士団不在でファミリーが自警団として戦ったって言ってますけど、だからってそういうことを勝手にされると困ります。国を守るのは騎士団の役目です。仮に居なかったとしても、その時はまず国に相談していただいて、そこで皆で協力し合えばもっとちゃんとした解決策があったはずです」


「いや、だ、だって、あいつら急に襲ってきたのに、そんな相談もくそもそんな暇……」


「フェイリヤへの貢物だってそうです。裏が無いとか、何も無いとか、悪いことをしている人は皆そう言うんです。本当かどうかは、フェイリヤに貢物をした人たちがその後に何か得するようなことがあったかどうかをしっかり取調べします」


「いや、そ、と、取調べって……」


「国が合併することが何で問題なんですか? 世界中の人たちが輪になって一つの国になる。オーライくんはそんな世界を作ろうとしているの。国とか種族なんて悲しい種類分けをしないで、誰もが平等で同じ国の人として安心して暮らせる世界。その素晴らしい考えをどうして理解してもらえないんですか?」


「い、いや……い、意味がまったくわかんねーんですけど……」


「魔界の悪い人たちが攻めてきてももう大丈夫です。だって、オーライくんは約束してくれたから。もし、私が困ったら、必ず助けに来てくれるって! だから、大丈夫なんです! もう、ファミリーやフェイリヤたちに頼るような国じゃないんだから!」


「……な、何言ってんだ? この姫さんは……」



 国民の不満に対して一つ一つ答えていくメルフェン。

 しかし、答えられたものの、その答えに民は誰もが口を開けて固まってしまった。

 そして、この瞬間、ジオたちも含めて皆が同じことを思った。



(((((だめだこりゃ……)))))



 この姫はダメだと、誰もが呆れ果ててしまったのだった。


「いや~、驚いたな。お嬢様がとても可愛く見えるぐらい、とんでもねーお姫様が居たもんだな」

「オーライも……余計なことをしようとしているものだな」

「ぬわははははは、自分を疑わぬ純真な愚か者ほど面倒なものはないのう」

「うわ……さすがの僕でも見ていてイラッとくるんで……つか、極端にもほどがあるんで」


 思わず口に出してしまうジオパーク冒険団。

 その率直な言葉に、フィクサも腹を抱えて笑った。


「ひはははは、そうでしょそうでしょ! いや~、イライラして逆に面白いでしょ! つか、何の具体案もなく、皆で協力すればとか、挙句の果てに勇者が助けてくれるとか、真顔で言う分、一周回って半端なコメディアンよりも面白いじゃん!」


 そう、フィクサの言うように、ジオたちも一周回ってもはや笑ってしまうしかないという状況であった。

 ただし、その笑いは、苦笑であるが……


「しかし、そんなことより、興味深い話が出たのう。五大魔なんたらって、なんのことじゃ?」


 と、そのとき、「そんなことより」とガイゼンが興味を引いた話題についてフィクサに尋ねる。

 それは先ほどの話の中で出てきた名前のことだ。


「ああ、五大魔殺界ね。単純に、今の魔界においてその名を轟かせる五つの組織……そのそれぞれのボスを五大魔殺界って呼ばれてるじゃん。魔王軍、七天、大魔王、……その全てが崩壊した今、間違いなく魔界最恐にして、次期大魔王候補って呼ばれてるじゃん」


 それは、ジオたちの誰もが知らなかった今の時代の力であった。

 

「へぇ、そんなもんがあったのか。知らなかったな」

「自分もそれは認識していなかった」

「ほほう。面白そうじゃ。戦ってみたいの~」

「ってか、そんなのが本当に攻め込んできたら、勇者勝てるの!?」


 関心を持って聞くジオたちと違って、チューニだけは恐怖で顔を引きつらせて怯えてしまう。

 

「マスターは私が守ります」


 その際に、ギュッとチューニに抱きつくセクの言葉が割って入るも、チューニのその悲鳴のような叫びを聞いて、ようやくメルフェンや騎士団たちはこちらに気づいたのだった。


「おい、そこのお前たち! 何を座ってる! 姫様の御前だぞ、この無礼者!」


 未だにソファーに座ってくつろいでいたジオたちの姿に憤慨する騎士団たちが一斉にジオたちを取り囲む。

 そして、気づく。


「こ、こいつら!?」

「魔族!? まさか、魔界の闇の組織の連中か!?」

「フィクサ・ゴークドウまで!? 帰ってきていたのか!?」


 ジオとガイゼンが異形であることに過敏に反応する騎士団たち。

 戦争で魔族と戦っていたためなのか、フラグ冒険団や街の者たちよりも遥かに敵意を持って身構える。


「おい、このテーブルの上の金はなんだ!?」

「まさか、何か怪しい取引でもしているのではないだろうな!?」


 そして、注目されたのはクエスト達成の報奨金として受け取った大量の金貨。その事情を知らない騎士団たちが、妙な疑念を抱くのも無理はないことであった。


「ちょっとお待ちなさい! その方々は正式に冒険者協会に登録された方たちですわ! そして、そのお金は彼らのクエスト達成の褒章金! 妙な言いがかりはおやめなさい!」

「ふん。そんなことキチンと取調べをしないことには、信用できん。ひょっとしたら、五大魔殺界の関係者かもしれないしな」


 強くテーブルを叩いて、まるでジオたちを恫喝するような態度に出る、フウキという名の騎士団長。

 その乱暴な態度にジオたちが「やれやれ」と溜息を吐く脇では、フィクサが「どうなっても、しーらない♪」と、口元を押さえて笑いを堪えていた。


「ッ、ワタクシの客人に無礼は許しませんわよ!」

「そうです! それにジオくんたちは、決して悪い人たちではない。私たちを助けてくれた恩人です!」


 騎士団の態度に憤慨したフェイリヤとフラグ冒険団たちが仲裁に入ろうとうする。


「黙れ! ファミリーの成金娘も、戦争で尻尾撒いて逃げた軟弱貴族も、公務を妨害するようであれば容赦しない! 我らの国は、もう権力や金には屈しない国へと生まれ変わるのだ! 乱れた風紀は即刻取り締まらなければならない!」


 しかし、全く態度を変えようとしない騎士団たちとそのまま争いに発展する。

 そして……


「おだまりなさい! さっきから、あなたも何様のつもりですの!?」

「大人しくしろと言ったはずだ!」

「キャッッ!?」


 その時、頬を叩く乾いた音がその場に響き渡った。


「……あっ……」

「お、お嬢さんッ!?」

「きゃあああ、お嬢様ッ!?」

「ひ、ひどい!?」


 その瞬間、フェイリヤが頬を赤く腫らして地面に叩き伏せられた。

 ほとんどの者が、何が起こったのか一瞬分からなかった。

 だが、倒されて頬を抑えるフェイリヤの姿を見て、たまりに溜まったものが爆発する……



「「「「て、……テメエらッ!! よくも……」」」」」



 ……かと思った次の瞬間……



――うるせーよ


「「「「「ッッッ!!!???」」」」」



 それは、この場に居た全員の脳裏に、心に、細胞に響くかのような冷たく静かで、そして圧倒するかのような声だった。


「……ったく、どいつもこいつも人の回りで不愉快な争いを。俺らはただ遊びたいだけなんだよ。よく分からんメンドーごとを目の前で繰り広げんじゃねーよ」


 そう言って、ソファーから立ち上がったのはジオ。

 表情は非常にメンドクサそうな顔をして、特に殺気や敵意も醸し出していない。

 だが、それでもこの場に居た者たちは皆がジオの姿を見て、寒気を感じていた。

 

「おら、お嬢様、無事か?」

「っ、お、オジオさ……ん……」

「あ~あ、ほっぺた真っ赤になってら。早く冷やしてもらうんだな」

「え……ええ……お手間を……」

「くはははははは、しおらしくなってやんの。あんた、さては親にも殴られたことなくて、ショックだったか?」

「ウッ!? そ、それは……」

「案外、あと二~三発殴ってもらえれば、男が守ってやりたくなるぐらいのか弱い姿を見せてくれるかもな」

「オジオさん!?」


 倒れるフェイリヤに手を差し出して肩を貸すジオ。

 瞳を潤ませながらも、少し呆けたフェイリヤはそのままジオに体を預ける。

 そんな二人を、誰も何も言うことも、手を出すこともできず、ただ眺めるだけしか出来ない。


「にしても……乱れた風紀は許さねぇか。随分とお堅い騎士様だな。少しくらいの乱れを許容できる心の広さぐらい見せてやれねぇのかね~?」


 ジオがフェイリヤを殴った騎士フウキに冗談交じりの口調で尋ねる。

 そんなジオに対し、フウキもジオから只者でない雰囲気を感じ取ったのか、いつでも剣を抜けるように身構えながら尋ね返す。


「……貴様……いや、貴様らは何者だ?」


 その問いに、ジオは笑みを浮かべて答えた。


「俺たちはまだ何者でもねえ。特に信念や野心もなく……ただの遊びたい盛りの男たちだよ」

「……ふざけているのか?」

「くはははは、まっ、どっちでもいーさ。お互いにな」


 ジオはそれなりに真面目に答えたつもりだが、それを本音と捉えなかったのか、フウキはより一層ジオを睨みつける。

 だが、それを受けてもジオは受け止めることなく、流そうとする。


「本当に俺はどっちでもいいんだよ。ファミリーとやらが解体されようと、この国がどこに併合されようと、そんなもんお前らの問題なんだし、俺に何の危険も損もねーんだし、ご自由に議論してりゃいいさ。さっさと国から出てけっていうなら、大人しく出ていくさ。それなら文句ねーだろ?」


 自分たちは関わらない。望むのであれば、今すぐこの国からも出て行っても構わない。

 そう告げるジオだったが……


「ありますわ!」

「ほぶっ?!」


 なんと、肩を貸したフェイリヤから横からグーで殴られた。


「ちょ、な、何しやがる!?」

「何しやがるではありませんわ! 大体、ワタクシが乱暴にされたというのに、何でそんな涼しい態度なんですの!? 殿方なら、怒って殴り返してくださるぐらいの気概はありませんの!?」

「い、いや……だって、俺が怒るのもなんかちげーだろ……」

「違くありませんわ! 女性を傷つける男は最低とか、女を泣かすなとか、そういうことを言う絶好の機会でしたではありませんの! そうやってワタクシのことを守るナイトのような姿を見せてくれましたら……くれましたら……ほんの少しぐらい……ワタクシも……」


 ジオの胸倉を掴んで激しくまくしたてるフェイリヤにジオはのけ反ってしまう。

 殴られて潤んだ涙もすっかり吹き飛んで、しおらしかった姿もどこかへいってしまった。

 そんなフェイリヤの迫力に押されながらジオは……


「いやぁ……女を傷つけて最低とか泣かすなとか……正直俺が言えることじゃねーしな……いや、ほんとに……盛大に自分に突き刺さるというか……」

「はぁ? 何を言ってますの? ブツブツと男らしくありませんわね」

「まぁ、落ち着けって。話が進まねーから」


 正に自分がつい最近やったことがふと過り、ジオは苦笑するしかなかった。

 ただ……


「さてさて……正義の騎士団の諸君。俺はこの通り、お嬢様とそれほど親しいわけでもねーし、一緒に何かを企んでるわけでもねー。女の傷つく姿を我慢できねえなんてフェミニスト発言をできる男でもねえ。ファミリー云々や国の存続もさっきも言った通り勝手にやってればいいさ。ただ……一つだけ気になったんだが……」


 ジオがフェイリヤを窘めながら、落ち着いた声で……



「お姫様」


「……?」


「もし、俺が魔界の悪~い組織の奴だった場合……」


「ッ!?」


「そして、お嬢様の言うように、もしも俺が女を殴るような奴らを……ましてやお嬢様を傷つけられることを我慢できねー男だった場合……」



 ジオから急に問われるメルフェン。思わずビクリと肩が大きく震えて後ずさりする。

 騎士団たちも、何かを感じて慌ててメルフェンの前を固める。

 それは、まるで嵐の前の静けさ。

 そして……



「俺が今すぐブチ切れてこの場で暴れたら、どうやって俺を止めるんだ? 俺なら五~六秒あればこの場に居る騎士団を全員ぶちのめせるぞ?」


「ッ!!??」


「守れんのか? この俺からこの国を。お嬢様の力も借りないで」



 解放される、禍々しい闇の瘴気。


「えっ……あ……えっ……あ……」


 それに触れた瞬間、メルフェンが言葉を失い、腰を抜かしてしまった。


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書籍書影(漫画家:ギャルビ様) 2022年4月6日発売

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