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第二十六話 危険状態

 マシンが驚いた顔をして立ち上がった瞬間、部屋に突如高い音が鳴り響いた。


六番目セックストゥム起動します。メインルームにて開放。職員は注意してください』


 部屋の天井の明かりが、赤い光へと代わって回転する。

 同時に鳴り響く耳につく音に、ジオたちは身構える。


「なんだ……何が起ころうとしてるんだ?」

「ひいい、神様、闘神様、ガイゼン様ァぁ!」

「さっきから、この音もなんですの? ピーポーピーポーうるさいですわ!」

「お、おい、と、とりあえず、私たちも何があってもいいように……」

「ああ、武器を携帯! 戦える準備を……」


 ジオパーク冒険団とフラグ冒険団がフェイリヤと双子メイドを守るように円になって周囲を警戒する。

 すると……


「「「「ッ!!??」」」」

「な、なんですの!? へ、部屋が変形していますわ!?」

 

 突如、自分たちの居る広々とした部屋が変形。階段状の長机や椅子がどんどん自動で折りたたまれて、部屋の隅へと追いやられていく。

 

「全員、部屋の隅に移動するべきだ。中心の床が開放されて、カプセルが出てくるはずだ」

「か、かぷせる?」


 驚き固まっていたマシンもようやく動き出して、指示。


「ちっ、よくわかんねーけど、このままじゃ巻き込まれる! ガイゼン、マシン!」

「承知」

「分かっておるわい!」


 巻き込まれないようにジオたちもその場から離脱。

 その際に……


「おら、お嬢様。掴まんな!」

「ほへっ? ちょ、お、オジオさん!? きゃっ……あっ……これは、お、お姫様の……」


 ジオがフェイリヤを抱きかかえ……


「ジッとしていろ」

「ひゃっ!? あ、えっと……あっ……」

「す、すごいはやい……風になったみたい……」


 マシンが左右の両脇に双子メイドを抱え……


「ほれほれほーれ!」

「うおっ!?」

「ぎゃっ!?」

「ちょわっ!?」

「うひゃあっ!?」


 ガイゼンがフラグ冒険団たちを部屋の隅へと乱暴に投げて、投げ終えた後に自身もジャンプでその場から離脱。


「よぅ、大丈夫かよ」

「え……ええ……問題ありませんわ」

「すまない。乱暴に触れてしまった」

「い、いえ……そんな……」

「助けてくださったんですから……」

「ぬわはははは、いつまで痛がっておる」

「頭ぶつけた……」

「こ、腰が……」

「背中が……」

「鼻が……」


 三つのグループに分かれて部屋の隅に離脱した一同。

 その間に、変形した部屋と共に中心に円状の穴が空き、下から何かがせり上がってきた。


「ありゃ、なんだ?」


 それは、白い外殻に覆われた繭のようなものであった。

 その繭が現れ、部屋の中央で停止した瞬間、鳴り響いていた音や、赤い光も元に戻った。

 そして、その繭が突如勢いよく煙を噴射して、繭がまるで扉のようにゆっくりと開いていった。

 だが、その時だった。


「うぎゃっ、おげ、うごっ!? ちょ、ぼ、僕を忘れてるんでーーー!?」

「「「…………あっ……」」」


 フェイリヤ、メイド、フラグ冒険団を変形する部屋から守るために助けたジオたちだったが、チューニのことを忘れていた。

 チューニは部屋の変形に巻き込まれて体をぶつけてゴロゴロ転がりながら、繭の目の前まで転がり落ちてしまったのだった。


「い、いたたたた……あっ……」


 そしてチューニが体の痛みに半泣きして顔を上げたその瞬間、繭が完全に開放し、中から何者かが起き上がり、チューニの前に立った。


「な、に、人間ッ!? 人間が繭の中から!?」

「なんですの、アレは!?」

「しかも人間というよりは……」


 そこに現れたのは……少し幼さの残る……


「えっと……お、女の子?」


 見た目の年齢は恐らくチューニと同じぐらいか、もしくはもう少し下かもしれない。

 薄緑の髪は肩口より少し長い程度で整えられ、小柄なチューニよりもさらに小さな身長で、発展途上の体つき故に胸もほんのり膨らんでいる程度。

 そして、何よりも目につくのはその服装。

 体にピッチリと張り付いた下着のような衣装で、足の付け根や肩口より先の肌を大胆に露出している。


「な、なんだ、あの格好は?」

「……あれは、自分の中にある知識では……『白スク水』と呼ばれるものだ……」


 マシンが名称を答えるが、その恰好はジオたちは誰もが初めて見るものであり、胸元にはジオたちの見たことのない紋様で「せっちゃん」と書かれている。


「ほほう。めんこい衣装じゃが……つまらなそうな目をしておるではないか」


 そして、大胆な服装の割には、その表情は人形のように無表情で、何を考えているか分からない無垢な目をしている。

 そんな謎の少女は、目の前に居たチューニをただジーッと見ていた。

 そして少女は、ゆっくりとチューニの前で肩膝を付いて……



「……おはようございます……そして、不束者ですが生涯宜しくお願いします。マイ・マスター」



 淡々とした口調で少女は……



「……へっ?」


「「「「「………………なに??」」」」」


「まさか、六番目は『刷り込み機能』が………」



 一瞬、少女が何を言ったのか分からずに首を傾げるチューニとジオたち。唯一状況を理解したと思われるマシンが何かを呟くも、現れた少女は構わずに続ける。


「刷り込み機能起動。あなたを私のマスターと認証します」

「や、え? すりこみ? ま、ますた~? えっと、な、何を言ってるか、わ、分からないんで……」

「私は『サイキック生体兵器の六番目セックストゥム』、……型式は『ターミジョーチャン』……」

「え、えええ!?」

「今日よりマスターにお仕えする、生体奴隷。戦も護衛も家事もリラクゼーションも夜伽も万全万能型……その機能を活用し、生涯マスターに奉仕致します」

 

 そして、六番目と名乗った少女はチューニの頭を両手でガシッと掴み……


「アイ・ラブ・マイマスタ~」

「ちょっ!?」


 ――――チュッ

 

 相変わらず抑揚の無い声で感情の起伏も見られぬまま、唐突にチューニの唇にキスをしたのだった。


「「「「……わお……」」」」

「遅かったか……」


 そんな光景をジオたちは、ただ唖然と見るしかなかった。


「え、キス? え、された? 僕? はじめて? え? かわいい。えっと、柔らか……いいにお……ファースト? あ……あれ?」

「マスター? どうされましたか?」

「ぼ、僕、お、女の子と、ちゅ、ちゅうして……は、初めて会った子と……」

「……? ジョーチャンバージョンはお気に召しませんか? ご安心を。私はあらゆる好みに変幻自在。容姿をネーチャン化させることも可能です」


 そして、キスされたチューニは、キョトンとした顔をしたものの、すぐに状況に頭が混乱し始め……


「ほ、ほ……ほ、ほげええええええええええええええええええええええええええええええええっ!??」


 顔を真っ赤にして発狂しながら、失神してしまったのだった。


「マスター? マスター……お休みのようですね。分かりました、マスター」


 倒れたチューニに首を傾げる六番目だが、すぐに姿勢を正座にして、その足にチューニの頭を乗せて膝枕する。


「……なんだありゃ?」

「めんこいのう」

「……セクハウラという女が付けた機能というやつか……」

「あっ!? あ、あれは……夫婦となる二人がやると言われている、ひ、膝枕ではありませんの!」

「微笑ましい……」


 先ほどの危機感はどこへ行ったのやらと、毒気が抜かれてしまって溜息を吐くジオたちだった。


「とりあえず、あの嬢ちゃんは何者で、んで……とりあえず、チューニ」


 とりあえず状況を整理し、そして失神しているチューニを起こそうと、ジオが部屋の中央へと飛び、中腰になって軽くチューニの頭を叩く。


「ほれ、起きろ。たかがチューくらいで情けねーやつだ」

「あうっ……」

「ッッッ!!!???」


 だが、その時だった。

 軽くチューニの頭を叩くも、チューニはうめき声を上げるだけですぐには起き上がらず、代わりにチューニを膝枕していた六番目が、目を大きく見開いて……


「空間振動波」

「ふぼっ!!??」


 空間が歪むほどの衝撃が、突如ジオの体を襲い、ジオは激しく飛ばされて壁に埋まるほどの勢いで激突した。

 

「ぬっ!?」

「リーダー!?」

「ちょ、な、なんですのっ!?」

「い、今の、な、なんだ!?」


 何が起こったのかは分からない。だが、今のは明らかな攻撃で、しかもそれをやったのは、チューニの頭を優しく床の上に起き、ゆっくりと立ち上がる六番目から。


「……マスターに危害を加えるもの……排除します」


 壁に埋まったジオに向かい、六番目はそう告げ、そして……


「マスターに危害を加えた者と親しいと思われる者たちも……危険因子として……殲滅します」


 六番目はこの場に居るチューニ以外の全ての者たちをも殲滅することを宣言した。


「こ、こらこら、お嬢ちゃん、ダメじゃないか、そんな乱暴なことを言ったら」

「そうそう。私たちは敵じゃないよ。だから、いい子にしなさい」

「ほら、ジオ君に謝りなさい」

「そうしたら、ジオ君も許してくれると思うから。ね?」


 殲滅を宣言する六番目だが、見た目はまだ少女とも言える。

 その力には驚いたが、戦いは避けるべきだと判断したフラグ冒険団たちが相手を怒らせないように笑顔を見せながら、六番目に近づいていく。


「ぬっ!? おい、ウヌら!」

「そいつに近づくな」


 勝手に六番目に近づくフラグ冒険団に声を上げるガイゼンとマシン。

 だが、フラグ冒険団たちは危機感を感じさせない笑顔で……


「ほら、ね? いい子だから……」


 子供をあやすように、六番目の頭を撫でようと手を伸ばすと……


「マスター以外の人間が私に触れることは許さない」

「ん?」

「空間振動波」


 六番目が人差し指を突き出して、その指先から何かをフラグ冒険団に……


「やめんかいっ、娘っ子!」

「ッ!?」


 と、そこにガイゼンが立ちはだかり、六番目の指先から放たれた何かを手の平で受け止めた。


「ガイゼンさん!?」

「まったく、迂闊に近づくでない。死にたいか?」


 寸前のところでフラグ冒険団たちを守ったガイゼン。しかし、六番目の攻撃を受け止めたその手の平は僅かに削れて血が滲み出ていた。


「ん? おお、ワシの皮膚を裂くとは……なかなか切れ味の鋭い、そよ風じゃな。リーダーを吹き飛ばしただけはある」

「……衝撃波を生身で受け止めた……想像以上の強度。警戒レベルを更に上げる必要有り」


 自身の血を機嫌よさそうにペロリと舐めるガイゼン。一方で、六番目は顔色こそ変えないが、ガイゼンに対してより警戒心を強めている様子が分かる。

 だが……


「それまでだ、六番目」

「ッ!?」


 その、六番目を背後から首根っこを掴み、そのまま勢いよく床に叩きつけて押さえ込む。

 相手の容姿や性別等一切関係なく、容赦しないその扱いにフェイリヤたちは思わず青ざめる。

 だが、そんな周りの目など気にしないマシンは六番目に告げる。


「既に時代は変わった。組織の調査実験は既に中断されて、この星から離れている。お前の役目も無い。このままもう一度眠れ」

「……あなたは……」


 すると、マシンに乱暴に取り押さえられている六番目だが、特に痛がる様子は見せず、それどころか自分を押さえつけるマシンを見て……


「……超高速戦闘機能型サイボーグ……『ターミニーチャン』……ナグダ国家創生及び大魔王含めた対外抵抗戦力用に作られた、旧式の大量生産機……記録上全て廃棄処分されているはず……」


 顔見知りではないが、どうやらお互いのことを知っていると思われるマシンと六番目。

 それどころか、六番目はどこかマシンのことを見下しているかのような言い方であった。

 そして……


「いずれにせよ、番号なしの大量生産機では、私に敵いません。磁場操作・斥力発生」

「むっ!?」


 六番目が目を見開く。すると、上から六番目を押さえつけていたマシンが引き剥がされ、天井に勢いよく激突した。


「ちょ、ま、マシンさん!?」

「げ、う、うそ!? ジオくんとマシンくんが、い、一瞬で!?」

「なんなんだ、あの女の子は?!」


 ジオに続き、マシンまでふっ飛ばされる。

 その想像だにしなかった事態に、誰もが驚きを隠せないでいた。


「ほほぅ……やりおるわい」

「あなたも、とばします」

 

 続いては、ガイゼンを。そう言ってガイゼンに身構える六番目に、ガイゼンの笑みは止まらない。

 だが……


「あーあ……いてーじゃねぇか、オジョーチャン……」

「ッッ!!??」


 その時だった。突如、六番目が慌てたように後方に飛び退いた。


「……? ……なにが……」


 まるで逃げるように飛び退いた自身の行動に、自分でも驚いている様子の六番目。それは、ガイゼンから逃げたのか? 

 いや、違う。


「ガキ相手に、抉ったり、内臓破裂させるほどボコるわけにはいかないが……ちょっと、遊びじゃすまねぇ力を振るわれたら、お兄さんも少し怒っちまうぞ? ……あ゛?」


 それは、壁に激突して瓦礫に埋もれたが立ち上がり、場を覆いつくすほどの禍々しい闇を纏ったジオ。


「ちょっと泣くぐらいの、お尻ペンペンでもしちまうぞ、ゴラ」


 そのジオの姿を見て、そして闇を感じて、六番目は自身の意思とは関係なく飛び退いてしまったのだ。


「やはり、高性能だな。思考ルーチンも……自分のような旧式と違って素直だ」

「……ターミニーチャン……」

「お前が感じているソレは……人間の言葉で、『恐怖』というものだ」


 そして、飛び退いた六番目に対して、天井に打ちつけられたマシンも何事も無かったかのように立ち上がり、埃を叩いて冷静にそう告げた。


「ターミニーチャン……どういうことです? それに、あなたは先ほどの衝撃波で……」

「残念だが、お前は思い違いをしている。お前の機能が、旧式の自分よりも勝っていたのは、あくまで初期段階での話しだ」

「ッ!!??」

「自分で自分を改良改造したこのボディは……自分で壊れたいと思っても壊れぬ強度と性能を既に持っている。それを、教えてやろう」


 マシンから発せられる空気も少し変わった。冷たく、何の情けもなく、ただ目の前の脅威を取り除く心無い人形のような目で六番目を睨む。


「リーダー。やる気なところ申し訳ないが、自分が始末する。それがせめてもの情け」


 自身の両手の関節を鳴らして、珍しくやる気の様子のマシンがジオにそう告げる。

 だが、ジオは……


「は? 知るかよ。あらゆる全ての事情は、全くもって俺に関係ねぇ。いついかなる時代でも世界でも、おいたするガキを叱るのは、大人の役目なんだからよ!」


 そして……


「ぬわははははは、おいおいウヌらよ、そんな大の男が二人してかわいそうではないか。ここはひとまず……ワシがこの娘っ子を叱ってやるわい」


 ガイゼンも自分に傷をつけた六番目に興味を持ったのか、自分も手を上げる。


「くははははは、テメエがやるのが一番かわいそうだろうが」

「二人とも、やはりここは自分が……」

「知るかい。ワシだけのけ者はずるいぞい」


 気づけば、ジオ、マシン、ガイゼンの三人がやる気になって、六番目を取り囲むように見下ろす。

 三人の男に囲まれて見下ろされた六番目は、顔は無表情だが、明らかに焦ったようにキョロキョロと見渡し……


「…………危険状態……?」


 その呟きに対し、その光景を離れた場所で見ていたフェイリヤ、メイド、フラグ冒険団たちは口をそろえて……


「「「「「なんか、ほんとにかわいそうっ!!!!????」」」」」


 六番目を心から同情する声を上げたのだった。


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書籍書影(漫画家:ギャルビ様) 2022年4月6日発売

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