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第二十三話 嫌な予感

 海底都市探索。

 突如依頼された任務を気まぐれで引き受けることにしたジオたちは、自分たちのイカダをそのままに、フェイリヤたちの潜水艇に荷物ごと乗り込んだ。


「あなた、お名前は?」

「ジオ」

「分かりましたわ。では御ジオさん、しっかり働くことですわ!」

「おじお……」


 中は広く、海底の見晴らしも良く、ジオたち四人にとっても初めての海底ということもあって、興味深そうに海中を眺める。


「では、華麗に優雅に出発ですわ!」


 暗い海底の中には、小魚から大型の魚までが至る所に生息しており、徐々に潜っていく潜水艇に驚いたように魚たちは慌てて逃げていく。


「ぎゃああああああああ、ししし、沈んだ―――! 息がああああ!」

「大丈夫だよ、この船内には魔法で酸素も充満しているから。で、大型のモンスターが来た場合は、この床の扉から出て、私たちで迎撃するんだ」

「無理なんで! 無理無理! っていうか、海の中で戦うとか息ができないんで!」

「それも心配ない。私たちは海の中でも呼吸したり会話できる魔法を使える。ブツブツブ……えい! これで君も海中で……」

「あれれ~、なんか僕には魔法が効かずに無効化されちゃってるんで、僕は仕方ないからモンスター来ても留守番してるんで」

「な!? なんで!? 魔法が砕け……えっ!?」


 そんな中、唯一泣き叫ぶ男が一人いた。

 

「おま、無効化できる魔法を自分で選べるんだから、無効化されちゃったじゃねーだろうが!」

「だって、リーダー!?」

「まっ、仮にこの船がモンスターに破壊されて海の中に投げ出されてもいいってなら、別に構わねえが」

「それも嫌なんでええええ!」


 怯えて騒いで頑なにあらゆることを拒否しようとするチューニは、海の中で行動できる魔法も無効化して、自分はあくまでこの船内から決して出ないと意思表示する。

 

「えっと……」

「ああ、気にすんな。いざとなったら、このジジイが何とかするからよ」


 魔法が何故か無効化されたことにポカンとするフラグ冒険団たち。とはいえ、チューニが戦おうが戦うまいが、特に問題はない。ガイゼンも戦いたくてうずうずしているので出番も無いだろうとすら、ジオは思った。


「ま~ったく、随分と情けない悲鳴を上げますわね。臆病は空気感染すると言われておりますので、広がる前に放り出しますわよ?」

「いや、それも勘弁してくださいなんで、お嬢様」

「では来たるべき作戦の時まで大人しくしていることですわね!」


 来るべき作戦? そんなものがあると知らず、ジオたちは首を傾げた。


「作戦? どういう―――」

「決まってますわ! 華麗に突撃粉砕ですわ!」

「……あ~、シーボウ……何をやるかなんだが……」

「あ、うん、とりあえず説明させてもらうよ」


 とりあえず、フェイリヤは放っておき、苦笑しながらシーボウが説明する。



「実はこれまでの探索で、海底都市ではないかと思われる場所は大体把握している。これまで潜った者たちの話では、遺跡のような場所とのことだが……」


「ほう。都市っていうから、人魚でも住んでんのかと思ったが、そうじゃないんだな」


「ああ。ただ、ソレも分からない。というのも、その遺跡のようなところまでたどり着いたが、その遺跡の内部までは誰も入れなかったそうだ。非情に厳重な扉があり、更にそこにたどり着くまでに強力な深海モンスターも居る。私たちも何度か挑戦しているが、まだそのモンスターを越えられずに苦戦していたんだ」


「ふ~ん、強力な深海モンスターか……海の中のモンスターって、そういえば戦うのは初めてかもな」



 これまで、ジオはほとんど陸地での戦ばかりをしてきた。過去に帝国海軍にも所属したことはあるが、戦闘は全て船上で行われ、海中での戦闘は経験が無いため、海のモンスターと戦うことは初めてだった。

 だが……


「ぬわはははは、リーダーもチューニも港町で少し暴れたであろう? なら、次はワシじゃ!」


 モンスターと戦う気満々のガイゼンが柔軟体操をして目を輝かせていた。

 

「まっ……俺らに出番ねーかもな」

「恐らくな」

「いや、是非とも出番を無くすぐらい大活躍して欲しいんで! 神さま、闘神様、ガイゼン様!」


 ガイゼンがやる気を出して戦うのであれば、恐らくモンスターに同情するような展開になるだろうと予想ができ、ジオたちは苦笑した。

 なら、モンスターはガイゼンに任せるとして、問題なのは……


「で、話を戻すと、その海底都市ってのは結局なんなんだ? どういうものなんだ?」


 ジオたちの疑問。そもそも、海底都市とは何なのか?


「いいでしょう。教えて差し上げますわ。海底都市とは……数十年前に、ハウレイム王国の冒険家が偶然に辿り着いたと言われている伝説の地。そこには神々の御業を使う者たちが居たのですわ」


 神々の御業を使う者たち。一気に胡散臭くなったと、ジオたちは微妙な顔を浮かべた。



「そこには、この世のあらゆる場所を見通す千里眼の鏡……魔力を消費せずに遠くの人物とテレパシーできるマジックアイテム……全ての謎に答える知識の本。そんな神々のアイテムを使う者たちが、かつてそこに居たとのことですわ」


「居たとのことって……そんなの、その冒険家が嘘ついてんのかもしれねーだろうが。そんなもんを、ワザワザA級クエストにしてんのかよ、冒険家たちは」


「おーっほっほっほ! 甘々ですわね、オジオさん!」


「お、オジオはやめい」


「確かに話だけではお伽噺ですが、その冒険家……偶然そこに海難事故の末に辿り着き、神々の御厚意で地上に戻ることが出来たそうですが、その際にその冒険者の方は海底都市からコッソリと、あらゆるものを切り裂く『光の剣』や、その他にも珍しいものを何点か持ち帰っているようですの」


「……光の剣~~? 余計に胡散臭いが……」


「とんでもありませんわ! なぜなら、あの大魔王を倒した勇者オーライは、その光の剣を携えて魔王軍と戦ったのですもの!」


「ッ!!??」



 胡散臭いお伽噺が、今の一言で満更嘘ではないかもしれないと思わせるには十分すぎる情報がフェイリヤから語られた。


「ほ~、光の剣の~」

「……オーライの剣……海底都市……なるほど……」

「ん? マシン、どうしたの? なんか、難しい顔しているけど……」


 流石に、ガイゼンたちも大魔王を倒した勇者の剣が、かつてこの近海の海底都市からもたらされたものだと聞けば流石に興味が沸いた。

 特に、マシンはかつて勇者の仲間だったために実物も見たことがあるためか、何やら納得したように頷いていた。



「なるほどね。その話が本当なら、確かに面白そうじゃねえか」


「ええ、そう思うでしょう? ワタクシ、これほどの美貌と頭脳と、更には国家どころか大陸をも左右させることが出来るほどの大金持ち。手に入れられないものなど無く、どんな珍しいものを見せられても驚きがなくて、困っていましたのに、そんな伝説を聞かされてはこの目で確かめずにはいられませんでしたの!」


「つまり、お嬢様の道楽ってわけね」


「いいえ、ロマンですわ! そして、そのためにもフラグ冒険団や、あなた方も存分に働いてもらいますので宜しくお願いしますわ!」



 そう言って、クルクル回りながら劇団員のように叫ぶフェイリヤに、ジオは呆れて溜息を吐きそうになるが、一方でフェイリヤの話に中々興味がそそられて、少し楽しみになってきたのも事実であった。


「ふふ、というわけで、お嬢様の言う通り、よろしくね、オジオ君」

「オジオじゃねえって……俺は―――」

「にしても、魔族やハーフと共同戦線か……初めての試みだ。これも戦争が終わった世ならではだね」

「ん? ああ、ま~そうだろうな……」

「これも何かの縁だ。このクエストがうまくいったら、一杯驕らせてくれよ」

「……お、おお」


 そう笑顔で言われて、ジオは少し昔を思い出した。

 戦時中に同じようなことを言った仲間が居たが、その仲間は真っ先に死んだなと。


「そして、改めて宜しく。私は、フラグ冒険団のリーダーで、カクティ家の次男。シーボウ・カクティだ。得意は剣。よろしくね!」


 一旗上げてやると決意を込めて設立された、フラグ冒険団。

 シーボウが改めて自己紹介すると、シーボウに続いて他のメンバーたちも気さくに挨拶してきた。



「俺は、ワイーロ王国の男爵家……サーツ家のシユン。シユン・サーツだ! 王国でも俺の槍に勝てる奴はそういないぜ? これでどんなモンスターも突き殺してやる!」


「僕は、ワイーロ王国のリシヌー子爵家の者です。名は、アツサって言います。アツサ・リシヌーです。戦争には出ませんでしたが、弓の腕前にはかなりの自信があります」


「私は、代々ワイーロ王国に仕える魔法研究家のニマース家に生まれ、今は見分を広げるために冒険家をしています、スグーシーと言います。スグーシー・ニマースです」



 一緒に頑張ろう。そう言って、爽やかに笑うフラグ冒険団。

 なら、ジオたちもフルネームを名乗らなければと自己紹介しようとしたが、シーボウは薄暗い窓の外を感慨深そうに見ながら、ボソッと呟いた。


「そう……頑張って……帰るんだ。故郷に必ず」


 そう真剣に呟きながら、シーボウは胸元にぶら下げているペンダントをギュッと握り締めた。


「ン? それは?」

「ああ、これは……私の恋人から貰ったお守りだよ」


 そう言って、色鮮やかな装飾の施された石のペンダントを、シーボウは誇らしげに見せてきた。


「このクエストに挑む前に貰って、約束したんだ。私はこのクエストが終わったら、故郷に帰って彼女と結婚する予定なんだ」

「そ、そうか……」


 ジオはまた思い出した。全く同じ事を言って、アッサリ死んだ仲間が居たことを。

 すると、そんな惚気るシーボウの後ろから、他の仲間たちも得意げに話してきた。



「帰りを待つものが居ると、人は強くなるっていうからな、シーボウ。ちなみに、俺はもう結婚していて、妻が留守番しているんだが……実はもうすぐ子供が生まれるんだ。生まれてくる子供が誇れるような父親になれるよう、このクエストは絶対に達成してみせる!」


「僕だって、今度娘の誕生日なんだ。なかなか家に帰ってやれなかったから、デッカイプレゼントを持って喜ばせてやるんだ!」


「これも何かの縁だ。このクエストが終わればあなたたちも私たちの故郷に遊びに来たらいい。そのときは、国でも評判の私の妻の手料理を御馳走するよ!」



 剣士のシーボウ・カクティ

 槍使いシユン・サーツ。

 弓使いアツサ・リシヌー。

 魔法使いスグーシー・ニマース。

 各々がこのクエストを達成して、故郷に帰ってやると意気込んでいた。


「…………」

「リーダー? どうしたんで?」

「い、いや……なんかも~、嫌な予感しかしない」

「予感?」

「……帰りを待つものが居ると強くなる……なんか、意外とそうでもねーかもしれねぇな。経験上……」

「リーダー?」

「あ~、やだやだ。なんか、嫌な予感がしてきたぜ」


 ジオは頭を抱えて項垂れた。かつて死んだ部下や仲間が、今のフラグ冒険団と同じようなことを皆が言っていて、それで死んでいったなと。

 そんなことを思い出し、ジオは溜息を吐いた。


「そうだ、オジオ君」

「だから、俺の名前は―――――」

「今はまだ、目的の場所まで距離はあるけど、海中の動きに慣れるよう、少し外に出てみないか? ここなら、危険もないから」

「えっ、いや、ちょっと待て……」

「大丈夫大丈夫。何かあったら、私たちが助けるから。ほら、君たちにも魔法をかけておこう。これで海の中で呼吸したり、喋ったりすることができるよ」


 そう言って、シーボウは閉じていた床の扉に手を掛けて、四人とも全身に海で行動するための魔法を浴びて潜水艇から出て、次々と海の中に潜っていく。

 

「って、あ~あ、行きやがって。つか、こいつら俺が元将軍だと全然知らねーみたいだな」

「まぁ、リーダーも自分も数年前の人物であるからな」

「危なっかしい奴らじゃわい」

「あ~、僕、本当に出たくないんで。行くならリーダーたちだけで行ってね」


 そんなジオたちの呆れたようなつぶやきに、目ざとくフェイリヤやメイドたちが反応した。


「将軍? ちょっと、御ジオさん。将軍とはどういうことですの?」

「え、しょ、将軍って……えっ? えっ?」

「ああ。俺は……つか、俺らは―――」


 そう、ジオたちはまだ自分たちの素性を話せていなかった。

 そして、この話をすればフェイリヤたちも凄い驚くだろうと思いながら、ジオが自分たちの紹介をしようとしたら……


「おーい! 見てください、お嬢様! 大きく珍しい貝ですよ? なぜか、そこら辺でプカプカ漂ってました」

「お嬢様、あちらにすごく大きくて平べったい魚が居ます。でも、すごいゆっくり動いていて大人しいですが」

「おお、この小さいのは……プルプルした感触のある……海のスライムみたいですね。触手があるみたいですが……小さくて可愛いですね」

「あっちには、小魚の群れだ。あんなにたくさんいると、神秘的だ……」


 ジオが話そうとした瞬間、潜水艇の窓を叩いて外の様子を教えるシーボウたち。

 いい加減、ワザとやっているのかと、ジオが少しイラついて怒ろうとした……その時だった!



―――キシャアアアアアアアアアアアアア!!



 言葉にならぬ、海中の異変。

 巨大な貝が突如口を大きく開くと、その口の上下には鋭い牙があり、容易く人を丸のみできるほどの大きさであった。

 大きく平べったいノロマな魚が、突如殺気の篭ったような目になって、目にも止まらぬ速さで突進してくる。

 小さいスライムのような物体が巨大化して、うねった触手をいくつも伸ばす。

 小魚の群れが、その一匹一匹が肉食獣のように鋭い牙を持ち、群れで一斉にこちらに向かってくる。


「「「「えっ…………」」」」


 あまりにも突然のことで、呆然とするフラグ冒険団。

 そして、言葉を失うジオたち。


「ちょ、おまっ!?」


 何が起こったか分からないが、とにかくまずい! そう思った次の瞬間……



「「「「…………えっ?」」」」



 シーボウを飲み込もうとしていた巨大な貝が、突如粉々に粉砕された。

 大きく平べったい魚が、胴体に大きな風穴を開けて海の底へと沈んでいく。

 巨大化したスライムが、一瞬で引き千切られてバラバラになった。

 肉食の小魚の群れが、一瞬で姿を消した。


「な……え? な、にが……起こったん……ですの?」


 一瞬の出来事。流石のフェイリヤも状況が飲み込めずにポカンとしている。

 

「……おいおい……マジかよ」


 そして、ジオは呆れたように溜息を吐いた。

 ジオもまた、今、何が起こったのか一瞬分からなかった。

 しかし、ふと隣を見ると、先ほどまですぐ傍にいたはずのガイゼンが居なく、窓の外を見ると、ガイゼンが海の中で小魚の群れを両手で抱えてムシャムシャと食べていたのだった。


「ほうほう。海の中で魚を食うと、最初から塩味なんじゃな。しかし、やはりワシは生で食うより焼いて食った方が好きじゃわい」


 そう、つい一瞬前まで潜水艇の中に居たはずのガイゼンが、フラグ冒険団の危機を誰よりも早くに察知して、目にも止まらぬ速さで海中に飛び出して、深海のモンスターたちを蹴散らしたのだった。

 それは、ジオやマシンでも一瞬見逃してしまうほどの超高速での出来事だった。


「ぐわはははははは、もしワシらの中で、実は死にたいと思っている奴が居たとしたら、ワシから離れたほうが良いぞ?」


 そしてガイゼンは、未だに呆然とするフラグ冒険団やフェイリヤたちに向けて……



「ワシが仲間に入ってウヌらを守る以上、どんな死にたがりも絶対に死ねんからな!!」



 ジオがフラグ冒険団たちに感じた嫌な予感。その予感を粉々に打ち砕くほどの圧倒的な力を持って、ガイゼンがジオパーク冒険団の自己紹介を力で語った。

 その頼もしき姿に、一人腰を抜かして震えていたチューニは涙を流しながら叫んだ。


「うおおおおおお、神様、闘神様、ガイゼン様あああああ!!」


 そして、フェイリヤやメイドたち、そしてフラグ冒険団たちは、ようやくジオたちの正体を知ることになるのだった。


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書籍書影(漫画家:ギャルビ様) 2022年4月6日発売

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[気になる点] カクティさん、ヤバい御名前ですね!? どうか旗を折って下さい……\(^o^)/
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