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第十五話 選ばれた者

「なな、なんだよあれ!」

「うそ……リアジュくんのバイトファイヤが消えちゃって……」

「あの魔族たち、チューニに何したんだ!」


 百戦錬磨のジオたちですら目を見張るほど、荒々しく吹き荒れるチューニの魔力の放出。

 それを、実戦経験ゼロの学生たちが目の当たりにすれば、狼狽えるのも無理はなかった。


「み、みんな! 落ち着くんだ、今のは何かの間違いだ! 僕もちょっと調子が出なかっただけだ!」


 そんな状況の中、クラスメートたちを鼓舞するように声を上げるのは、頬に汗をかいたリアジュ。

 

「リアジュ君……」

「そ、そうだ、切り替えろ! どうせ、なんか変な何かをやったに決まってる!」

「そうだ、やってやろーぜ!」

「そうだよ、みんなで力を合わせて、魔族なんかと仲良くしているあいつをこらしめてやろうよ!」


 多少の動揺はしたものの、相手は自分たちが良く知る落ちこぼれの男。


「バイト級の魔法を使える人は前に、使えない人は後方支援だ! 僕たちが世界一のクラスだって証明するんだ!」

「「「おうっ!!」」」


 更に今は、自分たちはクラスメートたちと一緒に居る。何があっても負けるはずがない……という、願いのような気持ちを持って、生徒たちは各々の杖や掌を構える。


「バイトファイヤ!」

「風よ、不浄なる存在を切り裂け! バイトウインドッ!」

「僕があいつを足から崩す! バイトアースッ!」


 炎が、風が、大地が、様々な魔法が一斉にチューニに向かって放たれる。

 しかし……


「……これがバイト級……すごい……ちっさい」


 その全てがチューニに着弾する前に、チューニが纏う膨大な魔力に触れた瞬間にかき消されてしまった。


「なっ、……そんなっ……」

「ひょっとしたら、何かのマジックアイテムを使ってんじゃないのか!」

「そ、そうか! ありえるかもしれない。もしくは、一時的に力を増幅させるような外道の禁術とか……」

「ふん、魔族と一緒に居たらそうなっても不思議じゃない! どこまでも堕ちたようだな……あいつ!」


 誰もがチューニの身に起こっていることに驚くものの、それが「チューニ本来の力」とは誰も認めず、何かのタネがあるのだと決めつけて叫ぶ。

 一方でチューニ自身は、先ほどまで、そしてこれまでもずっと怯えていたクラスメートたちに対して、急にとても小さな存在に感じるようになった。


「これが……僕の魔法……分かる……僕の意志通りに……なんでも出来そうな気がする」


 それどころか、徐々に胸の中が高揚していることを、チューニは実感していた。

 突如身に付けてしまった、強大な力。その全てが自分のものであり、それを試してみたいという好奇心が沸き上がった。



「えっと……こうやって掌にためて……放つ! えいっ、せ、えっと、せ……天空を駆ける星々にその罪を贖え! 聖破流星弾セイクリッドバーストメテオラブレッド!」


「「「「「ッッッッ!!!!????」」」」」


「うわっ、出たッ!?」



 それは、なんの属性も付加されていない、言うなればただの魔力の塊を弾けさせる、「ただの衝撃波」であった。

 だが、チューニにとっては試しに放ってみた魔法でも、それは並の人間には立って居ることすら困難なほどの衝撃波。

 生徒たちは吹き飛ばされないように両手を前にして必死に堪えようとするが、生徒たちの制服のシャツやスカートは大きくまくれ、それどころか中には衣類が弾き飛ばされる者たちまで居た。


「ひっ!?」

「い、いやああああああ!」

「な、なんで!? ひ、いやああっ!?」

「ちょっ、ちょっと男子、あっち向いてて!」


 服を弾き飛ばされて、最も悲鳴を上げたのは女生徒たち。白や青やピンク色などのカラフルな下着姿にされた女生徒たちは顔を真っ赤にして、その場で半泣きになりながら蹲ってしまった。


「あっ……」


 そこまでやるつもりのなかったチューニも、元クラスメートたちの衣服を弾き飛ばしてしまったことに顔を青ざめさせる。

 そしてその中には……


「ひい、いやああ! なな、なんで?! 何でこんな格好に……ちゅ、チューニくん!?」


 必死に体を手で隠しながら泣き顔で叫ぶアザトー。だが、手で隠そうともそのシルクの白い下着は隠しきれず、何よりも今の衝撃でブラジャーまで飛んでしまったようだ。まだ成長著しい同級生たちの裸を前に、こういったことに免疫のないチューニは激しく動揺。


「ッ……うゥ……こ、こんなつもりじゃ……ど、どうすれば……リーダー!?」


 罪悪感で顔を背けてしまうチューニ。視線のやり場に困り、更にこの力をどう制御すればいいかも分からずに、思わずジオたちに助けを求めるかのように視線を送るが、ジオ、マシン、ガイゼンは三人地べたに座ってリラックス状態で観戦し、特に動こうとはしていなかった。


「あ~あ、脆いな。ちゃんと魔力を纏って防御しねーから、服が飛んでくんだよ。っていうか、セイクリッド……なに? ただの、ビットボールを、メガボールぐらいにして弾かせただけだろうが」

「しかし、魔法学校の制服だ。法衣で作られているはずのものをたった一つの衝撃波で飛ばすチューニの方を褒めるべきでは?」

「う~む、残念じゃのう。ワシからすれば子供過ぎてそそられんわい。やはり、人間のオナゴは熟したムチムチの三十代からじゃのう」

「おい、ジジイ、どこ見てんだよ」

「子供とはいえ、婦女子の体を卑猥な目で見ぬことだな」

「見とらんわい。見てみぃ、クマパンツ、イチゴのパンツ、ありきたりな白パンツ、どれに卑猥な感情を抱けと!? チチだってどいつもこいつも小さいわい。せめて布切れの少ない、尻に食い込んだ紐のパンツぐらい穿くべきじゃ!」

「あのなぁ、魔法学校も卒業してねぇ、十四~五ぐらいのガキが、んなもん穿いて…………たお姫様も居なくはなかったが……」

「どうした、リーダー?」

「ぬぬぬ? ほほう、思い出のオナゴの話か? 初恋か? のう、リーダーよ、ウヌの初チューは何歳ぐらいの時じゃ?」


 三人は動こうとしないどころか、むしろノンキに話をしている。

 チューニも流石にツッコミを入れてしまいそうになったが、そんなチューニの前に、クラスメートたちが叫ぶ。


「な、なにをしたんだ!? それに、女性にまでこんな最低なことを……許さないぞ、チューニくん! 貴族としての誇りに懸けて!」


 振り返るとそこには、シャツは衝撃波で飛ばされたものの、なんとかズボンだけは死守した状態の、肌を晒したリアジュが立っていた。


「いや……僕も自分でも思うようにできなくて……」

「言い訳なんて聞かない! どんな手品を使ったかは知らないが、もう僕には通用しないぞ! 所詮君がどんな外道な力を手にしようと、仲間たちとの絆で軽々とふきとばしてみせる!」


 自分たちは負けていない。いや、負けるはずないと未だに吼えるリアジュは、服を飛ばされて恥ずかしがっている生徒たちを再び鼓舞する。


「皆! あの力を、今こそ見せる時だ! 文化祭で発表して、優秀賞をみんなで取った、あの『協力魔法』だ!」


 協力魔法。そうリアジュが叫ぶと、恥ずかしがりながらも生徒たちが顔を上げていく。


「で、でも、リアジュ君、あの魔法は……先生に使うなって」

「そ、そうだよ、それに、あんなの使ったら……殺しちゃうんじゃ……」

「協力魔法!? だ、だめですよ、リアジュ君! いくらなんでもそれはダメです! チューニくんが死んじゃいます!」


 リアジュの考えに、生徒たちは顔を青ざめさせる。

 一方で、ジオたちは……


「……協力魔法? なんだそりゃ?」

「合成魔法のことではないのか?」

「ほう。異なる属性同士を組み合わせて、更に上級な属性を生み出すアレか?」


 少し興味深そうに生徒たちを見るも……


「こんな卑怯で下劣な奴にこんな目に合わされて、皆は悔しくないのかい! それに、相手は薄汚い魔族と手を組むような人類の裏切り者だ! これは、正義のためなんだ! さぁ、早く僕に魔力を! 早くしろ!」


 爽やかな表情が消え去り、イライラしたように乱暴な口調でまくし立てるリアジュに圧されて、生徒たちも戸惑いながらも慌てて掌に魔力を集中し、放出し、それをリアジュに送っていく。

 それは……


「「「なんだ。ただの魔力の受け渡しか」」」


 ジオたちにとっては、些かガッカリするような内容のものであり、そうとは知らずにクラスメートたちから魔力を受け渡されたリアジュは、増量した自身の魔力を感じながら笑みを浮かべる。



「これが皆で協力し合って開発した協力魔法だよ、チューニ君。文化祭のときに皆で協力し合って開発したこの魔法で、僕たちは賞だってもらったんだ! 君は退学したから知らなっただろうけどね!」


「は……はぁ……」


「皆から力を集めた今の僕が魔法を使えば……最強魔法・メガ級の力を使うことが出来るんだ!」



 誇らしげな表情でチューニを見下すリアジュ。そしてその発言にまたジオたちは……


「……最強魔法が……メガ級? ……あ~、そういや、魔法学校では『そういうこと』にしてたんだな。そこは、三年前と変わってねーんだな」

「魔法学校ではそうなのだな……確かに、魔法学校を卒業したからといって、全員が『そういう道』に進むわけではないからな……」

「おいおいおいおい、どーいうことじゃ? メガ級が最強とか、あの小僧は何を言っておるんじゃ?」

「ガイゼン、テメエの時代や魔界はどうだったか知らねーけど、今の地上世界じゃ、魔導士や騎士団、軍人とかそういう道に進まなければ『ソレ』に関しちゃ教えてもらえねーんだよ」

「普通に生きている分には必要のない知識だからな」

「なんと……そんなことになっておったとはの~。……そうとは知らずに、ますます道化じゃのう、あの学生たちは……」


 ジオたちは、どこか哀れんだ表情をして、リアジュを見ていた。


「め、めめめ、メガ級の魔法っ!?」

 

 とはいえ、ジオたちの反応など知らず、チューニだけはむしろリアジュの言葉に怯え切っていた。

 チューニ自身も、魔法をこれまで使えなかった身とはいえ、知識として、メガ級の魔法がどれほどの存在かは知っていたからだ。


「っ、だから……もうやめてください! みんなも、なんで止めないんですか! チューニくんが死んじゃいます!」


 そして、唯一クラスの中でリアジュに魔力を受け渡さなかったアザトーが、自分の今の格好を顧みず、チューニを助けようと割って入る。


「チューニくん、今すぐ謝ってください! 何があったか知らないですけど、もう土下座でもなんでもしましょうよ!」

「い、いや、……っていうか……あいつの方からやって来たんで……っ、ちょ、その前にあんたその恰好!」

「今はそんなことどうでもいいんです! 私、チューニくんには……チューニくんがこれ以上……だから、リアジュ君もやめてください!」


 シルクの白い下着一枚と黒の二―ソックスに黒い靴。それだけを着て、あとは裸という格好だが、今はそんな姿に恥ずかしがっている場合ではないとアザトーがチューニの腕に抱きつくような形で、必死に降伏を訴える。

 だが、そんなアザトーの姿に、リアジュは……


「あ、アザトー……何を……ぼ、僕以外の……男に……なんで、そんな落ちこぼれにいつまで抱きついてんだよ、このぉ!!」

「リアジュ君……で、でもぉ……」

「ッ、ふ、ふざけるなっ! そんな落ちこぼれのクズに何ですり寄っているんだ!」


 嫉妬。そして八つ当たりにも似たような感情が爆発したのか、リアジュはまだアザトーがチューニの傍に居るというのに、怒鳴り声を上げながら魔法を放つ。


「メガファイヤッ!!!!」

「ッ!? ちっ!」

「えっ、り、りあじゅ……く、ッいっ!?」


 その瞬間、チューニの体が勝手に動いた。

 眼前まで迫りくる、先ほどまでのバイト級を遥かに上回る、キロ級すらも飛ばすほどの力。

 横に逃げようにも、範囲が広すぎて、もう今から逃げても逃げきれない。


「お、おい、リアジュ君、なにやって!?」

「まだ、アザトーが傍に―――ッ!!??」


 人間大どころか、建物にまで匹敵するほどの大きさと、轟々と燃える炎の塊が、チューニとアザトーを包み込もうとし、チューニは咄嗟にアザトーを乱暴に自分の後ろに突き飛ばし、アザトーを守るかのように両手を大きく広げて、チューニはその魔法を受けようとした。


「ちゅ、チューニく……ン……だ、……だめえええ!」


 チューニに庇われ、思わず悲鳴を上げるアザトー。

 そしてチューニは、「これは死んだ」と、その瞬間に死を覚悟した。

 だが……



「……あれ?」


「……へっ?」



 メガファイヤは、チューニを包み込もうとした瞬間、まるで割られたガラスのように粉々に砕け散ったのだった。


「……え? な……なんで?」


 その状況は、誰もが目を疑い、そして何が起こったのかを理解できない光景だった。


「うわ~……ほんと、突っ立ってるだけで何もしなくていいなんて……便利だな、あの能力」

「完全オートか……」

「魔法使いにはたまらん能力じゃな」


 唯一その現象の意味を理解しているのは、ジオ、マシン、ガイゼンだけ。

 そしてチューニ自身、何が起こったのか一瞬分からず呆けたものの、ジオたちのノンキな会話を聞いて、ようやく理解した。


「そ、そうか……これが……魔法無効化……」

「な、……えっ? な、にが……」

「半端な魔法は僕には届かなくて……仮に届こうとしても全部無効化する……これが僕の……!」

「むこっ、えっ? な、なんだ? なにが……そ、そうか! みんな、さてはこいつを気遣って魔力を僕にちゃんと渡さなかったな!? 中途半端なことはするな! は、はやく渡せ! こんなやつ、僕らの最強メガ魔法で―――」

「すごい……今なら、思い描いたこと……なんでも出来そうな気がする!」

「ッ!!??」


 自身の能力、そして溢れる力を徐々に理解していくチューニは、


「今度は両手で! 縦横同時に地面を切り裂くようにッ!」

「な、なにをっ!?」

「混沌が描く十字の光が、え~っと、えっと……あの、ええい! 混沌魔術師乃聖十字ホーリークロスオブカオスウィザード


 両拳を突き出して、同時に縦横十字に放たれた魔力のエネルギー。

 それは、閃光と共に生徒たちを避けるように大地を容易く削り取っていき、生徒たちが目を開けた次の瞬間には巨大な十字架が大地に刻み込まれていたのだった。


「あっ、あが……そ、な、なにが……」


 それは、あまりにも桁違いな威力。

 もし仮に、今のが僅かでも体に触れていたならば、容易く手足が吹き飛び、正面から受けていれば肉体は跡形もなく消滅していただろう。

 たとえ、戦闘経験のない学生たちですら、容易く理解してしまうほど分かりやすい力。


「僕に……こんな力が……ッ!!」


 それほどの力を自らの手で放ったことに、チューニは思わず強く拳を握って、興奮を抑えきれなかった。


「う、うそよ……な、なんなのこれ?」

「こんなの、みみ、みたことねーよ……」

「アレがチューニ? うそだ、うそだ……こんなのありえるはずがねえ!」

「そうだよ、だ、だって、この魔法、な、なんの魔法か知らないけど……明らかに私たちのメガ級よりも……」

「そんなはずは! ちゅ、チューニのやつが、め、メガ級の魔法を使うだなんて……」


 自分たちの知る最強魔法でもある、メガ級をも上回る威力の魔法。

 しかし、そんな力を、ましてやチューニが放ったことをどうしても認めることのできない生徒たちは、腰を抜かしながらも必死に現実を否定しようとする。

 だが……

 

「魔法における最強基準である『メガ級』ってのは、あくまで『学生』と『一般人』までの話だ」

「えっ!?」


 その時、地べたに座ってノンビリ観戦していたジオから、戸惑いを隠せない学生たちに向けて告げる。

 ジオの言葉に思わず顔を上げた生徒たちに、ジオは彼らも、そしてチューニ自身も知らなかった衝撃の真実を語る。



「まぁ、俺も軍人なるまで知らなかったが、この世にはメガ級よりもさらに上の『ギガ級』、『テラ級』なんてクラスの魔法が存在するんだ。まぁ、『テラ級以上』なんて使える奴は、世界でも数えるほどしかいねーだろうがな」


「「「「「……………えっ……」」」」」


「だから、今のチューニの技……えっと、カオスなんたら……えっと……あ~、とりあえず、今のチューニスペシャルは、ギガ級ってところだな。まともに食らえば、俺も結構ヤバい威力だな」



 知らなかった衝撃的な事実を目の当たりにし、もはや生徒たちは驚きの声すら上げられず、口を開けたまま絶句してしまっていた。

 それは、チューニ自身も同じだった。

 だが、一人だけ……


「うそだ……うそだうそだ! そんなことが……チューニなんかがそんな……だ、だいたい、僕たちは選ばれし者たちで……」


 先ほどの勇ましさは消え、半裸で腰を抜かしながら歯をガチガチ鳴らして震えるものの、必死に現実を否定しようと呟いているリアジュ。

 

「ぼ、僕は選ばれたものの中でも更に選ばれた者! 時代が違えば英雄になり、僕が中心となって誰もが称え、そ、そうだ、こんなのありえるはずがない! ぼぼぼ、僕は選ばれた存在なんだ! あんな落ちこぼれが、ぼ、僕より上なはずがない!」


 こんなことはありえない。ありえるはずがないと、必死に何度も否定する。

 だが、そんなリアジュに対して、ジオは嘲笑しながら……


「選ばれたって、そもそも誰に何の役割をさせられるために、選ばれたつもりだったんだ?」

「そ、それは……」

「ん……いや……やっぱ選ばれた存在なのかな? そうそう。お前らは……新たに生まれ変わって旅立つチューニの踏み台の役割として選ばれたんだな」

「ッッ!!??」


 それは、トドメのようなものであった。

 爽やかに、端正な顔立ちで微笑んでいたはずのリアジュの表情が、涙と鼻水が入り交じって崩壊し、更に……


「チューニ、餞別だ。もう一度、チューニスペシャルを見せてやれ!」

「ちょ、リーダー! 名前名前! 何その技名は何!? 僕の技はもっと……でも、まあ! リーダーのリクエスト通り、もう一度見せるぐらいなら……」


 腰を抜かすリアジュの前に立ったチューニは、ジオに言われて再び魔力を両手に込めていく。

 その、リアジュにとっては身も凍るような膨大な魔力。そして先ほど目の当たりにした強大な威力。

 

「あ、あわわ、あば、あ、あうあ、あ…………」


 それを、今度は間近でされたため、リアジュは恐怖のあまりにその整えられていた金髪もみるみると白く染まり、髪も数本パラパラと抜けて地面に落ちていく。


「っそ、そうだ、チューニくん! も、もう遊びはこれぐらいにして、皆でパーティーでもしようよ! ぼ、僕が好きなだけ奢ってあげるよ! ほら、僕たちは友達だったじゃないか!」

「両拳というより……両腕に力を溜めるようなイメージで……」

「あ、あああ、そ、そうだ! 僕のコレクションの一人で、簡単にヤラせてくれる娘がいて、しょ、紹介してあげるよ! 僕にベタ惚れで、僕に嫌われないためなら何でも言うことを聞く女の子だから! なんだったら、君にあげるよ!」

「すごい魔力を込めているはずなのに、僕の中にある魔力が減っている気がしない……これ、連発でも打てるかも」

「わ、分かった! も、もう、アザトーのことも君にあげるよ! アザトーなんて、僕のコレクションに加えられたらと思ってただけで、まだ摘まみ食いもしてないから、君も嬉しいだろ!」

「それに……アレがギガ級? すごい威力だったけど……多分……もう少し威力も上げられそうだ」

「お。おい、みんなも何やってんだ! 早くみんなで友達のチューニ君に何か言ってあげようよ! 女子も! そ、そうだ、女子は皆でチューニくんに再会のお祝いでヤラせてあげなよ! そ、それがいい! は、お、おい、早くしろよおおぉお! 早くクサレマ〇〇をさっさと出せヨォォぉお!」


 気付けば頭髪を失い、失禁してしまうほど壊れてしまったリアジュは、それでもどうにかチューニの機嫌を取ろうと、必死に崩壊した笑顔を見せていた。

 しかし、チューニの心にはリアジュの言葉など届かない。

 チューニはただ溜め込まれた魔力をもう一度発散するため、今度は十字ではなく、両手を合わせて一直線上に……


「暁の女神が下す神罰に飲み込まれろ……極光空間消滅砲オーロラディストーション!!」


 空間すら歪ませるほどの濃密に収縮された魔砲撃を、空に向けて放った。


「……えっ……あ……へっ?」


 ぐしゃぐしゃになった顔のまま呆然とするリアジュ。

 その上空では、チューニの放った魔砲撃によって辺り一帯の雲が吹き飛んでいた。

 雲に遮られぬ太陽の光を全身に浴びるチューニの瞳には、もうリアジュも、クラスメートも、そしてアザトーも映っていなかった。 

 今まで陰鬱な表情と空気ばかり発していたチューニとは打って変わって、どこか生まれ変わったかのように清々しい表情をしていた。

 そう、それは世界に新たなる大魔導師が生まれた瞬間でもあった。


「ハッピーバースデイ、チューニ。そして……ようこそ、ジオパーク冒険団に」


 そんなチューニの心境を察してか、ジオがケラケラと笑いながらそう告げると、チューニは少し照れくさそうにしながらも……


「まぁ……自分が一番弱いことには変わりないんで、あんまイジメないと約束してくれるなら……入ってもいいんで……まぁ……よろしくお願いしますなんで」


 その瞳はもう、過去ではなく、ずっと前を見ていた。

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書籍書影(漫画家:ギャルビ様) 2022年4月6日発売

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