第百四十五話 更なる出会い
勇者オーライに関することを含めて、未だ魔界が知らない地上世界で起こった真実を語る。
そのためには、キオウも交えて話をする必要があると提案するマシン。
まるで状況を理解できず、更には自分の婚約者にもなるオーライに関する只ならぬ予感に弱々しい表情を見せるクッコローセ。
だが、兵たちの手前でいつまでも座り込んでいるわけにもいかず、クッコローセは一部の兵たちと同行のもと、ジオパーク冒険団を連れてキオウが幽閉されている、旧魔王軍の監獄施設に足を踏み入れた。
その際、もう一人同行者がいた。
それは、王都で大暴れした超S級の賞金首にして五大魔殺界の一人であるジャレンゴクだ。
「喧嘩は友情を育むための一つのコミュニケーションだって僕も知っている……互いにズタボロになるまで喧嘩して、認め合い、そして最後は分かり合う! 熱いよ、いいじゃない。僕、一度そういうのやってみたかったんだ~。だから、よろしくね、君たち」
ジャレンゴクのジオパーク冒険団入団宣言。
そんなことは無視して、どちらにせよ賞金首であるジャレンゴクもこれから監獄に入れようというのに、ジャレンゴクは一人嬉し楽しそうにはしゃいでいた。
「あ~、次はロマンを探求する冒険者になるのか~、楽しみだな~、しかも真の友達……真の仲間と一緒なんだから楽しいに決まってるよね?」
「決まってないんで!!!!」
そして、そんなジャレンゴクの入団に真っ先に声を上げて反対したのはチューニだった。
「いや、ほんと勘弁なんで! ジオパーク冒険団はメンバー募集してないんで! そもそも、まずあんたはこのまま大人しく捕まって、罪を償うのがいいと思うんで!」
「おっ、すごいや! やっぱりジオパーク冒険団は少数精鋭! っていうことは、入団にはテストが必要なの? うん、いいよ、やろうやろう! 僕、頑張るよ!」
「テストとかないんで! あなたは牢屋の中で大人しくしていて欲しいんで!」
捕縛魔法で力も魔力も封じられ、全身を鎖で縛りあげられて兵たちに連行されるジャレンゴク。
だが、まるで捕まっている様子を感じさせず、これから監獄に入れられるというのに、これからの冒険のことを楽しそうに想像していた。
「で……実際に、どうするんじゃ? リーダー」
「いや……俺は嫌だぞ……こいつ、危なすぎだ……。危険だ危険だと周りから言われ続けてたマシンと違って、ほんとにヤバい奴だしな」
「確かに、色々と常識や思考がまるで理解できないという点では、自分も危険だと思う」
ジャレンゴクとチューニのやりとりを見ながら、実際にジャレンゴクの入団をどうするのかと話し合うジオたち。
どちらにせよ、チューニ同様に自分たちもあまり気が進まないというものだった。
「くっ、何をノンキに……ジャレンゴク、貴様は死刑か、ほぼ半永久的に投獄される身だと分からないのか?」
そして、ジャレンゴクが楽しそうにしていることに舌打ちするクッコローセ。
「うん、とりあえず一回だけ監獄に入ってあげるよ。臭いメシって、ほんとに臭いのか、せっかくだし一度は食べてみたいと思ってたんだ~」
「くっ、貴様あァ!」
これまでのことや、これからのこと、更にオーライに関することで色々と冷静で居られないクッコローセは、ジャレンゴクに強く当たる。
しかし、ジャレンゴク本人はまるで意に介していない様子。
「あ~、楽しみだな~、やることいっぱいあるな~。まずは、臭い飯食って、あと忘れないうちにクラスの奴ら今度全員の四肢と生皮剥いでおこう♪ で、そのあとセプちゃんとか、組織の奴らの臓腑をくり抜いて、そこから皆とロマンを追い求める冒険だね!」
「リーーダーー、この危険人物を入団断固拒否して欲しいんで! ガイゼン、いざとなったら力ずくでぶっとばして欲しいんで!!」
薄暗い監獄に盛大に響くチューニの嘆願。
しかし、その気持ちをジオもよく理解でき、正直ジャレンゴクの入団は「ないな」と頷いていた。
「くっ、どいつもこいつも……本当に男というのは……オーライ以外の男なんて……」
「いや、その男こそが自惚れてのぼせ上って、クソ男に成り下がった野郎だろうが」
「くッ、暴威の破壊神! き、貴様……」
そんな一同の様子を更に不機嫌な様子になるクッコローセ。
だが、その語尾は弱々しく、そして逆にツッコマれることになる。
「だいたい、お前とキオウは兄妹なんだろ? なんで、実の兄をこんな監獄に?」
「くっ、黙れ! 私は……魔界の命運を懸けた戦時中に、自分勝手に家を飛び出して遊んで生きていたあんな男を、兄だと思わん! そんな男がいきなり……オーライのことをあんな風に言うなど……信じられるか……」
確かに、とジオもそこは納得するしかなかった。
自分たちとて、実際にその現場に居合わさなければ、勇者オーライの本性を知ることは無かった。
仮に、その場に居合わせなくて、人づてて「勇者オーライは実はこんなやつ」と教えられても、それは勇者を乏しめて魔界との関係を壊そうとする誰かの策略だと思っていただろう。
「くっ、私は……今でも信じられない。オーライが『そういう男』で、私との結婚も……信じ……られない……結婚の報告だって昔の旧友含めて既に何千何万にも……教えて……だから信じられん! 私は、私の愛した男を……信じ……信じたい……オーライは兄が言っていたような男ではないと……」
それは、「信じる」という断言でなく、「信じたい」という願いにも似たようなものになっていた。
すると……
「ぬふふふふ~ん、幸せいっぱいだったはずの同志が、ず~いぶんと浮かない顔してるじゃな~い♡」
「「「「ッッ!!??」」」」
その時だった!
「大体、男がどうとか、女がどうとか……あんたはほんと~に細かいこと気にしすぎなのよ~ん……クーちゃん?」
突如、野太く、それでいてべっとりとした声が響いた。
それは監獄の中を進む一同が通り過ぎようとしていた、とある牢屋の中から聞こえた。
思わず、一同がその声に振り返り、そして衝撃を受ける。
そこには、両手足を巨大な鎖で厳重にグルグル巻きにされて縛られた、異質の存在が居たからだ。
「ッ、な、こ、こいつは?!」
「……ほう……できるのう」
「この魔族……確か……」
「ちょ、ば、ばば、バケモノ!? でか?!」
「へぇ~……大物だ~、僕も初めて見るな~」
まず、恰好から衝撃だった。
網タイツに黒いレオタードという非常にセクシーな服装でありながら、姿は巨漢。
肌は色黒く、巨大な口に、スキンヘッド。
頭部にチョコンと小さな耳二つ。
巨大な口には真っ赤なルージュが塗られ、その巨大で逞しすぎる手に、カラフルなマニキュアが塗られている。
「「「「「オカマのカバ??」」」」」
巨大なカバの獣人。その体躯はガイゼンより大きく、カイゾーと同じぐらいだった。
「んまぁ、失礼ねい! 誰がオカマよ! 私は、オカマじゃないわん。ゲイでもないわん! バイよ! つまり、どっちもいけるのよん! オカマとバイの違いは分かるかしらん!?」
「「「「さ、さあ……」」」」
巨大な顔をむくれてより大きくさせながら怒る怪物。その衝撃にジオたちも少し戸惑っていると、イラついていたクッコローセが怒鳴り声をあげた。
「くっ、うるさい! 貴様も黙っていろ! かつての同志とはいえ、今の貴様は犯罪者なんだ! 大人しくしていろ、オカーマンッ!!」
オカーマン。それがその怪物の名前。
「やっぱり……」
「ほう、確かその名は……なるほどのう」
「この者が例の……ジェンダーフリー将軍……」
「ひいいいい、こんな所にまた七天がー!?」
「あは、確か4位の人だ~」
ジオもその名前を聞いて「やっぱり……」と呆れたように呟く。
そう、通り過ぎようとした牢屋の中に居たのは、クッコローセやカイゾーと同じ、かつて七天大魔将軍としてその名を轟かせていた存在。
そして……
「ん? クンクン……ちょっと、そこの半魔族ちゃん!」
「ッ!?」
オカーマンは鼻で何かを感じ取り、目の色を変えてジオに向かって叫ぶ。
「お、おお、俺か?」
「なんじゃ、リーダーの知り合いだったか?」
「かつての戦場で?」
「え、そうなの、リーダー!?」
かつての宿敵か? という表情でジオを見る仲間たちだが、正直ジオはオカーマンの名前は知っていても、直接戦ったことがないので知らなかった。
だが、オカーマンが反応したのは過去の因縁云々ではなく……
「どういうことなのん!? あなたの……くんくん……間違いないないわん! あなたの股間から、私の可愛い可愛い娘のギヤルの匂いがするわん! どういうことなのん!!??」
「……あっ……」
そして、ジオは「そういえばそうだった……」と思う一方で……
「って、何で股間限定!? しかも、心当たりは数日前なのに!?」
「ちょ、数日前?! しかも心当たり!? ど、どういう……ちょ、どういうことだクラアアアア! 私の娘に何しやがったゴラァァァァ!!」
思わずツッコミ入れたジオに対して、監獄が吹き飛ぶのではと思えるほどの強烈な怒号が飛んだ。
いつもお世話になります。
さて、宣伝ですが6月10日に2巻目が出ます。
今回は下記のような表紙になってます。
リーダーの右に居る女と、左上に居るのは・・・果たして誰でしょうかね?
今回もイラストレーター様は、市丸きすけ様です。
作者の要望に応えて下さり、白スク水姿のセクちゃんも書いていただきました。
いつか、そのキャラデザ絵も上げようかと思います。




