第百四十一話 ただ愛のために
愛する男のために。
そう吼える女……クッコローセは味方のほとんどが血に塗れて這いつくばっても、果敢にジャレンゴクへ立ち向かう。
「で、俺らはどうする?」
「あの、七天の娘を助けてやるのが、あやつの兄との約束じゃろう?」
「いや、ほんとこの争いには加わりたくないんで……あれ? マシンは?」
今のところ傍観しているジオたち。
そのとき、マシンが居ないことに気づき、辺りを探していると、マシンは少し離れた場所で何かを凝視していた。
それは、ジャレンゴクが使おうとしていた、魔水晶。
「……もしもし?」
『ん? ヘーイ、アナータは誰デースカ? ボスのお友達ィ? あ、ちょっと待ってくダーサイ! 今、ワターシはズッコンバッコン中デース!』
「…………」
『アナータも、ワターシとファイトしたーいなら、夜にワターシの部屋に来ナーサイ。おもちゃになってあげマース♡』
魔水晶に映る女は、水晶の向こうで「一戦交えている最中」のようで、会話は付き合うものの、マシンの顔すら見ていない様子。
そのことにマシンは怪訝な顔をしたまま溜息を吐いている。
その様子が気になるジオたちではあったが……
「うおおおおお、将軍を援護しろ!」
「負傷者をすぐに遠ざけろ!」
「遠距離から魔法で攻撃できる奴は休まず打て! 効かずとも、少しでも奴を怯ませるのだ!」
「今こそ、俺たち新政府軍の存在を示すとき!」
やはり、今はこちらの方をどうするべきかである。
「あ~あ……次から次へと……邪魔だな~……殺さず解体するのも面倒なのにな~」
指揮官であるクッコローセの劣勢に、援軍で再び数百人近い武装した兵たちが押し寄せる。
不死身のジャレンゴク相手に物量戦を仕掛ける気である。
ウザッたそうにするジャレンゴクもまた、容赦しない。
「焦熱地獄!」
相手の意識を断たず、死なせず、それで居て痛覚を味わえるようにギリギリの加減をした熱の魔法。
兵士たちがもがき苦しみながら黒ずんで、焼けた匂いが充満する。
「くっ……おのれぇ!」
「アハ、また来ちゃったね、野蛮女」
「くっ、黙れ! よくも仲間を……許さん!」
胸当てを外され、豊満な胸が解禁されたクッコローセ。
最初は恥ずかしさで顔を赤らめながら、腕で胸を隠していたが、今はそんなことを言ってられない。
胸の一つや二つ構わないとばかりに、怒りに任せて斧を振り回す。
「まあまあデケーな……」
「硬そうじゃが、良い形じゃ。ほうほう先端も色づきがよく、さらに興奮して突起しておるわい」
「……でも、カッコいい。なんかここまで来ると、エロいというより……戦う女って感じがする」
男ならその胸に目が行くのは当然のことであり、ジオたちはまるで査定するかのようにシビアな目でクッコローセの胸を見た。
だが、それはそれとして……
「くっ……仲間のため、愛のため、人類と魔界の未来のためにも、私は負けられん!」
「あ~、熱苦しいな~もう。今度は凍えちゃえ! 極寒地獄!」
「くっ、想いの熱さで溶かしてくれる!」
格好は置いておき、クッコローセの力は見事にジャレンゴクと真っ向からやり合えていた。
そこは、七天大魔将軍の名にふさわしいものであり、ジオたちもそのことは感心したように眺めていた。
「へぇ~、なになに? そんなに勇者と結婚するの力に入るの?」
「くっ、馬鹿にするな……人を愛することで得られる無限の力をお前は知らないんだ!」
しかし、その愛のために……という件が、やはりジオたちを悩ませた。
「アレは……この私が、オーライたちに敗れて投獄されたとき……」
「「「って、語るのか!?」」」
そして、そんなジオたちの想いや、全ての真実を知らずにクッコローセは語る。
『くっ、殺せ! 命乞いはしない!』
『それはできないよ。君はここで死ぬべき運命ではない。君にはまだやってもらいたいことがある』
『くっ、ふざけるな! 誰が人間なんぞの言うことなんて聞くか!』
『人間も魔族も関係ないさ。それに、君みたいな美しい女性の命を取るなんて、僕にはできないよ』
『くっ、う、うな!? う、美しい……こ、この私が……』
『ああ。僕は君と手を取り合いたい。クッコローセ……どうか、新世界のため、僕に協力してもらえないだろうか?』
『ポッ///』
その時の情景を熱を込めて語り出したクッコローセに……
「あの時のオーライの心に報いるためにも、私は……」
「「「なんつー、ちょろラル!!??(注:ちょろいジェネラル)」」」
ジオたちは泣きそうになりながら、呆れた。
「君さ~、ほんとムカつくね。そんなことのために魔王軍を降伏させちゃったんだ~」
「くっ……なにを!? それだけではない! あのとき、もはや戦の勝敗は決していた。魔族の絶滅よりも、人と手を取り合って共存する未来を私は選んだのだ!」
「都合よすぎじゃない? 君、かなり馬鹿そうだし、騙されてるんじゃない?」
「くっ、ふざけるな! あらゆる不幸や別れを経験し、誰よりも疑り深くなって修羅の道を進んでいたこの私が信じた男だ! それを愚弄するは私を愚弄すると同じこと!」
そんな状況下でも、クッコローセとジャレンゴクの攻防は続く。
一つ爪で大地を抉り、一振りの戦斧で強烈なかまいたちも吹き荒れる。
そして、ジャレンゴクは……
「あ~、もう。じゃあ……嫌がらせしちゃお……幻惑地獄!!」
「くっ、これは!?」
ジャレンゴクがまた新たなる地獄魔法を発動させる。
どす黒い霧がクッコローセを包み込み……
「くっ、ぐ、う、うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!??」
頭を抑えながらクッコローセは発狂……が……
「くっ、なめるなぁ!」
「あら?」
すぐに、瞳を大きく見開いて、唇を噛み切り、血涙を流しながらもその黒い霧を振り払った。
「へぇ、僕の幻術を解くなんて……やるじゃん」
一瞬乱したものの、すぐに正気に戻ったクッコローセに、ジャレンゴクも少し感心したように言葉を漏らした。
だが、クッコローセは今の一瞬で激しくやつれたような表情を見せながらも、すぐに笑みを浮かべて睨み返した。
「くっ……確かに恐ろしい幻術だったな。しかし、あまりにも非現実的すぎてすぐに幻だと分かった」
「あら、そうなの? ん~、難しいな」
「くっ、何を飄々と。この私にあのオーライが『腹黒い』、『女たらしクソ野郎』、『実は弱い』、『卑怯な手を使う』、などの光景を見せて私を発狂させようとしたみたいだが……あんな偽者に惑わされるほど、私も弱くは無い!」
「そーなんだ……まぁ、僕も勇者をあまり知らないから、テキトーにやったけど失敗だったな~」
「くっ、……その通りだ。失敗だったな。幻とはいえオーライを貶めるようなことをよりにもよってこの私に見せたのだ。下らぬ嘘でオーライを中傷した血のつながった兄すら先ほど投獄した私だ。貴様……ただで済むと思うな!」
立ち上がり、疲弊しきった状態でありながらも眼光だけは強く鋭くしてそう吼えるクッコローセに……
「……なあ……どうする?」
「色々と不憫じゃ……真実をどうやって伝える? アレは、信じんぞ?」
「それより……キオウ……来ないと思ったら、捕まってたんだ……」
愛を叫んで戦うクッコローセを、もうどうすればいいかジオたちも分からなかった。
いつもお世話になっております。
少しこの場を借りて、二つほど報告です。
1.本作の2巻を出して戴けるようです。
こういう追放モノは小説家になろう内ではウケても一般的には厳しいだろうなとシビアに思っていましたので、素直に嬉しいです。近いうちに、フェイリヤたちを解禁できればと思います。
2.新作始めました。ご興味持っていただけましたら、下のリンクから遊びに来てください。
この物語は10万字以上のストックありますので、「新作初めてこっちの更新疎かになる」ということはしませんので、こっちの更新は普通に続けます。
よろしくお願い致します。




