第百三十九話 本領発揮
「おい……お前が驚くってのは……たいていが同じ理由だ」
マシンの動揺を見て、ジオはこれまでマシンと出会って感じた法則のような物を口にした。
それは、これまで一緒に旅をしていたガイゼンとチューニも分かっていること。
「……で? アレ関連か?」
「ッ……」
ジオの問いにマシンは難しい顔をして少し顔を俯かせる。が……
「分からない」
「は?」
「ソレ関連……確かに自分は一瞬それが頭に過った……だが、分からない」
マシンにしては要領を得ない返答だった。
「何故なら……自分はソレを知らない。正直……この世界に存在するものは……セックストゥム……セクが最後だと思っていた」
「……セク?」
「ああ……だから、ソレの存在を自分は知らない。だから、自分も戸惑っている」
何とも言えないとハッキリとしないマシン。それはマシンでもまだ答えが出ていないことを意味する。
言いようのない不気味さをジオたちも感じ、思わず空気が重くなる。
だが、そんな空気をまるで気にせず、魔水晶を使ってジャレンゴクが声を発した。
「もしもーし。もすもーす。セプちゃん居る~?」
大型組織のボスとは思えないヘラヘラした様子を見せながらどこかの誰かへ話しかけるジャレンゴク。
すると、魔水晶も呼応するかのように発光する。
だが……
「くっ……下がれ、民衆共!」
「「「「捕縛魔法展開っ!!」」」」
それは、突如として起こった。
「あるえ?」
「「「「!?」」」」
突如響いた声とともに、ジャレンゴクの足元に魔方陣が浮かび上がる。
危機感なく首を傾げるジャレンゴクと、思わず距離を取るジオパーク。
すると……
「お、あれ、おお、なんで~?」
ジャレンゴクの足元の魔方陣から触手の様なモノが伸び、ジャレンゴクの四肢を拘束した。
「あ?」
「なんじゃあ?」
「これは……」
「ひい、な、なんなんで!?」
突然のことでジオたちも理解が追いつかない中、広場に多くの気配が集い……
「くっ、なんということだ……若き学生たちが血に塗れ……くっ、貴様に心はないのか! ジャレンゴク!」
現れた多くの魔族たちは黒い甲冑を身に纏った多様な魔族。
その鎧はかつてジオが戦場で何度も見た鎧と同じ。
そして、その先頭には一人の女が居た。
「くっ……だが、貴様の悪行もここまでだ! 禁断異端児・ジャレンゴク! 魔界の平和のため、貴様を捕縛する!」
浅黒い肌。頭部から伸びる二本の角。
露出の多い鉄製のビキニアーマーを纏い、露になっている肌からは引き締まった肌が見える。
色気のある格好とは裏腹に、女が歴戦の戦士であることを感じさせる肉体と、その鋭い眼光は相手を射殺すようである。
「あいつは……」
ジオも思わず目を見開く。その女をジオも……
「あ゛~……もう、なに? なんなの?」
だが、その時だった。
「僕さ~……目的がある場合はイジメられたり、殴られたりするのは我慢するよ~? あとで、ざまあしたいとか、友達との熱い喧嘩とか……でもさ……」
集った兵たちと女たちが場を占領しようとしたとき、急激に場の空気が冷たく張り詰めた。
それは、捕縛魔法にかけられたジャレンゴクから。その身は拘束されたまま。
だが……
「不意打ちとか……9.9割殺ししちゃうぐらい、ムカつくんだけど? ねえねえねえねえってばっ!!」
溢れる怒り。それは正に……
「こ、これは!」
「な、なんという力……100人がかりの捕縛が……」
「ひ、引き千切られ……」
集った数百人の兵たちは、登場して早々に動揺し始め……
「君らは~……死刑手前ええええええええええええ!!!!」
竜の逆鱗に触れた。
その咆哮と共に、ジャレンゴクの肉体が変化していく。
「ちょっ!?」
「……ほう……」
「……なるほど……異端か……」
「なんかすっごいのが!?」
暗黒に包まれた魔界の空は地上世界の夜のような色。
そんな、暗黒の世界から黒い瘴気のようなものが降り注ぎ、ジャレンゴクを包み込んでいく。
「笑わせてくれるよね? 僕をここまでおちょくってくれるし? だから、今度は僕が与えてあげるよ? 魔の深淵と恐怖の極みをね!」
腕だけがドラゴンのモノだったはずが、気付けば両足も衣服を突き破り変異していく。
「くっ!? しま……まずい! あいつは……総員、心せよ! これは、我ら魔界新政府軍最初の戦いだ!」
「ハハハハハハッ! 壊れちゃえ! 漆黒の闇で世界を覆い、絶望と恐怖の音を奏でて、殺戮と狂気に狂っちゃえ!」
闇の衣がより大きく、深く、そして不気味にジャレンゴクを覆う。
その中から、血に飢えた巨大な怪物の笑みと、満月に光る巨大な瞳が見えた。
それは、正に世界を破滅に導くバケモノ。
「あ……嗚呼……お、おしまいだ……僕たちは……なんてやつを……イジメて……」
「やだ……許して……助けて……許して……」
異形の魔族ですら恐怖する、異端の存在。
ジャレンゴクがレンピンとして過ごしていたときのクラスメートたちは、もう逃げることもできず、ただ繰り返しで助けと許しを請うほど震えている。
「ば、バケモノが……」
「こ、れが……禁断異端児……」
「ひ、怯むな! わ、我々が戦わねば……だ、誰が……止める? 止めるのか? こ、こんな怪物を……」
それは、武装した魔界新政府軍を名乗る者たちも恐怖を感じないわけがない。
巨大化し、その質量で王都の建物を次々となぎ倒して踏みつぶすほどの存在。
「くっ……これが……くっ、なんと悍ましい……これが、ヴァンパイアとドラゴンの血を引く……世界最悪の混血種・ヴァンパイアドラゴンか!?」
最後は勇ましく一軍を率いてきた女すらも顔を青ざめさせる。
闇の中から現れる、巨大な黒い影。
ドラゴンの肉体。吸血鬼の牙。悪魔の翼。
そして真っ赤に染まった満月の瞳。
「くははは……ドラゴンとは何度か戦ったことがあるが……どれとも当てはまらねえな……」
「ぬわはははは……滾る……いいのう! 夥しいほどの血の臭いじゃぁ!」
「……なんと禍々しい……」
「……なんだろう……僕……急に……なんか……ちょっと漏らしたかも……」
ジオパーク冒険団すらも驚愕する、ジャレンゴクの本領発揮した姿が解禁された。
これから、一体どうなってしまうのか?
この王都は無事で済むのか?
いや、そもそもこの魔界はどうなってしまうのか?
まるで世界の終わりを告げるかのように出現した怪物に、誰もがすぐに動けないでいた。
『ボス?』
だが、その時だった!
『へ~い、ボス~、どうしマシター? 今~、ワターシはボスの部下の幹部たちと、とーってもいやらしいことしてるところデース♡』
地面に転がっていた、ジャレンゴクの魔水晶から、どこかいやらしさを感じさせる声が響いた。
もっとも、ヴァンパイアドラゴンの出現による建物の崩壊音などでその声をほとんどの者が聞こえずにかき消されていた。
『これで組織はみんなワターシに骨抜きデース……で、ボスは……? お~ワターシの計画どお……一人で新政府と戦うなんて素敵デース、頑張ってくだサーイ!』
だが、その声を唯一聞こえていた者は……
「……ッ!? この口調……この声……」
……聞こえていたマシンは……
『ソシーテ……両方潰し合ってくれてたら……最高デース♡』
「ッッ!!??」
マシンは、ただ絶句した。




