第百三十八話 意外な事実
「あ~、痛いな~、っていうかこれってもう、痛いとかそういうレベルじゃないかな~?」
生首だけで喋っている。
もう、何と戦ってるのかも分らなくなりそうな不死身ぶりにジオも呆れた。
「やるじゃねーか……」
「いやいや、君の方がやってくれたよね? もうね、これ、友達とのケンカのレベルなのか分らないや」
そう言いながら、ジャレンゴクの胴体は切り離された自身の首を掴み、首との切断面に乗せる。
すると、切断された肉体同士の細胞がくっつこうとしているのか、みるみる傷口が塞がっていこうとする。
「さて……どうしたもんかな……治る前に首をもう一度跳ね飛ばして潰すか……沼にでも落すか……」
「困るな~、僕、泳げないんだ~、アハ。僕が溺れたらチューニくんとか助けてくれるかな? 助けてくれるよね! 友達なんだから!」
この後、この相手と戦ってどう勝つか。呆れてはいるものの、ジオはそこまで激しく動揺はしていない。
「な、なんなんだよ、この二人……」
「こ、これが……まろうトップ10の戦い……」
「二人ともバケモンだ……」
混乱しているのは、むしろ周囲の方だった。
「で、どうする~? 続きする~?」
「テメエが泣いて助けを請うなら許してやらねーでもないぜ? じゃなけりゃ、地獄の果てまで――」
「ぇ~ン! 御願いだから、ぼ、僕を、イジメないでよ~!」
「…………」
緊迫した空気を壊すかのように、その場で泣きじゃくるジャレンゴク。だが、その目だけは歪んで笑っている。
どこまでも神経を逆撫でするものだと、ジオの眉がピクリと動く。
「ふざけた野郎だぜ。だが、面倒なやつだってのは確かだ。こんなふざけた奴に狙われるとは、クッコローセも勇者も不憫なもんだぜ」
「ん~?」
「まぁ、勇者はどうでもいいんだが、クッコローセの件は諸事情でどうにかしてやらねーといけなくなったし、悪いがガチでこの場で終わらせてもらうぜ?」
いずれにせよ、こうして敵のボスが目の前に居る以上、ここで終わらすのが最善だということに変わりない。
本来は大型組織のボスであるジャレンゴクが、どういうわけか一人で居るのだから。
だからこの場で……
「クッコローセ? 勇者? なんのこと?」
「……なに?」
と、そのとき、キョトンとした顔でジャレンゴクが尋ねてきた。
ジオは一瞬戸惑うが、すぐに声を荒げた。
「ど、どういうことって、だから! お前が七天のクッコローセを討ち、地上世界で勇者も始末しようって考えてることだよ!」
キオウから聞いた話。
全ては、ジャレンゴクが次期魔界の魔王になるための作戦。
しかし、当の本人は……
「ん~? 僕、知らないな~、その話」
「……なに?」
ジャレンゴクは演技ではなく、本心でそう言っているように見えた。
「なんじゃと?」
「なに?」
「えっ、どういうことなんで?」
流石にこの発言にはガイゼンたちも思わず身を乗り出した。
これまでキオウから聞いた話の前提を覆すようなことだからだ。
「い、いや、何言ってんだ! お前ら、邪気……なんとかって組織を動かして、お前が大魔王になるためにそうしようって話だろ?」
「邪気眼魔竜冥獄団のこと? うん、確かに僕がボスだけど……組織がどうのってメンドクサイから、運営には僕は関わってないんだ~。僕はカッコいい名前の組織のボスになってみたかっただけだし」
「……な、にい?!」
「だから、実際に僕の組織を動かしてるのは別の人だから、そいつが企んでるんじゃない?」
「「「「なにいいいいいいいいっ!!??」」」」
まさかの事実に驚きを隠せずに叫んでしまうジオたち。
「じゃ、お、お前の部下が、お前を魔王にするためにそんなことを……?」
「え~、そうなの? なにそれ? ムカつくな~、何で僕が魔王に? それってめんどくさくない? イジメじゃない?」
「……はっ?!」
「だってそうでしょ? 僕、去年学校でさ~、あんまり目立ちたくないのに、そこに転がってるゴミたちは僕を晒し者にするために、あえて僕を学級委員にして、僕の言うこと聞かないで好き放題やって困らせて……あ~、ほんとムカつくな~、その恨みも本当はもうしばらく後で晴らしたかったけど、今やっぱり晴らしちゃおうかな?」
なんと、ジャレンゴクが魔王になるための世界を左右させるような企みは、ジャレンゴク本人は何も知らないということなのである。
それどころか、そもそも……
「いや、魔王になるのメンドクサイって……お前! 野心溢れる悪党じゃなかったのか!?」
「だって、王様でしょ? ヒゲをモジャモジャ生やして、仕事ばっかで大変でしょ? そんなの僕がなりたいわけないじゃない。遊べないし」
「ッ!?」
そもそも、魔王というものになろうという意思がない。
つまり、邪気眼魔竜冥獄団を止めるために、頭であるジャレンゴクを倒すという前提がそもそも間違っていたのである。
「ちょ、テキトーなこと言ってるだけかもしれないんで、リーダー! そいつのウソに、クラスメートのいじめっ子たちも気づいてなかったんだから!」
「あは、ひどいな~、チューニくん。本気の友達にはウソを言わないよ? 僕はチューニ君たちの本当の友達でしょ?」
「ち、ちがっ!?」
チューニの言うとおり、ウソという可能性も確かにあった。
だが、このときジオは、そして……
「ウソは……ついてなさそうじゃな」
「自分もそう思える」
ガイゼンもマシンもジャレンゴクがウソを言っていないと思った。
ならば、この戦いもそもそもが無意味になる?
「じゃ、じゃあ、もしお前の組織がそういう企みしていたら、……どうするんだ?」
「え? めんどくさい。じゃあ、中止しろって言っておく?」
「なっ!?」
「クッコローセとか勇者に、今はそれほど興味ないしね~」
そして、まさかの中止にすることを口にする。
あまりにも突然の展開でジオたちもどう反応していいか分らず、互いの顔を見合ったまま絶句している。
「じゃあ、今、言っておくよ~。組織の運営任せてるやつに」
「「「「ッッッ!!??」」」」
「こういうのは……うん、とりあえず参謀の、セプちゃんに言えばいいか~……」
そう言って、ジャレンゴクは服の内側から水晶を取り出した。
それは、通信用の魔水晶。
「ま、じか? つか、組織の運営にボスがガチで関わってねーとか……大体、なんだよ、セプちゃんって」
「セプちゃんは僕の下僕だよ~。なんか、頭もいいし、言うこと何でも聞いてくれて便利だから、組織は彼女に任せてるんだ~」
「任せてるって……しかも、女かよ!」
「うん。まろうには登録してないから無名だけど……『セプティマ』っていうんだ~」
そう言いながら衝撃的な発言を繰り返し、もうツッコミ疲れて項垂れるジオ。
だが、そのとき……
「セ……セプティマだと!?」
「「「ッッ!?」」」
何故か、マシンが激しく狼狽した。
「お、おい、マシン?」
「……何かあったか?」
「ちょ、マシンが取り乱すって嫌な予感しかしないんで! なんなの!?」
マシンのそんな姿を初めて見るジオたちは、マシンの動揺に言いようのない不安を覚えた。
そしてマシンは目を大きく見開いたまま……
「……まさかな……この星には、6までしか無いはずなのだから……」
何かを振り払うかのように首を振った。




