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第百十三話 リアルタイム

 全身を鋼鉄の鱗に包まれて、雲のように大きく空を駆ける一頭の竜。

 これまでジオの人生で一度も見たことのない竜が、不意を突くように繰り出した光の柱。

 寸前で飛び退かなければ……目の前に出現した巨大なクレーターを見て、思わずゾッとした。


「……あら~……おっきいですね~……」

「異形な……そして無粋な……」

「いやいや、なんだし、あのデッカイ竜!」


 それは、賢者と呼ばれたエルフの三人も見たことのない存在であった。


「な……なん……なんだ?」


 一体何が現れたのか、状況がまるで把握できないジオ。

 すると、その巨大な竜の頭に乗って、冷たい目でジオを見下ろす一人の少女が居た。



「こんばんは……」


「お前は、確かチューニの……」



 昼間見た少女だと思い出したジオ。

 そして、エイムたちもその少女の姿に気づいた途端、驚愕した。


「あらあら……オリィーシちゃん……」

「オリィーシ」

「オリっちじゃん……いや、何で?」


 そう、十賢者1位。そしてチューニの幼馴染で、その存在をあまり覚えられていなかった可哀想な少女。

 ジオもまた、チューニとのバトルですっかり彼女のことを忘れていた。


「ジオ様。彼女は、オリィーシ。私たちの学校の後輩で……史上最年少十賢者にして序列1位の天才児です」

「らしいな、で、あのドラゴンもあの女の?」

「いえ、アレはまったく心当たりありません」

「なに?」


 エイムたちにも心当たりがないのであれば、あの巨大な竜は一体何なのだ?

 すると、少女を額に乗せている竜は、無機質な表情から突如口角を吊り上がらせ……


「ふふふふ、つれないな~、僕様のことを分からないなんて……ジオ氏は、お尻はまぁまぁだけど、頭はそれほど良くないのかな?」

「ッ!?」


 その独特な一人称。そして、唐突に出てきた「尻」という単語を聞いて、ジオはハッとした。


「テメエ……まさか……ッ!?」

「ふふふふ、その通り。僕様だよ……オシリスだよ」

「ッ!?」

「正確には……オシリスドラゴンというところだがね」


 それは、昨晩ジオとチューニが出会った、オシリス。その口調と声は間違いなく本人の物であった。

 しかし、だからこそ解せなかった。

 なぜ、そのオシリスが竜の姿をしているのかということを。


「テメエ……竜人族だったのか?」

「いや……違うよ。この僕様の姿は……竜化というよりは、『変形』 だと思ってくれればいい」

「変形?」

「そして、真の力を解放できるようになった僕様は、今はこの少女の下僕ということで、尻に引かれているんだけどね」

「なに?」

「僕のお尻を叩いて無理やり言うことを聞かせる……小ぶりなお尻の御主人様にね」


 そう言って、オシリスドラゴンが不気味に笑いながら首を少し下ろす。

 すると、オシリスドラゴンの額に乗る少女は、少し不機嫌そうな顔をしながら頷いた。


「オシリス……いいえ、クァルトゥムの命令系統を司る部位を弄らせて戴きました……以降、オシリスの自我は残りますが……私の命令は絶対服従なんです」

「な……にっ?」

「これが旧ナグダの生体兵器……神様が……私に勇気を与えてくれるために遣わしてくれた贈り物……この力さえあれば……この力さえあれば!」

「ナグダッ!?」


 思わぬ所で飛び出した「ナグダ」の名前は、流石にジオにとっても予想外だった。

 そして真っ先に思い出したのは、マシン……そして……


「ああ、言っておくけど、僕様を大量生産型のマシン君と一緒にしないでくれたまえ」

「ッ!?」

「どちらかと言えば僕様は……君たちの知っている……セックストゥムと同シリーズ……言ってみれば、セクのお兄ちゃんかな?」

「な、あ、あいつの!?」

「そう。旧ナグダの生体兵器シリーズは事故でほとんど大破したはずが、僕様は運よく生き延びて、たまたま通りかかったキスキ・ファミリーに拾われて……そして今に至るわけだけど……まさかその十数年後に妹が現れるとは思ってなかったけどね」


 自身をセクの兄だと告げるオシリス。容姿も性格もまるで似ていなかったが、ナグダ関連の存在というのであれば、このドラゴンへの「変形」という力も納得できた。

 すると、オシリスは……


「そ・う・だ♪ ちなみに、生体兵器同士は常に互いとコンタクトを取れるようになっていてね……君様は妹とも知り合いらしいし、話してみるかい? プルルルルルルルルルルルル♪」

「オシリス。私の言うことを―――」

「分かってますよ。でも、今はこの方が楽しくなると思いますよ? プルルルルルル♪」


 何やら唐突に独特な音を口で鳴らし始めた。

 巨大な竜の姿で、あまりにも奇怪な奇行をするオシリスを悍ましく感じながら、突如オシリスは瞳を眩しく光らせて……


「ふふふふ、そして僕様はこうやって通信した相手をプロジェクターのような機能でテレビ電話をすることも可能……プルルルルルルル……こうやって、月に投影なんてしちゃえば、世界中の人に見てもらうこともプルルルルルル」


『誰ですか?』



 そんな魔法、ジオどころか、十賢者のエイムたちですら見たことがない。

 この世界で遠く離れた者と話をするのに、通信用の魔水晶などを使ったりするが、月に「人の姿を投影」して話をするなど……


『ドラゴン? 誰?』


 そして、月に映し出されたのは、オシリス同様に両目を光らせながらも、キョトンとした表情で首を傾げるメイド姿のセクの顔。


「やあやあ、初めまして、セックストゥム。僕様は君様のお兄ちゃん……クァルトゥム」

『おにーちゃん? 私の兄は、マシンにーちゃん一人です』

「いやいや、マシン君は―――」


 その時だった。

 突如セクの背後からやかましい声が……


『ちょっと、セク、何をやっていますの! 急に眼を光らせて壁に……なんでドラゴンの姿が映っていますの? ッ!!?? そ、そんなことよりも!』


 どうやら、こっちでは月にセクの姿が投影されているのに対し、向こうはこちらの光景を壁に映して見ているようだ。

 そして、壁に映し出された巨大なオシリスドラゴンの姿に月の向こうの人物は驚くものの……



『ちょっ、そこに居ますのは……我がフィアンセのオジオさんではありませんの!?』


「げっ」


「「「ッッッ!!??」」」



 ドラゴンなんかより、向こうに居る人物……金髪ロールのお嬢様、フェイリヤはジオの姿に気づいた瞬間、興奮したようにセクの背後から身を乗り出した。

 そして、フェイリヤがジオのことを「フィアンセ」と言った瞬間、三人のエルフの目じりが動いた。

 しかし、そんなこちらの状況を知らず、また今の自分の姿が「月」に映し出されているため、ジオどころか「不特定多数」にその様子が見られているということを全く知らず、フェイリヤは弾ける。



『おーっほっほっほ、元気そうではありませんの、オジオさん! なるほど、そういうことですのね! このワタクシを恋しくなって、セクの不思議な力を使ってワタクシと会いたいと!』


「い、いや、まったく……つか、フェイリヤ……ちょっと一旦落ち着いてくれ。元気そうで何よりだが、今は―――」


『結構ですわ! ワタクシを愛してやまないオジオさん、それならば早くワタクシの元へまた会いに来ることを推奨しますわ! そして、数多くの花嫁修業を経てパワーアップしましたこのワタクシの力に平伏して、メロメロになるのがよろしいですわ!』


「いや、だ、だから! 今は落ち着け! 今、お前の姿は―――」


『ですから、特別サービスですわ! オジオさんが早く帰ってきたくなる必殺技を……このワタクシが披露して差し上げますわ!』



 ジオの言葉を全く聞かずに、ジオの姿を見て声を聞けたことで有頂天になっているフェイリヤ。

 するとフェイリヤは、突如身に纏っていた白い短いスカートを捲り上げ、月に……



「「「「ちょっ!!??」」」」



 黒い下着が食い込んだ、豊満なヒップをドアップで映し出したのだった。



『御覧なさい、オジオさん。あなたが実はお尻好きだと聞いたワタクシは、日々お尻トレーニングで自分を磨きあげましたわ! そして、セクの教えてくださったナグダファッションによる、超セクシーな下着……『てぃーバック』というものですわ!』


「お、おま……」」


『こ、んな姿……見せるのは、オジオさんただ一人だけですわ……光栄に思って私に足を向けて寝ないようにすることですわ!』



 脇が紐のように細く、臀部を広く露出した特殊な下着、『てぃーバック』。

 それを突き出し、顔を赤らめながらも誇らしげにお尻をプリプリと振って、ジオに誘惑するフェイリヤ。

 その光景には、流石にジオも呆気にとられ……


「……お尻? 何を仰っているのやら……ジオ殿がお好きなのは……おっぱいです!」

「いいえ、ジオ様がお好きなのは……ポルt―――」

「いや、それよりも何なん? あの残念な子は……」


 そして、どこか対抗心を燃やすかのようにジオの両脇をナトゥーラとエイムが固めた。

 その瞬間、陽気に尻を振っていたフェイリヤがハッとしたように顔を突き出し、ジオの脇を構えて睨むエイムとナトゥーラに気づいた。


『ちょっと……そこの長い耳のお二人……人のフィアンセに馴れ馴れしくありません?』

「あら~、ジオ殿がおっぱい好きだと知らないのに~、随分と愉快なことを仰いますね~」

「ジオ様が好きなのはポルチ―――」

「って、お前らああああああああああ! 言葉は選べ! つか、今の状況分かってんのか!?」


 ピリピリとした空気が、月を挟んで伝わってくる。

 ジオも本当は入りたくなかったが、三人の話題が明らかに自分のため、口を挟まずにはいられない。

 そんな状況の中、


「は、ははは……よくわかんねーけど……ジオチンはやっぱ、ジオチンチンじゃん。これ、一回話付けた方がいーっしょ……あたしが、『瞬間移動』でもして連れて来てやろーか?」


 もう何が何だか分からず、ただ呆れたようにギヤルは苦笑していた。

 そして、場の空気が予想もしない展開になり、最初は仰々しく登場したオリィーシも少し言葉を失っていた。

 だが、すぐにハッとしたように顔を上げ……



「って、あの、そろそろ話を戻させて、オシリス! 今はそんなことよりも……この人を倒して、チューニをこの街に留めて、そしてずっと一緒に居て幸せになれるようにしたいの! 私の命令を聞いて!」


「くふ、くふふふふふふふ、いや~、予想以上に面白い通話じゃないですか。もっと見てみたいですが」


「オシリス!」


「はいはい、命令には従いますよ。『御主人様が、チューニくんを独占して生涯二人でラブラブに暮らすため』のお手伝いを!」



 そのとき、オリィーシの命令に対して、オシリスは「とてもワザとらしい」ぐらいに大声で言葉を口にした。

 まるで、誰かに伝えているかのように……



『……あ゛?』



 すると、月の向こうからはメイド服のセクが物凄い低い声を出した。



 そして、その全てが現在進行形で世界中に流れていた。

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書籍書影(漫画家:ギャルビ様) 2022年4月6日発売

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