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第百十二話 団結

 どうせなら、もっと広いところで戦いたい。


 既にチューニとの戦いで広場は壊滅的で、更には酔って騒いでいる連中で埋め尽くされている。

 ならば、街から出た先に広がる野原で戦おう。

 負ければ自分を好きにしていいという、半分冗談のような提案に対して、三人は真剣に場所の移動を要求した。


「くそ……ぜえ、ぜえ……こいつら……」


 そして、結論から言えば、ジオの企み……敵の敵は味方。共通の敵を前にして、ギヤルとエイムとナトゥーラを友達にしてみようという作戦は、ある意味で成功した。

 しかし……


「ぜえ、ぜえ、ぜえ……ジオスパークッ!!」


 容赦なく繰り出すギガ級の威力を誇るジオの暗黒の雷魔法。

 本来、「遊び」では使用することはない魔法である。

 その魔法に対して……


「え~、この世の全ての色を塗りつぶす……白も闇に、黒も闇に、世界も闇に……え~、そして我は闇に同化……あ~、魔法吸収ッ!!」


 呪文詠唱用のカンニングペーパーを読み上げながらも、ジオの黒い雷を更なる暗黒の闇に包み込み、その闇を自分の体内に吸い込んで、自身の魔力に返還させる。


「ちょ、う、ウソだろ!? お、俺の魔法が!?」

「今だし! エイむん、ナッちん!」

「「承知!!」」


 女を殴るわけにはいかない。極大魔法でビビらせて、ビビりながらも互いに協力し合って自分に立ち向かってくる。そんな女たちの姿を想像していたジオだったが、女たちはむしろ果敢に攻め込んできた。


「肉体が魔に染まりかかっているジオ様には、光魔法が有効的! 刻め、穢れなき十字の進撃! ホーリークロス!」

「光の精霊よ、我が刃となり、煌きとなり、我と共に戦うために姿を現せ! 召喚魔法・光の騎士・ライトブレイダー!」


 十字に切り裂かれる光の魔法。

 光の剣を携えた輝く騎士を出現させるという、召喚魔法。

 もちろん、それらは決して「遊び」で人に向けていい魔法ではなかった。


「ちょっ、マジかよ!? ……お、俺から離れろ! ジオリジェクト!」

 

 迫り来る光の攻撃を全て弾こうと、斥力の力を解放するジオ。

 だが……


「じゃあ、それもあたしが吸い込んじゃうっしょ!」

「ちょ、お、おまっ!?」


 それすらも、ギヤルが自分の色に染めて吸い込んでしまう。

 

「じょ、冗談じゃねぇ! ま、魔力吸収って、チューニの魔法無効化くらいにヤバイもんじゃねえかよ! 吸い込んでパワーアップするとか、凶悪すぎんだろうが!」


 三人がかりでかかって来い。それは余裕からというのもあったが、仲の悪い者同士が一緒に戦っても最初は連携などが取れずにボロが出て、逆に足を引っ張り合う。

 そうなれば自分の敵ではないと思っていたし、そういった仲違いから徐々にお互いを理解していき、最終的には協力し合うような関係を構築してもらえれば丸く収まると思っていた。

 だから、この展開は予想外だった。


「おっしゃ、行け! エイむん! ナッちん!」

「攻撃は任せてください!」

「皆でジオ殿を手に入れましょう!」


 いきなり息もピッタリな連携攻撃。


「お、お前ら! 最初から仲良く出来るんだったらそうしろよな!? つか、エイム姫とナトゥーラは何でそんなに元気なんだよ!? こっちは腰も含めてメチャクチャ疲れてるってのによ!」


 自分の提案は一体なんだったのかと、ジオは嘆くしかなかった。


「今日勝って、ジオ殿とのラブラブ子作りデイズの幕開けです~!」

「ジオ殿に私の全身全ての穴を苛め抜いていただいて、首輪をして鞭で叩かれてお尻を破壊されて……うふふふふ……」

「うおおおお、ロストバージンと友達ゲットー!」


 全ては各々の欲望を叶えるため。

 肌の違いや様々な障害を乗り越えて、エルフたちは一つになったのだった。


「くそ……武装暴威!」

「はい、ぼっしゅーと!」

「おおおい!? マジかあああ!?」


 ついには、本気の戦闘モードの際にのみ見せるジオの武装暴威すらも吸収される。

 そして、それほどの魔力を吸収しているというのに、ギヤルは「吸収しすぎ」などの異変は見られない。

 それだけでもチューニに勝るとも劣らない魔力タンクが備わっていることが分かる。


「なんだこの天才は! くそ、いっそのことぶん殴って倒したい! でも、ガチで殴るのも気分悪いし……」

 

 魔法が通じないとなると、後は接近戦での徒手空拳でどうにかするしかない。

 しかし、それでもこの三人の顔を殴るのはどうしても気が引ける。

 そうなると自分に残された手は?


「……くそ……俺……詰んでねーか……?」


 無かった。

 この状況をどうにかできる手が、今の縛りのある戦いの中でジオには思いつかなかった。


「ま、待て! 待て待て待てー!」


 そして、挙句の果てには「一旦待ってくれ」と相手に頼むほど、ジオは追い詰められていた。


「なんだし、ジオチン! 今更、どーしたっしょ!」

「ジオ殿~、うふふふふ、往生際が悪いですよ~」

「一日十発……セクハウラ女史の妊娠誘発剤で懐妊待ったなし……うふふ」


 三人の魔力の込められた掌がジオの眼前で寸止めされる。

 もし、あと一瞬でも遅かったらと考えると、ジオも鳥肌が立った。


「だから、お前ら何でいきなりそんな仲よく連携取れて息もピッタリなんだよ! だったら、最初から仲良くしてろよ! 俺が悩んだのバカみてーじゃねぇか!」


 自分で仲良くしようと画策しておきながら、ある意味で狙い通りではあるが、単純すぎるとジオは嘆いた。

 すると、エイムたちは互いに見合いながら……


「確かに……不思議な気持ちはします。実際、ジオ様を思い出す前の私でしたら、色恋のために争いに身を投じたり、品がない取り巻きを常に連れている彼女と共闘するというのも考えられなかったでしょうね。ですが……私もナトゥーラも、もうジオ様を思い出していますので……」


 もうジオのことを思い出し、深い愛を取り戻し、そして再び交わったことで、かつての想い以上の想いを宿した。


「ジオ様を思い出したその時……既にジオ様は帝国を離れた後でした。そのとき、私は帝国も、あの三姉妹姫も、そして私自身を心の底から憎みました。なぜ、この世で最も愛しいあなた様を忘れ……あなた様が地獄の苦しみを味わっていた時に、私はのうのうと生きていたのかと……」


 これまで、人並みはずれた異常な愛情表現でジオを青ざめさせたものの、その根源にあるジオへの愛は本物。だからこそ、エイムも彼女なりに苦悩していた。


「だからこそ……ジオ様が望まれる生き方があるのなら、私はその足を引っ張らぬようにしたいと思いつつ……それでもジオ様が私のお傍に居てくださるのなら……もう、この世の何を犠牲にしてでも私はジオ様からは離れない……そう思ったものですので」


 だからこそ……。そう言ってエイムは傍らに居るギヤルを見て……


「この戦いに勝ってジオ様が永劫傍に居ていただけるのなら……彼女と協力することへの不満等……取るに足らない小事です」


 そうハッキリと言い切った。

 ナトゥーラも主従たるエイムに合わせているだけでなく、彼女自身も同じ気持ちだと主張するかのように、ジオに微笑みながら頷いた。


「いや~、あたしはエイむんたちみてーに、あんたに惚れてるわけじゃねーし……今のエイむんの想いとか、普通に重苦しくて引いたけど……」


 一方で、エイムとナトゥーラに対し、ジオへの想いはそれほどでもないギヤルは、頭を掻きながら苦笑していた。

 そんなギヤルの言葉にエイムは少しムッとした表情を浮かべる。

 だが……


「でもさ……周りにどう思われようと……今まであった自分の評価……特にエイむんのこと悪く言うやつなんて一人も居ないぐらい皆の憧れだってーのに……そんな自分を捨てでもとかっ……すげーじゃんって思った。私は真逆だから。実はヴァージンだってのをバレるの恥ずかしくて……それバレないようにって、人の目を気にしてさ……」


 ギヤルはギヤルなりに思うところがあり、それまでのエイムに対しての感情とは違う想いを既に抱いていた。


「だからさ、何か気付いたら……ノリで一緒にやったろーじゃんって思った」

「そのノリをもっと早く出しやがれ!」


 ギヤルは非常に爽やかな笑みで親指突き立てて笑う。

 その親指をへし折ってやりたいという気持ちを抱くほど、ジオは叫んだ。

 だが、ジオの時間稼ぎはいつまでも聞き入れられない。

 それどころか……


「とにかく~、ジオ殿~、覚悟です~」

「いっぱい産みます」

「これで勝って、ジオチンもチューちゃんもトキメイキの住人っしょ!」


 もう、三人も待たない。

 今こそジオを手にするためにと構え、そして……




「その人を倒せば、チューニは冒険に行かないでこれからもトキメイキに居てくれる……良い話をありがとうございます」


「「「「ッッ!!??」」」」


「なら、私も手伝わせてください。エイム先輩。ギヤル先輩。ナトゥーラ先輩。その人を倒すことを……」



 

 その時、巨大な気配を上空に感じた。

 夜の暗闇故に、空に何かが現れても気付くのが遅れた。

 四人が思わず空を見上げると……



「爆竜魔導波!!」



 それは、「倒す」を越えて、ジオを「滅する」かのような巨大な光の柱が突如降り注いだ。


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書籍書影(漫画家:ギャルビ様) 2022年4月6日発売

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