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第百十話 ベールを脱ぐ狂気

 自らのことを「四番目」と名乗ったオシリス。

 その言葉の意味をオリィーシは深く理解することは出来なかった。

 しかしそれでも、目の前の男が異形な存在であることは彼女も理解できた。


「何をされようとしているか分かりませんけど……一度手を止めてください。そして、先生や都市上層部の方と一緒にあなたのことを聞かせてもらいます」


 まるで犯罪者に対する対応の仕方であるが、オリィーシは目の前の男に対してはその対応で間違っていないと判断。

 そして、いつでも動けるように警戒心を最大にして身構えていると……


「……ふふふふ……つまらないですね~……オリィーシさん」

「……え?」


 スイッチを押す手を止めて、オシリスが不敵な笑みを浮かべながら立ち上がる。



「魔法の才能に溢れ……頭も良く、成績優秀、容姿端麗の才色兼備……そして、ついにはこの研究所跡のコンピューターまである程度復旧させた……しかし……君のお尻は小ぶり過ぎて、僕の好みじゃない」


「えっ……え? お、おし……」


「だからこそ困ります」



 その瞬間、オリィーシは異様な寒気を感じて顔を青ざめさせる。

 明らかに部屋の空気も変わり、にこやかに笑う男からは冷たい空気が発せられる。

 そして、オシリスはオリィーシに向かって立ち……



「好みのお尻でもない人に、えらそうに命令されるのはムカつきますので……少し……懲らしめてあげましょう♪」


「ッ!?」


「十賢者序列1位……お尻ぺんぺんしてあげましょう」



 次の瞬間、オシリスの両目が眩く発光。

 そしてオリィーシはその後、生れてから一度も見たことのない力を目の当たりにし……


 だが、その状況を誰も知らない。


 地上では今でも呑気に宴会が続き……



「――というわけで、僕も理論は分からないですけど、これが僕の使う異空間創造する魔法です」


「「「「おおお~~~~」」」」


「チューニ君スゲー!」


「うおおお、俺、マジでチューニくんの舎弟になって正解かも」


「さっいこー! もう、おねーさんがオッパイあげる!」


「あっ、ずるーい、私もー!」



 白姫派も黒姫派も交えてチューニの魔法を披露しては、様々な歓声が沸き起こったりと、盛り上がりが続いていた。

 既に夜も遅くなり、皆もいつもとは違う一日を目の当たりにして既に疲れているはずなのだが、宴会は未だに終わる気配を見せることなく、若者は皆が活発であった。

 だが、そんな中……


「ふぅ~……こんなに燃えたのは久しぶりだぜ……」


 透明化という魔法に身を包まれ、透明となって回りの者たちからは見えなくなった、三人のエルフとジオ。

 汗にまみれた半裸のジオがスッキリしたように落ち着いて体を起こして、近場に落ちていた酒を手に取って飲む。

 そしてその傍らではナトゥーラが……


「ぜー♡ はーぜー♡ じ、じお、どのぉ……ん……♡」


 ジオと同じように全身を汗にまみれ、あられもない姿で横たわり、紅潮した頬にトロンとした瞳。

 そして、全身を激しく痙攣させながら、煽情的な声を漏らす。

 両足をだらしなく開き、お手上げのように手を上げながら寝て、意識が半分飛び掛かっている。

 だが、そんな瀕死のような状態のナトゥーラに、一休みを終えたジオは……


「さて、続きだ」

「ふぇっ!? え、あ、じおどの?」


 もう一回……そんな様子でナトゥーラに伸し掛かろうとする。

 その状況を見て、その傍らにて待機していた二人の女……


「じ、ジオ様ぁァぁ! そ、の、そ、そろそろ、わ、私にもぉ……」


 両足を「えむじ開脚」の姿勢で座らせながら、これまで一切ジオに手を出されていないエイム。

 もはや我慢の限界だと、興奮で息を荒くし、顔を真っ赤にしながら涙を浮かべ、その口元からは涎まで出ている。

 それが、多くの者に敬愛と尊敬を抱かれるハイエルフの姫であるなどと誰も思えないほど、盛った雌豚のようにエイムはジオに懇願していた。


「つか、どんだけメチャクチャやるし!? この変態! ナッちんこのままじゃ死んじゃうっしょ!?」


 一方で、これまでは腰を抜かして震えているだけだったギヤルも、流石に限界だと顔を真っ赤にしてジオを非難する。

 だが、そんな二人に対してジオはナトゥーラに伸し掛かりながら……


「まだだ。こいつに『まいった』を言わせるまではな」


 ナトゥーラが降参するまではまだ終わらせない。

 それほどまでにジオはナトゥーラに強引に押し倒されたことを根に持っており、その仕返しをまだ続行する気であった。

 しかし、それを理由にお預けをさせられて、エイムはもう我慢の限界だと、「えむじ開脚」を解除して、四つん這いになって尻を振りながらジオに縋る。


「そ、それでしたら、昔のように二人まとめて召し上がって戴ければ……ジオ様なら、私たち二人がかりでも十分に……」

「いや、俺もなんだかんだでリハビリしねーと、いきなりあんたら二人同時は無理だ」

「そんなぁ~……で、では、せめてジオ様の体のどこかに触れたり、ご奉仕させていただくことは……」

「ダメだ。今はまだ……俺とナトゥーラの一対一の真剣勝負だからな♪」


 懇願するエイムに対し、ジオは少し意地の悪い笑みを浮かべて応えない。

 エイムは泣きながら横たわるナトゥーラに声を掛け、


「ナトゥーラ! もう、十分だと思いません? 早くジオ様に降伏するのです」

「ひ、ひめしゃ、姫様……?」

「さあ、早く『まいった』と言いなさい!」


 ジオが手を出さないのなら、ナトゥーラに降参をするように声を掛ける。

 だが、ナトゥーラも意識を朦朧とさせながらも、絞り出すような声と、いやらしい微笑みを浮かべて……


「ん~……まだ、ま……ま・い・り・ま・しぇ・ん♡」

「ッッ!??」

「しょ、うぶは……まらまら……これからです~♡」


 まだ自分はジオとの戦いをやめないと、ウインクしながらナトゥーラはジオに再び戦いを挑む。

 その瞬間、絶望に染まったようにショックを受けるエイム。

 そんなエイムを見て、ジオとナトゥーラは少し懐かしいものを見たかのような温かい眼差しになるが、すぐに視線を互いに戻して戦いの続きを……


「つか、女がこんなに恥かいてまでお願いしてんだから、叶えてやれっしょ! この人でなし!」

「ごほっ!?」

「ナッちんのおっぱいばかり夢中になって、エイむんイジメてんじゃないっしょ!」


 ナトゥーラともう一戦しようとしていたジオを横から蹴り入れる。それはギヤルだった。


「いや、別にイジメてるわけじゃ……ただ、まだ今の俺は2対1はキツくて……」

「じゃあ、ナッちんと交代で相手してやればいいっしょ!」

「……そ、そうなんだが……」


 ギヤルに怒られてチラリとエイムに視線を向ける。

 そこには……


「くぅ~ん♡ ふきゅ~ん♡」


 寂しくて泣いている小動物のようなエルフが居た。

 ただ、ジオとしては、ここで「よし」と言ってあげたい気持ちと、「待て」と言ってみたいという気持ちもあり、発情しているエイムに手を出すのを一瞬ためらった。

 だが、それでも……


「……エイム姫」

「ジオ様~……」


 もうこれ以上は精神崩壊するかもしれない……何をするか分からなくなる。そう察したジオは仕方なく両手をエイムに向かって広げて……


「よし」

「はっは♡」


 次の瞬間、四つん這いになっていた淫獣エイムはジオに飛び掛かり、ジオの顔に何度も頬ずりして、顔中にキスの雨を降らせ、何度も感触を確かめるように腕を背中に回して抱きついて、ジオを求めた。


「ッ、うう、ジオ様! ジオ様! ジオ様ッ!」

「あ、ああ、いるから……ちょいと落ち着いて……」

「ジオ様、ジオ様! ……ジオ様♡……私の、ジオ様ッ!」

「ああ……はい……はい」


 涙を流しながらジオを求めるエイム。

 完全に理性のタガが外れてしまい、そして同時にようやくジオとこうして一緒になれたことに感情の抑制が出来ない。

 そんなエイムに一瞬慄いてしまうジオだったが、すぐに溜息を吐きながら苦笑して、エイムの頭を優しく撫でた。


「す、すげー……あの、清楚なエイむんが……す、すげ……」


 その乱れぶりはギヤルの予想以上であった。


「つか、人って好きな人とこういうことすると、女ってこうなっちまうんだ……」


 そして、ジオはエイムの頭を撫でて落ち着かせ、エイムがようやく心地よさそうに笑みを浮かべて大人しくしだしたら、ジオはだんだん両手をエイムの体をまさぐるように色々な箇所に手を伸ばし、その全てにエイムは嬉しそうにジオに身を預ける。

 そんな光景にギヤルはゴクリと息を呑むと……


「うふふふ~、そうですよ~、好きな人と結ばれることほど女の幸福はありません~」

「ナッちん……」

「それに、ジオ様は~……と~っても素敵で凄いんです~……イロイロと~♡」


 息も絶え絶えになりながらもジオを称賛するナトゥーラ。

 正に身をもってそれを証明しているナトゥーラだからこそ言える、実感の籠った言葉。

 それを受けてギヤルは少し唸りながら……


「そ、そっか……あ~、でも、ある意味これがチャンスっつか……」


 幸せそうにジオに身を預けるエイムを見て、もう居てもたってもいられなくなったギヤルは……



「な、なあ、ジオチン…………あ、あたしとも……1回してくんねー?」


「「「ッッ!!??」」」



 その衝撃的な言葉に、三人は一瞬固まってしまった。




 そして、そんな衝撃と同時に、誰も見ていない地下深くでは、もう一つの衝撃が起こっていた。



「はあ、はあ、はあ……強い……」



 両膝を付いて、制服を少し破り、その肉体にはいくつかの生傷を負い、疲弊したように肩で息をする少女。

 十賢者1位にして、都市が誇る天才少女・オリィーシは驚愕していた。


「こんなに強いだなんて……」


 室内に漂う爆炎の後。

 広い部屋とはいえ、貴重な遺跡やアイテムのある部屋で一つの戦いが行われていた。

 それは、十賢者1位であるオリィーシすらも戦慄させるほどの戦いだった。

 だが……



「はあ、はあ……おかげで、手加減できませんでした……」



 爆炎が晴れ、オリィーシの足元には一人の男が地面に突っ伏して転がっていた。


 

「……あ……れ? ぼ、僕様が……ま、負け?」



 両手足を黒焦げにして欠損させている……オシリスだった。


「こ、これはビックリ……は、こっちの方。こ、これほど、あなたに攻撃力があったとは……」


 地に平伏した状態で、オシリスは表情を引き攣らせながらオリィーシの力に驚いていた。

 すると、その頭にオリィーシは手を添えた。


「もう動かないでください。あなたの体に魔法をセットしました」

「……なに?」

「これが私の開発した魔法……セットした魔法を私の任意でいつでも発動できる……時限式魔法」

「じ、時限式? まさか、魔法を時間差で……」

「動かないで下さいと言いました。あなたにセットした魔法は……爆発系」

「ッ!?」

「幸いあなたが一人でここに来ている以上、目撃者は居ません。……意味はお分かりですね?」


 まさかの返り討ちを食らっただけでなく、自分の生殺与奪まで握られてしまった。

 相手を見くびり過ぎていたことに、オシリスは苦笑するしかなかった。

 そして、いつでもオシリスを手にかけられる状態にしたまま、オリィーシはデスクの「コンピューター」の元へ行き、状態を確認する。

 戦闘の影響で壊れていないか心配だったが、今のところ問題ないようである。

 そして……


「……にしても、あなたがログインしてくださったことにより、見れるデータが増えました……そして、見つけました。『生体兵器シリーズ』……」

「ッ!?」


 横たわるオシリスの傍らで、涼しい顔をしてコンピューターを操作するオリィーシは、一つの情報に辿り着いた。


「これが、あなたですね? 四番目・クァルトゥム……研究データ……。なるほど……組み込まれた思考ルーチンが強く、戦闘能力が劣る失敗作……」

「…………」

「与えられた能力は……空気中のチリを結合させて物質を作り出す。その力は際限なく、研究員が遊びで四番目の思考をオフにした状態で、空気中のチリから幾重もの鋼鉄を作り出して身に纏わせる『巨大化』の実験。及び、遊びで『ドラゴン化』を行ったところ……成功」


 オリィーシの読み上げられる自身のプロフィールや実験データに対して、オシリスは一言も発さず黙ったままだ。

 そして、オリィーシは……


「しかし、状況によっては都市一つを軽く滅ぼせる破壊力を秘めるため……思考ルーチンは常にオンの状態にすることが決定。思考ルーチンを司る個所は……ここ? お尻の穴から入った奥深く……」


 読み上げたデータに興味深そうにうなずくオリィーシ。そして、地に平伏しているオシリスをチラッと見て……


「この力を……もし、コントロール出来たなら?」


 コンピューターより出された新たなる情報。しかしそれは、オリィーシにとってはまるで悪魔の囁きのようにも感じていた。

 すると……



『チューニくん、経験はないみたいだけど~、キスとかしたことある~?』

『う、うう、は、はい、それは……その……少し前に……セクって女の子と……』


―――ッッ!!??


『じゃあ、初おっぱいは? 私たち~?』

『い、いえ、そ、それは……こ、コンさんっていう年上のお姉さんに……』


―――…………ッ



 映し出される広場で女たちに囲まれているチューニの姿。そしてその言葉を聞いた瞬間、オリィーシの中で何かが切れた。



「そっか……もう……チューニ以外全部消しちゃえばいいのよ……」



 もう、その瞳に光は無い。ただあるのは、狂気だけ。

 その狂気を身に纏わせてオリィーシは立ち上がり、部屋の隅にあった長めの箒を手に持った。

 そして……


「四番目さん……」

「?」

「お尻を出してください」

「ッ!?」

「これぐらいの長さなら……思考ルーチンをオフにできそうですから」


 もう、その狂気は止まらなかった。


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