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第十一話 サイコウノクラスメートタチ

「どーした、ジオ……いや、リーダーよ。動揺しておるな? ……と言っても、仕方ないようじゃな」

「リーダーは帝国の姫と懇意だったと先ほど聞いた」


 アルマ姫。その名を聞いて動揺を隠しきれないジオの態度から、只ならぬ事情をガイゼンもマシンも察した。


「……けっ、別にもう関係ねーことだ。……」


 しかし、ジオは関係ないと言って首を横に振るも、それでも心と体は素直だった。


(あの女……そういえば、俺が釈放された時は居なかったな……とはいえ……記憶は戻ってんだろう……って、おいおい関係ねーって言ってんのに、俺って奴は……)


 頭の中で考えることもすることではないと、頭を振って考えを捨てるジオ。

 一方で、この状況下でチューニは一言も発さず、ただ顔を青くしてうつむいたままだった。

 そんなとき……



「「「「未来の大魔導師たち! 『港町エンカウン』へようこそ!!!!」」」」



 ギルドの外から賑やかな歓待の声と楽器の音が響いた。


「へぇ~、良い港町だね。ちょっと小さいけど……」

「あ~、ようやく着いた。長かったな~!」

「ふん、王都に比べたら、とんでもない田舎じゃないか」

「ほんとだよ~、こんなとこでキャンプ? やだやだ。お風呂とかどうするの?」

「うわっ、ダサい男しかいなーい。買い物もできそうもないし、ほんと憂鬱~」

「ちょっと、声が大きいよ! 怒られちゃうよ?」

「そうそう、どんなところでも笑顔を平民の方たちに見せるのも、僕たち選ばれし貴族の役目さ」

「私は……こういうところ、結構好きかな? みんないい人そうだし」

「うん、空気も美味しいよね」


 ただ、歓迎の声とは裏腹に、若者たちからは色々な声が上がる。

 その声を聞きながら、ジオたちも鼻で笑う。


「ふん、随分と甘ちゃんたちが来たみたいだな」

「戦争に出なかった世代。無理もないだろう」

「青瓢箪なのが声だけで分かるわい。覇気や貪欲さも感じぬ。ゆえに、興味も湧かぬな」


 ジオ達三人は、やってきたという魔法学校の生徒たちに特に興味は湧かずに、つまらなそうにした。

 だが、先ほどから俯いたままのチューニの様子は変なままだった。

 すると……


「おっ、見ろよ! こんなところに、冒険者ギルドがあるぞ!」

「へ~、こんな小さな田舎にもあるのか~……って、スゲー小さい! ただの汚い酒場じゃないか?」

「バカ。今回の授業のプログラムを見なかったのか? 地方の冒険者ギルドの見学も入ってるんだぞ?」

「あ~、そういえば、そうだったな」

「へへへ、きっとこんなところに集まる冒険者なんて、地方でセコセコと小さい仕事で小銭を稼ぐ、小物しかいないんだろうな!」

「ねえ、そういうこと言うのやめなよ。すごい失礼だよ?」

「でも、私、王都以外のギルド初めて見た~!」

「ねえねえ、入ってみようよ。いいでしょ? これも修学旅行の一つだし」


 言いたい放題なことを言う若者たちは、そのまま何の気遣いも無くギルドの扉を開ける。

 そして入ってきた瞬間、ギルドの中央で陣取るジオたちと目が合う。

 生徒たちは皆、白く清潔なシャツと、魔法学校の証明でもある紋様の入った赤いマントを纏い、女子は膝上ぐらいのスカート、男子は長いズボンを穿き、誰もが育ちの良さや気品の漂う顔つきや空気を出していた。

 しかし、そんな若者たちがドカドカと数十人でいきなり狭いギルドに入ってきた瞬間、誰もが一気に顔を青ざめさせた。


「ちょ、お、おい! あれ、魔族じゃないか!?」

「うわ、あ、き、騎士団は! おい、早く騎士団を呼んで、こいつら捕まえて死刑にしろよ!」

「で、でも、確か魔族も地上での生存が許されたとか……」

「知るかよ! それより、これは学校側の責任だぞ! 魔族の居るようなところに僕たちを連れてくるなんて、パパに言って訴えてやる!」

「そうだ、船に『アルマ姫』がいらっしゃる! アルマ姫に言えば……」

「ばか、姫様にそんなこと言えるかよ!」

「何言ってんだ、ここは帝国の領土。帝国内での問題だから、アルマ姫が解決する問題じゃないか!」


 魔族に対する反応。ジオとガイゼンに向けられたその恐れの反応は、別に特別なことではないと二人は思っていた。

 むしろ、慣れていたことでもあり、もう今さらそのことで目の前の無礼な若者たちを相手に暴れるようなこともしなかった。

 ただ、気になるのは、青い顔をして俯いていたチューニが、更に怯えたようになり、そしてチューニの存在に気付いた魔法学校の生徒たちは……


「あ、あれ? あれは……ほら、あいつ」

「えっ? あー、あー、確か退学した……あの根暗の気持ち悪い奴!」

「チューニじゃないか! うわ、あのチューニだよ」

「へ、落ちこぼれ貧乏人のチューニが何でここに居るんだよ?」


 そして、この瞬間、ジオ達も察した。

 今、目の前に居るのが、かつてチューニが居た魔法学校の生徒たちなのだと。


「ふ~ん……そういうことか」


 とはいえ、だからどうだということはない。

 自分には関係のないことだとジオも思い、特に口を出すことも無かった。

 すると……



「ちょ、どいてくださいどいてください! ちょ、どきやが……ってください~! いま、いいいいいいい、いま、チューニくんがいるって言いませんでした~!?」



 外から生徒たち人ごみをかき分けて、うるさく騒ぐ女の声が聞こえて来た。


「……ちっ……」


 その女の声が聞こえると、チューニは明らかに舌打ちをして、青い顔して俯いていたのに、急に不機嫌な表情になった。


「ちょっ、んも~、どいてくださいよ~っ! ……ぷはっ、……えっと~……あ……」

「…………」

「チューニくん……」


 現れた一人の女生徒。

 長い栗色の髪をしたその表情は、大きくクリクリとした瞳をパチパチとさせ、シャツの上に羽織ったカーディガンの袖で手が完全に出ないようにした、だらしのない恰好をしているが、少女の愛くるしい可愛らしさがそれを許した。

 女はチューニの顔を見るなり、驚いた顔で固まるも、すぐに口元をぷくっと膨らませて、チューニの傍へとズカズカと歩み寄った。


「んも~~! な~にやってんですか、チューニくん! 退学なったの聞きましたけど、何の挨拶も一つもせずにどっかいっちゃいますし、なんなんですか! 何でここに居るんですか! っていうか、あれだけおしゃべりもしたし、お昼ご飯だって一緒に食べたし……それなのに……どんだけ、何も言わずに立ち去るクールな俺カッコいい的な勘違いしてんですか! どれだけ……心配したと思ってるんですか! しかも、何で……この人たちなんですか? なんか、魔族も居るんですけど……」


 早口でまくしたてるように次々とチューニに文句を言いながら、少しずつ少女の瞳が潤み始めているのにジオたちも気づいた。

 だが、そんな少女に対してチューニは……


「挨拶するほど友達でもないんで。おしゃべりもしてないんで。あんたが一人で何か言ってただけなんで。お昼も一緒に食べてないんで。食堂で食べてると僕の周りだけ誰も座らない中で、席が無くなったあんたが空いている席に座ったらたまたま僕の隣だっただけなんで。以上の観点から、別れを言う必要も、心配される筋合いも無いんで。そしてこの状況の説明をする筋合いもないんで。っていうか、僕もまだよく分かってないんで」


 冷たい言葉をツラツラと並べて呟くチューニ。

 その様子を見て、ジオ達は思った。


(((こいつ、かなりめんどくさい奴だな……)))


 ……と。



「うっわ、相変わらずキモイですね~、チューニくん。せっかく、この学園一のチョーかわいいプリティ魔法少女『アザトー』ちゃんの下僕になれたのに、そんなこと言っちゃうんですか~? 何様ですか~?」


「……チッ……」


「ちょ、……な、なんですか……なんでそんな……いつものやり取りでそんなに怒ってるんですか?」



 二人のやりとりの間で、何やら不穏な空気が流れ始める。

 そして、更に……


「アザトー……急にどうしたんだい? 心配だから勝手に……ん!?」


 また誰かが生徒たちの人ごみをかき分けてギルドに入ってきた。

 今度は男の声だ。


「……あっ……君は……」


 男のジオ達から見ても、「女にモテるだろうな」と思われる、端正な顔立ちに、整えられた金髪の髪。

 女生徒を追い掛けて来たのだろうか、現れた瞬間に女生徒の手首を掴んで叱った。

 だが、同時にチューニの顔を見て、一瞬だけ驚いた顔を浮かべるも、すぐに微笑んだ。


「やぁ、君はチューニくんじゃないか! 久しぶりだね、元気にしていたかい!」

「……」

「やだな、忘れたのかい? 僕だよ。『リアジュ・カースト』だよ」


 話しかけられたが、チューニは顔をソッぽ向かせて一切無視。

 そして、男に対して、女生徒の方が間に割って入った。


「あの、リアジュくん、今は私がチューニくんと話をしているんで、ちょっとどいててもらえませんか?」

「何を言っているんだい、アザトー。僕だっていいじゃないか」


 男の名はリアジュ。女の名はアザトー。二人の会話からそれだけは理解したジオ達。

 そんなジオたちの前で、二人は続ける。


「リアジュくんは、チューニくんとそんなに関わりなかったじゃないですか! 私は、チューニくんと……色々話をしたりしてましたが……」

「そんなことないさ。僕もチューニくんとは、トモダチだよ。君と仲良かった人は……僕も『君の婚約者』として仲良くなりたいと思って、学校でも実は話をよくしていたんだよ」


 ……ん? と、その時、ジオたちは頭の上で「?」を浮かべた。


「こっ、婚約って!? ちょっ、待ってください! 私はその話はもう断ったじゃないですか! 私は……私はぁ……」


 リアジュの発言にアザトーが慌てて訂正しながら、チラチラとチューニの様子を窺う。

 その様子に、ジオ達は頭の上で「!」を浮かべた。



「大丈夫、僕は君のことをよく分かっている。素直になれない女の子の気持ちを察せないほど、僕もバカじゃないよ。それより、君もあまり軽率な行動を取らない方が良いよ? この世には、ちょっと女の子と仲良くなったぐらいで、何か勘違いしてしまうような男だって居るんだ。君がチューニ君を優しく気遣っていたのは知っているけど、その優しさをチューニ君だって勘違いしたんだから」


「ちょ、ち、違います……だ、だから、わ、私は……」


「だから、僕も色々心配だったから、実は以前そういったところを曝け出してチューニ君と男同士の話をしたりしてね。チューニくんは僕の話を聞いて、ちゃんとアザトーのことを勘違いしないと理解してくれて、それどころか僕に『がんばれば』って、応援してくれたんだよ。それ以来、僕は彼を友達だと思っているさ」


「は、はぁ? えっ、ちょ、なんですかそれ!? 私、初耳ですよ!? なんで? どんな話を?」


「ふふふ、それは男同士の秘密さ。ね? チューニくん」



 リアジュの発言に、ジオ達は頭の中で「イラッ」となった。


「でも、安心して。彼も含めて世界は僕たちが最良のパートナーだと言っている」


 むしろ、ジオたちはこの男を殴っていいかと聞きそうになった。

 しかし、他の生徒たちは面白そうに冷やかしの声を上げる。


「ヒューッ! リアジュかっけー!」

「いいな~、私もリアジュくんにあんなこと言われたら直ぐついて行っちゃう~♪」

「アザトーもチューニなんかほっとけよ」

「それによ、以前教室で、アザトーも皆の前でハッキリ言ってたじゃねえか! チューニとよく一緒にいるけど、まさか好きなのか? って、僕たちが聞いた時……」

「そうそう、チューニみたいな根暗で落ちこぼれの貧乏人なんて相手にもしてないし、友達でもないって、ハッキリ言ってたじゃない!」


 その時、一人の生徒が口にした言葉に、アザトーが顔を青ざめさせた。

 更に……


「そういえば、あのとき、実はチューニは教壇の下に隠れてたんだよな~」

「そうだったね! リアジュくんの言う通り、チューニが勘違いしないように、アザトーの本音をハッキリ聞かせてあげようと、男子が縄でチューニの口と体を縛って教壇の下に押し込んだんだよね?」


 面白おかしく過去の話をする生徒たちの言葉に、そのことを知らなかったのか、アザトーは目を大きく見開いてガタガタと震えている。

 そんなアザトーの様子に気付いていないのか、ニコニコとしながらリアジュが両手を広げて皆に告げる。


「まぁ、もういいじゃないか、みんな。色々あったけど、ああいうちょっとふざけあったり、本音をぶつけ合ったりなんて、気兼ねない友達の良い思い出じゃないか。それより、今日はせっかくこうして偶然にチューニ君とも会えたんだし、皆で仲良く遊ぼうよ。僕たちは世界最高のクラスメートたちなんだから! そうだ、進級できず上の世界を見ることが出来なかった彼に、僕たちが覚えた新しい魔法でも見せてあげようよ! 彼の見れなかった世界を、特別に見せてあげようよ! たとえ、身分や才能に違いはあっても、それぐらいの器の広さぐらい、僕たち貴族は見せないとダメさ」


 そう言って、中心になって皆を先導するリアジュの姿を見て、三人の男たちは互いにアイコンタクトをした。


(……何だ? こいつら……)

(どうしてだろうか。自分にもあまり良い印象を感じない)

(のう……この若造……ぶっとばしてよいか?)

 

 そしてその時、ついにこれまで黙って座っていたチューニが声を上げた。


「あの……取りあえず、迷惑だから全員出ていってほしいんで。いや、ほんと。僕にもうどいつもこいつも関わらないで欲しいんで」


 そして、不貞腐れたようなチューニの発言。

 生徒たちは怒ったのか眉を顰める。

 そして、リアジュも困った顔をして、チューニに首を振る。



「こらこら、チューニくん。友達に対してその発言は良くないよ?」


「トモダチ? トモダチって……平民のクラスメートを授業中に、ゴミや石を投げて当てるゲームの的にしたり、キモいコールをしたり、やめろコールしたりするような奴のこと?」


「何を言ってるんだい! 君だって、別に嫌だと言わなかったじゃないか! アレで君は皆と遊んでコミュニケーションを取れたんだ! えっ? ひょっとして、あんなことが本当は嫌で今さら怒っているのかい? そんなの、自分の意思を皆にハッキリ伝えない、君が悪いじゃないか!」



 そんなやりとりを見ながら、ジオ達は……


(((……とりあえず……もう少し様子を見てみよう……)))


 アイコンタクトで頷き合った。


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