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被追放者たちによる新興勢力ハンパねぇ!  作者: アニッキーブラッザー
第四章

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第百六話 まだ先へ

 酔った勢いなら仕方ない。

 初めて酒を飲んで、少年はそう思えた。

 気分が高揚し、普段言えないようなことも言える。

 何かやらかしても、「仕方ない」で皆も済ませてくれそうな気がした。

 しかし、今のジオの言葉は、酔っていた自分でも目が冷めるようなことを、ガツンと言われたような気がチューニには感じていた。


――チューニ。お前は、『ここから先』も行く気はあるか?


 と、ジオはチューニに言った。

 チューニはその言葉を聞いた瞬間、たとえジオに『そのつもり』はなかったとしても、チューニにはこうも聞こえた。


――ジオパーク冒険団として、これから先の世界に足を踏み入れる勇気はあるか?


 と。その言葉を聞いて、チューニは自身の心に問いかけた。


(多分、こういうイベントでも、ガイゼンやマシンだったら、腕試しも兼ねて迷わずに頷くんだと思う。でも、僕は違う。そもそも戦いなんて嫌だし、酔った勢いに任せてリーダーとガチバトルなんてゴメンだから。僕は今までのように戦いからはなるべく距離を置き、いざとなったらガイゼンの後ろに隠れる。それでいいと思っていた……なのに……)


 心は正直で臆病なまま。しかし、それでもチューニは気づけばジオに向かって言っていた。


「お、お手柔らかに御願いしますなんで……」

「それは一番苦手だ」

「ひいいいい」


 自分の意思に反して出た言葉だったが、チューニは不思議と驚きはなかった。

 それこそが答えなんだと思ったからだ。


(もし、ここで「ここから先には行かない」と言ってしまったら、何となく僕はここが僕の限界で、リーダーともマシンともガイゼンとも、一緒の世界でこれからは過ごせないような気がする。三人は、僕を四人の内の一人として見てくれる。でも、ここで僕がリーダーの誘いを断ったら、僕は四人の内の一人じゃ居られなくなる……)


 たとえジオにその気はなかったとしても、チューニは今のままではジオたちとこれからも旅を一緒にし、同じ世界を見ることができなくなる。

 その気持ちが、自分の心の「戦いは嫌だ」という気持ちを上回った。


「う、うう……うわああああああっ!」


 恐くて仕方なく、怪我など心から嫌だった。

 もう酒の酔いなど抜けている。


「くはははは……来いや!」


 だが、それでもチューニは、ここから先に行かないとダメなんだと思った。

 だから踏み出した。


「ライトニングッ!」


 先ほど、自身の思いつきでやった、魔力を体に纏っての光速化。

 しかし、これで先ほどはジオの不意を突くことができた。

 もう一度これでジオの背後に回りこんで……


「たとえ、俺より速かったとしても、動きが丸分かりすぎだぜ?」

「ッ!?」


 チューニがジオの後ろに回りこんだ瞬間、ジオが背に居たチューニに振り返った。

 完全に見られている。そう気づいた瞬間、チューニは思わずゾッとした。


「うるあ!」


 戸惑ってる場合ではない。ジオが振り向き様に拳骨するように右パンチを……


「いでええええ!?」

 

 右パンチを繰り出し、チューニが反応しようとした瞬間、ジオがチューニの右足の太ももに蹴りを入れていた。

 鞭のような音を響かせて、チューニの足に鈍器で殴ったような一撃を与える。

 その一撃で、チューニは自身の意思とは関係なく、その場で崩れ落ちた。


「簡単なフェイントに引っかかるんじゃねえよ。まぁ、どんなに光速化しても死角からの攻撃には反応できねぇか」

「っ、いぐっ、ひっ」

「そして、身体能力は向上しても、動体視力が向上してるわけじゃねえしな」


 見下ろしながら告げるジオの言葉は、正直チューニの頭に入らなかった。

 それほどまでに、一撃でチューニの心は激しく揺れていた。


(これは、ローキックっていうやつだ! 学校に通ってた頃、クラスメートの奴らが「魔法を使えないお前のために、技を教えてやる。体で覚えるんだな」とかって、ふざけて僕にやってきた技だ。足が痺れて立てなくなった僕を、あいつらは笑っていた。痛くて泣きそうになった。でも、技の名前は同じでも、リーダーのこのキックは全然違う……一発で僕の心を足元からへし折るような……それでいて、豪快で、思いっきりで……あいつらのような陰湿なものとは全然違う……)


 一発でチューニは膝をついて、痺れて立ち上がれない。


「ぐっ、ううう、ぐっ、つ」


 そんなチューニの姿に、流石に広場に集ったチューニ軍団も、そしてオリィーシも顔を青ざめさせた。


「チューニッ!?」

「あ、あのチューニくんが、い、一撃!?」

「あの魔族……まさか、チューニくんより強いのか!?」


 そして、本来『戦い』なら、この時点でチューニの負けだ。

 そのことを思い知らされ、チューニは「そもそも勝てるわけがない」と呟こうとした。

 だが……


「多分、学生の頃のお前は……」

「ッ!?」

「この時点で倒れたままで、そして後はクラスの奴らの言いなりになるか、耐えてやり過ごすか……それとも……逃げ回って隠れるか……だったんだろうな」


 チューニを見下ろすジオは、まるで今のチューニの心の中を見抜いたかのようにそう言った。

 それはまるで、「このまま終わるなら、何も変わってない」と、言われているようにチューニは感じた。

 

「ち、違う……」

「ん?」

「違うッ!」


 ジオにそう思われたまま、このまま終わってはダメだと、チューニはジオに向けて掌を向ける。


「チューニスペシャルッ!」

「おっ!?」


 カッコつけの詠唱なんて今は必要ない。いや、カッコなんて気にしている場合ではない。

 今は、「このまま終わってはダメだ」という想いがチューニを突き動かした。


「リーダー、油断なんで!」


 チューニの魔力砲を目の前で受けて全身を飲み込まれたジオ……だが……


「くく……くはははは、……いてーじゃねえか」

「……うぇっ?」

「油断? 男気だと言ってくれ」


 包まれた魔力の光の中から出てきたジオは上半身の服が消し飛び、額に流れる血が更に広がった。

 だが、それでも一切うろたえることも、弱味を見せることもなく、笑ったまま。


「り、リーダーって……痛いの平気なの……?」


 まるで堪えていないジオに、チューニが顔を青ざめさせてそう尋ねると、ジオは笑い飛ばした。


「んなわけあるか。痛いのなんて嫌に決まってんだろうが」

「そ、そんな風に見えないけど……」

「くはははは。だが……あのヘナチョコのお前が怯えながらも俺に向かってきてるんだ……なら、嫌だけど受けてやらねーとな……リーダーだしな」

「ッ!?」

「で、同時にお前も……歯を食いしばれ。痛みは男がレベルアップするための経験値だ!」


 次の瞬間、ジオはチューニの後ろに回りこみ、チューニの尻にジオの平手を叩き込んだ。


「ほ、ほわああああああああああああああああっ!!」


 尻への衝撃。チューニはそれだけでふっとび、地面に体を打ちつけながら激しく転がった。 


「いっ、いたい! いたいたい! お、お尻があああ、い、痛いッ!?」

「あんまり、泣くんじゃねえぞ?」

「ふぐっ、ぐっ、うう、うぐっ……」


 またもや、再び立ち向かおうとした心を打ち砕くかのような一撃をチューニは受けた。

 泣くなと言われても、既に瞳は涙目で、足の痺れと尻の痛みで、四つん這いになって立ち上がれない。


「ぶばっはーーーー! 男が男のお尻に攻撃! それは果たして攻撃なの? それとも愛のスキンシップ? 分かってる。男は全て尻に終わる! それぞ、正にケツ末! ぐふふふ腐腐腐腐腐、ぶばっはっ!?」

「おい、また十賢者のフジョウちゃんが鼻血を噴出して倒れたぞ!」

 

 騒がしいことが別に起こったようだが、ジオもチューニも特に気にしない。

 今はただ、チューニは折れかける心を辛うじて保ちながら、戦う「意志」を見せることだけしか考えてなかった。


「チューニフライッ!」

「ん? お……」


 すると、戦う意志を出しても、肉体がどうしても立ち上がれないチューニは、魔力を放出しながら「浮け」と命じた。

 それは、魔法使いにおける「飛行」の力。

 足で立てないなら、浮けばいい。それを咄嗟に実現できる力がチューニにはあった。


「チューニスペシャル連射!」


 そして、一撃ではダメなら、今度は連射。

 再び魔力玉による弾幕攻撃をチューニはジオに放った。

 だが……


「す~~~~……」


 ジオはその場で避けようとも、捌こうともせず、ただ大きく息を吸い込んで……



「どるああああああああああああああああああ!!!!」



 一言で言うなら、それは気合。

 気迫の雄叫びを上げ、まるで街が大きく揺れ動いたかのような衝撃が駆け抜け、誰もが耳を塞いで圧倒された。

 その気迫は、先ほどまで有効だった弾幕攻撃を全てかき消した。


「う、そ……」


 流石に、呆れて口を半開きにして驚くチューニ。宙に浮いたまま、呆然としていた。

 そんなチューニに、ジオはドヤ顔で……


「一つ勉強になったな、チューニ」

「り、リーダー……」

「お前は想像したことが大抵なんでも出来ちまう。間違いなくスゲー才能だ。だがな……現時点では、俺はお前の想像を遥かに超えているんでな」


 自信を持って告げるジオに対し、もうそこまでくれば、チューニの頭に過ぎったのは勝てるとか、勝てないとか、戦うとか、戦わないとか、そういう想いを超越していた。


「す……すごい……」


 それは、どこか憧れのような気持ちも込めて、チューニは自然とそう呟いていた。

 そしてジオもまた、戦うとか、戦わないとか、そういうことは聞かない。


「チューニ。まだ、先へ行く気はあるか?」


 明らかにチューニより痛々しい傷を負いながらも、まるで遊びに誘うような雰囲気で告げるジオに、チューニは自然と……


「……うん……まだ……行きたい!」

「そうこなくっちゃよ!」


 引きつらせながらも、それでも僅かな笑みを浮かべて答えるチューニに、ジオも嬉しそうに笑った。


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書籍書影(漫画家:ギャルビ様) 2022年4月6日発売

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