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79 大ニュース!

またまた久しぶりの投稿になります。第80話をお楽しみください!

 魔王城には赤々と篝火が焚かれ、魔力による照明に、その城郭が誇る雄大なシルエットが浮かび上がっている。


 城の広場にある小さな詰め所は、普段は警備をする担当者が使用する簡素で実用的な造りの建物だ。だが、その簡素な建物には似つかわしくない人物が、今日だけはこの場に陣取って、今か今かと何かを待ち侘びている。


 その人物こそ、現在この国を治める実質的な支配者である、オンディーヌ=ルト=エイブレッセ巫女王、つまりは現在帝都の魔法学園に留学しているノルディーナの祖母であった。



「シャロン、大魔王様は、まだお着きにならないのでしょうか?」


「殿下、もう少々落ち着いてくださいませ。執務室で待っていられずに、このような場にまで出向いて、警備の者たちが迷惑しております」


「シャロン、あなたはわかっていませんね! 大魔王様を一番に出迎えるのは、私の最も大切な務めです! 迷惑になるのは承知の上です。誰がなんと言おうと、私はこの場から一歩も動く気はありませんよ!」


 並々ならぬ決意を漲らせている王の揺ぎ無い態度に押されて、さすがのご意見役の内務大臣も、口を噤むしかなかった。日頃は政務全般に気を配り、国家の大黒柱としてかれこれよわい600年を数えるにも拘らず、大魔王の話が絡むと毎度この調子なのだった。



「殿下、あなたという方は…… わかりました、もう何も申しません。くれぐれも邪魔にならぬように、この場で大魔王様をお待ちいたしましょう」


「さすがはシャロン! 話がわかっていますね! それにしても、大魔王様はまだお着きになりませんか」


 二人して窓から空を見上げるが、依然として夜空にはその兆候はなかった。煌く星と、優美な白い輝きを放つ月が浮かぶばかりだ。そのまま両者が小一時間待っていると、詰め所に駆け込んでくる警備隊長の姿がある。



「殿下、大臣! 西の空にドラゴンの姿がございます! 大魔王様がご到着になられます!」


「こうしてはおれません! シャロン、お出迎えをいたしますよ!」


「承知いたしました」


 内務大臣を引き連れてディーナが外へ出ると、真っ暗な夜空で姿こそ確認できないが、西の方面から魔王城に近付いてくる巨大な魔力がある。それこそが紛う事なき大魔王の証、やがてその魔力は、魔王城の上空に到達して、ゆっくりと夜空を旋回する。音もなく広場に着陸したドラゴンの背には、ディーナたちが待ち望んでいた存在があった。



「大魔王様、12年ぶりのお越しを、一同首を長くしてお待ちしておりました」


 ディーナとシャロンはその場に跪いて臣下の礼をとっている。この国の唯一の君主を出迎えるのだから、二人からすれば至極当然であった。



「ディーナ、あなたは何百年この国を治めているの? いい加減に王である自覚を持ってくれないと、困るのは私なのよ! 礼なんかいいから、早く私に元気な顔を見せなさい!」


「大魔王様、もったいなきお言葉でございます」


 二人は立ち上がって、ドラゴンの背から降りてくる君主を迎える。ついでに、ドラゴンを操縦していた小柄な人影も、大魔王と共に降りてくる。



「大魔王様、いえ、ご無礼して橘様、本当にお久しぶりです」


「ディーナも元気そうで何よりね」


「ディナちゃん! 私もいるんだよ!」


「ああ、さくらちゃんは、しょっちゅうここに顔を出してますから、どうでもいいです!」


「なんだか私の扱いが、いつにも増してぞんざいだよ!」


 さくらが不満を口にしているが、ディーナは12年ぶりに迎えた大魔王を前にして、相当舞い上がっているので、その目はもっぱらさくらには向いていない。


 ディーナの大魔王に対する態度と、さくらに対する態度では、相当な温度差を感じるのは言うまでもないであろう。じつはこの3人は、かつて、この世界を変革に導いた伝説の冒険者パーティーに所属していた。互いに気心が知れた間柄とあって、儀礼が済めば普段の言葉遣いに戻るのだ。


 ただし、ディーナにとって大魔王は魔法の師匠であり、何百年が経過しようとも常に尊敬具合はマックスである。一応はさくらも剣の師匠であるのだが、こちらは仲良しの友達といった距離で、冒険者時代のままに接しているのだった。



「大魔王様、さくら様、ここでは立ち話もできませぬ故に、城内にご案内いたします」


「そうだよ、シャロンちゃん! ちょうどお腹が空いてきたから、何か食べさせてよ!」


「さくら様、晩餐の準備を整えておりますから、こちらへどうぞ」


「お腹いっぱい食べちゃうよぉぉぉ!」


 獣神の権威などあったものではない。さくらの言葉に導かれるように、全員城内の晩餐会場へと通されていった。 





「橘様、今回お越しになった目的は何でしょうか?」


「ディナちゃん、そんな話はどうでもいいから、お代わりをちょうだい!」


 大魔王を迎えたディーナが、その目的を聞き出そうというのに、そこにさくらが割って入り込んでくる。大魔王は、そんなやり取りを笑顔で見ているだけだ。



「こうして話していると、立場が変わったとは言っても、なんだか冒険者をしていたあの頃を思い出すわね」


「橘様、あの頃はみんな若かったですね」


「ディナちゃん! お代わり!」


 いちいちさくらが話に割り込んでくるので、中々肝心の話題が進展しない。



「さくらちゃんは、いつまで経っても全然変わらないんだから」


「そうですね、いまだにさくらちゃんはお子様体型ですよね」


「なんだとぉぉぉ! こう見えても少しは成長しているんだよ! ところでディナちゃん、もう一杯、お代わり!」


 こうして和やかな時間が過ぎていく。さくらが満足した表情でお腹を擦っている姿を確認した大魔王は、ようやく今回の用件を切り出す。



「実は、今回やってきたのは、例のあの女の子が気掛かりだったからなの。ずいぶん時間が経ったから、もういい年頃になっているでしょうね」


「例の女の子? それは誰の話ですか?」


「ああ、そうだったわね。ディーナは仕事が立て込んでいたから、あの時はロージーに手伝ってもらったんだったわ。さくらちゃんも一緒だったから、覚えているでしょう?」


「うん? ああ、エイミーちゃんのことだね。今は帝都の魔法学園にいるよ!」


 12年前、大魔王はこの世界の各地を回って、魔法の才能がある子供を捜していた。その時、たまたま通り掛かったノルデンの近くの村で、病で死に掛かっていたエイミーを偶然発見したのだった。


 ついでながら、さくらはついこの間まで野外実習の付き添いでトシヤたちのパーティーと一緒に活動していた。もちろんエイミーの身元も知っていたが、本人には特に何も告げなかった。



「まあ、魔法の才能が開花しているのかしら?」


「うーん、まだまだだね。いいセンスは持っているんだけど、荒削りで力任せなんだよ。それで、はなちゃんは、エイミーちゃんを教育するために、わざわざ来たのかな?」


「まあ、それが一番大きな目的ね。あとはディーナがしっかり仕事をしているかという様子見と、さくらちゃんが以前話していた、ロージーの子孫の男の子も、ちょっと興味を惹かれたのよ」


「ああ、トシヤだね! あの子も魔法学園にいるよ!」


「そうなの…… もしかして二人は出会っているのかしら? それはそれで、今後の展開が取っても楽しみね」


 大魔王は、一瞬思案気な眼差しを浮かべると、新たな楽しみができたかのように再び微笑む。だが、これには黙っていられないと、横からディーナが割り込んでくる。



「橘様、私の孫娘も魔法学園に留学中です! あの子には『トシヤを結婚相手として見極めてこい』と、申し付けてあります!」


「まあ、ディーナも中々目が高いわね。あの子に目を付けていたのね」


「ふふふ、なにしろトシヤは、このさくらちゃんが色々と教え込んでいるからね!」


「さくらちゃん、それが唯一の不安材料なんですが……」


 ディーナの中でのさくらの評価は、600年前から微動だにしていない。この世界の獣神であっても、パーティ-時代のあまりの無茶な行為が、さくらの評価を駄々下がりにしているのだった。



「これは中々面白い展開ね。トシヤを巡る三角関係が始まっているのね」


「はなちゃん、まだまだ考えが甘いよ! 実は、学園にはフィオちゃんの子孫の女の子もいるんだよ! その子もかなりトシヤに熱を上げているからね!」


「まあ、ラブコメ展開が完全に来ているわね!」


「うちの孫娘の立場がどんどん危うく……」


 この状況を楽しんでいる大魔王とさくら、対してディーナは、一人で孫娘の行く末を案じて頭を抱えている。白羽の矢を立てた孫娘の結婚相手を奪われてなるものかと、気が気ではない様子である。



「トシヤと3人の女の子は、パーティーを組んで活動しているよ。もう一人、獣人の子もいるけどね!」


「まさか、その子もトシヤに…?!」


「トシヤにはまったく気がないみたいだね! 今はもっとっ強くなりたい時期なんじゃないかな」


「よかったぁぁぁぁ!」


 ラブコメ展開がさらに広がるかと期待する目を向ける大魔王と、孫娘の立場がこれ以上悪くならない状況に、ほっと胸を撫で下ろすディーナであった。



「大体状況はわかったから、この国での仕事を2週間で片付けて、それから帝都に向かうわ。ディーナは、私がどこへ顔を出せばいいのか、スケジュールを組んでもらえるかしら?」


「はい、お任せください! 国民が一目大魔王様を拝見しようと心待ちにしておりますから、かなりハードスケジュールになります!」


「いってらっしゃい! その間、私は獣人の国に顔を出しておくよ。少しは王様らしいことをしないと、みんなに忘れられるからね! はなちゃんのスケジュールが終わる頃に、またここに戻ってくるよ!」


 こうして、大魔王の帝都訪問が決定されるのであった。







 3日後、魔法学園では……


 朝、トシヤが掘っ立て小屋… ではなくて、冒険者養成コースの教室に入ると、クラスメートはまだ2,3人しか教室にはいなかった。


 彼はマジックバッグから日本製の魔法書を取り出して、新たに製作しようと考えている汎用人型戦闘ドローンに組み込む術式の復習を始める。


 その魔法書は、読み込めば読み込むほどに新たな発見が生まれて、ドローンの更なる進化に有効なアイデアが閃いてくる。トシヤは、専用のノートを取り出して、気になった箇所をメモしたり、アイデアを書き込んだりしている。


 そこに、いつもよりも早い時間にも拘らず、アリシアとエイミーが入ってきた。



「トシヤ、おはような…… こ、これは! 朝からいきなりの驚きなの! 難しい本を開いて、トシヤが勉強しているの! カシムと机を並べる問題児が、実に挑戦的な態度なの!」


「トシヤさん、おはようございます! 朝から熱心に、何を勉強しているんですか?」


 アリシアは、常日頃この世界の文字の読み書きに四苦八苦しているトシヤの姿しか見ていないので、朝から本を開いて自主的に勉強している彼の姿を、大きな驚きを以って見ているのだった。対するエイミーは、驚いた様子もなく、まったくの平常運転であった。



「二人とも、おはよう! これは日本の魔法書だ。新たに製作に取り掛かる4号機のアイデアを考えるついでに、復習がてら術式を見直している最中なんだ」


「例の不思議な文字が書いている本なの! 私にはまったく読めないの!」


「なんでこんな難しい字を理解できるトシヤさんが、この世界の文字を読めないのか、本当に不思議でなりません!」


 トシヤが机の上に開いている本を見ながら、アリシアとエイミーが首を捻っている。すると、そこに血相を変えたディーナが、教室に駆け込んできた。普段は身だしなみに気を使う優等生が、今朝はよほど慌てていたのか、銀色に輝く髪があちこちに跳ねたままだ。



「た、大変だ! 私の国からとんでもない内容の手紙が来た!」


 女子寮から走ってきたのか、彼女の息が相当に上がっている。だがそんなことは気にも留めない様子で、ディーナは話を続ける。



「私のお婆様からの手紙が、今朝方届いたのだ! それによると、大魔王様が12年ぶりにお姿を現されたらしいのだ!」


「大魔王様? 知らないの! どこの人なの?」


「古い物語で聞き覚えがありますが、そんな昔の人がまだ生きているんですか?」


 アリシアとエイミーには『大魔王様』というフレーズはもうひとつ馴染みが薄く、反応は芳しくない様子だ。一方、トシヤはというと……



「そうなのか! 大魔王様が来てくれれば、最新の術式を教えてもらえるかもしれないな!」


 実はトシヤは、12年前に自宅を訪れた大魔王と会っていた。まだ子供の時分だったので、顔形などの細部の記憶は曖昧だが、体から発する強烈なオーラだけは、今でも鮮明に記憶している。



「トシヤ、それから他のみんなも! なんでそんなにあっさりとしているのだ?! 大魔王様が… いいか、あの大魔王様が、10日後にこの学園にお越しになるのだぞ!」


 ディーナは、もちろん自国で12年前に会って、直々に魔法の指導を受けている。ちなみにディーナは先日誕生日を迎えて154歳になっていた。15歳になったばかりの他の3人とは、過ごしてきた時間の流れが、大幅に違うのであった。だから、アリシアやエイミーにとっては『昔の人』という感覚であっても、ディーナにとっては『つい先日お目にかかった人』という違いが生じている。


 それだけではなくて、魔族であるディーナは、敬愛する君主がまもなくこの学園に登場するというニュースに心の底から興奮を隠せない様子だが、人族のエイミー、そして獣人のアリシアにとっては、よその国の王様の動向というのは、もうひとつピンときていなかった。これは、この世界の別々の国で育った各自の捉え方の違いだと言えよう。


 双方の温度差があまりにも大きいので、トシヤが間を取り持とうとして、口を開く。



「アリシアは、この前さくらちゃんに会えて嬉しかっただろう?」


「そうなの! トシヤが王様を連れてきてくれて、とっても嬉しかったの!」


「アリシアが王様に会えて嬉しかったように、ディーナも自分たちの王様がこの学園にやってくるのが、すごく楽しみなんだよ」


「ああ、そういうことだったんですね! 普段は落ち着いているディーナさんが慌てている理由が、やっと私にもわかりました!」


 どうやらエイミーはトシヤの説明で納得したようだ。自分の気持ちを理解してくれる人間が現れて、ディーナの表情がピカピカに輝いている。そして、多少の冷静さを取り戻した彼女は、急に何かに気がついたようだ。



「そうだった! 大魔王様がお越しになると聞いて、あまりの嬉しさに寮の部屋を飛び出してきてしまった。よくよく考えると、まだ手紙を半分しか読んでいなかったのだ!」


 ディーナにとっては、よほど泡を食ってしまうニュースだったようだ。彼女は手にした手紙の後半部分に目を通し始める。



「ふむふむ、この手紙によると、どうやら大魔王様と一緒に、さくら様と私の祖母がこの学園に来るそうだ」


「ディーナはそれを先に言うの! また王様に会えるの! これは大事件なの!」


 今まで人事のように話を聞いていたアリシアのテンションが、天井知らずに一気に上昇するのだった。



いよいよ魔法学園に姿を現す大魔王様、浮き足立つディーナとアリシア、さらにエイミーの教育とは? この続きは、2月までに投稿できたらと考えています。


どうか、長い目でお待ちください。

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