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71 地竜の森 4

お待たせしました、71話の投稿です。


翼竜の襲撃を退けて次の獲物を待ち受けるパーティーの前に新たな敵の姿が・・・・・・ 果たして無事に討伐できるのでしょうか?



それからお知らせがあります。この小説とは別に連載しています【異世界から帰ったら帰還者同士の世界戦争が始まりました】が現在日間ローファンタジーランキングの27位になっています。この小説でもお馴染みのキャラクター『さくらちゃん』が現代日本に戻って大暴れする異能バトルものです。


現在26話まで投稿していますが、日本を取り巻く国同士の争いが火花を散らす展開となっています。興味のある方は作者のページか下記の作品名を検索してください。


作品名    【異世界から帰ったら帰還者同士の世界戦争が始まりました】


URL     https://ncode.syosetu.com/n1241ex/


Nコード    N1241EX


「トシヤはいつまで呻いているの! だらしないの!」


「つ、爪先が…… クー…… わ、脇腹が……」


 自分が蹴り上げたのをすっかり棚に上げてアリシアはトシヤをジト目で見ている。このところアリシアはさくらの指導の下で熱心に鍛錬に取り組んでいて、その成果で一瞬の技の切れ味が増していた。少なくとも無防備なトシヤを悶絶させる程度には。



「さくら様、トシヤさんはずいぶん苦しんでいるみたいですけど、本当に大丈夫なんですか?」


「エイミーちゃん、全然心配はないよ! このくらいで音を上げる程度の生温い鍛え方はしていないからね。もうしばらく様子を見ていてごらん!」


 エイミーはさすがに心配顔で問い掛けているが、さくらは全く取り合おうとしない。だがしばらく様子を見ていてもトシヤは依然立ち上がる気配を見せない。



「トシヤ、いい加減に起き上がらないと、髪の毛を全部毟るよ!」


「さーて元気になったぞ! この通りピンピンしているからな!」


「どれだけ髪の毛が大切なんですか!」


「トシヤは死んでいても髪の毛のためなら起き上がるの! 本当に呆れてしまうの!」


「トシヤとの模擬戦の時に髪の毛を掴んだら絶対に勝てるな」


「ディーナさん、たとえ勝てても、その後トシヤさんは二度と心を開きませんよ」


「フィオ、どうやらこの手は使わない方が良さそうだ」


「それが賢明ですね」


 マッハの速度で起き上がったトシヤにエイミーとアリシアのツッコミが入っている。ディーナの発言通りトシヤの最大の弱点が露呈した瞬間だった。まあここに居るメンバーはすでに全員知っていることで今更ではあるが・・・・・・






「それじゃああそこの森に姿を隠すよ!」


 さくらの言葉に従って小さな森を目指して歩いていく。当然アリシアが先頭を進んで気配を探っている。



「今のところは魔物の気配はないの! このまま森まで行けるの!」


 翼竜の襲撃があったものの、ここはまだ最深部の入り口に過ぎない。大型の地竜はまだまだずっと先にいる。血の臭いでもしない限りはわざわざやって来ないのだった。



「このまま木の陰に身を潜めているんだよ。トシヤはマジックバッグからレッサードレークを出して、草原の縁に並べておいてよ! なるべく血塗れの死体が良いからね!」


「わかったよ、3体くらい並べておけば良いのか?」


「そうだね、そのくらいで良いかな。みんなは地竜が姿を現すまでこの場で待機だよ! 必要だったら水分とかお腹に溜まる物をしっかり補給しておくんだよ!」


 獣神・さくらが自分で狩をするならばわざわざ地竜を引き寄せるエサなど仕掛けない。その辺を適当に歩き回って、出会った運が悪い地竜を一撃で仕留めてお仕舞いだ。しかし今回は冒険者として必要な知識を学ぶ訓練も兼ねているので、こうして1頭ずつ誘き寄せる安全な方法を伝授している。ただし地竜が相手だけに、これでもどこまで安全を確保できるか不明な点が多い。



 やがてしばらくすると大型の魔物が近づいてくる気配が伝わってくる。それはアリシアのキツネ耳だけではなくて、誰の耳にも明らかな程のズシンズシンと地面に響く足音だ。



「おお、やっとエサに食い付いたみたいだね! 準備は良いかな?」


「さくらちゃん、全員で掛かるのか?」


「そうだね、トシヤ以外の全員でやってみようかな。女の子たちは頑張るんだよ!」


「「「「はい(なの)!」」」」


 こうして木に体を隠して待っていると大きな足音がいよいよ大きくなって、木の陰から見ている全員にその正体がはっきりとわかってくる。体高が6メートル以上あり、体に対して大きな頭部にはギッシリと獰猛な牙が生え揃った口を開いて周囲を威嚇する、かつて地球に存在したティラノザウルスを彷彿させる姿をした地竜だ。



「王様、なんだか凄いのがやって来たの! あれを相手にするのはちょっとムリなの!」


「大丈夫だよ! まずは基本通りに魔法で足止めをするんだよ!」


 気が強いアリシアでさえ木の陰から覗いて目に入ってきたその地竜の姿に涙目になっている。だがこの程度は獣神の目から見ると試練の内に入らない。ムリだと言おうが泣き喚こうが実戦あるのみだ。


 その間に地竜は更に接近して地面に置いてあるレッサードレークをひと飲みにしている。その隙を突いてさくらの指示通りにディーナとフィオが魔法の発動を準備する。



「いいかな、地竜には普通に魔法を放っても効かないよ! 丈夫な鱗が弾いてしまうからね。だから弱点を探して魔法を放つんだよ!」


「「はい!」」


 2人はどこかに弱点が無いかと2体目のレッサードレークを丸呑みしている地竜の体を観察する。だが頑丈な鱗に覆われているその体は見た目では弱点などなさそうだった。



「エイミーさん、ちょっと耳を貸してください」


「フィオさん、どうしましたか?」


「こんな作戦はどうでしょうか? ゴニョゴニョ……」


「わかりました、それで行きましょう!」


 2人の間でどうやら作戦がまとまったようだ。地竜は3体目のレッサードレークを口に咥えているところだ。



「行きます!」


 木の陰から姿を現してフィオが魔法銃を発射する。囮の1発なので弱い火魔法を仕込んだ銃弾が地竜に当たって小さな炎を上げる。



「グギャーーー!」


 自分に当たった魔法に怒りの咆哮を上げる地竜、口に咥えていたレッサードレークがドスンと地面に落ちている。フィオの魔法で地竜は背を伸ばして立ち上がり敵の所在を探しているようだ。



「今です!」


 ディーナは細心の注意を払って地竜の周囲に直径3メートル以上もある氷の塊を出現させていく。それも1個や2個ではない。まとめて10個、20個と出現する。ちょうどディーナとの模擬戦で彼女の突進を阻むために氷の陣地を構築したように。あの時は横並びにしていたが、今回は地竜を取り巻くようにしてその体の周囲を氷塊で覆っていくのだった。



「ギュオーーー!」


 次第に動ける範囲が狭まってきた地竜は太い尻尾で氷塊を払い除けようとするが、それが間に合わない程の速度で次々に巨大な氷がエイミーによって生み出されていく。そして、ついには首から上を残して地竜はすっかりその体を氷に覆われて身動きが出来なくなっている。



「これなら大丈夫なの! エイミーはお手柄なの!」


「アリシアさん、地竜の目の前に自分の幻影を出してください!」


「任せるの! 幻影よ、いでよなの!」


 フィオの指示によってアリシアが地竜の目の前に自分の幻影を映し出すと、地竜は敵が姿を現したと思って大きな口を開いて襲い掛かろうとする。



「ディーナ、狙いは口の中! 雷撃剣を突き立てて!」


「任せろ!」


 ディーナは身体強化を掛けると、身軽に氷塊に飛び乗って地竜の頭に剣が届く高さまで登っていく。そして今にもアリシアの幻影に口を開いて襲い掛かろうとしていた地竜の、その口の内部にバチバチと火花を散らして雷撃をまとう剣を突き刺す。



「ギュオオオーーー!」


 断末魔の咆哮が響いて、地竜は全身を雷撃に打たれて絶命する。いくら頑丈な鱗に覆われていても、口の中までは装甲はなかった。そこにあるのは柔らかな粘膜だけだ。そこにディーナの雷撃剣を突立てられると、さしもの地竜も一溜りもなかった。



「うんうん、中々良かったよ! みんなが力を合わせた成果だね。特にフィオちゃんの作戦は即席とはいえ効果があったね!」


「さくら様、ありがとうございます」


 さくらに褒められて、フィオは照れくさそうながらも喜びを隠せない表情をしている。エイミーの魔法の特性をよく理解した上でその豊富な魔力を地竜の足止めに使い、アリシアの幻影を囮にしてディーナに止めを刺させるというコンビネーションを思いついたのは、本当に大手柄だ。



「やりました! あんなに大きな地竜を倒しました!」


「凄いの! やればできるの!」


「力を合わせるとこんな強敵でも倒せるんだな」


「そうです! 足りない部分を埋め合わせて大きな力を発揮するのがパーティーですよ!」


「そうなの! 私たちは理想的なパーティーなの!」


 こうして地竜を見事に仕留めた女子たちはテンションが大幅にアップして互いの健闘を称え合っている。だがそこに1人……



「あのー、俺って何にもしていないんだけど」


「あっ、トシヤさん! すっかり忘れていました」


「そういえばトシヤは見ているだけだったの! これではパーティーの一員とは言えないの!」


 さくらの指示とはいえ、女子たちだけで地竜を仕留めた光景をトシヤはただ指を咥えて見ているだけだった。当然大きな疎外感を感じている。




「女の子たちは安心していいよ! 狩りはまだ終わりじゃないからね! もう1頭誘き寄せて今度はトシヤが1人で相手をするんだよ!」


「えーー! 俺は誰の協力ももらえないのか?!」


「この程度の地竜なら1人で十分だよ! ああ、それから戦闘ドローンは使用禁止だからね!」


「条件がますます厳しくなっていく」


 師匠は厳しい。だがさくらの手を借りる時点でこれはトシヤにも予測できていた成り行きだった。だからトシヤはあれだけ『無茶をしないでくれ』と何度も念押ししていたのだ。そしてついにさくらの最大級の無茶振りが炸裂している。トシヤとしてはもう腹を括るしかない。



「まずは片付けをしてからだな」


 時間稼ぎのつもりだろうか、トシヤはエイミーが遠慮なしに出現させた氷塊をマジックバッグに仕舞い込んでから最後に地竜も収納する。そして改めて別のレッサードレクを取り出して地面に並べていく。



「はー、気が重いし、まだ脇腹が疼いているぞ」


 髪の毛を人質にされて脅されたため飛び起きたものの、アリシアに蹴り上げられたダメージが完全に回復している訳では無かった。止む無く身体強化を掛けて痛みを誤魔化す。あとから痛みが倍になってぶり返して来るが、この際どうのこうの言ってはいられない。


 女子たちは森とサバンナの境目から50mくらい引っ込んだ場所に待機している。さくらとトシヤだけがその前方に潜んで地竜が餌に食いつくのを待っている。そして待っていると地響きを伴う足音とともにそれはやって来た。



「さくらちゃん、なんだかさっきのヤツよりも、二回りくらい大きくないかな?」


「うん、超大物がやって来たね! あの大きさは中々お目にかかれないから、トシヤはラッキーだね!」


「どう考えてもツイていないだろうが!」


 現れた地竜は、体高10メートル超のこの種としては最大級の大物だった。ガバッと開いた口はさっき女子たちが相手にした個体と比べて2倍以上あり、凶悪な牙の長さも30センチ以上は優にある。巨体にしては小振りな前足だが、それでも人の体を引き裂くには十分な力を秘めていそうだし、鍵状になっている爪はたっぷり50センチはある。



「さくらちゃん、せめて零号機でいいから使わせてよ」


「ダメダメ! あんなの一撃で仕留めるくらいじゃないと私の弟子とは認めないよ!」


 条件闘争に敗れたトシヤは、レッサードレークに齧り付いている地竜の観察を開始する。



(あれのどこに弱点があるんだ? 殆どドラゴン並みの鱗じゃないか。どこから攻めるか悩むな)


 色々と考えを巡らせているトシヤの横からさくらがせっつく。



「ほら、早くしないとせっかくの大物が立ち去っちゃうよ!」


「できれば早く立ち去ってほしいよ」


「まったく根性が無いね! なんだったら大声を出してこっちに注意を引き付けてもいいんだよ!」


「気づかれたら不利だろうが! 忍び寄ってから先制攻撃が出来なくなるぞ!」


「だったら早く行ってくるんだよ!」


 こうしてトシヤは涙目になりながら木々の間をそっと進んで一歩ずつ地竜に近づいていくのだった。

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