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68 地竜の森1

お待たせしました68話の投稿です。依然として野外実習のお話が続きます。魔法学院の一大イベントですので、もうしばらくはこのお話が続いていきそうです。タイトルにあるように、いよいよ主人公たちは地竜の森に踏み込みます。そしてそこでは・・・・・・


週に一度の投稿のもかかわらずたくさんのアクセスをお寄せいただいてありがとうございます。この作品は作者にとっては一番肩の力を抜いて筆を進めているいわば趣味に走った結果です。他の作品と違って日常に重点を置いて描いている分だけ細かな会話のやり取りに色々とスパイスを振りまいているつもりです。そんな意図が皆さんに伝われば嬉しいのですが・・・・・・ でも表現って本当に難しいです。一文字で微妙なニュアンスが変わってしまうのでまったく手が抜けません。この小説は肩の力を抜いて描いていますが、決して手抜きはしていませんのでごどうかご安心してください。



「さくらちゃん、なんだかこの森はヘビやトカゲの魔物が多いな」


「そりゃあそうだよ! トカゲがでっかくなったのが地竜だからね」


「でっかくなるスケールが大きすぎる気がするけど、確かに魔物の種類としては同じようなものか」


「だから地竜もトカゲだと思って討伐すればいいんだよ!」 


「そんなことができるかい! 相手は地竜だぞ!」


「まったくトシヤは肝っ玉が小さいねぇ」


「お言葉ですが、さくらちゃんの肝っ玉が、果てしなくデカイだけだからな!」 


「こんなチャーミングな私を捕まえてトシヤは失礼だよ! ああ、ほらまたブラックリザードが出てきたよ!」


 地竜の森の入り口付近を歩いているさくらに率いられたトシヤたちは時折こうして現れてくる爬虫類系の魔物を討伐しながら森を進んでいく。ブラックリザードはDランクのパーティーが仕留めるには格好の相手で、その革や肉が珍重されている。



「フィオ、相手をしてくれ!」


「はい、トシヤさん!」


 一列で歩いているパーティーの後方に居るフィオが魔法銃を構えて撃ち出すと、電撃魔法が魔物に当たってたちどころに討伐を終える。



「ふむふむ、さすがだね! 中々良い腕をしているよ!」


「さくら様、ありがとうございます」


 さくらから直々にお褒めの言葉をもらってフィオは顔を紅潮させている。彼女の目から見てさくらは偉大なご先祖様の妹であり伝説の人物なのだ。



「さくらちゃん、この魔物でも今回の野外実習の成果としては十分だから、無理をしないで引き返そうよ」


「トシヤは何を甘っちょろい話をしているのかな? 私はそんな風にトシヤを鍛えたつもりはないよ!」


「いや、俺だけならともかく他のメンバーも居ることだし」


「トシヤはダメダメなの! 王様に付いて行けば大丈夫なの! 大物狩りに獣人の魂が燃えているの!」


「うんうん、アリシアちゃんは良い心構えだね! こんな若い子が居れば獣人の森は安泰だね」


「王様から褒めてもらったの! とっても光栄なの!」


 パーティーの先頭に立って斥候役を務めているアリシアが燃え上がってズンズン先に進んでいく以上、トシヤはその後を付いていくしかない。不安を抱えながら次第に地竜の森の奥に足を踏み入れていく。



「トシヤさん、そろそろお昼が近いですよ! どこかで休憩を取りましょう!」


「そうだな、もう3時間くらい歩き通しているから適当な場所が見つかったら昼飯にしようか」


 エイミーの提案で見通しの良い場所で一旦休憩を取ってから再び森の中を歩き出す。なお昼食でもさくらから思いっきりクリームが乗っているワッフルをもらったエイミーは、今回の野外実習でのダイエット計画が完全に破綻している模様だ。



「トシヤ、森の中というのは変化がないな。時折魔物が出てくる以外は木が並んでいるだけだ」


「ディーナはまだ慣れていないから気がつかないんだよ。ほら、あそこの木を見てみろ。幹に矢印が付いているだろう。ここを通った冒険者がああやって目印を付けているんだ」


「そうなのか! 全然知らなかったな。良い勉強になった」


「トシヤさん、私にも森の知識をもっと色々教えてください」


「そうだな、魔物や動物の足跡や糞なんかに注意しないといけないんだ。すでにそこはその魔物の活動エリアだという証拠だからな」


 トシヤがあれこれ話す冒険者として必須の知識にディーナとフィオが感心しながら頷いている。一応は学院の授業で学んではいるのだが、こうして実際に目で見るとなるほどと納得できるのだった。



「大き目の魔物の気配がしてくるの! みんな注意するの!」


 アリシアの警告に全員が気を引き締めて彼女が指差す方向を見つめる。木の枝が不自然に揺れている様子で彼女は気配を察知したのだが、その揺れが次第にこちらに近づいてくるのだった。



「注意しろよ! 向こうも完全に俺たちの気配を捉えているぞ! エイミーはいつでも魔法が放てるようにしておけよ!」


「トシヤさん、任せてください!」


 このパーティーでは最強の火力を誇るエイミーに迎撃の先鋒を任せるトシヤ、彼の指揮の様子をさくらは黙って見ている。



「ここは木に囲まれ過ぎているから全員もう少し後ろに下がれ!」


「「「はい(なの)!」」」


 樹木が密集している場所を避けて一旦後方の見通しが効く場所で待ち構える一同、アリシアは右手に匕首を構え、ディーナはミスリルの剣を引き抜いている。そして、その場に姿を現したのは……



「レッサードレイクだ! 1体しか居ないから群れから逸れたやつだな。エイミー、やってくれ!」


「それじゃあ景気良く行っちゃいますよー! それっ!」


 エイミーの両手から氷の槍が合計10本まとめて放たれる。いや、それは槍と呼べる代物ではなかった。1本がその辺に生えている大木くらいある氷のロケットだ。それがまとめて10本、2足歩行の小型の地竜に向かって進んでいく。



「ギギャーー!」


 森に響き渡る叫び声を上げてレッサードレイクはエイミーの魔法に押し潰されていく。体高3メートルくらいの小型ではあっても、その体は剣も通さない硬い丈夫な鱗に覆われている。だがエイミーは豊富な魔力に物を言わせて圧倒的な物量で魔物を押し潰していた。



「どうやら動かなくなったみたいだな」


 氷の塊の下敷きになって動きを止めた魔物に向かってトシヤが慎重に近づいて行く。



「初号機、氷をどかしてくれ」


 だがエイミーがあまりにド派手に魔法を放ったせいで、その場に残っている氷の量が多過ぎて人力でどかすのは容易ではなかった。仕方なくトシヤは初号機に命じて、氷を離れた場所に投げ捨てさせる。そしてようやくレッサードレイクの姿が確認できるようになると、それはあまりにも無残な死に様だった。頭は原形を留めないほどに潰れて、全身の数箇所が変な方向に折れ曲がっている。その場に居る全員がエイミーの魔法の威力をまざまざと見せ付けられた格好だ。



「なるほど、エイミーちゃんの魔法は荒削りだけど中々いいね! これなら地竜に通用するかもしれないよ」


「ちょっと勢い良くやり過ぎちゃいました。今度はもう少し手加減します」


「あの威力だったらこのくらいの相手には単発で十分だろう。それでもまだ動いているようだったら他の人間が止めを刺すから大丈夫だ」


「そうですね、その時は皆さんにお任せします」


 アリシア、ディーナ、フィオの3人はエイミーの魔法の威力にまだドン引きしている。学院では制約があって思いっきり魔法を放つ機会がなかったのだが、こうして遠慮なしに撃ち出した桁違いの威力が想像を絶していたからだ。



「お婆様に匹敵する魔法だ」


 ディーナの祖母、現在の魔族の国の女王の力を知っているディーナの口から零れた呟きだった。もちろん超一流の洗練された魔法使いの彼女の祖母と比べると、エイミーの魔法は力任せで強引に映る。しかし込められた魔力の凝縮具合やエネルギー変換の効率の良さは、十分に魔族の女王に匹敵するレベルだった。



「ここまで破損するとこの魔物は売り物にはならないね。あとでドラゴンの食料にするからもらっていくよ! それじゃあ出発しようか!」


 さくらはボロボロになったレッサードレイクをマジックバッグにしまいこんでから、出発の号令をかける。その声に合わせてパーティーは再び気を取り直して森を歩き始める。



「逸れた小型の地竜が出てきたから、もう目的地はすぐそこだよ!」


 どうやら目的地はもう目と鼻の先らしい。だがしばらく進むと日が西に傾き始める。初夏なので日が長いとはいえ、野営の準備には時間がかかるから今のうちに適した場所を見つけるに越したことはない。



「ここら辺で今夜は過ごそうか」


 平らで樹木が疎らな場所を見つけたトシヤの声に全員が頷く。簡単に整地してから3張テントを張ってその中心に火を起こす。



「さくらちゃんはテントを使わないのか?」


「ああ、私は気にしないでいいよ! これがあるからね!」


 さくらはマジックバッグから一軒家を取り出してドンとその場に据え付ける。家具まで用意された本格的な一戸建て住宅だ。



「さくらちゃんだけで寝るのはもったいないくらいの広い家だな」


「みんなはこっちに入っちゃダメだよ! 野外実習の意味がないからね。その代わりに魔物除けのアイテムを貸してあげるよ!」


 さくらは10枚程の平べったい物をトシヤに手渡す。どうやらこれが魔物除けのアイテムらしい。



「さくらちゃん、これは一体何だ?」


「ドラゴンの鱗だよ! テントの周りに置いておけば魔物は近づいてこないからね」


 本体から剥がれ落ちてもなお魔力を宿しているドラゴンの鱗は最高の盾の素材になるだけではなくて、魔物除けの効果が非常に高い。魔物だってドラゴンの気配がする場所にノコノコと顔を出したがらないのだ。



 トシヤは鱗をテントの周囲に並べていく。これで一晩安心して過ごせるのだった。夜の見張りを立てるのは意外と面倒だしゆっくり休めない分体力の回復がままならない。さくらから受け取った便利アイテムのおかげで今夜はゆっくりと休めるのは、大変に助かる話だった。



 夕食を終えてアリシアとエイミー、ディーナとフィオがそれぞれ一組になってテントに姿を消すと、トシヤも自分のテントに横になる。本当はエイミーがトシヤと一緒に寝たい様子を見せていたが、明日に備えて彼女も自重した。







 そして、翌日……



「ああ、ぐっすり寝られたなぁ。最近ずっと学院の寮で寝る生活だったけど、こうして外で寝るのもたまにはいいな」


 トシヤは冒険者登録が可能な年になってからずっと魔物狩りに明け暮れる生活を送ってきた。しばらく忘れていた野外での生活に戻っても体はしっかり覚えていてこうして順応している。


 外に出るとアリシアが軽く体を動かしている。彼女も早めに目を覚ましたようだ。



「トシヤ、おはようなの! やっぱり森はいいの! 体調が絶好調なの!」


 森に住む種族のアリシアはトシヤ以上に快適な一夜を過ごしたようだ。体が森に適応しているので、街に居るよりもかえって過ごし易いそうだ。



「他のみんなはまだ寝ているのか?」


「エイミーはいつでもどこでもグッスリなの! ある意味最強の神経の図太さなの! ディーナとフィオはまだ起きてこないの!」


 どうやらエイミーも学院の寮と同様に良く寝ているらしい。彼女もどこでも寝れるタイプだ。いや、暇があるとその辺でうたた寝しているくらいにとっても良く寝る人物だった。



 しばらく2人で適当に体を解していると、ディーナとフィオが揃ってテントから出てくる。2人とも慣れないテント生活でやや眠そうな顔をしている。



「2人とも早いな。夕べはなんだか良く眠れなかった。環境が変わるとどうも寝つきが悪くなるから仕方がないか」


「お2人ともおはようございます。私もなんだかグッスリ眠れませんでした。もうちょっとしたら目が覚めてきますからお待ちください」


「2人とも無理しないでいいぞ。朝の仕度は俺たちがやっておくから、テントで横になっていろ。休める時は休むのが冒険者の鉄則だからな」


「すまないな、もう少しだけ横になってくる」


「お言葉に甘えます」


 こうして2人は再びテントに戻っていく。トシヤとアリシアは火を起こしてお湯を沸かして、そのついでに朝食用のスープを作り始める。



「材料がトシヤのマジックバッグにいっぱい入っているから使い放題なの! せっかくだから美味しく作るの!」


「そうだな、食事は冒険者の基本だ。しっかり食べないと体力が保たないからな」


 2人でスープを作っているところに一軒家のドアが開いてさくらがやって来る。野外での宿泊とはいっても彼女だけは普通に家で生活するのと変わりない一夜をすごしていた。



「なんだかいい匂いがしてくると思ったら朝ごはんを作っていたんだね! ふむふむ、それじゃあ私が奮発して珍しい食材を提供しちゃおうか! これは日本のベーコンと卵だよ!」


 さくらはマジックバッグからスーパーの袋に入った食材を取り出して2人に手渡す。中には薄くスライスされたベーコンのパックが5つとブロックが2つに卵が3パック入っている。どうやらこれで料理をしろと言っているらしい。



「さくらちゃん、すごくきれいな食材だな。卵なんかツヤツヤだぞ! さすがは日本の品物だな」


「王様は何でも持っているの! 尊敬するの!」


 2人はブロックのベーコンを適当な大きさに切ってスープに投入する。コクのある風味が鍋から広がってこれはいかにも美味しそうだ。それからフライパンでベーコンエッグを作って朝食の準備は完了する。



「なんだかとっても良い匂いにつられて目が覚めちゃいました!」


「エイミーはご飯の準備が終わった頃に必ず現れるの! 早く起きてちょっとは手伝うの!」


「えへへへへ、食べるのは好きですけど作るのは苦手です」


「やっぱりダメダメなの!」


 美味しそうな朝食を前にして、朝一番からアリシアにダメ出しを食らうエイミーだった。





次回の投稿は来週末の予定です。森を進む主人公たちも前にはいよいよ大物が・・・・・・ そんな展開が予想されます。

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