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66 目的地の変更

お待たせしました、66話の投稿です。野外実習に出発した主人公たちは、どうやら付き添いの冒険者に振り回されるようです。他の生徒たちとは別の場所に向かうようですが、彼らは果たして・・・・・・




それから、お知らせがあります。前回の投稿でお知らせした新たに連載を開始した小説【異世界から帰ったら帰還者同士の世界戦争が始まりました】が、8月25日のローファンタジーランキングで76位になりました!


おかげさまで中々評判も良くって、まだ12話しか書き進めていないにも拘らず、この小説に匹敵するくらいの閲覧数を記録しています。



 世界規模の戦争にに巻き込まれた日本がどう戦っていくかという、現代を舞台にした異能力バトルものです。各国にも存在する異世界からの帰還者たちと主人公が果てしない戦いを繰り広げてくストーリーになる予定です。登場人物はこの小説にも出てくる人もいますので、読者の皆さんならば違和感なく世界観が伝わってくると思います。


すでに12話まで投稿を終えて、主人公を取り巻く世界の動きなどが詳しく解説されています。興味がある方は下記のURLか作者のページにアクセスして作品を検索してください。



URL     https://ncode.syosetu.com/n1241ex/


Nコード    N1241EX

 アリシアが王様から合格のお墨付きを受け取った頃、ようやく他の学科の生徒たちがローデルヌの森の入り口に設置された集結地点に集まりだしてくる。そして全員の集合が確認されたのは、学院を出発してから3時間後だった。



「どうやらみんな集まったようだな。それじゃあ休憩は終わりにするぞ」


 トシヤの声で敷物の上でおしゃべりをしていたエイミー、ディーナ、フィオの3人は立ち上がると、ちょうどそこにアリシアも戻ってくる。



「王様のおかげで技が上達したの! やっぱり王様は凄い人なの! 獣人の誇りなの!」


「うほほー! アリシアちゃん、私をもっと褒めていいよ!」


「アリシア、さくらちゃんは調子に乗るととんでもない事件を引き起こすから、そのくらいにしておくんだ。さくらちゃんも大人気ないから褒められて調子に乗らないでくれよ」


「トシヤは王様の凄さをちっともわかっていないの! もっと尊敬していいの!」


「そうそう、トシヤはもっと私を尊敬しなさい!」


 このままにしておくと、さくらがどこまでも天高く上っていくので、トシヤはこれ以上構うのを止めて放置に徹する。まださくらの実態が良くわかっていないエイミーは『本当にこの人がエクストラランクの冒険者なのだろうか』とちょっぴり疑っている。ディーナは再び子供時代のトラウマを思い出して表情を硬くして、フィオはどうしていいやらオロオロしているのだった。



「よーし、生徒はこちらに集合してくれ!」


 本部のテントが張られている場所からセルバンテ先生の声が響く。彼は元冒険者なので森や野外の活動に明るく、毎年の野外実習の責任者を務めていた。



「今からパーティーごとに森に入ってもらうぞ。くれぐれも行動は慎重に行うように! 僅かな油断が一歩間違うと命取りに繋がるぞ。必ず冒険者の指示に従って行動するんだ。今日は森の浅い部分で行動に慣れて、夕暮れ前にはこの場に戻って来い。全員わかったな!」


 先生の注意に対する生徒たちの反応は様々だ。



「ここまで歩くのに疲れてしまいましたわ。ちょっとお休みしてから森に入りましょう」


「この森は話によると初級の冒険者でも安心して薬草取りができるらしいな。大した魔物も出ないだろうから、ちょっとその辺を歩くような感じで進めば良いだろう」


「これだけ冒険者で固めていれば、魔物が出ても俺たちの出番はないんじゃないのか?」


「一応は油断しないで進むぞ。それにしても森の中というのは想像以上に見通しが悪いな」


 こうして約200人の生徒たちは雇った冒険者に率いられて森に足を踏み込んでいく。初めて森に踏み入る貴族の子弟たちは先生があれだけ注意したにも拘らず、多数の冒険者を抱えている状況に安心しきっている。こんな調子では何のためにわざわざ森に入るこのような機会を学院が設けているのか、本当の意味で理解はできないだろう。





「いいか、森の中は虫や小さな動物が毒を持っている危険がある。僅かな気配にも気を配るんだぞ!」


「カシムさん、わかりました! 私、頑張ります!」


 本当の森の怖さを知っているカシムは全く警戒を緩める様子がない。付き添いの冒険者は『こいつらやるじゃないか!』という表情でその行動を一番後ろから見守っている。カシムが率いるパーティーだけは、別格の動きで森を進んでいくのだった。






 生徒たちが森に入っていく動きに合わせてトシヤたちも歩き出そうとする時に、突然さくらが呼び止める。



「ああ、トシヤたちはちょっと待っていなさい。そうだね、トシヤは先生の所に行ってゴニョゴニョ……」


「えー! そんな許可が出るのかな?」


「大丈夫だよ! 私の名前を出せば誰も反対しないよ!」


 仕方がなくトシヤはさくらに言われるままに本部に向かう。もちろんその内心では嫌な予感しかしていない。



「あのー、セルバンテ先生!」


「おお! トシヤ君か、君たちはまだ出発しないのかね?」


「それがですね、付き添いの冒険者が『ここは面白くないから別の森に行く』って言っているんですが、許可してもらえますか?」


「付き添いの冒険者って言うと、あのエクストラランクの人だよね!」


「はい、その通りです」


「そうか、それなら仕方がないな、特別に認めよう。1週間後には必ずここに戻ってきてくれよ」


「本当にいいんですか?」


「当たり前だろう! 誰がエクストラランクに逆らえるんだね? 好きにしていいよ」


「はあ、それじゃあ行ってきます」


「ああ、気を付けて行くんだよ」


 こうしてあっさりと許可を得たトシヤがパーティーメンバーが待っている場所に戻ってくる。



「さくらちゃん、先生が良いって許可してくれたよ」


「シメシメ、これで好きな場所に行けるね。それじゃあしばらくこっちの道を進むよ!」


 さくらはニンマリしながら森には入らずに街道を進むと言い出している。仕方がなく全員がその指示に従って街道を歩き出す。トシヤの心中ではますます嫌な予感が募っていくのだった。





「さーて、この辺りから街道を外れるよ!」


 レンガ敷きの街道を離れて草原に足を踏み込む一行、先頭は気配に敏感なアリシアが務めている。



「この草原にも魔物の気配はないの! 遠くにゴブリンが居るけど、わざわざ近づいては来ないの!」


「そうだね、ここまできたら人目には付かないし、良いんじゃないかな。それじゃあここで腹ごしらえをしようか!」


 さくらの提案でその場に敷物を広げて昼食の準備に取り掛かる。とはいっても大量の物資が入るマジックバッグ持ちばかりなので、調理済みの料理やパンを取り出すだけだ。もちろんさくらは1人で有り得ない量の料理を取り出してパクパク食べている。



「さすがは王様なの! 食事も豪快なの!」


「さくら様に比べたら私は全然少食ですよね」


「エイミーは比較の対象を間違っているの! 私たちの王様と比べても意味がないの!」


 普通に食事を終えたエイミーはアリシアと並んでさくらの食事風景を眺めている。だがエイミーの表情はさくらがデザートを取り出した瞬間に大きく変化する。それは今にもヨダレを垂れ流さんばかりの、好きな人の前では絶対に見せてはいけないだらしない表情だった。もちろんそんなエイミーの実態を知り尽くしているトシヤは今更何とも思わないが……



「エイミーはダメダメなの! デザートから目を離せなくなっているの!」


「だって、凄く美味しそうですよ!」


「うん? エイミーちゃんは甘いものが好きなのかな? まだいっぱいあるから食べる?」


「いただきます!」


 エイミーは何の躊躇いも遠慮もなくさくらの誘いに乗っかっている。そして5段重ねのパンケーキにたっぷりと生クリームが乗ったデザートを美味しそうに頬張るのだった。



「おお! エイミーちゃんはなかなか良い食べっぷりだね! 若いうちはたくさん食べた方が良いよ!」


「はい、甘い物はいっぱい食べる自信があります!」


「エイミーは野外実習中に3キロ痩せると言っていたのに、早くも危険信号が点ったの!」


「さくらちゃん、エイミーを甘やかしたらダメだよ」


「トシヤは何を言っているのかな? 女の子には甘い物は大切なんだよ! ほらほら、ほかの子達も食べるんだよ!」


 結局エイミーだけでなくて、アリシア、ディーナ、フィオの3人はさくらからデザートの皿を受け取って幸せそうな表情で完食していた。ただしエイミーとさくらのように5段重ねではなくて、2段になっている小ぶりな物を口にしていた。彼女たちはエイミーと違って最後の最後で思い留まる能力が備わっているのだった。





「それじゃあお腹もいっぱいになったし、そろそろ始めようか!」


 おもむろに立ち上がると、さくらは膨大な魔力を放出して草原に巨大な3つの魔法陣を浮かび上がらせる。そしてその魔法陣から3体の巨大なドラゴンが姿を現す。



「さすがは王様なの! 大きなドラゴンが現れたの!」


「これがドラゴンですか! 私、初めて見ました!」


 獣人の森に空からドラゴンに乗ってやって来る王様は獣人たちの間では知らぬ者が居ない有名な話だし、アリシア自身も何度か森の広場にやって来たドラゴンを目撃している。


 エイミーは大魔王から魔法の力を授かった時に、何事にも動じない鋼の精神を得ていた。唯一動じるのは甘いデザートを見た時だけだ。


 この2人がドラゴンを見ても平然としているのに対して、ディーナは真っ青な顔でガタガタ震え出している。それはドラゴンが恐ろしいというよりも、これからドラゴンの背に乗せられて連れて行かれる先が恐ろしのだった。


 そしてフィオは白目を剥いて失神している。いきなり予告なしに登場したドラゴンが放つ迫力に神経が保たなかった。この中ではフィオが一番真っ当な神経の持ち主だと判明する。普通の人がドラゴンを目の前にしたら、フィオのように意識を手放すのが当たり前の反応だった。



「やっぱり嫌な予感が当たってしまった!」


 トシヤは1人で頭を抱えている。こんな光景を予想していたから、冒険者の当てがなくてもさくらを連れて来るのを躊躇ったのだ。彼女が無茶をしないように釘を刺して、一縷の望みを懸けていた結果がこれだった。



「フーちゃん、ルーちゃん、グーちゃん! 来てくれてありがとうね!」


 さくらが呼び出した3体のドラゴンは〔赤龍・イフリート〕〔青龍・ヘルムー〕〔黄龍・ジグムント〕と、さくらによって命名されている。先日トシヤを乗せた『水龍・リバイアさん』と同様にさくらと契約を結んだドラゴンたちだ。



「なんのこの程度の用向きなどお安い御用だ」


「我らが敬愛する獣神殿に仕える事こそ名誉なり」


「久方ぶりに呼び出されて嬉しい限りだ」


 ドラゴンたちから念話が返ってくる。そのどれもがこうしてさくらの前に出るのを心から栄誉に思っているのだった。



「さあ、それじゃあドラゴンに乗ってひとっ飛びだよ! うん? フィオちゃん、寝ている場合じゃないからね!」


 放っては置けないのでアリシアとエイミーがフィオの介抱をすると、彼女はようやく目を覚ます。依然として顔色はディーナ同様に青いままだ。まだ足に力が入らなくて1人で立ち上がれないので、アリシアとエイミーの協力を得てトシヤがフィオを背中に負ぶってヘルムートによじ登っていく。その間フィオは硬く目を閉じてされるがままになっているのだった。



「フィオ、足を着いてその場にゆっくり座るんだ」


「は、はい」


 フィオは目を閉じたままトシヤの言葉に従っておずおずと足を着く。その体がまだ小刻みに震えているのがトシヤにダイレクトに伝わってくる。



「よし、座ったな。それじゃあ俺の体に腕を回してしっかりと掴まっているんだぞ」


「は、はい」


 フィオには全く余裕がなかった。恥ずかしいとか照れくさいとかそんな感情は後回しにして、恐怖から逃れたい一心でトシヤにしがみ付く。その様子がディーナの手を取ってジグムントの背中を登っている最中のエイミーの目に飛び込んでくる。



「なんだか羨まし過ぎて腹が立ってきました!」


「エイミー、何の話をしているんだ?」


 ディーナはこちらも周囲を見る余裕がないので、必死でエイミーの手を掴んで一歩一歩ドラゴンの背中を登っている所だ。



「いえ、何でもありませんよ! 帰りこそはあの場所を私の物に……」


「帰りがどうかしたのか?」


「な、何でもありませんから気にしないでください」


 こんな一方で、アリシアは身軽にピョンピョンとイフリートの背中を駆け上がっていく。



「王様と一緒にドラゴンに乗れるなんて、一生の宝物なの! 森のみんなに自慢できるの!」


 ウキウキ気分でいつの間にか背中に座っている。そしてアリシアの前にさくらが地上からジャンプしてひとっ飛びで着地すると、全体に声をかける。



「それじゃあ出発するけど、準備は大丈夫かな?」


「さくらちゃん、こっちはオーケーだ!」


「さくら様、何とか大丈夫です!」


 トシヤとエイミーの声が耳に届くと、さくらはドラゴンたちに出発を告げる。



「それじゃあ、ひとまずはテルモナに向かって出発するよ!」


 ドラゴンたちは2,3回羽ばたくとその体はゆったりと宙に舞い上がる。そして帝都から見てはるか東に1000キロのテルモナの街を目指して飛び立っていくのだった。



 

最後までお付き合いいただいてありがとうございました。次回の投稿は来週末の予定です。次回は新たな目的地に到着する予定です。もちろん主人公たちには相当な試練が待ち構えているはず・・・・・・


たくさんのブックマークありがとうございました。引き続き皆さんの応援をお持ちしています!

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