56 新しいパーティー
大変お待たせいたしました、56話の投稿です。一旦このお話を書き上げて保存しようとしたらエラー表示が出てしまい、5時間分の努力が半分が消えてしまいました。時々保存時にこのようなアクシデントが起きるので小まめに保存はしているのですが、今回は後半部分の大半が消えてしまって・・・・・・ その瞬間頭が真っ白でした! 書き直しましたよ、ええ! 涙目になって書き直しました!
さて、愚痴はともかくとしてお話は新たなパーティーを組むという内容です。色々な思惑がクラスの中にうごめいて・・・・・・ 果たして無事に決まるのでしょうか?
1学年の〔冒険者養成コース〕がスタートして1週間が過ぎた朝、担任のセルバンテ先生に連れられて1人の少女がオンボロ小屋としか呼べない教室に姿を現した。
「怪我をして休んでいたエルナ君だ! 今日からこのクラスの一員だから全員よろしく頼む」
「皆さんエルナです! 新しいクラスで学ぶのをとっても楽しみにしていました! どうぞよろしくお願いします」
丁寧な言葉遣いで挨拶するエルナにクラス中から拍手が沸きあがる。このノリの良さはEクラスから引き継がれているのだった。特に同じクラスの女子から殆ど省みられないモテない男子たちが色めき立っている。もしかしたら僅かな可能性があるかもしれないと期待に胸を膨らませているのだった。
「それじゃあエルナ君はあそこの一番後ろの席に座ってくれ」
「はい」
そこは偶然にもカシムの隣だった。エルナは弾む足取りを隠そうともせずにカシムの隣に腰を下ろす。そして、満面の笑みを浮かべてカシムに顔を向けた。
「カシムさんと同じクラスでしかも隣の席なんて本当に嬉しいです! 私、登校できるのが楽しみで昨日は中々寝付けなかったんですよ! これからよろしくお願いします!」
「ああ、よろしく頼む」
カシムの相変わらずぶっきら棒な返答だが、彼の声を聞くだけでもエルナは嬉しそうにしている。そしてこの様子を目撃したクラス中がどよめきに包まれてた。
「あの子は初めて見る顔なの! カシムと知り合いみたいなの! これは驚きなの!」
「アリシア、あの子は完全に恋する乙女の瞳になっていますよ! これはもしかしたらとんでもない事件かもしれません!」
「そうなの! トシヤを見るエイミーとまったく同じ表情なの! 大事件なの! 獣人の森に手紙を書く必要があるの!」
「いくらなんでも私はあんな顔なんかしていませんよ! 常日頃からもっと冷静に振る舞っています!」
「エイミーは全然自分を知らないの! 大して変わらないの!」
アリシアとエイミーは隣同士でヒソヒソと話し込んでいる。その更に隣ではトシヤが全く興味無さそうな表情で、頭の中で4号機に組み込む術式の概要を構築しているのだった。一旦トシヤがこの作業に没頭し始めると、他の物音が一切聞こえてこなくなる。それぐらい集中しないと、いくら彼でも日本製のAI術式は複雑怪奇な代物だった。
そしてクラスのあちらこちらではモテない男子たちが絶望感に苛まれている。
「あんなバカにも彼女ができるなんて……」
「ヤツにできるんだったら俺にも可能なはず! なのになんで出会いが全く無いんだぁぁぁ!」
「ハイハイ、所詮俺なんか負け犬ですよ! ええ、何でも好きなようにおっしゃってください!」
やさぐれた雰囲気を身にまとった男子たちの姿がそこにはあった。そして別の席では、ホッと胸を撫で下ろしている2人の女子生徒がいる。
「どうやらあの子はトシヤには興味が無さそう。ライバルは少ないに限る!」
「まあ、あのカシムさんに好意を抱く人がいるなんて、世の中不思議でいっぱいですね! でも、これであの子はトシヤさんを巡るレースには不参加と看做して構いませんね!」
ディーナとフィオは一番のライバルであるエイミーに視線を向けると、彼女はアリシアと熱心に何か話し合っている最中だった。2人の目にはエイミーこそが、彼女が現在身を置く位置や魔法の実力などを含めて、トシヤのハートを射止めるための最強のライバルと目しているのだった。
「さて、これで晴れて全員が揃ったな。エルナ君は怪我明けで体調が元に戻るまでは別メニューだ。その他の生徒は着替えて外に出ろ!」
「「「「「「「はい!」」」」」」
エルナは模擬戦で大量の出血をしたせいでまだ軽い貧血症状が残っているので、座学中心のメニューが予定されている。1週間分の遅れを取り戻す意味でも、これは彼女にとっては必要だった。
だが待ってほしい! 過去に確か同じように模擬戦で大量の出血をして医療施設に運び込まれた人物がもう1人居たはずだ。入学早々の模擬戦で大怪我を負って担架で担ぎ込まれたトシヤだ。彼が受けた傷はエルナよりもはるかに深くて、出血もより大量だった。入院した当初の2日間くらいは起き上がるのもままならない程の目眩に襲われてエイミーの介護を受けていたのだが、その後は順調な回復振りを発揮してちょうど1週間で退院していた。そしてトシヤはその日から普通に授業を受けて、当たり前のように体も動かしていた。
これはトシヤが持っている驚異的な回復力のおかげだ。腹に受けた剣の刺し傷は4日目には完全に塞がって翌日には傷跡も残さずに消えた。失った血も1週間たったら元通りという回復振りには周囲が呆れていた。この特殊な体質はトシヤが先祖の血を濃厚に引き継いでいるのと大きな関係がある。それだけ異世界人の血というのは非常に特殊なものだと考えてほしい。
「カシムさん、訓練お疲れ様でした! 一緒にお昼ご飯にしましょう!」
「ああ、ちょうどいい感じに腹が減ってきた。メシにするか!」
教室に残っていたエルナが満面の笑みで戻ってきたカシムを出迎える。その表情からは乙女心がキラキラに溢れている。一方のカシムは平常運転で当たり前に『飯でも食うか』という顔だった。両者の温度差がずいぶん酷い事になっている。
「エルナは積極的なの! これは『大事件発生』と本格的に獣人の森に手紙で知らせるべきなの!」
「カシムさんもなんだか満更では無さそうな顔をしていますね!」
「エイミーはまだカシムをわかっていないの! あのバカな頭で乙女心に気が付くはずがないの!」
「あれだけ熱烈にアプローチされれば、カシムさんでも気が付きますよ!」
「エイミーは甘いの! バカはどこまで行ってもバカなの! カシムにそんな神経があれば苦労しないの!」
「そうでしょうか? あっ、トシヤさんお帰りなさい!」
ちょうどそこに着替えを終えたトシヤが戻ってきた。エイミーは満面の笑顔で彼を出迎える。乙女心満載のエルナと全く変わらないキラキラの瞳が光っている。
「やっぱりエイミーはエルナと同類なの!」
「トシヤさんはエルナさんのあの気持ちをどう思いますか?」
「エイミー、急になんだ? エルナって、今日から登校した子だろう。彼女がどうしたんだ?」
「ここにも全く何も気付かないバカで無神経が居たの! 本当に呆れてしまうの! こんな無駄な時間を過ごしていたら食堂が混み合うの! お昼を食べに行くの!」
「わかっていました。ええ、わかっていましたとも! そうですよね、トシヤさんはそういう人でした。何かを期待した私がいけないんです」
エイミーはハイライトが消えた目をしたまま、力なくアリシアに腕を引かれて食堂に向かうのだった。
そんなこんなで1日の授業が終わって、セルバンテ先生が帰りのホームルームにやって来る。
「全員よく聞くんだ! 冒険者は単独で活動する場合もあるが、通常はパーティーを組むのが当たり前だ。そこで君たちも実力が見合った者同士で5、6人のパーティーを組んでほしい。来月には2泊3日の野外実習が予定されている。その時にも一緒に行動してもらうから、今からチームワークを磨いてほしい。それから冒険者として必要な装備も少しずつ用意しておけよ。金が掛かる物に関しては学院の備品を貸し出すから、事務室に許可を取って早いうちに借りておくんだ」
セルバンテ先生の連絡に教室内は大きなざわめきに包まれる。冒険者を目指すにあたっては誰と組むかが重要になってくる。極端に実力が見劣りする者がパーティー内に居ると、その人に合わせて活動しなければならなくなるので、全体の行動が制限されてしまう。したがってパーティーメンバーの個々の能力も重要視して組まなければならない。
「カシムさん、私と一緒のパーティーになってください!」
「ああ、いいぞ」
「私はまだ冒険者としての知識が何もないので、これから色々と教えてください!」
「そうか、俺は獣人の森でしょっちゅう野外演習をしていたから、必要な知識は教えてやるぞ」
「よろしくお願いします!」
エルナはカシムと同じパーティーに決まって瞳にキラキラの星を浮かべている。これからずっとカシムと一緒に行動できると思うと宙も飛べるのではないかというくらいに有頂天になっている。
その様子を少し離れた場所から呆れた表情でアリシアとエイミーが眺めている。エルナの行動の素早さに2人の動き出しが僅かに遅れたのだった。そして、その隙を突いて……
「トシヤ、私と実力が見合っているのはお前しか居ない! 私とパーティーを組んでくれ!」
「トシヤさん、どうか私と一緒のパーティーになってください! まだ冒険者の仕事はよくわかりませんが、必ず役に立って見せます!」
ディーナとフィオが物凄い勢いでダッシュを決めて、トシヤの席に押し掛けている。そのあまりの動きの早さにアリシアとエイミーは再び呆気に取られるのだった。
「その申し出はありがたいが、俺はすでに冒険者としてパーティー登録をしているからなぁ……」
トシヤは一体どうしようかという目でアリシアとエイミーに視線を投げ掛けた。2人とも新しいクラスになって気軽に話をする関係だ。ことに『5聖家』の一員同士という表沙汰にはしていない事情もある。またフィオとは何度も彼女の家に招かれて日本の知識を教える仲だった。迷っているトシヤを尻目に、ようやく出番が回ってきたアリシアは即断する。
「面白い展開なの! カシムのバカを追い出して2人を加えるの! エイミーはうかうかしていられないの!」
「ぐぬぬぬぬ!」
アリシアは完全に面白がって成り行きがどうなるのか期待する表情だ。それに対してエイミーは現在のトシヤを取り巻く立ち位置が脅かされる危機感を抱いている。フィオはすでにライバル認定しているのでともかくとして、新たにディーナまで加わってきたのでその心境は穏やかではなかった。だがアリシアが認めた以上は表立って反対もできない。
「どうやら良いみたいだな。それじゃあこの5人でパーティーを組もうか」
「本当か! それはありがたいな!」
「トシヤさん、これから頑張って行きましょう!」
「ああよろしく頼む」
「「こちらこそよろしく(お願いします)!」」
どうやらこれでクラス内のパーティーが決定した模様だ。カシムの所にはブランと元Eクラスのメンバーでは比較的上位の男女が1人ずつ加わっている。
「ところで俺は個人の必要な装備一式を持っているが、他のみんなはどうするんだ?」
「それは大事な問題なの! でもせっかくお金に余裕があるし、この際だから全部買うの!」
トシヤの提案にアリシアが積極的に購入に賛成する。現在冒険者パーティー『天啓の使徒』は休みのたびにちょくちょく帝都の外に出掛けては魔物を狩っていた。その買取代金の他に例のマフィアから強奪した金貨1万枚が手付かずのままでトシヤのマジックバッグに眠っているのだ。
「そうだな、冒険者に必要な物品がどのような物かまだわからないから、私も一緒に付いて行きたい」
「私も一緒に買い揃えます! もしも魔法具が必要だったら声を掛けてください。すぐに取り寄せます」
ディーナとフィオは一国の王族とこの国一番とも言われる大貴族の家柄だ。多少の出費など全く気にしていない。むしろお金を出し惜しみしたせいで何らかの危機を迎えるのは愚かな行為だと考えている。さすがAクラス出身者は平民とは違う。むしろ有り余る経済力に物を言わせて、店にある品の買い占めを押し止めるのがトシヤの役割かもしれない。
「それじゃあ、次の休みに帝都に出掛けるとするか」
「それがいいの! もちろんレストランでご飯を食べるの!」
「はあぁ・・・・・・ この先が思い遣られます」
トシヤの提案にアリシアが食い付く。彼女は色々な伝手を用いて帝都中の美味しいレストランの情報収集に余念がなかった。装備の購入以上に新たな店の開拓に燃えている。そしてエイミーはため息をつきながら、ジトーとした目をトシヤに向けるのだった。
最後までお付き合いいただいてありがとうございました。感想、評価、ブックマークをいただけるととっても嬉しいです。
次回の投稿は来週の半ば辺りの予定で、たぶんクラスのメンバーがぞろぞろと帝都に買い物に出掛ける話になるのではと考えています。どうぞお楽しみに!




