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55 新しいクラスの授業風景

さて、お話は新しいクラスの授業風景になります。新たなメンバーたちとどのような授業が行われているのか、それとトシヤの新たな能力が・・・・・・

 様々な波乱を含んで出発した新しいクラスは、先生方の努力もあって何とか無事に授業がスタートした。


 トシヤを筆頭に学年トップの実力を持った生徒と元Eクラスの生徒は実技の学習内容は完全に分離されている。特に元Eクラスの生徒には担当のセルバンテ先生が冒険者として必要な知識が身に付くように、初歩から技能を教え込んでいるのだった。



「いいか! 冒険者というのは一番若死にする仕事だからな! 死にたくなければ力をつけるんだ!」


 今までは魔法使いの卵として、たとえEクラスでもそれなりに大事に扱われていた生徒たちだが、こちらのコースに放り込まれたら死ぬ気で実力を養わないとならなかった。さもないといざ冒険者になった時に本当に死に直結するのだ。もしそれが嫌ならば、厳しい訓練の合間に必死で勉強して、2年生に進級する時の再振り分けで他のコースに転科するしかない。



「走るだけでも今までの3倍以上って、絶対に体が持たない!」


「クララ、しょうがないわよ! 私たちの実力じゃ、転科もできないから何とか頑張ろう!」


「思えばEクラスはあれでもずいぶん恵まれていたわよね!」


「とにかくこの地獄を乗り切ろう! 話は全部それからだ!」


 男女10人くらいが一塊になって演習場の周囲を走っている。声を掛けて励まし合いながら1人も脱落者を出さないように歯を食い縛りながら走っているのだった。厳しい訓練を通して互いに励まし合う連帯感を養うのもこのコースの授業の目的となっている。互いの能力をカバーし合わないと、個人の力で簡単に魔物を相手にできる程冒険者の世界は甘くないのだ。



 そんな本当の底辺の生徒たちが歯を食い縛って頑張っている演習場の中央では、実力の高い生徒が集まって個人技を鍛えている最中だ。



「本来は刃引きの剣で打ち合ってもらいたいが、それはもう少し先にして、しばらくは木剣で打ち合うんだよ! 適当に2人組を作って、相手を変えながら何度も繰り返し打ち合ってほしい」


 ラファエル先生は指示を出すと、隅にあるベンチに腰を下ろして生徒たちの様子を熱心に観察し始める。殆どの生徒の武器や魔法に対する適正はすでに知っているのだが、こうして自分の目で改めて観察するのは教員として必要不可欠なのだ。



「おい、ブラン! お前となら互角に打ち合えそうだから、相手をしろ!」


「ほう、ずいぶん上から目線の物の言い方だな! 面白い、この前の模擬戦の決着をつけてやろうか!」


 カシムはちょうど近くに立っていたブランを迷わずに相手に指名して、木剣を構えて打ち合いを開始している。硬い木がぶつかる『カン、カン』という乾いた音が演習場に響く。



「力任せの剣かと思ったら、中々基礎がしっかりできているじゃないか!」


「獣人の森で嫌というほど鍛えられたからな! それよりも俺の剣を受け止めるとは、やはりいい腕をしているな!」


 カシムとブランは体格や剣の腕が拮抗しているので、互いに小気味良い音を響かせながら木剣を振るっている。両者とも真剣な表情なのだが、なんだか楽しそうな様子が伝わってくる程互角の打ち合いを続けていく。その様子をベンチからラファエル先生が冷静な目で観察している。



「ほう、ブラン君は剣士だからあのくらいは当たり前としても、カシム君の剣の技も中々のレベルですね!今までカシム君は殆ど剣を握らなかったのは、力を隠していたんでしょうかね? それはともかくとして、2人ともすでにDランクの冒険者に匹敵する実力がありそうです。これは先々が楽しみになりますね」


 そう呟きながらラファエル先生は視線を別の場所に向ける。そこにはトシヤ、アリシア、ノルディーナの3人がなにやら話し合いをしている。



「トシヤは剣を使えるの?」


「あれ? 話していなかったっけ! 俺は元々剣士なんだ。あのおっかない母ちゃんに死ぬほど鍛えられたからな」


「初耳なの! 今まで剣なんか握っていなかったの!」


「俺が剣を使うような相手に出くわしていないからな。ああ、でも実際に使うのは剣じゃなくて『KATANA』という異国の武器だ」


「かたな・・・・・・ 全然聞いたことがないの!」


「実物を見せてやるよ。ほら、これだ!」


 トシヤはマジックバッグから一振りの漆黒の鞘に収まった見事な日本刀を取り出す。それはトシヤが12歳になった記念に〔獣神・さくら〕からもらった日本で作られた刀だった。



「ずいぶん細身の剣だな。こんなに細いと打ち合っただけで折れてしまいそうだが、本当に大丈夫なのか?」


「刀身が皇帝オーガの角でできているから、生半可な力じゃ折れたり曲がったりしないよ。それに切れ味も抜群だ」


 初めて見る刀に不審そうな視線を向けるノルディーナに対して、トシヤは鞘から引き抜い刀身を見せる。



「すごくきれいなの! ちょっと曲がっているのは何か意味があるの?」


「切れ味を重視するとこんな形になるそうだ」


「なるほど、これ程の剣は初めて見るな。恐ろしい切れ味を秘めていそうだ」


「皇帝オーガは私たちの王様が倒した魔物なの! 獣人の森に何百年おきに出現するの! 昔は王様じゃないと倒せなかったけど、今は武器の性能が上がって獣人の部隊が総出で討伐しているの!」


「そうなのか! ということはトシヤはこの剣をさくら様から……」


「ま、まあそういう話はどうでも良いだろう。それよりも打ち合いを始めようぜ! 順番はどうするんだ?」


 トシヤはさくらとの関係がアリシアにバレないように話を誤魔化した。さもないと彼女が王様に抱いている幻想が脆くも崩れ去る恐れがあるからだ。



「私が一番なの! まずはディーナと打ち合うの!」


「ああ、構わないぞ! それにしてもそんな小さな剣で大丈夫なのか?」


 アリシアは普段手にしている匕首と同じサイズの硬い木を削り出した小太刀を持っている。その如何にも頼りない武器がディーナの目には本当に大丈夫なのかと映っていた。



「気にしなくて大丈夫なの! 戦いは得物ではなくて、その使い方で決まるの!」


「なるほど、それは真理を言い表している。良いだろう、早速始めようか!」


 2人はトシヤから少し離れた場所で互いに構えを取って対峙する。アリシアは木製の小太刀を逆手に構えた変則スタイルに対して、ディーナは中振りの木剣を基本通りに正眼に構えている。



「始めるの!」


 口火を切ったのはアリシアだった。普通の人間では対処できない素早さで一気にディーナの懐に入り込もうとする。



「動きが早いだけでは私の剣をかわせないぞ!」


 だがディーナはアリシアの動きを読んで、進行方向に向かって剣を突き出してその動きを牽制する。もちろんアリシアは相手がこの程度の対応をしてくるとわかっていたので、敢えて無理をしないで身を翻して横に避けていく。



「魔法も上手いけど、剣の腕も中々なの! もう少し楽しめるの!」


 今度は左に動くフェイントを掛けてから、反対方向に突っ込んでいく。アリシアのフェイントに僅かに惑わされたディーナは一旦動かし掛けた剣を強引に逆方向に払うように振っていく。だがそれすらもアリシアの計算のうちだった。小太刀を巧みにディーナの木剣に当てて、勢いを殺してから身を屈めて今度こそは懐に飛び込んだ。その前進する勢いのままディーナの鳩尾に小太刀の切っ先を突き立てる。



「これは参った! これ程の動きをするとはちょっとナメていたようだ。私ももう少し本気を出すとしようか」


「まだまだ序の口なの! お楽しみの時間はここからなの!」


 こうして2人の白熱した打ち合いがしばらく続く。その様子を見ているだけのトシヤはあまりに暇なのでその場で腹筋運動と腕立てとスクワットを交互に行っていた。彼が20セットを終えた頃にようやく満足した2人が剣を引っ込めて戻ってくる。



「もうお腹いっぱい打ち合ったの! トシヤとは明日でいいの!」


「久しぶりに充実した良い打ち合いができた。私も満足だ!」


「お疲れさん! 俺は軽く素振りでもしているから、適当に休んでくれ」


 トシヤはマジックバッグから素振り用の鉛でできた重たい剣を取り出して、型に合わせて振り始める。わざと重たく作ってある素振り用の剣なのに、トシヤが手にするとまるで重さがないかのように軽々と振るっているのだった。



「トシヤは反則なの! なんであんなに軽々と振れるのか、意味がまったくわからないの!」


「最初の一振り二振りなら誰でもできるだろうが、これだけ長くあの勢いを続けるのは相当鍛えている証拠に違いないな」


 今まで全く目にしなかったトシヤの剣技にアリシアが目をまん丸にして見入っている。それはディーナも同様で、ある程度の腕がある者ならその素振りの様子を一目見るだけで、トシヤの途方もない技量が理解できた。



「ほほう、アリシア君とノルディーナ君の打ち合いにも興味を惹かれましたが、トシヤ君は素振りだけでもその技量の素晴らしさが伝わってきますね。あれでもうちょっと常識さえあれば一級品の素材なのですが……」


 ラファエル先生は無い物ネダリをしながら大きなタメ息をつくのだった。





 その頃、魔法演習室ではエイミーとフィオがほとんど模擬戦と言っても差し支えないような、魔法実習を繰り広げていた。



「フィオさんに魔法当て放題なんて、こんなメシウマな授業は初めてです!」


 エイミーはフィオに対するライバル意識剥き出しで、彼女に攻撃の暇を与えない勢いで心行くまで魔法を連発している。



「くっ、さすがは学年ランキングナンバー1だけのことがありますね! 私のシールドがなかったら一瞬で敗れ去っています」


 フィオは魔法銃で散発的な反撃をするものの、エイミーが容赦なく展開する氷の壁に阻まれて、全く有効打を与えられなかった。その上連射される氷弾で時折シールドがパリン! と、音を立てて砕けるので、慌てて次のシールドを準備する手間も必要となっている。



「今日はそこまでにしようか! 2人ともこっちに来たまえ」


「「はい、わかりました」」


 ミケランジュ先生の声に、魔法の撃ち合いを止めたエイミーとフィオが見学席に戻ってくる。



「中々迫力のある魔法戦だったね。ところでエイミー君は氷魔法しか使っていないけど、他の属性はなぜ用いないんだね?」


「はい、氷魔法が一番得意なんです! 他の属性だとちょっと威力の調整が難しくって、演習室を吹き飛ばす自信があります!」


 エイミーは家にいる頃から、暑い日に弟たちにせがまれて飲み物に入れる氷を作り出していた。そのおかげで氷魔法の制御は自在にできるのだが、他の属性を思った通りに制御する自信がまだなかったのだ。



「なるほど、ずいぶん物騒な自信だね。使えないんじゃなくて、威力の制御が難しいのか。それはなんとも贅沢な悩みだね。他の生徒は、少しでも魔法の威力を上げたいと努力しているんだよ」


「ミケランジュ先生、エイミーさんの魔法を受けて感じたんですが、彼女の魔法は一発一発が物凄く重たいんです! 他の人の魔法ならば100発受けても私のシールドは壊れませんが、エイミーさんの魔法だと30発くらいしか持たないんです。たぶん込められている魔力の量がすごく多いのだと思います」


「フィオ君、それは本当かね! なるほどねー…… どうやらエイミー君はふんだんな魔力を惜しげもなく使用できるから、フィオ君が感じたような現象が起きるんだろうね。これからしばらくは術式に込める魔力の量を上手く調整するやり方も身につける必要があるね」


「はい、わかりました! 練習します! でもどうすればいいんでしょうか?」


「私もちょっと考えないと上手い方法が思いつかないよ。今までこんな生徒は1人もいなかったからね! 普通は威力を上げるためにどうすればいいかをみんなが必死に考えるんだよ」


「確かにエイミーさんの魔法は普通ではありません! 初級魔法のアイスボールが中級魔法以上の威力を持っているんですから!」


「ええっ! 自分では全然意識していませんでした! 誰も教えてくれなかったし……」


 大魔王様に直々に魔法の力を授けられたエイミーも、こうして見るとトシヤに並ぶくらいに常識から掛け離れた存在だった。


 


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