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53 新しいクラス

1年生の振り分け試験が終了して、生徒たちはコースに分かれた新しいクラスで学び始めます。果たしてトシヤたちが学ぶ冒険者養成科というのはどのような学科なのでしょうか? 今回はそのさわりの部分までのお話です。

「明日一日休みを置いて、明後日からコース別の授業が始まるからね。今使用している教室に間違えて来ないようにするんだよ。それにしてもエイミー君はあの大舞台でよくあそこまで力を発揮したね。担任として嬉しいよ」


 模擬戦のファイナルマッチが終了して、生徒たちは帰りのホームルームの時間を過ごしている。Eクラスの生徒が新入生学年代表のノルディーナを破ったという歴史的な快挙を目の当たりにして、どこのクラスもまだ興奮が冷め遣らない状態だった。


 特にその快挙の張本人が座っているEクラスはもはや熱狂状態といっても良い程の盛り上がりを見せている。担任のラファエル先生までが鼻高々な表情だった。



「先生、模擬戦はトシヤさんが考えてくれた作戦が上手く嵌った結果です。私は指示通りに動いただけですよ」


「そうかね、エイミー君はなかなか謙虚だね。これからも謙虚な姿勢で色々と学んでいってほしいね。他のみんなもエイミー君のようになんでも吸収して、優れた魔法使いになるんだよ」


 エイミーはトシヤの功績を前面に出して少しでも彼の落第の危機回避に役立てようとしたが、その思惑はラファエル先生によってあっさりとスルーされた。誰からどんな作戦やアドバイスを得ようとも、それを生かすも殺すも本人次第なのだからこれは仕方がないだろう。



「それじゃあ今日はこれでおしまいだよ」


 ラファエル先生が教室を去ると、クラスの生徒全員がエイミーを取り囲む。



「エイミー、凄いじゃん! 魔法が上手だとは思っていたけど、まさか本当にノルディーナさんを倒すとは思わなかったわ!」


「これでエイミーが学年1位の座に着いたわけよね!」


「私、エイミーと一緒に授業を受けたって自慢しよう!」


「エイミーさん、僕と付き合ってください」


 元気な女子たちの勢いに圧倒されて、最後のコルネリーの告白はエイミーにはまったく届いていなかった。コルネリー…… どこまでも不憫なヤツだ。



「エイミーは一躍スターの座に着いたの! どこかの落第の危機を迎えている人とは大違いなの!」


「くそっ! 出場禁止の処分さえなければ……」


「負け犬の遠吠えなの! トシヤはこれからひとつも単位を落とせないの!」


「アリシア、どうか俺に協力してくれ!」


「自分のケツは自分で拭くの! それが森の掟なの!」


「頑張ります」


「それにしてもあのバカはホームルームにも顔を出さなかったの! どこをほっつき歩いているのかわからないの!」


「そうだな、パーティーで装備を揃える話もしたいのに、どこに行っていやがるんだ?」


「きっとバカだからホームルームを忘れているの! バカだから仕方がないの!」


「おっ、エイミーがようやく解放されたぞ」


「それじゃあ寮に戻るの」


 こうして3人は明日の予定を話し合いながら寮に戻っていった。




 一方こちらは学院内の医療施設、エルナはまる一日以上ここで体を休めており、その傍らにはカシムが付き添っている。



「カシムさん、ずっとそばに居てくださってありがとうございます」


「気にするな、早く元気になれ」


「はい!」


 カシムの素っ気無い一言だが、エルナにとっては何よりもそれが嬉しかった。いや、こうしてずっと自分の枕元に居てくれるだけでも、天に昇るような気持ちだ。



「そういえばカシムさんはどのコースを選択しているのですか?」


「ああ、俺は冒険者になりたいと思っている。だから冒険者養成科を選んだ」


「そうなんですか! そ、その…… 私もカシムさんと同じ科に移ってもいいでしょうか?」


「んん? 別に構わないが、エルナの希望する学科があるんじゃないのか?」


「そ、その…… カシムさんと一緒の学科がいいんです」


「そうだな…… 今から間に合うのかな? ちょっと先生に聞いてみるか」


 カシムは病室を出て職員室に向かおうとすると、ちょうどそこにこちらに向かってくるミケランジュ先生の姿を見つけた。



「ああ、先生がちょうどいい所に居たぞ! ちょっと用事があるんだけど」


「何でカシム君がここに居るんだね? 私も用事があって忙しいんだよ。えーと、治療師の先生はどこかな?」


「こっちの部屋に居ます」


「何で君が知っているんだね?」


「しばらくここに居ましたから」


「君には病気とか怪我という言葉は一番似合わないと思うんだが?」


「俺じゃなくて知り合いの付き添いです!」


「なんだそうかね! 君がここに担ぎこまれる姿なんて想像もできないからね。それを聞いて安心したよ」


「俺を褒めているんですか?」


「そう思ってくれて間違いないよ」


 頑丈が取り柄のカシムには確かにミケランジュ先生の言う通り、この施設が一番場違いだろう。先生はそのままカシムに聞いた部屋に入って、治療師の先生を伴って出てくる。そしてそのままエルナが寝ている部屋に入っていった。カシムもその流れに従って一緒に部屋に入り込む。



「何でカシム君がここに居るんだね?」


「ミケランジュ先生、この少年はずっとこの子に付き添っていたから同席しても構わないだろう」


 治療師の先生の助言に嫌な予感を感じながらも、ミケランジュ先生はカシムの同席を認めた。本当に嫌な予感しかしない。心底嫌な予感しかしない。



「さてエルナ君、昨日の模擬戦の話を聞きたいのだが、今話せるかね?」


「はい、大丈夫です」


 エルナはまだ寝たままの姿勢だが、口にする言葉はずいぶんとハッキリしている。怪我から丸一日が経過して容態はもうすっかり落ち着いていた。これも疾風のイリヤの奇跡のような魔法のおかげだ。



「模擬戦開始の時に君は何か異常を感じたかな?」


「えーと、なんだか目に光が当たったような感じがして、眩しくて一瞬何も見えなくなりました」


「なんだと!」


 カシムの瞳に炎が燃え上がる。一昨日のエルナが襲われ掛けた件といい、あの貴族たちの仕業だと彼の勘が閃いていた。早速ミケランジュ先生の嫌な予感が的中しつつある。



「カシム君、君の物騒な考えはひとまず横に置きたまえ! 私は事件を解決するためにこの場に居るのであって、新たな事件を引き起こす可能性は未然に防ぎたいのだよ」


「しかし……」


「カシム君、これはエルナ君と相手の問題であって、君には関係ない。そこをよく理解したまえ」


 さすがはFクラスで2ヶ月もカシムを指導したミケランジュ先生だけのことはある。カシムが何もできないようにあらかじめ特大の釘を刺していた。大恩あるミケランジュ先生は、カシムにとって数少ない頭の上がらない人物だった。この場に先生がやって来たのは、カシムの暴走を未然に防ぐという意味では結果的に大正解だ。



「やはりそうだったのか。今回のエルナ君の試合に不正があったと指摘する人物が居てね、私は学院長の指示に従って色々と調べている最中だ。最終的な処分がどうななるかはまだわからないが、くれぐれも勝手な行動をするんじゃないよ!」


 ミケランジュ先生はエルナにではなくてカシムを見ながら繰り返し注意をした。ここで彼を野放しにすると、努力が水の泡になりかねないのだ。



「あの、先生! 私は魔法研究科を希望していたんですが、今から冒険者養成科に変更できるでしょうか?」


「なんだって! エルナ君もかね? 今年は成績上位の生徒が挙って冒険者養成科を希望しているね。一体どうしたのか全く理由がわからないよ! 仕方がないから担任には私から伝えておくよ」


「よろしくお願いします」


「それじゃあ早く元気になるんだよ。お大事に」


「エルナ君と少年、一昨日の件は私からミケランジュ先生に伝えておくよ。女の子の口からは話しにくいだろうからな」


 最後に治療師の先生が一言残して部屋を出て行った。彼女には足首の捻挫の治療を受けた際にエルナが事情を全て話していた。今回の不正の裏付けになる重要な証言となるだろう。



「カシムさん、お願いですから私のために無茶はしないでください。この件は先生に任せます」


「ああ、エルナがそう言うのなら俺は手出しはしない。他人のケンカを横取りするのは獣人の森の掟で禁止されているからな。その代わりにもし何かの機会でヤツらと対戦した時には命の危険を感じてもらうとしよう」


「あまり過激な仕打ちはしないでくださいね。カシムさんにはいつも堂々と戦っていてほしいです」


「ああ、そうしよう」


 そのまま夕暮れが迫ってフランが様子を見に来るまでカシムは病室に留まるのだった。









「今日から新しい教室で勉強するの!」


「新しいクラスメートはどんな人たちなんでしょうね?」


「取り敢えずはわかっているけどクラス分けを見てみよう」


 休日を挟んでその翌日、新たなクラス分けが発表されている掲示板には人だかりができている。希望するコースに無事に入れた生徒は嬉しそうな表情を浮かべ、第2希望や第3希望に回された生徒は残念そうな表情になっている。



「冒険者のコースは人数が少ないの!」


「そうですね、他のコースに比べてずいぶんこじんまりとしていますね」


 定員が決まっているコースは希望者が殺到するので、定員いっぱいまでの生徒の名前が掲示板に張り出されている。魔法戦士科は40人、魔法研究科は80人、魔法工学科は40人、魔法史科は20人で、残りが冒険者養成科だ。教室の割り振りは旧Aクラスが魔法戦士科、旧B、Cクラスが魔法研究科、旧Dクラスが魔法工学科、旧Eクラスが魔法史科に割り振られている。



「私たちの教室がないの!」


「もしかして俺とバカが使っていたあの物置か?」


「あっ、何か書いてありますよ。『冒険者養成科の教室は校舎裏』だそうです」


「なんだか嫌な予感しかしないの!」


「物置の方がマシだったらどうしよう?」



 3人が変なフラグを立てながら校舎の裏に回ってみると……





 そこにはどこからどう見ても小屋のような小さな建物が3棟並んでいる。


「嫌な予感は当たるの! こんな陽の当たらない場所で勉強するのは嫌なの!」


「いやもしかしたらボロいのは外見だけで、中はきれいかもしれないぞ」


「その可能性は限りなく低そうですよね」


 3人は『1年・冒険者養成科』と取れかけた看板が架かっている小屋に入っていく。



「…… 中身も外見と一緒なの!」


「窓ガラスが半分しかないですよ!」


「きっと割れたら補修しないで放置しているんだな」


「机もボロボロなの! ガタガタして真っ直ぐじゃないの!」


「なんだかEクラスが恋しくなってきました」


「しょうがないな、諦めて席に着くぞ」


 3人はEクラスでも定位置だった後ろの席に座って他のクラスメートが登校するのを待っている。程なくして元Eクラスの成績下位だった顔触れがボツボツと小屋に入ってきた。



「アリスとクララもやっぱりここだったんですね」


「エイミーおはよう! 模擬戦のトップバッターなんだから、私たちが成績ビリなのよ。Eクラスもそうだったけど、なんで学年1位とビリが同じ教室に居るのかまったく意味がわからないわ!」


 アリスとクララはエイミーに向かって愚痴をこぼしている。彼女たちは一応魔法研究科を希望していたのだが、定員からはみ出してここに回されていた。Eクラスから来たのは大体彼女たちのような例が多い。



「なるほど、ここが冒険者養成科か! 想像以上にボロいな」


 そう呟きながら入ってきたのはカシムと熱戦を繰り広げたブランだった。彼は元から冒険者志望で自分で志願してこの貧相な環境を選んでいた。



「まあこれは酷いですね! お父様に言って施設を整えましょうか?」


「その前にあの窓ガラスくらい何とかならないものか?」


 2人一緒に教室に入ってきたその姿を見て、すでに着席していた生徒たちはまさかの思いで息を呑んでいる。無敵の防御力と魔法銃で圧倒的な強さを見せたフィオと、エイミーに敗れはしたもののその評価は相変わらず高いノルディーナが揃って姿を見せたのだ。



「まさかの2人なの! これは大変なの!」


「むむむ! 絶対に負けませんよ!」


「なんてこった!」


 びっくりするアリシアと闘志を漲らせるエイミーと言葉を失うトシヤだった。




最後までお付き合いいただいてありがとうございました。次回の投稿は水曜日を予定しています。新しいクラスで新たなメンバーと学び始めるトシヤたちの様子が綴られる予定です。ちょっとした事件もなんだかありそうな予感が・・・・・・


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