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51 模擬戦最終日 前編

お待たせしました、51話の投稿です。前半は4日目の続きで、最終日のお話は後半から始まりますのでご注意ください。特に前半はトシヤの身にとある出来事が・・・・・・



 4日目の模擬戦が全て終了してから、トシヤは校舎の裏庭の花壇にやって来ている。フィオとこの場で待ち合わせの約束をしているのだった。



「トシヤさん、お待たせしました。クラスの人たちから色々と質問攻めに遭って、中々抜け出せなかったんです」


 トシヤから少しだけ遅れてフィオがやって来た。彼女が模擬戦で見せたあの能力が同じクラスの生徒たちの興味を惹いていた。あれだけの防御力と魔法銃という誰もが見た記憶のない武器を使用したとあっては、魔法学校の生徒ならば誰もがその秘密を知りたいと考えるのは当たり前だろう。



「そうだったのか、まあ俺自身も中々興味を惹かれた試合だったからな」


「まあ、トシヤさんにそう言っていただけるのは光栄ですわ。ベンチに座って私の魔法についてお話いたしますわ」


「いいのか? ルードライン家の秘伝とかじゃないのか?」


「そんな大した物ではありませんの。さあこちらに座りましょう」


 2人はベンチに腰をおろして模擬戦について話を始める。フィオは試験の科目が全て終了して、こうしてトシヤとゆっくり話をする機会をずっと心待ちにしていた。それだけにその表情は花壇に咲き誇る花よりも輝いている。



「あの攻撃を撥ね返していたのは術式を構築した形跡がないところを見るとアイテムを使用しているんじゃないかと思ったけど本当のところはどうなんだ?」


「まあ、早速ですね。クラスの方からも同じ質問を何度も聞かれました。お答えはしませんでしたが」


「まあそうだろうな、あれだけの効果がある防御法を簡単に話せるもんじゃないだろう」


「大丈夫ですよ、他の人にはお話できなくてもトシヤさんにはちゃんと説明しますから。そもそもあのような防御力を持ったアイテムを使用するのは、模擬戦のルールに抵触します」


「ということはアイテムではないのか」


 魔法学校での模擬戦のルールには、アイテムの使用法が厳格に定められている。直接攻撃に用いるのはもちろん、防御に用いるのも禁止されている。魔力や防御力を引き上げるアイテムは使用可能だ。



「あれは私のスキルなんです。というよりも大賢者の直系の人間に伝わっているスキルですね。〔シールドの常時展開〕と呼んでいます」


「おいおい、シールドをずっと張りっぱなしということか! 魔力がどれだけあっても足りないだろう!」


 魔法シールドは魔力を大量に消費する。長時間の展開は不可能というのが一般的な常識だった。その常識をこの大賢者の一族は簡単に覆しているのだった。



「だからこそのスキルなんです。小さな頃からそれが当たり前になっていれば大して負担にはなりませんから。逆に意識しないとこのシールドは無くせないんです。どなたか私を守ってくださる方が近くに居れば、安心して解除できるんですが」


「そうか、そんな人が現れるといいな。なるほど、スキルとは全然気がつかなかった」


 トシヤは自らの思考の中に埋没していく。それに対して遠回しにトシヤが気がつくようなフレーズを口にしたフィオは、全く彼に対して効果がなかった様子を見てガックリと肩を落とすのだった。



「わかっていました、トシヤさんはそういう人ですからね。だからこそこうして信頼してお話ができるんですけど」


「ああ、悪い悪い。ちょっと考え込んでしまった。それじゃああの魔法銃も先祖から伝わった物か?」


「ええ、その通りです。初代大賢者フィオレーヌ様がお作りになって、それが今でも家に伝わっています。なんでも〔獣神・さくら様〕の使用される武器を参考に術式を組み上げたそうです。あまりに複雑過ぎて、未だにその仕組みがどうなっているのか解析できません」


「ああ、あれを参考にしたんだ。さくらちゃんの魔力擲弾筒は日本の術式で出来上がっているからな。俺はある程度仕組みを知っているけど」


「トシヤさん!」


 突然フィオがトシヤの手をとって彼の正面に向き直っている。その瞳にはキラキラの星が1ダース以上輝きを放っていた。無意識のうちに彼女の顔がトシヤの10センチ先に迫っているのだった。



「トシヤさん、私の夢はこの魔法銃を上回る物を作り上げることです! ぜひ私に力を貸してください!」


「えっ! 急にどうしたんだ?」


「できればこの学校に居る間に完成させたいんです! お願いですから協力してください!」


 トシヤが『うん』と言うまでは絶対に手を離さないという勢いでフィオはトシヤの手を握っている。



「ああ、いいぞ。それよりもずいぶん顔が近いんだけど」


「えっ!」


 貴族のご令嬢として有り得ない恥ずかしい行為に及んでいたと気が付いてフィオは真っ赤になっている。だがまだトシヤの手を離そうとはしないのだった。



「そ、その…… トシヤさん、本当に協力してくれると約束してくれますか?」


「ああ、約束する」


「そ、それではほんのちょっと目を閉じてください」


「こうか?」


 トシヤが目蓋を閉じた様子を見てフィオはゆっくりと自分の顔をトシヤに近付けていく。そしてその唇がトシヤの唇にそっと触れた。



 そのままどのくらいの時間が経ったかはよくわからないが、フィオはゆっくりと体を元の場所に戻していく。



「そ、その…… フィオ?」


「や、約束の印です」


 自分で仕出かした大胆な行動にフィオは真っ赤な表情のままで俯いている。恥ずかしさで顔を上げられなかった。トシヤはこの状況でどうしていいかわからずに頭をフル回転して気の利いたセリフを探しているが、どのセリフは適切なのかまったく見当が付かない。だがこんな時には必ず救いの神が登場するのだった。トシヤの脳裏に先輩冒険者のアドバイスが浮かぶ。



(いいか、女が下を向いたら頭を軽くポンポンと叩いてやれば、どんな女でもイチコロだぞ!)


 果たして効果があるかどうかは定かではない。先輩冒険者が酒に酔ってしゃべっていた与太話だった。だが一か八かでトシヤはこの手に賭けてフィオの頭を優しくポンポンする。



「トシヤさん!」


 俯いていたフィオの顔が上がって、トシヤをじっと見つめた。そして彼女はそのまま自分の体をトシヤに預けてもたれ掛かる。



(カルロスさん、ありがとうございます! 何とか乗り切れました! 今度会ったら一杯おごります!)


 フィオの体を抱きとめながらトシヤは先輩冒険者に心の中で礼を述べている。よくよく考えてみればカルロスは結構女性に人気があった。



「トシヤさん、約束を守ってくださいね」


「ああ、ちゃんと守るぞ」


「それから私のこともちゃんと守ってくださいね」


「ああ、ちゃんと守る」


(あれっ? なんかさっきの話と繋がるような気がするけどまあいいか)


 夕暮れの花壇でそのまましばらく2人は寄り添って過ごすのだった。










 翌日はいよいよ模擬戦の最終日、エイミーの出番がやって来る。朝早くから教室で待っているトシヤの席にアリシアとエイミーが姿を現した。



「おはようなの! 今日もトシヤが先に座っているの! エイミーがのんびり朝ごはんを食べたせいなの!」


「トシヤさんおはようございます。今日は私の試合がありますから、気合を入れてご飯をいっぱい食べてきました!」


「2人ともおはよう! エイミーはそんなに食べて色々と大丈夫なのか?」


「そうなの! 色々とマズいはずなの!」


「心配要りませんよ! 試合に勝つためにお腹いっぱいにしているだけですから。その分昼は軽くします」


「昼も食べるのか!」


「はい、食べますよ!」


「軽くだよな?」


「はい、軽く普通に食べます!」


「結局いつもと一緒なの!」


 エイミーの試合は午後2時から始まる。普通は試合の前には余り腹に入れないものだが、エイミーは空腹だと調子が出ないので、昼食もしっかり取るつもりらしい。



「そういえば今日もカシムさんが居ませんね」


「カシムはどこかをフラついているの! 授業が無いからきっと羽を伸ばしているの! 毎日頭を使わせないとダメダメなの!」


「エイミーの試合くらいは見に来るんじゃないのか?」


 その頃カシムは朝からエルナの病室に顔を出しているのだった。バカだが結構マメなやつだ!



「午後までは特にやることも無いので、のんびり過ごしましょう」


「エイミーはのんびりし過ぎているの! 本当に大丈夫なのか心配になるの!」


「術式はもう完成しているのか?」


「バッチリです! 任せてください!」


 トシヤはノルディーナ攻略のためにエイミーにかなり複雑な術式を覚えさせていた。放課後何度か人目につかない場所で練習した限りでは、術式の構築や運用は合格点を与えられるレベルに達している。



「一度会場を下見してから、改めて戦術の確認をしよう」


「そうなの! 下見は大切なの!」


「えー! 日向ぼっこでもしていたい気分なんですが」


 一番気合が入っていない当事者のエイミーはアリシアに手を引かれるようにして中央闘技場に向かう。許可を得てフィールドに足を踏み入れると、その周囲は円形の観客席に取り囲まれてかなり圧迫感を感じる場所だった。



「すごいの! 観客席が周りを全部取り囲んでいるの!」


「5千人くらいは入れそうだな」


「下見はチャッチャと終わりにしてのんびりしましょう!」


 やる気が無い当事者を引き連れて、フィールドの広さを感覚で掴んでいく作業が始まった。一通り歩き回ってから次は観客席の一番上からフィールドを見下ろして、どの場所にどのような術式の配列を行うかの具体的な指示がトシヤからエイミーに伝えられる。



「トシヤはすごい作戦を考えるの! きっと性格が悪いの!」


「アリシア、トシヤさんは性格が悪いんじゃありません! 戦術的…… 何でしたっけ?」


「戦術的思考な」


「そうです! 戦術的思考ができるんです!」


「下見はこのくらいでいいだろう。あとはエイミーがどれくらい頑張るかだ!」


「そうなの! トシヤがこれだけ準備したんだからエイミーが頑張る番なの!」


「はー、本当はもっと普通に模擬戦を終えたかったです」


 何事にも動じないエイミーもさすがに事の大きさがわかってきたようだ。模擬戦のファイナルマッチというのはいやが上にも人々の注目を集める。その中でプレッシャーと戦いながらどれだけ普段の力を出せるかが問われるのだった。





 新入生の模擬戦は午前中で全ての対戦を終えた。残るはファイナルマッチだけで、生徒たちの関心はもっぱらこの試合に集まっている。



「ノルディーナさんは新入生代表も務めた人だから実力があるのはわかっているが、相手のエイミーっていうのはEクラスなんだろう。これじゃあ最初から勝負は見えているんじゃないのか?」


「でも魔法実技のテストの結果で対戦が決まるから、エイミーという生徒が好成績を残したのは間違いないだろうな」


「確かにそうだろう。まったく無名でノーマークの生徒だからどんな魔法を使うのか見当がつかないな」


 例年のファイナルマッチの対戦はAクラス同士というのが恒例だった。それが今年に限ってEクラスからファイナルマッチに駒を進めたエイミーが話題になるのも無理はなかった。こんな出来事は何十年に一度あるかないかの奇跡に近い。それだけに特に下位クラスの生徒たちの注目の的になっているのだった。




 そして女子寮の自室にこもったままで目を閉じて静かに精神統一を行っている人物が居る。エイミーとこれから対戦するノルディーナだ。



(エイミーさんとは行きがかり上色々とありましたが、それは一切なしにして無心で戦います)


 魔族の王族として恥ずかしい真似はできない。彼女は覚悟を決めていた。



「姫様、そろそろ会場に向かうお時間です」


「わかった、出立しよう」


 口を真一文字に結んだ厳しい表情で女子寮を出るノルディーナだった。




最後までお付き合いいただいてありがとうございました。次回はいよいよファイナルマッチが開始になります。トシヤがエイミーに授けた作戦がうまくいくのでしょうか。はたまたノルディーナの力にねじ伏せられるのでしょうか。対決の行方をどうぞお楽しみに!



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