表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/82

25 通路の先

お待たせしました。25話です。主人公たちとマフィアの抗争がこのお話で一段落します。どのような結末になるかは話の中でどうぞ・・・・・・


「倒れているのは5人だけだな」


「どう見てもこいつらはボディーガードなの! ボスには見えないの!」


 ボスの部屋だと言われて案内された室内には、初号機によって壁に打ち付けられ伸びている男が5人床に横たわっているが、その誰もがマフィアのボスというには年齢や風格がまったく相応ではない連中だった。


「だとしたら、こいつらは誰を守っていたんだ?」


「そうですよ! この人たちは誰も居ないこの部屋を守っていたことになります!」


 カシムとエイミーが珍しく冴えた意見を述べた。普段バカなカシムは戦闘が絡むとその勘と頭脳が人並みに発揮されるらしい。同様に普段頭の中がお花畑のエイミーもお金が絡むと正常な判断が下せるようだ。


「たぶん隠し通路とか隠し部屋があるんだろう」


「そうなの! 壁の奥に気配がないか探るの!」


 部屋にある窓の外を確認して『窓からの脱出は不可能だ』と結論を出したトシヤは屋敷に何らかの仕掛けがありそうだという答えを出した。彼も普段うっかりと色々遣らかすが、こういう時だけは頭が回る。


 アリシアとカシムが部屋の壁伝いに何かないかと耳を当てて探ると、暖炉の隣の一角でちょっとした変化を捉えた。さすが獣人だけあって、人には聞き取れない小さな物音さえも聞き逃さない。


「この壁の向こうでほんの小さな風の音が聞こえてくるぞ」


「そうなの! どこかに繋がっているみたいなの!」


 2人の意見が一致しているのでどうやら聞き間違いということはないだろう。それにしても獣人の耳と鼻は便利過ぎる。


「うーん、どこかに入り口を開く仕掛けがあるんだろうけど、そんな物を一々探すのは面倒だな! 初号機、ゆっくりこの壁を壊してくれ!」


 トシヤはどちらかというと大雑把な性格だ。ちまちま入り口を探すよりも手っ取り早く壁を壊す方法を採用する。その命令に従って初号機が両腕を伸ばして石造りの壁に穴を開けていくと、その先には予想通りに隠し通路が存在していた。


「ビンゴなの! この先に行けば本命に出会えるの!」


 体の小さいアリシアが一先ずは穴から中に入って気配を探ると、その先には人の気配が感じられる。初号機の手で更に壁の穴を拡大して、4人は隠し通路に入り込んだ。


「たぶんこの屋敷の造りからいって、隠し通路を作れるのはこの場所だけだろう。バカを先頭に先に進むぞ!」


「誰がバカだ! この天辺ハゲ!」


「2人ともいい加減にするの! こんな所で私も突っ込んでいる余裕はないの!」


 いつもの醜い争いが始まる前にアリシアが火を消し止めた。怒られた2人は大人しくカシムを先頭に通路を進みだす。確かに彼女が言う通りでトシヤとカシムには一分の反論の隙もなかった。 


 ボスの部屋は館の東側の端に在って東側と南側は窓が設けられている。西側はトシヤたちが入り込んだドアと通路があって他の部屋に面しており特に怪しい箇所がなかった。この北側の暖炉の脇から壁を抜ける秘密の通路だけが唯一の脱出口となっている模様だ。おそらく異変を感じたボスはここから逃げ出したに違いない。


 隠し通路は真っ暗なのでトシヤが光の魔法具を取り出して周辺を照らす。もし待ち伏せでもされた時目標になりやすいという欠点はあるが、ここまで暗いと明かり無しでは一歩も先には進めないのだった。


 明かりに照らされた通路は10メートル進まないうちに下りの階段となった。4人は慎重に階段を下っていくと、思っていたよりも段数が多い。どうやらこの階段は1階を通り過ぎて地下に直接伸びているようだった。


「この先から物音が聞こえてくるの!」


 アリシアは声を潜めて注意を促す。そこまで来るとトシヤの耳にも微かにガシャガシャという物音が聞こえてくるのだった。ちなみに隠し通路は狭過ぎて初号機はすでにマジックバッグに収納されている。このような狭い場所に展開するには大き過ぎるのだった。実はカシムにすら狭すぎて、彼は頭を屈めながら場所によっては体を横向きに進まないと通れなかった。


「バカは身動きができないみたいだから俺が様子を見てくる」


「誰がバカだと! このまだらハゲが!」


 互いに罵り合いながらトシヤが前に出ようとするが、カシムの巨体が完全に通路を塞いで全然前に出られない。


「少しは避けやがれ! このクソバカ頭が!」


「なんだと! たった今その髪を毟ってやる!」


 狭い通路でカシムとトシヤがおしくら饅頭を始めている。その光景をアリシアとエイミーは『いい加減にしてほしい』という目で見ているのだった。


「もういいの! 私が様子を見てくるの!」


 アリシアは押し合い圧し合いしている2人の足元を潜り抜けて、さっさと前に歩き出した。5メートルくらい先に進むと通路は角になっており、そこからそっと顔を覗かせると彼女の目に明かりが飛び込んでくる。そこは通路よりも広いスペースで、どうやらその小さな明かりの下で男が3人で袋に何かを詰め込んでいる様子だった。


「わかったの! この先に男が3人居るの!」


「そうか、問題は近づく方法だな。こんな狭い通路だと投げナイフが飛んできても避けようがないからな」


 トシヤが首を傾げて考え込んでいる。先頭でつっかえているカシムが居る限り、トシヤは前に出られないし、いくら頑丈なカシムでもナイフが刺さると怪我をする。一番後ろに居るエイミーの魔法に頼りたいところだが、通路が狭過ぎてトシヤたちが退避する場所が十分に取れなかった。


「こんな時には私に任せるの! 幻術で隙を作り出すから、エイミーが氷の魔法で倒すの! 役立たずのトシヤとカシムは床に伏せているの!」


 アリシアはトシヤとカシムをその場で床に伏せさせると、エイミーを手招きする。


「痛てっ!」


「ふがっ!」


 エイミーはアリシアの立っている場所に行こうとするが、そのためには床に伏せている二人を乗り越える必要があった。どうしようかと考えて彼女は手っ取り早く2人を踏み付けながら前進する。特にカシムは頭をもろに踏まれて涙目になっていた。


「エイミーは気絶するような魔法でいいの! 私の合図があったら撃つの!」


「はい、わかりました」


 2人は通路の角から頭を出して、男たちの様子を伺いながら魔法の発動する。最初にアリシアの幻影が20メートル以上離れているの男たちの目に前に姿を表した。


「なんだテメーは!」


「どうしてここに現れた?!」


 右手に匕首を構えたアリシアの幻影に男たちが気が付くと、彼らは慌ててナイフや短剣を構える。アリシアが作り出した幻影はまったく身じろきしないで構えを取ったまま男たちを見ているだけだったが、彼らの注意を惹くにはそれで十分だった。


「エイミー、今なの!」


 エイミーの右手から氷のボールが飛び出していく。館に侵入した時に最初に彼らの相手になった男を一撃で気絶させたアイスボールが景気良く10連発で放たれた。


「ごわっ!」


「げへっ!」


「おばっ!」


 アリシアの幻影に気をとられて全く無警戒だった3人の男の体にアイスボールが食い込んでいく。致命傷は与えなくても戦闘力を奪うには十分な威力だった。


「もう大丈夫なの! トシヤとカシムで取り押さえるの!」


 幻影を消して今度はアリシアの本体が男たちが倒れている場所に近づいて、すっかり動けなくなっている様子を確認してから、トシヤたちを呼び寄せる。


「幻影というのは効果があるな」


「アリシアのおかげで上手くいきました!」


 幻影は見破られない限りこうして相手の注意を惹いて大きな隙を作り出すことが可能だった。トシヤはアリシアのその効果的な使用法に感心しているのだった。まさに『キツネは人を化かす』を地でいっている。




 マジックバッグから取り出したロープで男たちを縛り上げたトシヤは、一番恰幅のいい一人の胸倉を掴み上げて往復ビンタを食らわす。乱暴な起こし方だが、指の先程も情けは掛けなかった。


「うーん」


 目を開いた男は目の前に立っているトシヤを見て驚いた表情をすると同時に、縛り上げられた手足を動かして何とかこの場から逃げようとする。 


「無駄だ、抵抗するな。大人しくしていれば命は助けてやる」


「ほ、本当だな」


 命が助かると聞いて男はホッとひとつ溜息を付く。どうやら『敵対組織の殺し屋ではなさそうだ』と安心した模様だ。だが、それと同時にトシヤたち4人の風貌を冷静に観察した彼は余裕を取り戻す。


「なんだ、テメーらガキの分際でマフィアに手を出してタダで済むと思っているのか?! いずれこの借りは100倍にして返してもらうぞ! テメーらだけじゃなくて家族も知り合いも全部地獄に落としてやる!」


 手足を縛られた無抵抗な姿で虚勢を張る男、だがトシヤは全く動じた様子もなく彼を上から見下ろしている。


「そうか、いいぞ。勝手にしろ! その代わりお前たち3人が今この場で死ぬことになる」


 トシヤの後ろではカシムが『いつでもいいぞ!』とシャドーボクシングのような真似をしている。この辺のコンビネーションは息がピッタリだ。カシムの唸りを上げる拳が空気を引き裂く音を引き起こす様子を見て、男は観念するしかなかった。あんな獣人の一撃を1発もらっただけで命が危険に晒されるとようやくその頭で理解できたらしい。


「さて、ここからは話し合いの時間だ。まずは名乗ってもらおうか」


「ブラッドレー、〔暗黒街のバラ〕のボスだ」


 もはや立場を偽ってこの場を切り抜けようという気もないらしい。彼は正直に自分が組織のボスだと認めた。


「俺たちはここに居るアリシアとエイミーがお前の部下の下っ端連中に攫われそうになった件で話し合いに来ただけだ。襲い掛かってきた15人はきれいに片付けて、生き残った4、5人は警備隊に引き渡した。組織のボスとしてはこの件に関してどのように責任を取るつもりか聞きたい。俺としては交渉はなるべく穏便に済ませたいと考えている」


 交渉に関しては残った3人は完全にトシヤにお任せといった態度で成り行きを見守っているだけだった。ブラッドレーは思っていたよりも解決し易い案件だと感じてトシヤに歩み寄る姿勢を見せる。


「わかった、お前たちには絶対に手を出さない。この条件で手打ちにしてくれ!」


 下手に出て懇願する態度の彼に対してトシヤの目がスーッと細められる。


「お前なー、俺たちはお前の手下のせいで迷惑を被ったんだぞ。わかるか? とっても迷惑だったんだからな! もっと誠意を見せないと詫びにならないと思うぞ!」


 マフィアを強請りに掛かるトシヤ、どこをどうすれば15歳の少年がこんなふてぶてしい態度に出れられるのだろうかという疑問は尽きない。


「わかった、金貨100枚出す! それで何とか収めてくれ!」


 ブラッドレーは相手が子供だと思って『このくらい出せば引くだろう』と甘く見ていた。その回答を聞いたトシヤはいい加減にしろといった表情で彼の耳元に顔を近づける。


「お前なー、〔暁の隠者〕を舐めるなよ! 明日の朝お前の死体が木からぶら下がるのは嫌だろう」


 トシヤが小声でそっと呟いたフレーズにブラッドレーの表情は凍り付いた。その口から飛び出たセリフは15歳の少年が知るはずがない、闇社会においては『絶対に逆らってはならない!』と囁かれている暗殺集団の名称だった。当然ブラッドレーはその組織を利用したことがあるし、組織の名前すら公然と口にできないという掟も知っている。


「お前・・・・・・ いや、あなたは・・・・・・」


「それ以上しゃべったら命がなくなるぞ!」


 トシヤは〔暁の隠者〕本家の一人息子だ。つまり将来の当主の地位が約束されている。その権限は絶大で、彼が一声掛けるだけで帝都に潜伏している一族の戦闘要員が直ちに集結する。直接暗躍する人員は正体を伏せなければならないが、次期当主の彼はあえてその家柄を隠す必要はなかった。かと言って、不必要に口に出す真似もしてはいない。


 トシヤの背景を知ったブラッドレーには逆らう術など残されていなかった。『もしこの先生きていたいのだったら要求は全て飲まなければならない』と、今度は本当に観念した。


「なになに、ここにある金貨は全部持って帰っていいのか! それは太っ腹だな! じゃあついでにこの金庫ももらっていくぞ!」


 項垂れてもうこれ以上はしゃべる気力を失ったブラッドレーの代弁をするかのようにトシヤが高らかに宣言する。その場所の床には3人が逃げ出す準備のために金貨を麻袋に詰めている最中だった。パンパンに金貨が詰まった袋が6つ無造作に転がっている。その他にもまだ金庫の中には宝石などがあるようだった。



 トシヤは金目の物を片っ端方マジックバッグに仕舞い込んで、床を見つめたまま動こうとはしないブラッドレーのロープはアリシアが匕首で切って自由の身にしてやった。後は好きにしろというせめてもの温情だ。


「話がまとまったからこれでいいな。撤収!」




 



 4人が地下通路から外に出るとエイミーがニコニコ顔でトシヤに話しかけてくる。


「トシヤさん、これで大金持ちじゃないですか! 私もお母さんや弟たちに仕送りができます!」


「そうなの、ご馳走が待っているの!」


「俺は切れ味最高の剣がほしいな!」


「あとで山分けにするから好きにすればいい。それよりもあそこに白いネコが居るけどどうする?」


 ちょうどそこは館の裏手に当たる場所で、日溜りで子ネコがのんびりと欠伸をしている。依頼を受けた例のネコに違いない。


「そうなの、ネコの件が残っていたの! 私たちには警戒するからトシヤかエイミーが捕まえてほしいの!」


 狐人族や狼人族は子ネコに警戒心を抱かせるらしい。


「私がやります!」


「これを持って近付くといいだろう」


 トシヤから手渡された小さな肉の欠片を手にしてエイミーは子ネコに近付いていく。


「ほらほらネコちゃん! こっちにおいで!」


 肉の欠片をヒラヒラして見せながらエイミーは慎重に近付いていく。


「ニャーー」


 どうやら子ネコはエイミーの手にある肉に気が付いた様子でかわいい鳴き声をあげた。その手から肉をもらって満足そうに舌で口の周りを舐めている。


「ほーら、いい子ですねー!」


 エイミーが手を伸ばしてその体を抱えると、子ネコは全く抵抗する素振りを見せずに彼女の胸に抱き留められた。


「これで無事に依頼達成です!」


 エイミーの明るい声が裏庭に響くのだった。


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ