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2 入学試験1日目の午後

第2話の投稿です。入学試験の2日目がどのように行われているのでしょうか? ちょっと気になる方はぜひ読んでみてください。

 午前中は魔力の測定だけが行われて、昼食を挟んで午後は魔法実技の試験が実施される。トシヤは一人だけの控え室で、マジックバッグから取り出した宿屋で作ってもらった弁当を口にして過ごしている。


(一体何がどうなっているんだろう? 俺だけ一人で試験を受けるなんて訳がわからないな? それにしてもエイミーに昼飯を渡しておいて良かった。今頃どこかで食べている頃だろうな)


 昼食を取り終えて一人で何もすることがない彼はポツンと置いてある会議用のテーブルに突っ伏してそのまま寝て過ごす決意を固めた様子だった。他の受験生は魔法実技の試験に備えて術式の構築のおさらいなどを始めているのにまったくのんきなものだ。




 一方その頃・・・・・・


 エイミーも魔力測定を無事にクリアーして、受験生の控え室として開放されている食堂で昼食を取っている最中だった。ちなみに彼女も魔力測定で2674という途方もなく高い数値を叩き出して周囲を驚かせていた。


(まったくトシヤさんはどこに行ってしまったんでしょう? ちゃんと測定できたのでしょうか? やっぱり知らない人たちばっかりで話し相手が居ないとなんだか不安になりますよね。特にすることがないから、時間になるまで寝ていましょうか)


 昼食を終えたエイミーは周囲が緊張しながら術式の復習を繰り返す中で、トシヤと同じようにテーブルに突っ伏して時間が来るまで寝て過ごすのだった。




「それでは午後の魔法実技の試験を開始します。番号を呼ばれた人はここにある開始線に立って、20メートル先の的に魔法を当ててください。魔法は最も得意とする物で構いません。採点の基準となるのは魔法の威力と正確性と発動するまでの時間が対象です」


 試験官の教員の説明にしたがって、受験生が各々の得意な魔法を的に向けて放っていく。金属でできた土偶のような形の的に上手くファイアーボールが当たってガッツポーズをする者や的を外してガックリと項垂れる者など悲喜交々の光景が繰り返されていく。



「507番、開始線に立ちなさい」


 試験官の声でそこに立ったのは、銀髪に銀眼が印象的なほっそりとした少女だった。だが周囲の男子の目をより引き付けたのは、実用的ではあっても十分高級そうな服に包まれた零れ落ちんばかりに育った見事な二つの胸の膨らみだった。


 周囲の視線など全く気にする様子がない彼女は腰に提げている剣をスラリと引き抜くと、その剣に魔力を流し始める。稲妻を帯びてバチバチと火花を散らし始める剣を中段に構えると、そのまま裂帛の気合とともに前方に突き出した。


「はぁぁぁぁぁっ!」


 剣先から放たれた稲妻は宙を真っ直ぐに翔けて、金属の的を貫いて中心部に穴を開けている。未熟な者では手から放っても的を捉えるのが難しい雷属性の中級魔法を彼女はなんと剣から放ってその威力で的を破壊していた。


「凄い、あんな高度な技を使える人が居るんだ」


 エイミーはその光景を周囲の受験生と同様に息を呑んで見つめている。注目を一身に集めたその少女は何事もなかったような表情で剣を鞘に収めてからその場を去っていった。


「おい、あれがひょっとして魔族のお姫様か?」


「ああ、今年この学校を受験するとは聞いていたが、これでどうやら新入生首席の座は決定だな」


 エイミーに耳に周囲の事情通の受験生の声が届いてきた。


(そうなんだ! 魔族のお姫様が受験に来ていたんだ! それにしても凄くきれいな人、それにあんなに胸が大きいなんて絶対に反則よね!)


 エイミーは視線を下にして自分の胸を見ると、そこには小さく自己主張する慎ましやかな膨らみがある。『もう少しすれば必ず大きく育つ!』と敗北感から目を逸らして強く自分に言い聞かせるエイミーだった。





 一方その頃、トシヤの魔法実技の試験が特別演習室で開始されようとしていた。


「ここからあの的に向かって一番得意な魔法を放ってください」


 試験官の説明に頷くトシヤだが、本当に一番得意な魔法をこの場で見せてしまっていいのか一抹の不安を抱いて尋ねた。


「あの、少々危険な魔法なんですが、この部屋が壊れてしまっても構いませんか?」


「その心配には及びません。ここはかつて大魔王様が自らの術式の構築を行った場所で、通常では有り得ないほどの頑丈な結界に覆われています。安心して魔法の腕を振るってください」


 トシヤの目が輝いた。大魔王特製の結界ならば、自分の魔法如きでは傷もつけられないはずだ。それならば心置きなく得意の魔法を展開できるとワクワクしている。


(えーと、取り敢えずは1体でいいかな。それじゃあ、初号機発進!)


 トシヤがマジックバッグから取り出したのは、日本のロボットアニメに出てくる機体と寸分違わずに作り上げられたこの世界流に言ってみれば『ゴーレム』に当たる物体だった。


 トシヤの横で初号機が仁王立ちして命令を待っている。その大きさは2メートルを少々超えるくらいでそれ程大きな物ではないが、トシヤが試行錯誤してこのくらいのサイズが最も実用的と決定していた。


「初号機、あそこにある的を魔法で破壊せよ!」


 その命令に従って初号機の右腕が上がると、そこから馬鹿でかい炎の塊が続け様に飛んでいく。


 ドカーン! ドドドーーーン!


 炎の塊は的にぶつかると連続して派手な爆発音を引き起こして巨大な火柱が上がった。炎と煙がおさまるとそこにあったはずの的は高熱と威力の高い爆発で融かされたり引き千切られてりして、全く原形を留めない無残な姿になっている。


「隣の的を殴って来い!」


 トシヤの命令で初号機は人が走るよりも素早く動き出す。そして命令通りに隣の的に向かって唸りを上げながらその豪腕を振り下ろした。


 ガーーン!


 その一撃で金属性の的は大きくひしゃげている。なおも2発3発と腕を振り下ろしていく初号機、倒れた的に対してマウントポジションをとって容赦なく拳の雨を降らせていく。


「もういいぞ、初号機、戻って来い!」


 トシヤの命令で戻ってくる初号機、そのまま彼はマジックバッグに収納してこれで試験は終了した。近くでその様子を目撃していた試験官は腰を抜かしてトシヤを見ている。






 この光景を学院長室のモニター越しに見ていた学院長は口をポッカリと開いたままで完全に硬直している。


「今のがAI属性だよ! わかったかな?」


 さくらの声でようやく我に帰った学院長は聞きたいことが山程あるらしくて、立て続けに質問を投げかける。


「あのゴーレムは一体どのような仕組みで動いているのですか?! それから・・・・・・」


 この世界にもごく少数ながらゴーレム遣いは存在する。だが彼らが操るゴーレムは単純で遅い動きしかできずに、主に鉱山などで重たい鉱石を運ぶ仕事に従事する場合が殆どだった。戦闘に役立つレベルのゴーレムの開発は不可能という結論が現時点で出されている。


「ああ、あれはね、秘密が多いから教えられない部分がいっぱいあるんだよ! 話せる範囲で言うとね・・・・・・」


 日本で開発されたAI属性の基本的な考え方がさくらから説明された。その主な内容がおよそ次の通りだ。


 そもそも日本では魔法が使える人材はごく少数で大変貴重な存在だった。彼らは主に軍務に従事しているのだが、その貴重な存在を戦場に駆り出して失うのは損失が大き過ぎた。そして時代はAI知能を持った無人兵器が主流になっている。それならば安全な場所に居る魔法使いの命令に従う別の存在が戦場に立てば問題はないだろうということで、国防軍を主体にして新たな魔法体系の開発がスタートした。


 基本的な理論は陰陽道で用いられる式神で、これをもっと高度に発展させて自ら攻撃手段や自衛手段を判断できるような知能を魔法的に移植した物が現在の魔法戦の主役を務めている。この知能を魔法的に構築する方法が『AI属性』と呼ばれる新たな魔法体系全般を指しているのだった。そして現在はAI知能そのものに魔法的な術式を組み込むことが可能かという実証実験が日本では行われている。





 話は移るが、トシヤが初号機を完成させたのは13歳の時だった。


 その動機は彼がまだ幼い頃に家に遊びに来たさくらがロボットが活躍するマンガ本を置き忘れたのが始まりだった。トシヤは夢中になってそのマンガを読み漁って、ロボットが活躍する光景を自分の手で実現したいと考えた。すなわちこの時点で彼は立派な厨2病という病に感染していたのだ。マンガ本に出てくる難しい日本語をいつの間にか完璧に理解して読みこなしていく分、この世界の文字の勉強が疎かになって気が付いたら殆ど字が読めない状態という重たい副作用付きで、現在のトシヤが出来上がっている。ちなみに彼が魔物狩りに精を出していたのは、レベルを上げれば魔力が増えてより高度なAI属性の術式を構築することができるためだった。もちろん元々がアクティブな性格なので、魔物狩り自体の面白さに嵌った点も否めない。




 こうして無事に初日の試験を終えたトシヤは合格者が記載してある掲示板に向かう。そこはすでに黒山の人だかりで、喜んでいる者とガッカリしている者の対照的な姿がそこいら中で繰り広げられるのだった。


「トシヤさん! 無事に生きていたんですね!」


「別に誘拐されたわけじゃないから普通に生きているぞ」


 人だかりの中で目立つ黒髪を発見したエイミーがトシヤに慌てて駆け寄ってきた。せっかくその姿を見つけて『絶対に離すまい!』と腕にしがみ付く。金づるとして・・・・・・ いや、依然として一文無しのエイミーにしてみれば、こうして善意で自分の面倒を見てくれるトシヤなしでは現状生きていけないのだ。


 それにしても試験会場で『無事に生きていた!』はいくらなんでも大袈裟過ぎるだろう。心配していた自分に対してトシヤは全く平常運転の様子で返事をしているのが、エイミーにはやや不満そうなことは内緒だ。 


「今日の試験の合格者に2人とも番号がありましたよ! 無事に合格して一安心です」


「そうか、良かったな! それじゃあ明日に備えて宿でゆっくりするか」


「そうですね! 合格のお祝いですから晩ご飯は奮発しましょう!」


「それは俺のセリフのような気がするが・・・・・・」


「男は小さなことは気にしないのが格好良いんです! さあさあ、戻りましょう!」


 どちらが世話になっているのか丸っきりわからない2人だったが、この件に関してはトシヤ自身突っ込むのをエイミーと出会ったかなり早い段階で諦めていた。良く言えば天真爛漫、悪く言えば図々しいこの娘には何を言っても無駄だとある意味悟りを開いている。ただそんなエイミーがなぜか憎めなくて、一緒に居ると楽しいと感じるトシヤだった。

エイミーさんが可愛いと思う方はぜひ評価とブックマークにご協力ください。次話の投稿は30分後を予定しています。

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