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1―8

1―8


 帰る方向が違う鏡也と河川敷で別れた後、麗香と孝男は拓也の家に荷物を取りに寄ってから帰って行った――。


 麗香は、帰り際、拓也と携帯電話の番号とメールアドレスの交換をした。

 拓也は、憧れの先輩と電話番号やメアドの交換をして舞い上がるかと思ったが、意外と冷静な自分に気付く。

 麗香から、メールの件名や本文に守護者や異界については、書かないようにと注意されたこともあるだろう。

 麗香は、あくまでも業務連絡用に番号の交換をしただけなのだ。そこを勘違いしてはいけないと拓也は自分に言い聞かせた。


 荷物を部屋に置き、台所のテーブルに座った拓也は、今日の出来事を振り返る――。


 河川敷に空いた異界への入り口。

 そこに紛れ込んだ人が死んだという事件。

 今朝、遺体が発見されたのに警察を見かけなかったのは、何故なのか麗香に聞いてみたら、異界の入り口は、事件のあった場所から少し離れているとのことだった。

 つまり、被害者の女性は、異界に紛れ込んだ後、出口が分からずに彷徨ったあと、敵に出会って殺されてしまったのだろう。

 何故、死体がこちらの世界に出たのかは謎だが、異界の中で死ぬと死体は、アメノウズメが言うところの現世(うつしよ)に転送されるようだ。

 拓也は知らなかったが、あの異界絡みで亡くなった人は、二人目ということだった。

 一人目は、早朝にジョギングをしていた大学生らしい。

 異界に紛れ込む人が少ないのは、あの場所をピンポイントに通り抜けないといけないからのようだ。

 守護者たちに案内でもされなければ、たまたま通るというのは、本当に運が悪い人しか居ないだろう。


 亡くなった二人が守護者憑きだった可能性もあるらしい。

 しかし、その場合は、出口の場所も分かるので、逃げられるはずだが、逃げ切れずに死んでしまった可能性もある。

 守護者が麗香や孝男のように戦闘向きだったら、敵を倒すこともできるだろうが、鏡也のような守護者だと難しいかもしれない。

 敵が1~2体ならリャナンシーでも大丈夫だろうけど、3体以上居た場合には、かなり危ないと拓也は思った。


 ――オレはどうだろう? 一人で異界に入って無事に戻れるだろうか?


 異界の中では、拓也の身体能力は向上するので、逃げるだけなら可能だろう。

 しかし、戦闘をして小鬼の集団を倒すことができるかといえば、難しいかもしれない。


 ――一体づつ、ヒット・アンド・アウェイで倒していったらどうだろう?


 アメノウズメが強化した木刀なら一撃でホブゴブリンも倒せるようだった。

 突出している一体を狙って一撃離脱を繰り返せば、一人で戦うことができるのではないかと拓也は考える。


 そこまで考えたところで、意識が現実に引き戻される。


「晩飯、作るの面倒だな……」

「食べぬと体に毒じゃぞ?」


 拓也が座るテーブルにアメノウズメが現れた。


「うわっ」


 目の前に突然現れたので拓也は驚いてしまう。


「ふふっ、坊やはからかい甲斐があるのぅ」

「突然、目の前に現れないでくださいよ……それにどうして、実体が無いのにテーブルに座っているのですか?」


 アメノウズメは、拓也の目の前のテーブルにこちらを向いて腰掛けているのだ。

 拓也は、少し椅子を引いて、背もたれに寄りかかって脱力していたのだが、それでもかなり至近距離に現れたので驚いてしまった。

 年端も行かない少女とはいえ、大きく胸元が開いた巫女装束は、思春期の少年には目に毒だ。


 拓也は、アメノウズメの胸元から無理矢理視線を引きはがす。


「やはり、坊やは、妾の乳房に興味があるようじゃの……」

「いえ……そんなことは……」


 以前ほど強く否定できない自分に驚いた。


 ――溜まってるのかな……。


 拓也は、席を立って、食事を作ることにした――。


 ◇ ◇ ◇


 拓也は、夕飯にうどんを作って食べた。


 醤油や白だしで味付けしたスープに冷凍のうどん麺を入れて煮ただけの簡単な料理だ。

 それに買い置きの揚げ玉と刻み揚げと生卵をトッピングとして最後に加えている。

 料理を作るのが面倒なときの定番料理の一つだった。


 夕食後、風呂を沸かして、風呂に入る。


「ふぅ……」


 湯船で一息吐いた。


「ほぅ、妾も一緒に入りたいものじゃのぅ……」


 湯船の中に着崩した巫女装束姿の少女が現れる。


「うわあぁーっ!」

「騒ぐでない」


 拓也は、湯船の中で体を隠した。


「坊やは、可愛いのぅ……妾も裸になってやろうか?」

「い、いえ、結構です」

「何じゃ、つまらぬのぅ……」

「それより、向こうを向いてください」

「いまさら、何を言うておるのじゃ? 妾は、坊やの体のことは隅々まで知っておるのじゃぞ?」

「い、いつの間に……?」

「同化しておるのじゃから、当然じゃろう?」

「じゃあ、風呂から上がるまで出てこないでください」

「うむ。坊やが気になるのならばそうしよう……」


 そう言って、アメノウズメは消え去った。


「はぁ……」


 拓也は、溜め息を吐いた――。


 ◇ ◇ ◇


 風呂から上がった拓也は、今日の授業で出された宿題を終えてから、ベッドの上で仰向けに横になる。

 ジャージ姿で布団の上から寝ころんだ。


 右手で左腕をさする。

 ホブゴブリンに棍棒で殴られて折れた場所だ。


 ――痛かったなぁ……。


 学生服の殴られた箇所は、破れてはいなかったが、繊維が少し溶けたような状態になっていた。

 しかし、土のような汚れは付着していなかった。それは、転倒して地面に接した場所も同様だ。


「アメノウズメ?」

「何じゃ?」


 ベッドの上に着崩した巫女装束姿の少女が現れた。

 拓也の腰の辺りを踏んでいるように見えるが、踏まれている感覚は全く無かった。


「異界で転んだんだけど、服に土が付いていないのはどうして?」

幽世(かくりよ)にあるものを現世(うつしよ)に持ち込んでも消えてしまうのじゃ」


 つまり、異界で転んだ時には土が付いていたけど、こちらの世界に戻って来た途端に消えてしまったということだろう。


「守護者と同じですね」

「その通りじゃ」

「でも、それなら、どんな守護者でも取り憑いた人を守護することなんてできないんじゃ?」

「確かに現世では、我らの力は殆ど及ばぬ。しかし、危険を察知して警告したり、守護者によっては、呪力で主を護ることができるそうじゃ」

「じゅりょく?」

「魔力、神力、神通力など呼び方は様々じゃが、幽世を造り出している力と思えばいいじゃろう」

「もしかして、ゴブリンの体から吹き出ていた黒い霧みたいなものも?」

「うむ。その通りじゃ」


 ――敵を倒してもゲームみたいに強くなったりはしないんだろうな……。


「あのゴブリンたちを倒しても強くなったりはしないんだよね?」

「そんなことはないぞぇ。あやつらを倒せば坊やは強くなっていくはずじゃ」

「うーん、それって、戦闘に対する慣れというか経験を積むことで強くなるということですよね?」

「それもあるじゃろうが、守護者は、敵対する守護者を倒すことで、呪力の一部を吸収して強くなるのじゃ。今は、坊やが未熟なため、妾の力も十全ではないが、あやつらを倒していくうちに妾の本来の力を使えるようになるはずじゃ」


 アメノウズメの話によれば、異界のモンスターを倒すとレベルアップしていくようだ。


「アメノウズメは、他にどんなことができるの?」

「幽世の中でなら、(いかずち)を放つこともできるぞぇ。尤も今の状態では無理じゃがな……」

「どうしてですか?」

「坊やと融合しておるからじゃ」

「弱くなったということ?」

「そうとも言えるが、坊やを守護するためには、融合したほうが良いと思ったのじゃ」


 拓也としては、そのせいで、敵と直接戦わされているので、結果的にその判断が正しかったとは思えなかった。


「守護者って一人につき一体だけなんですか?」

「うむ。基本的には、そうじゃが。例外もある」

「中には、複数の守護者に護られた人も居るということですか?」

「そういう例があるのかどうかは知らぬよ。しかし、可能性はあるのぅ……坊やは、妾の他に守護者が欲しいのかぇ?」

「そうですね。オレの代わりに戦ってくれる守護者なら欲しいかもです」

「なるほどのぅ……そればっかりは、相手に気に入られねば駄目じゃからのぅ」

「守護者の素質を持っていれば誰でも取り憑かれるってわけではないのですか?」

「うむ。坊やには、その素質があるが、今まで取り憑かれたことがないであろう? 我らにもそれぞれ好みというものがあるのじゃ」

「好み……?」

「そうじゃ。その者と我らの相性とでもいうべきものが存在しておる。そして、それは、直感的に分かるのじゃ」

「よく分かりませんが、オレを気に入った守護者と出会えば、力を貸してくれるということですね?」

「うむ。坊やは頼りなさげじゃからのぅ。妾のような世話焼きの守護者が居れば、力を貸してくれるやもしれぬな」


 ――明日と明後日は、休みだから、少し異界で修行してみるのもいいかもな……。


 拓也は、そんなことを考えながら、部屋の明かりを消して、布団に潜り込んだ――。


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