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「……本日未明、武蔵ヶ原市高天町むさしがはらしたかあまちょうの路上で二十代と見られる女性の遺体が発見されました……」


 テレビから物騒なニュースが聞こえてくる。


 今日は、9月22日(金)だ――。


 先週末の修学旅行から一週間が経過していた。


 拓也は、リモコンを操作してテレビを消した。

 鞄を持って玄関へ移動する。


 そして、学校へ向かった――。


 ◇ ◇ ◇


 拓也が今の学校を選んだのは、家から近いというのが一番の理由だった。

 ランク的にも少し頑張れば何とかなりそうなレベルだったし、家から徒歩15分という距離は魅力的だったのだ。


 ――ガラッ


「…………」


 拓也が教室の扉を開けると、教室内が静まりかえった。


「お、おはよ……」

「「おはよう」」


 ――ざわっ、ざわざわざわ……


 拓也が挨拶を交わすと、教室内がざわめきだした。


「おはよう」

「おお、タク。大丈夫だったか?」

「まーな」


 拓也は、数人で固まっている男子生徒たちに挨拶をしてから席に着いた。

 すると、女生徒のグループから相田志保が抜け出して拓也のほうへ歩いてきた。


「ちょっと、榊君! 一体どういうことなの!?」

「何が?」

「あなたが、あたしの班から消えちゃった件に決まってるでしょ!?」

「あー……。それが、オレにもよく分からない。あの後、霧が出てきて、周りが見えなくて迷ってしまって、境内で寝ていたら四日も経っていたんだよ……」

「何よそれ? 本気で言ってるの?」

「まぁ、信じたくなければ、信じなくてもいいけど……」

「それが本当なら、まるでマヨヒガ(まよいが)ね」

「まよいが?」

「知らない? 『遠野物語』に出てくる道に迷った人が訪れる幻の家よ」

「家は見なかったけど、境内の神社はあったな」


 ――ガラッ


「あーっ! タク! てめぇ!」


 教室の入り口で佐々木典明が声を上げた。


「あー、うるさいのが来た……」


 そう言って、志保が典明と入れ替わるように戻っていった。


「よぅ、ノリ。おはよ」

「おはよじゃねーよ! あの後、大変だったんだぜ!?」

「それについては、正直すまんかった」

「てめぇ! 全然、反省してねーじゃねーか!」

「まぁ、オレも巻き込まれた感じだしな……」

「何があったんだよ?」


 拓也は、典明にも同じ説明をした。


「霧ぃ?」


 典明が疑わしいという風にそう言った。


「事実だからしょうがない」

「転けて頭でも打ったんじゃねーのか?」

「いや、医者が言うには、頭部も含め怪我は全くなかったそうだ。そもそも、オレは、ただ寝ていただけだしな……」

「四日もかよ!?」

「オレの感覚では、一晩寝たくらいだったんだけどな。目が覚めたら、病院のベッドの上で四日も経っていたんだよ」

「ホントかよ?」


 ――ガラッ


 まだ、疑わしいという態度の典明を尻目に、教室の引き戸が開いたのが見える。そして、武蔵ヶ原高校2年2組の担任教師である鈴木絵里子すずきえりこが教室に入ってきた。


「ヤベっ」


 そう言って、典明が慌てて自分の席へと戻っていく。


「きりーつ!」


 そして、朝のホームルームが始まった――。


 ◇ ◇ ◇


 昼休み――。


 拓也は、購買で買ってきたパンを自分の席で食べていた。

 向かいの席では、典明が弁当を広げている。


 ――ガラッ


 教室の扉を開けて志保が入ってきた。

 そして、拓也の席にやって来る。


「榊君。今日の放課後、時間ある?」

「先生に呼ばれてるけど……」


 拓也は、朝のホームルームの後、担任の鈴木絵里子に放課後、職員室まで来るようにという呼び出しをくらっていた。

 志保もそれは知っているはずだ。


「ええ、その後でいいわ」

「なに?」

「上杉先輩が生徒会室に来てほしいと言ってるのよ……」

「なにーぃ! レイカ様がっ!?」


 典明が叫んだ。


「佐々木! うるさい! 黙れ!」


 志保が典明を黙らせた。


「分かった……先生の話が終わったら、生徒会室に行くよ」

「じゃあ、伝えたわよ」


 そう言って、志保は、再び教室から出て行った。


「おい! どういうことだよ!?」

「知らないって。たぶん、修学旅行中に失踪した件だろ。注意されるんじゃないかな……先生もだけど……」

「レイカ様に注意されるって……そりゃ、ご褒美じゃねーか!」

「はぁ……」


 拓也は、溜め息を吐いた。

 典明には呆れるが、拓也も生徒会長の上杉麗香うえすぎれいかには、密かに憧れを抱いていた。

 といっても、所詮は高嶺の花なので、恋人にしたいとかそういう感情はない。せいぜい、妄想の対象にする程度だった。


「そう言えば……。最近、レイカ様には、岡田先輩と噂があったよな……? いや! あり得ない! 美女と野獣じゃあるまいし……」


 典明がブツブツと独り言を言っている。


「岡田先輩ってバスケ部の?」


 拓也の記憶が正しければ、バスケットボール部の部長で熊のような大男だ。


「ああ、少し前に街で一緒に歩いていたのを見た奴が居るとか……」

「ふーん……」

「反応薄いぞ。お前もレイカ様に憧れてるんだろ?」

「まぁな。でも、恋人にしたいとか思ってるわけじゃないし……」

「何だよそれは?」

「あり得ないからな。オレたちよりは、岡田先輩のほうが現実味があるだろ?」


 部長をしているくらいだから、人望もあるのだろう。

 お似合いかどうかはともかく、可能性としては、二人が付き合っていてもおかしくはない。

 拓也は、そう考えた。


「はぁ……相変わらず、冷めてんな……」

「まーな」

「とにかく、レイカ様と近くで話す機会なんか滅多にないんだぞ。今日は、頼んだ!」

「何を?」

「じっくりとレイカ様の胸のサイズを観察してから報告してくれ」

「アホか。会長の胸を凝視してたらファンに殺されるわ」

「無茶しやがって……」


 典明が拓也に向かって敬礼をした――。


 ◇ ◇ ◇


 ――ガラッ


「失礼します」

「ああ、こっちこっち」


 拓也が職員室に入ると、担任の鈴木絵里子が手を振った。

 拓也は、二年生になってから、職員室に入るのは初めてだった。

 一年生のときも数回来た程度なので、慣れない職員室で拓也は緊張した。


「先生……」

「来たわね。呼び出しの理由は、分かっていると思うけれど、修学旅行の件よ」

「そうだろうと思ってました」

「何があったの?」


 拓也は、これまでに話したような内容を絵里子にも話した。


「ふーん、それを信じろと……?」

「事実ですから……」

「ねぇ? あなたの家庭環境が特殊なことは分かっているわよね?」

「母親が居ないことですか?」

「それもあるけれど、お父さんも家に帰って来ないんでしょ?」

「まぁ……。ですが、一人暮らしは気楽なので、オレは今の環境を気に入っていますよ?」

「ホントに?」

「ええ、別に父親にも反発したりしていません」

「……分かった。榊君を信じるわ」

「そう言えば、先生は生徒会の顧問でしたよね?」

「ええ、そうよ」


 聞いた話によれば、部活動の顧問などをやっていなかったため押しつけられたらしい。


「この後、生徒会室に呼ばれているのですが、何か聞いてます?」

「いいえ、初耳ね……」


 絵里子が推理をするように腕を組んだ。

 ブラウス越しに大きな胸が強調されて、拓也はドキリとする。


「じゃあ、失礼します」

「ええ、気をつけて帰りなさい」

「はい」


 拓也は、職員室を後にして、生徒会室へと向かった。

 職員室から生徒会室は、比較的近かったので、すぐに到着する。


 ――コンコン


「どうぞ」


 ――ガラッ


「しっ、失礼します」


 ――緊張して少し噛んでしまった……。


「いらっしゃい、榊君」


 部屋の奥から上杉麗香がそう言った――。


―――――――――――――――――――――――――――――

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