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 今週の拓也は、学校から帰宅して、異界へ向かい敵を倒すという行動を毎日繰り返した――。


 そして、9月30日(土)――


 水曜日に届いた麗香からのメールでは、10月1日(日)の午後1時30分に桜通り――市内から高天川(たかまがわ)へ向かう大通り――の堤防下に集合とあった。

 先日、鏡也が待っていた場所だ。いつも、あの場所で待ち合わせしているのだろう。


 拓也は、昼食を食べた後、釣り人の格好をして異界へ出掛けた――。


 ◇ ◇ ◇


 ――ガンッ!


 ――ヒギャーァアアアーッ!


 拓也が最後のホブゴブリンに木刀を振り下ろすと、ホブゴブリンは断末魔の悲鳴を上げて倒れた。

 そして、ホブゴブリンの死体は消え去った。


『坊や、(いかずち)が使えるようになったぞっ!』

「え? レベルアップしたってこと?」

『うむ。そう言っても差し支えないじゃろう』

「おお、凄ぇーっ!!」


 拓也は、嬉しさのあまりガッツポーズをした。

 冷めた性格の拓也にしては珍しい行動だ。

 100体以上のゴブリンを屠ったのに全く成長する兆しが無かったので、諦めかけていたのだ。


「やっぱり、ゲームとは違うよな……ゲームだったら、今頃レベル20くらいにはなってるだろうし……」

『てれびげーむとやらと一緒にするでない! 坊やの命が掛かっているのじゃぞ?』

「それは……分かってるけど……」


 毎日、一人でゴブリンやホブゴブリンを同じようなパターンで狩って、戦闘がマンネリ化してしまっていたため、拓也が遊び気分になってしまうのも無理からぬことだった。


「じゃあ、試し撃ちしてみようよ。どうすればいいの?」

『うむ。では、標的を指示するのじゃ』

「あの、堤防下の木でもいい?」

『いいであろう。あの木に向かって雷を撃て』


 拓也は、堤防下に植えてある桜の木――といっても異界内のオブジェ――を標的に雷を呼ぶ。


 ――雷よ!


 拓也がそう強く念じると……。


 ――ガガーン!! バリバリバリバリ……


 物凄い雷光が炸裂して木を粉砕した。

 本当に落雷したかのようだ。

 雷に打たれた木は、燃えながら破壊された後に消え去った。


「おおーっ! 凄ぇー!」

『ふふっ、妾もこれくらはできるのじゃ』

「で、一日に何発くらい撃てるんですか?」

『一日に一度だけじゃ』

「なっ……」

『その代わり、威力は見ての通りじゃ』

「……確かに、これは奥の手だな……」


 ――勝てそうにない相手が出てきたら使おう……。


 ――それにしても、普通はもっと使い勝手の良い魔法から覚えるべきじゃないのか?


 拓也は、ゲームに出てくるファイアボールのような魔法を何発か撃てるようになるほうが良かったと思った。


『妾の雷は、不満かぇ?』


 拓也の思考を読んだのか、頭の中でアメノウズメがそう語りかけてきた。


「いえ、これはこれでいいのですが、もっと弱くてもいいので使い勝手が良い魔法のほうが良かったかな……っと」

『ふむ。他には、坊やを防御する技も使えるようになったぞ』

「それは、どんな?」

『木刀を強化しておるじゃろう? 同じような原理で坊やの体を護ってやるぞぃ』

「おお、それは有り難いです」

『そうじゃろう。この間のように殴られても骨折まではしないと思うぞぇ』

「無傷というわけにはいかないんですよね?」

『当たり前じゃ。この程度の成長でそこまで強くなれるわけがあるまい』

「もっと強くなれば、この間のホブゴブリンの攻撃でも無傷になりますか?」

『うむ。坊やが成長すれば、妾の加護も強くなるからのぅ』

「それを聞いて、やる気が出てきました」

『精進あるのみじゃ』


 拓也は、そろそろ帰ろうかと思っていたが、もう少し探索することにした。


 未知の領域へ向かって移動を開始する――。


 ◇ ◇ ◇


 それから、ゴブリンやホブゴブリンとの散発的な戦闘が何度があったものの、珍しい敵とは出会わなかった。


 ――この辺りにはゴブリンしか出ないのかな……?


『坊や強そうなのが来るぞっ!』


 堤防の上を軽く走っているとアメノウズメが警告をした。


 ――ウウウゥーッ……ガウガウガウ……


 いつの間にか接近されたようで、唸り声が聞こえたかと思ったら、堤防の下から黒い犬が数匹現れた。

 黒い犬は、大きめの大型犬くらいのサイズだ。数は、四匹だった。


 拓也は、木刀を構える。


 四匹の黒い犬は、5メートルくらいの距離で立ち止まった。

 そして、口を開け炎の塊を吹いた。

 拓也の目には、それがスローモーションのように見える。


 ――シュボボボーッ!

 ――シュボボボーッ!

 ――シュボボボーッ!

 ――シュボボボーッ!


 拓也は、とっさにジャンプして避けた。

 すると、その隙を突いて四匹の黒い犬が拓也の着地点めがけて走って来る。


 ――マズイ……!?


 しかし、ジャンプ中で拓也には回避方法が思いつかない。

 一体は、このまま木刀を振り下ろせば倒せるかもしれない。

 しかし、他の三匹に噛みつかれて死ぬのではないだろうか……。


「アメノウズメ!」


 ダメ元でアメノウズメに頼ってみる。


『承知!』


 アメノウズメが力強く答える。どうやら、彼女はこの窮地を脱することができると確信しているようだ。

 拓也は、アメノウズメの声を聞いて安心し、四匹の黒い犬のうち一体めがけて木刀を振り下ろした。


 ――ガンッ!


 ――キャイン!


 犬のような悲鳴を上げて一匹の黒い犬が倒れた。そして消え去る。


 ――ガウガウガウッ!


 三匹の犬が拓也に殺到する。

 その瞬間、拓也の体から閃光が迸った。


 ――キャン!

 ――キャン!

 ――キャン!


 三匹の犬が目潰しの閃光を喰らってのたうった。

 拓也は、その隙を逃さず木刀で順番にトドメを刺す。


 ――キャイン!

 ――キャイン!

 ――キャイン!


「はぁはぁはぁはぁ……」


 拓也は、冷や汗をかいていた。

 恐怖で背筋がゾクゾクとする。


 ――危なかった……。


 ――アメノウズメが助けてくれなかったら、死んでいたかもしれない……。


 ――最初の炎の攻撃にしても喰らったらどうなっていたことか……。


 拓也は、指先が恐怖で痺れたように感じていた。


『情けないのぅ』


 拓也の恐怖を感じてか、アメノウズメが頭の中でそう囁いた。


「でも、死にかけたんですよ?」

『心配はいらぬ。妾が死にかけても治癒してやるからの』

「痛い思いは、もうしたくないんです……」


 ――左腕を骨折しただけでも無茶苦茶痛かったのに死にかけるなんて絶対に嫌だ!


 拓也は、そう思った。


『痛いのが嫌なら強うなれ』

「うっ……」


 それは正論だった。

 おそらく、アメノウズメの加護が強くなれば、黒い犬――ヘルハウンド――の炎や噛みつき攻撃を受けてもかすり傷程度しか負わなくなるのだろう。


「ゴブリンばかり狩っていても強くなれるかな?」

『より上位の者を倒したほうが成長は早いが、雑魚でも大量に倒せば成長はするぞぇ』

「じゃあ、安全な雑魚を大量に狩ったほうがいいよね……」

『好きにするがよい』

「投げやりだなぁ……」

『守護者は、見守るだけじゃ』

「そうなんだ?」

『中には、護るべき者を狂わせる奴もおるがの……』

「駄目じゃん……」

『守護者と言うても様々なのじゃ』

「…………じゃあ、今日は帰る」

『うむ』


 拓也は、異界の入り口に向けて走りだした――。


 ◇ ◇ ◇


 翌日の日曜日、拓也は昼食を食べた後、麗香たちとの待ち合わせの場所に来ていた。

 午後1時過ぎに到着したので、まだ誰も来ていなかった。

 今日は、日差しが強く10月だと言うのに暑くなりそうだ。


「ん? タクヤか。なんだいその格好は?」


 拓也が待っていると、坂の上から声を掛けられた。

 鏡也は、制服姿だった。


「あ、綾瀬先輩、こんにちは。これは、木刀を隠すために仕方なく……」

「なるほど、そのロッドケースに木刀を入れているのだな」

「ええ」

「タクヤ、久しぶりね」

「どうもです」


 リャナンシーにも挨拶をする。


「今日は、あの()を出していないのか?」

「ええ、外ではあまり出してないですね。他の人から見えない存在と会話していることろを見られたらマズいですし……」

「確かにそうだな」

「アメノウズメ」


 拓也の前にアメノウズメが現れる。


「なんじゃ?」

「今日も異界に行くからね」

「うむ。知っておる」

「こんにちは。可愛い守護者さん」

「ん? 妾に何か用かぇ?」

「挨拶をしておこうと思ってね」

「先日の戦いを見ておったが、おぬしが一番死にやすそうじゃ」

「うっ……」


 ホブゴブリンに襲われたことを思い出したのか、鏡也が顔を青くした。


「大丈夫よ、鏡也。あたしが護ってあげるわ」

「そっ、そうだね。頼りにしてるよ」


 鏡也とリャナンシーが話しているとコマイヌを連れた麗香が現れた。

 麗香は、サマーセーターにジーンズというラフな格好だった。


「あらっ、早いわね」

「あ、会長。こんにちは」

「ええ、こんにちは。釣り人みたいな格好をしているのね。木刀を隠すためかしら?」

「そうです」


 流石に麗香は頭の回転が速く、説明される前に拓也の意図を見抜いた。


「綾瀬君もこんにちは」

「フッ、麗香。鏡也と呼んでくれたまえ」


 この受け答えに麗香は、困った顔をした。


「あとは、岡田君だけね」

「遅刻とは、孝男にも困ったものだ」

「まだ、時間まで10分以上あるわよ」


 麗香が律儀に突っ込みを入れた。


 拓也が辺りを見ると桜通りの歩道を鬼のような巨体が歩いてくるのが見えた。


「あ、岡田先輩だ」

「オーガは目立つわね……」

「フン、大きければいいと言うものではないさ」

「でも、オレたちの他に守護者憑きが居たら、吃驚(びっくり)するでしょうね」

「そうね。それで声を掛けてくれればいいのだけれど……」

「逆効果じゃないか?」


 鏡也の言ったように驚いて逃げ出す可能性のほうが高いだろうと拓也は思った。


「見えている反応をする人がいれば、こっちから声を掛ければいいのでは?」

「ええ、あたしもコマイヌを出している時には、周囲の反応を窺っているわ」


 孝男が到着した。

 孝男は、ジャージ姿だった。これから行うことを考えれば一番適切な格好と言えるだろう。


「待たせたな」

「遅いぞ。孝男」

「まだ、時間にはなっていないだろう?」

「女性を待たせるのは、紳士とは言えないぞ」

「岡田先輩。こんにちは」

「ああ、榊も待たせたな。釣りにでも行くのか?」

「いえ……この格好は、木刀を隠すためです」

「なるほどな……」

「岡田君、こんにちは」

「上杉も待ったか?」

「いえ、あたしはさっき着いたところよ」


 孝男が鏡也をジロリと睨む。


「女性よりも後に来る時点で駄目なのだよ」

「フン。ボンボンの理論を押しつけるな」

「なんだと!」

「ハイハイ、行くわよ」


 そう言って麗香とコマイヌが先頭を歩き始めた。

 孝男と鏡也も後に続く。

 最後尾に拓也が続いた。


 堤防の歩道を歩き、異界の門をくぐる。

 拓也たちは霧に包まれた。

 濃霧の空間を抜けると、どんよりと曇った空間に出る。


 拓也は、アメノウズメと融合して体が軽くなっていた。


「さぁ、今日は少し奥まで行くわよ」

「待ってください」

「どうしたの?」

「実は、昨日、少し奥まで行ったのですが……」


 麗香が拓也の前に移動した。


「……え?」


 ――パシーンッ!


 拓也は、麗香に頬を(はた)かれた――。


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