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―プロローグ―


―プロローグ―


―――――――――――――――――――――――――――――


 ――9月21日(木)21:12 【武蔵ヶ原市高天町むさしがはらしたかあまちょう・河川敷】


「はぁはぁはぁはぁはぁ……」


 鈴木由香(すずきゆか)は、異様な空間を走っていた――。


 ◇ ◇ ◇


 彼女は、今日も残業を終え、帰宅途中にある河川敷を歩いていた。

 河川敷にある堤防上の道路は、舗装されていて片側に歩道があり、彼女は、その歩道の上を歩いているのだ。

 堤防上の道路には、時折、自動車が車道を通り過ぎる。


 彼女が徒歩で通勤しているのには訳があった。

 勤め先も自宅もバス停から少し離れていて、どちらも逆方向に移動してからバスを利用しないといけないためだ。

 待ち時間などを含めると、バスを利用した移動時間よりも直接徒歩で移動したほうがずっと早いため、約1キロメートルの道のりを徒歩で通勤しているのだった。


 暫く歩いていくと、歩道の真ん中に男が立っているのが見えた。

 不気味な雰囲気の男だ。

 こんな時間に河川敷の歩道の真ん中に突っ立っているのが怪しかった。


 幸い男は向こうを向いている。

 ボサボサの髪に薄汚れたジャケットを着た後ろ姿が見えていた。


 由香は、男を避けて舗装されていない土手の上を歩いていく。

 緊張しながら、男の近くを通りすぎると、突然、彼女の周囲に濃い霧が立ち込めてきた。みるみるうちに周りの景色が見えなくなる。

 (つまず)かないように慎重に歩いていくと、霧が晴れていき周囲は明るくなっていた。

 分厚い雲に覆われた薄暗い日のような光景だが、先ほどまでは真っ暗な夜道を数十メートルおきに設置してある街灯を頼りに歩いていたのだ。


 由香は、視線を下げて腕時計を見た。時刻は、夜の九時前と彼女の予想どおりの時間だった。

 つまり、よく分からない場所に迷い込んでしまったということだ。

 周囲の風景は、彼女がよく知る河川敷のものだったが、人気(ひとけ)がなく、遠くに見える民家にも明かりが点いているようには見えない。


 このまま進むのは、危険だと判断した由香は、歩道に戻り来た道を引き返した。

 しかし、先ほどのような霧は発生せず、暫く歩いても来た道を戻っているだけのようだ。

 歩道の真ん中に突っ立っていた男もいつの間にか居なくなっている。


 由香がもう一度、引き返そうか迷っていると、百メートルくらい離れた前方に小柄な人影が現れた。

 土手を登って来たようだ。

 由香は、話を聞くために近づこうとしたが、すぐに足を止めた。


 人影は、小学生の子供くらいの背丈に見えるが、ガッシリとした体格で大型の猿のようにも見える。

 また、右手には棍棒のようなものを持っており、肌の色が人間ではあり得ない青緑色だったのだ。


『怪物!?』


 ――ヒィヤーッ!


 由香を見た小柄な怪物は、由香を指差し叫んだ。

 すると、土手から次々と怪物が登ってくるのが見えた。


「――――ッ!?」


 由香は、身を翻して走り出した。

 とにかく、あの怪物たちから逃げないといけない。

 走りにくいのでタイトスカートをたくし上げ、堤防の上の舗装された道路を走る。

 学生時代は、長距離走が得意だった由香だが、数年のデスクワークですっかりなまってしまっていた。


「はぁはぁはぁはぁはぁ……」


 すぐに息切れしはじめた。


 夜の9時とはいえ自動車が一台も通らないのはおかしい。

 やはり、この異様な空間の中は普通ではないのだろう。


 土手の下、数百メートル先に見える民家へ向かうことにした。

 もしかすると、人が居るかもしれない。


 服が汚れることなどに構ってはいられない。

 雑草が生えた土手を滑り落ちる。


 ――ザザーッ……


 用水路を飛び越え、ネギが植えてある畑を走って行く。


「きゃっ……」


 由香は、土に足を取られ転倒した。


 左足のパンプスが脱げている。

 由香は立ち上がり、右足のパンプスも脱ぎ捨てて走り出す。


 怪物たちの気配は、すぐ後ろに迫っていた――。


―――――――――――――――――――――――――――――

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