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そして始まる

 アルと過ごし始めて一週間が経とうとしていた。

 未だ家に住み、一日三食のご飯を食べられ、温かいベッドで眠れる幸せを噛み締めながら生活をしているステラだが、まだどこか居心地の悪さを感じていた。


 「いずれか慣れて、ここが、ここの家が君が一番居心地がよく、帰りたい家になってもらえるように僕も頑張るよ」とアルは言っていたが、その様に思えるようになるのは来ないのではないか、そんなふうにステラは思った。


 この居心地の悪さの原因はわかっている。それは私はアルに与えてもらってばかりというのに、何もできていないからだ。生活できるように、良い気持ちで過ごせれるように、とアレヤコレヤしてくれたのに、未だ魔法について勉強もできていないし、薬屋としても調合などのお手伝いや薬草の採取もできない。今やれているのはアルが出かけた時の店番だけだ。

 

 与えられてばかりの裕福な子供が羨ましいと思ったことはなんどもあったが、いざそのような状態に自分がなっていると幸福感より、この恩をどうやって返すべきかと私を悩ませる。堂々としているあの子供達はある意味すごい。 きっと全てが自分の思い通りになっていると考えていなければそんな態度をとれないだろう。

 そんな醜い嫉妬は今ではないのは、前より少し恵まれた環境にいるからだろう。


 そして今日も窓から差し込む柔らかな陽の明かりで目を覚まし、私は素晴らしい朝を迎えた。


 

 「やあ、おはよう」

 一階のリビングに降りると朝食の準備をしているアルが居た。食卓にはもう朝食が準備されており、中には朝から手の混んでいるものもある。


 「おはようございます」

 タンスの上に置かれている時計は9:00を少し過ぎた時間を差していた。少し寝坊してしなったかな?とは思うが、アルは気にしていないようだったから問題はないか。

 

 こうして毎日朝食が準備されているのにも慣れておらず、戸惑ってしまう。一日なにも口にできなかった日があったことも幾度も会ったし、数日食べれないことも良くあった。しかしこうして毎日3食しっかり取れるというのは素晴らしいことだが、同じように一緒に生活していた子どもたちが頭に浮かんで、自分だけ幸せになっていいのだろうかなんて考えてしまう。


 アルからすれば、気にすることでは無いのかもしれない。だけれど一緒に生き抜いてきた仲間だ。


 いろいろ考えてみても全員を救えるわけではないということをアルは知っていたから、気にするなと言ったのかもしれない。いくら魔法使いだとしても、いろいろな人を救えなかった頃のアルが一番体験したことなのかも、そう思うとアルも私と同じ経験をしたのだろうか。


 そんなことばかり考えてしまう頭でパンに齧りついた。


 

 ********************

 

 

 「ステラ、お店の鍵を締めてきて。あとお出かけの準備も」

 薬草の本を読みながら店番をしていたステラにアルは唐突に言った。開店してまだ一時間も経っていない。なにかあるのだろうか。


 「わかりました」



 自分の身支度が終わりステラは自分の部屋を出た。

 買ってもらったばかりだからいつも来ている服と違い新品の香りがした。それにしてもこの服装は恥ずかしい。 

 上はレースで修飾された白シャツ、ロングスカートはいつもと違い鮮やかな朱。こんな派手な色の服着たこと無い。

 これまで新しい服がなかった私が、レースがあるシャツに、黒色以外の服を着るのは初体験であるため恥ずかしすぎる。

 

 下に降りると、アルも見たことのない正装をしていた。スーツだ。しかもベストみたいなのを中に着ているし、コートも相当上物なのだろう、コートの表面には革物らしい上品な光沢があった。


 「似合っているじゃないか」ニコニコといつもと変わらない笑顔でアルは褒める。

 「あ、ありがとうございま、す......?」

 「なんで疑問系?」アルは首を傾けるが直ぐに「それじゃあ行こうか」と魔法が掛かったドアノブを掴んだ。



 そして開かれた場所はいつのも草原ではなく、どこかの建物......?

 「いつもの場所じゃないですね」

 「うん。今日は他の場所にね用があるんだ」


 ドアを潜る。そこはどこかの廊下のようで、古びた洋館のように木造建築であった。だが壊れそうな古さではなく、家主に大切にされてきたのか木々には艶がある。照明も最新式のものを使われているのか妙に明るかった。

 周りには部屋は無く、廊下を先に行くと階段があり、上からは陽光が差し込んでいるのが見えた。

 どうやらここは建物の地下のようであった。



 「どこなのですか?」あるきながらステラは聞く。

 「魔法学校って言いたいんだけれど、学校って言えるほど人がいないんからね。魔法使いの適正を持った子をここで魔法を教えているんだ」


 位置としては都市を少し離れた場所にあり、自然があり、尚且バスで行ける範囲の場所に建てられていた洋館を使っているらしい。そのため生徒たちも住んでいる場所はまばらであり、ここに通う生徒の殆どはバスでここまでくるようだ。


 「今日は僕は引率ってことで魔法を使ったけれど、これからはバスで言ってもらうからね」

 「え」


 ステラは動揺した。話を聞いているとまるで私がここに通うみたいだ。まあこれでアルの願望に近づけるのなら嬉しいのだけれど、問題がもう一つある。

 バスに乗ったことがなかったのだ。何よりあのギュウギュウに人が詰まっている環境はあまり好きでない。 


 「大丈夫、慣れるまでは僕も一緒にバスに乗ってあげるから」

 「あ、ありがとうございます」でもそれはそれで恥ずかしいし、申し訳ない気持ちになってしまった。


 

 階段を登ると広場に出て入り口が目の前にあった。外の風景は都会とはかけ離れているが、いつもの魔法のドア出いける野原とは違い、塀があったりちょっと遠くに建物が見える。

  

 「一階だと職員室とか食堂とかだね。あと薬学の調合とかの実習室もあるよ」

 「はぁ」


 指差し説明し終わると、曖昧なステラの返事も気にすること無くアルは階段を登る。

 階段の半分を登るころには講義をしている声が聞こえ始めた。授業をしているようだ。

 

 「二階は生徒の授業をしているんだ。大体1年で魔法の基礎を学んで、薬学であったり精霊術、魔法に関する歴史とか学ぶんだ」

 「歴史ですか?」

 「うん、と言っても革命の時の話や戦争の話じゃないよ、神話関係だね。神話だと魔法に繋がる事が多いから、必要な知識なんだ」

 「そうなのですか」全く知らなかった。

 「でもね、言い伝えでも僕みたいな吸血鬼になると、にんにくやら十字架が効かないから、適材適所みたいなところはあるけれどね」

 

 アルは自虐的な笑みを浮かべる。きっと一度は期待して試してみたんだろう。

 

 

 教室のような部屋にはいくつかの机が並んでおり、生徒が熱心に教師の話を聞いていた。

 だが人数が足りていないのか、教室いっぱい生徒がいるわけでもない。まあそれは仕方がないだろう、なんせお伽噺ぐらいにしか魔法使いは出てこないのだから。


 一番廊下の端っ子でアルは止まる。

 「ここが君が今日から勉強する教室だ」



 「え、今日から?」

 そんな話聞いていないのだけれど。

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