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レストラン

 目が覚めると、これまで起きた時に見る空ではなく、見知らぬ天井がそこにはあった。

 ベッドの横にある窓から入る暖かな日差し、そして窓の隙間から少しだけ冷たい風が入ってきていた。

 ああ、私は魔法使いの弟子になったのだった。

 まるで御伽噺のような出来事なので、もしかして夢なのでは?と少しだけ思っていたのだが、こうやって起きたということは本当なのだろう。

  

 体を起こし、窓を開けた。

 肌を撫でる風はまだ冷たいが、目を覚ますには丁度良かった。

 外一面に広がる草花に、ここから遠くに山や湖が見えた。外から入ってくる空気はとても新鮮であった。

 大きく欠伸をしながら、背を伸ばす。

 

 これまでは硬い地面で風に吹かれながら寝ていたり、襲われるかもしれないというサバンナのシマウマのような恐怖感を持ちながら寝ていたためか、眠りは浅く疲れが残っていたが、今回は柔らかなベッドに、そして安心して寝れる家の中であったためか、とても心地よい目覚めであった。

 

 外の風景を堪能して、ベッドから出た。

 机には、私の着替えとして置かれた白い長袖のシャツにデニム生地のジーパンに着替える。サイズはぴったりだった。

 それを着替え終わると、アルがいるだろう一階に向かった。


 

 アルは薬屋にいた。

 退屈そうにカウンターテーブルに右肘をつき、右手に顔を乗せ、左手でスマートフォンをいじっていた。

 あまりに現代人の行動に、魔法使いなのに、現代科学の恩恵を受けてもいいのだろうか?なんて些細な疑問符を頭に浮かべるが、そこに関してはあまり考えないようにしておこうと決めた。


 ドアを開けた音にアルは気づいたようで、ドアを開けた私の姿を見るとスマホから視線を外し、

 「おはよう」と微笑みながら挨拶をした。

 「おはようございます」こちらも丁寧にお辞儀をしながら挨拶をした。

 「別にそんな行儀よくしなくても大丈夫だよ?」

 堅苦しいのを嫌ったのか、アルはそんなことを言ってくれるが、こちらもまだ出会ってまだ時間が経っていないこともあり、タメ口で話すには早い気がした。


 「それじゃあ、昼食にしようか」

 「え?」

 近くに置いてある時計に目をやった。壁にかけられた時計の針は、短針は頂点を超えていた。

 

 伸びきってだらしない髪の毛を梳き、ゴムでポニーテールにまとめる。

 茶色いコートを貸してもらい、ロンドンの街に出た。昼食はロンドンで摂るようだ。

 町の道路を多くに人々や、名物である赤い二階建てバスが通る。コートを羽織って丁度良い気温であり、まだ春と呼ぶには早い気がする。

 アルが入ったのは、小さなレストランで、家族が営んでいる様子であった。

 まだ開店されて間もない綺麗な内装で好感が持てる。机も椅子もピカピカだ。

 アルは適当に窓際の席に座った。私もその向かい側に座る。

 そして注文した。アルはオススメを頼み、私はサンドイッチを。

 アルは、一生懸命オーダーを聞きにフロアを行ったり来たりしている女性を眺めながら、嬉しそうにしていた。

 

 「何かあったのですか?」

 「ああ、あそこの女の人ね、僕の知り合いの孫娘なんだよ。彼女が小さい頃は体が弱くてよく風邪薬を持ったなぁ〜」

 と昔を懐かしむように言った。

 見た目では同じ歳のように見えるのだが、やはり吸血鬼の呪いによって歳をとっていないのだろう。

 

 「もう覚えていないんだろうな」

 なんて寂しそうに呟くが、仕方がないと納得している様子でもあった。

 「ところで、なんでアルは、吸血鬼になったのですか?」

 「それ聞いちゃう?」

 パッと思いついたことを言ったつもりだったが、少し踏み込み過ぎたことだったろうか、言った直後にそう思った。アルは機嫌を損ねたようではなく、むしろやっと聞いて欲しかったことを聞いたくれたというような顔をしている。

 

 アルは、私にまっすぐ視線を向けると、一度小さな咳払いをして、語り始めた。

 「これは僕が八十歳のお祖父さんの時の話なんだけれどね、その時に......」

 「お待たせいたしました!オススメのローストビーフと、サンドイッチでございます!」

 ......。間の悪いことに、大事なところを邪魔されたのか、アルのテンションはがた落ちであった。

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